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アイ・アム・トリックスター  作者: 山野井 テリー
2/9

ゴールドライン


「な、何かの間違いですよね……?まさかそんな…えぇ…俺が世界最弱……!?」


バイゼンが読み上げた自分の低すぎるスペックに、永作は困惑する。

仮にも勇者として呼ばれているのにこれではあんまりだ。


「いえ……その……間違いありません…」


だが現実は非情である。

杏果と違って永作はただの雑魚であった。


「…………うっそぉ……」


「永作さん…」


杏果は永作の肩に手を置き、哀れみの籠った同情の眼差しで永作を見つめる。

あ、やばい…涙出そう。


「やめてくれ…そんな目で俺を見ないで……」


永作は今にも消え入りそうな声でそう呟いた。

騎士達も困惑しているようで、静かながらもざわめきが聞こえて来ていた。


「これは……どうしたものでしょう……」


そんな中、バイゼンは腕を組んで眉間に皺を寄せていた。


「そもそも……勇者が二人も召喚された事は過去に無かった……となるとこれは召喚ミス……?だから片方の貴方には勇者たる力が発現していなかった……?」


は?召喚ミス……?

今ちらっと聞き逃せないワードが聞こえてきたぞ。


「……しかし魔法陣は代々王家に伝えられてきた物と寸分違わずに作成しておる……何を間違った?」


何やら様子がおかしい。

バイゼンが自分の側まで男数人を呼びつけ、何やら話し出し始めた。

しきりに杏果、永作と魔法陣を指差したりしながら皆が首を捻っている。


正直このまま放っておくといつまで経っても埒が明かなそうであった。

堪らず永作は何やら話し合うバイゼンへ声を掛ける。


「あのぉ……」


「おっと!……どうされました?」


永作に声を掛けられるまで、周りが見えていなかったのかバイゼンは少し驚いた反応を示した。


「何やら大事な事を話し合われてる最中に申し訳無いんですけど…………この先俺のことはどうなるんでしょうか?」


「先……ですか」


「はい。だって杏果さんは兎も角……俺じゃその“星の獣王”?には歯が立たないですよね?正直勇者としての務めとかとても果たせそうに無いんですけど……」


そうなのだ。

一番の問題とは、勇者として呼び出されたのにその役目を絶対に果たせないであろう自分の立場。

所謂、能無しの烙印を押されたとしても否定は出来ない。


「ふむ……」


永作の提示した問題に、バイゼンは短く唸った。


(“星の獣王”に対抗しうる力を持たないこいつにはハッキリ行って大した価値は無いな……。かと言ってこのまま蔑ろにしては国の評判はガタ落ち……全く面倒な事になったな……)


勇者召喚によってこの世界に現れた勇者は強大な力を持つ。

しかし、別世界の住人である彼等には当然身元の保証も無ければ、何の後ろ盾も無い。


だからこそ勇者召喚に成功した時、その国の貴族や権力者達に勇者に対する支援を行う。

しかし、勇者への支援は決してただの慈善活動等では無く、支援を行うことで勇者との間に出来る繋がりを持つ事が目的なのだ。


世界を脅かす“星の獣王”を討ち取った勇者はまさに世界の救世主であり、事実上全ての国家、組織、権力者達に対して大きな貸しを作る事になる。

そうなると当然、勇者の一挙手一投足は再重要視、最優先せざるを得なくなり、その勇者に対して支援を行ったという事実は、勇者に対して恩を貸し与えたという事になる。


つまりは他勢力への大きな牽制にもなるのだ。

だからこそ、貴族や権力者達は自ら進んで勇者に対しての惜しみない支援を行う。


しかし、永作は力無き異世界人。

支援を行うメリットも無ければ意義も無い。

正直な所永作の事等どうでも良いのだが、仮にも彼は勇者として召喚されたという事実が存在する。

故に、彼を余り蔑ろにしてしまっては他国、他勢力からの自国の見栄えが悪くなるのだ。


(本当に面倒な事に……ええい!全く持って想定外の事態だが…この際、下級貴族にでも身柄を預からせておけば良かろう!)


「……あの?…やっぱり何か問題でも……?」


思案に耽り、何も反応しなくなったバイゼンに対して永作は戸惑いながら問いかける。

するとバイゼンはようやく思考から戻り、反応を示した。


「……おっと失礼しました!…そうですね……では勇者様。事が無事に終わるまで貴方様の御身は我が国の貴族の者にお守りさせて頂きたく思います」


「いえ、あの……それでは迷惑を掛けるだけでは?」


「いえいえ。そのような事を決して有り得ませんよ……。誰か!その大役を務めてくれる者はおらぬか?」


バイゼンの呼び掛けに即座に呼応する者はいなかった。

当然である。

上級貴族は当然として、下級貴族も家の名誉の為、杏果の方へ支援を行いたいと考えている。


おまけに、上級貴族と違って下級貴族は杏果と永作の両方に割ける程の力は持っていない。

どちらか片方だけで手一杯であり、それならば大した見返りを望めない永作より、杏果の方へ力を割いた方が得なのだから。


「どうした?皆の者!」


再度バイゼンが全員に呼び掛けるが誰一人として名乗り出る者はいない。

だがこれはバイゼンにとって既に予想していた事。

あらかじめ誰にその貧乏くじを引かせるかはバイゼンの中で決まっていた。

誰も名乗り出るつもりは無いことを確かめてから、バイゼンがその者の名前を呼ぼうとしたその時___


「……では私がその大役を承りましょう」


___その場の静けさを破り、名乗りを上げた者がいた。


「な…っお主は_」


「失礼ですが!」


バイゼンが名乗りを上げた女性に何か言おうとしたが、女性はそれを途中で遮った。


「勇者様をお迎えするのに、下級貴族の方々程度では財力、警備、品格において余りに不十分。かと言って上級貴族の方々には、もう一方の勇者様へ是非とも力を注いで頂きたい……となればその役目、私が適役でしょう」


「……むぅ」


正論にバイゼンは押し黙ってしまう。

僅かに張り詰めたこの場の状況に、永作も杏果も思わず「なんだこれ?」と首を傾げた。


誰が永作を預かるか、最悪ある程度の資金を貰って自給自足程度でも良いとさえ考えていた永作からすれば、何故こうも面倒そうな雰囲気になってるのか謎でしかない。


これが異世界の事情というやつなのだろうか、杏果からしても謎に思うばかりだった。


その間にも、女性は広場の真ん中まで歩いていき、この場にいる全員を見渡せる位置まで来ると、声を張り上げた。


「これより、男性の勇者様はギルド【ゴールドライン】代表、このコッコペリーノ・イゼル・ララハイアが責任を持って預からせていただきます!!」


誰からも反論の意見は出てこない。

そしてバイゼンが短く首を縦に振った事により、永作の保護者はコッコペリーノに決定した。


その後、話はとんとん拍子に進んで行き、杏果はしばらくの間王宮で生活する事になり、永作とは別行動を取る事になった。

その際、たった1人で王宮に残る事になり、心細そうな杏果を案じ、定期的に手紙を交換しようと永作が提案し、杏果はそれに賛同した。


そして全ての話しと手続きを終えた永作は、コッコペリーノに案内され一台の馬車へと乗り込んだ。





走り出した馬車の中で永作と対面して向き合ったコッコペリーノは、永作に向かっていきなり頭を下げた。


「ちょっ!?」


「先程はこの国の国王、及び貴族達が貴方様に対し無礼を働いた事、そしてそれを咎める事が出来なかった事、本当に申し訳ありませんでした!」


「何のこと!?お願いですから頭を上げてください!!」


焦りながらも永作に促され、ようやくコッコペリーノは頭を上げた。


「もしかして俺の預かり人が中々決まらなかったことですか?それなら気にしてませんよ、ほら、俺は無力で何も出来ない凡人なんですから…」


「それは違います!」


自分を卑下した永作に対し、コッコペリーノは否定しながら永作の真正面まで近付いた。


(ち……近!?)


「この国の貴族達は権力や名声に目が眩み、大切な儀を忘れてしまっているのです!本来であるなら勇者様に力があろうと無かろうと儀を尽くすのは当然!結局は自分達の都合で呼び出しているのに先程のあの対応……余りに無礼極まりない行為です!」


「わ、分かりました!分かりましたから!謝罪は今受け取りましたからもう大丈夫ですって!!」


「分かっていただけましたか……!!」


ようやくコッコペリーノは元の席に戻り、ほっと一息吐いた。

そこで今度は永作から話し掛ける。


「それと……余りそんなに畏まらなくて良いですよ。俺は山田 永作と言います。永作とでも気軽に呼んでください」


「そうですか……分かりました。では永作さん、改めて名乗らせて頂きます。私はギルド【ゴールドライン】代表のコッコペリーノ・イゼル・ララハイアと申します。今後は気軽にコッコペリーノとお呼びください」


コッコペリーノはそう言いながら真っ直ぐ永作の目を見つめた。

…………はっきり言ってこの状況は滅茶苦茶緊張する。

栗色の髪色に、少しゆるふわなウェーブの掛かった長い髪と、白い肌のコッコペリーノはかなりの美人だ。


元の世界で余り…というより全く女性との経験が無かった永作にとっては、こんな美人との二人きりの…しかも近距離での空間というのは、嫌でも心拍数が上昇する。

膝の上で作った握りこぶしの手のひらでは、もう既に汗が滲んでいた。

それを誤魔化す為に、永作は更に話題をコッコペリーノに振る。


「そ、そういえば先程からギルドって聞きますけど……それは一体どういった物なんですか?」


ゲームの中でしか聞かなかった組織の名前【ギルド】。

しかし実際こうして現実にある、とするならばそれは一体どんな物なのだろうか。


「そうですね……一言で言えば“未知を発見し、既知にする者達の集まり”でしょうか」


「未知を既知にする…ですか」


「はい。ギルドとは冒険者達の集まり。そして“冒険者”とは、まだ誰も立ち入った事の無い未知の大陸や遺跡、自然現象を発見し、時には未知の魔物と対峙し、既知にする事で幅広く対策を生み出し、人類に貢献する職業です」


「へぇ……」


……これはすごい。

まるで物語の中でしかないと思っていたファンタジー世界の話しを聞いているみたいだ。

早くも永作の中にあった少年の心が、輝き始めていた。


「ギルドでは、各ギルド事に大きな目標や夢を掲げ、それに賛同する形で冒険者達が集い、大きく成長していきます。それと同時にそのギルドの名が広く知れ出すと、色んな方々から様々な依頼を受ける事が多くなります。薬草採集から魔物対峙、時には身辺警護まで様々ですが、ギルドはその依頼を達成する事で得られる報酬を活動費に当てたり、依頼を完了させたギルドメンバーへの報酬としてその一部を配当しているのです」


説明長いな。

自分から聞いた癖にもう一部頭から抜け落ちたが、大体何となく理解する事は出来た。


「なんだか夢がありますね」


「そうでしょう!?」


永作の感想にコッコペリーノは勢いよく反応し、また永作との距離が一気に近くなった。


(だから近っ!?)


2度目の不意打ちで思わず赤面してしまう永作だったが、それ以上の興奮で既に赤面していたコッコペリーノはもはやその事に一切気付かない。


「1つの夢や目標に向かって次々と仲間が集い、それに向かって進んで行く!!とても素晴らしい事だと思いませんかっ!?」


「お、思います…!……そういえばコッコペリーノさんはギルドの代表…て事はギルドを創ったって事ですよね?一体コッコペリーノさんのギルドは何を夢や目標に掲げておられるんですか?」


瞬間、コッコペリーノの目はくわっと見開かれた。


「その質問!待ってました!!」


「あ、はい……」


なんだろうこの人……何か変なテンションになってるぞ。

………………着いてけねぇー。


「私達の夢はギルド名にもある通り!この世の何処かに現れる“ゴールドライン”を見つける事なのです!!」


「ゴールドライン?……それは一体どういった物なんですか?」


「それはですね!言い伝えによれば1000年に一度、夜空に浮かぶ二つある月の内、両方が新月になる時期に現れると言われている自然現象なのか魔法現象なのかも定かになっていない未知なる現象の内の一つなんです!」


……え、この世界月が二つもあるのか!?


「この地上の何処かから、天をも貫く黄金の光が溢れ出し、その光が生まれている場所にはとんでもない大秘宝が眠っているとか!!」


「……へぇ。それは何だかわくわくする話ですね」


「そうでしょう!そうでしょう!」


コッコペリーノの熱い語りに少し引き気味になってはいるが、永作にとってゴールドラインの話しは確かに興味の引かれる物でもあった。


(でも何だろう。俺達の世界にもある昔話しの“打出の小槌”とも少し似たような話だよなぁ。あっちは確か空に掛かる虹の根元に打出の小槌が埋まっているんだっけ)


しかしここは異世界。

自分達を召喚したり、言語の壁を簡単に取っ払ったのも恐らくそうであるように、様々な魔法で満ち溢れている。

そんな世界で大秘宝と呼ばれる物なら、振れば小判が出るとかそんな次元を遥かに超越した物に違いない。


……見てみたい。

永作は自分の心の奥底から探究心が溢れ出してくるのを感じていた。


「俺も……俺もそのゴールドラインに眠る大秘宝!!是非とも見てみたいです!!」


「…………」


勢いよく顔を上げ、永作はコッコペリーノの方を見る。

しかし、コッコペリーノは突然静かになったきり、何の反応も返って来ない。

おかしいと思いながら永作はコッコペリーノに何度か話し掛ける。


「…………あの?」


「…………」


「コッコペリーノさん?」


「…………スゥ…」


「!!」


そして気付いた事が1つ。

さっきまであれほど熱弁を語っていたコッコペリーノだが、今は何ということか____


「寝落ちっ!?」


____熟睡していた。


嘘だろっ!?何でいきなりこの人は寝てるんだ!?

もしかして何かの病気か!?

突然の出来事に永作は慌てふためいていたが、突然馬車の扉が勢い良く開かれ、更に驚きで悲鳴を上げた。


「うぇぃっ!?」


「あっはっはっはっは!!コペりんはいつも突然寝落ちしたりするから心配はいらないよ!」


開かれた扉の方へ目を向けると、そこでは小柄で薄青髪色ショートヘアの少女が腰に手を当て、にやつきながら立っていた。


「所で、『うぇぃっ!?』てなーにかなっ?」


「ちょっ!?おいっ!?」


すかさず少女は先程の永作の悲鳴を弄り出し、永作が慌てて突っ込んだ所でケラケラと笑った。


「あはは!冗談冗談!初めまして!あたしはアルセーヌ・ワーファング!ゴールドラインのメンバーの1人だよっ!よろしくね!」


差し出されたアルセーヌの右手を握り返し、永作は握手する。


「山田 永作です。しばらくの間、そちらでお世話になります。よろしくお願いします」


随分陽気で活発な女の子だな。

永作はアルセーヌに対し、そんな第一印象を抱いていた。


「うんうん!……さて、と!起きてコペりん!」


アルセーヌは馬車の中にひょいと乗り込むと、コッコペリーノの頬を軽くぺちぺちと叩いた。

すると……


「……ふぁ?………………寝てたっ!?」


勢い良くコッコペリーノは飛び起きた。


「…はい。思いっきし寝てましたよコッコペリーノさん」


「うぅ……あぁぁぁ……」


恥ずかしさからコッコペリーノは顔を両手で覆い、呻き声を上げる。

だが、アルセーヌはコッコペリーノの両手を無理矢理引き剥がした。


「はいはい!いつもの事でしょ!それよりもギルドにもう着いてるから早く降りてよ2人ともっ!」


アルセーヌに手を引っ張られ、コッコペリーノと永作は外へ出る。

心地よく涼しい風が頬に辺り、永作は目の前に飛び込んで来た光景に思わず息を飲んだ。


「……わぉ」


まるで大貴族か何かの屋敷かのように思える程、大きく豪華で立派な建造物が目に飛び込んできた。

しかもその手前には巨大な門があり、広大な中庭が広がっている。

もしやこれが____


「コホン!……山田 永作様。ようこそギルド【ゴールドライン】へ。私達は貴方様を心より歓迎致します!」


永作の方へ振り返ったコッコペリーノは優雅な佇まいで、永作を歓迎した。


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