✒ 囲碁りまっしょい 3
弓弦さんは、オレにも分かるように黄石を使って打ってくれている。
セロは白石のままで打っている。
弓弦さんは赤石を生かす事を意識して打っているみたいだ。
セロは赤石を潰そうとしているのかな?
余裕なのかセロは笑顔で碁を打っているけど、弓弦さんの表情は険しい。
弓弦さんは苦戦してるみたいだ。
遊びだろうと真剣勝負だろと強運で無敗者のセロに対して、弓弦さんが勝てるなんて事は無いんだろうな。
弓弦さんは難しそうな顔をしては、首を左右に振る仕草を何度も繰り返している。
厳蒔弓弦
「 ……………………ありません…。
投了します… 」
セロフィート
「 賢明な判断です。
このまま打ち続けては、折角の赤石が死石となってしまいます。
先見の目は濁っていないようですね 」
厳蒔弓弦
「 赤石を生かしきれなかった… 」
マオ
「 弓弦さん、負けちゃったの?
未だ4個しか黄石を置いてないのに── 」
セロフィート
「 仮に “ 神の一手 ” を打てたとしても、死石にしないよう生かしながら打つのは、それだけ “ 難しい ” という事です。
囲碁は奥が深いですね 」
弓弦さんは赤石を生かし切れなくて落ち込んでいるみたいだ。
弓弦さんを励ましたいけど、何て声を掛けたら良いんだろうな……。
そんな事を考えていると、碁盤に染み付いていた黒いシミが消えている事に気付いた。
マオ
「 ──セロっ!
弓弦さんっ、碁盤が綺麗になってるんだけど!!
セロ、碁盤に浄化魔法でも掛けたのか? 」
セロフィート
「 はぁ?
ワタシは何もしてません。
弓弦さんが拭いたのではないです? 」
厳蒔弓弦
「 いや──、私は碁盤を拭いてはいないが… 」
マオ
「 でもさ、誰も何もしてないなら碁盤のシミが消えるなんて事は無い筈だろ? 」
セロフィート
「 ──様子がおかしいですね。
マオ,弓弦さん、警戒してください 」
マオ
「 警戒って── 」
そう言うと碁盤が微かに光だした。
厳蒔弓弦
「 ──碁盤が光だした?!
急にどうしたんだ?? 」
突然、謎の光を放ち始めた碁盤は、眩い光に包まれると、形を変えた。
マオ
「 ……………………えっ……人……だよな?? 」
厳蒔弓弦
「 ………………透けているな…。
人ではないようだ… 」
セロフィート
「 “ 古き物には魂が宿る ” と聞きますし、付喪神の類いではないです? 」
マオ
「 付喪神ぃ?
確か≪ 日本国 ≫では、そう言われていたみたいだけど──、此処は≪ 日本国 ≫じゃないんだし、違うんじゃないか? 」
セロフィート
「 “ 類い ” と言いました 」
マオ
「 オレと同じ様な陰陽師の着物を着てるよな?
もしかして平安貴族の付喪神かな?
人型の付喪神なんて居たかな?? 」
付喪神?
『 ──誰が付喪神だ。
我は付喪神ではない 』
マオ
「 へっ?
喋った?? 」
付喪神?
『 ──我は式神だ 』
マオ
「 式神?? 」
厳蒔弓弦
「 …………式神…。
人型の式神が何故こんな所に…… 」
マオ
「 そ、そうだよね?
式神が遊廓亭の御座敷に居るなんて、おかしいよ! 」
セロフィート
「 何か事情が有りそうですね 」
式神
『 我は……絲腥玄武と言う名の陰陽師だった… 』
マオ
「 えっ?
元は陰陽師だったんだ??
陰陽師って式神にもなれるのもんなの? 」
厳蒔弓弦
「 私は陰陽師ではないが、聞いた事は無いな… 」
セロフィート
「 人間を式神にする秘術でも存在してます? 」
マオ
「 セロ、食い付くなよ… 」
セロフィート
「 何故です?
興味が湧きません? 」
マオ
「 オレは実験の被害者だからな~~ 」
厳蒔弓弦
「 …………人間を式神にする秘術──か…。
師匠に読まされた書物の中に似たような内容ので書物があったような…。
…………肉体から抜いた魂を物体に憑依させ、使役する秘術──いや、禁呪術だったか? 」
マオ
「 肉体から抜いた魂を物体に憑依させる?
そんな事が出来るの? 」
厳蒔弓弦
「 …………いや、そんな大それた術を1人で成功させるのは不可能だと思う… 」
マオ
「 陰陽師が沢山居たら出来るって事? 」
厳蒔弓弦
「 不可能ではないとは思うが…… 」
絲腥玄武
『 我の肉体は既に存在しない。
我の魂は、この碁盤に憑依させられたまま放置されていた… 』
マオ
「 放置されてた??
放置って、何で?? 」
絲腥玄武
『 我は帝の一族に暗殺された陰陽師だ 』
マオ
「 帝の一族に暗殺?!
陰陽師って帝に暗殺されたりするもんなの?
帝を怨んでるの?? 」
絲腥玄武
『 帝とは言っても、現在の帝ではない。
5世代前の帝の一族だ 』
マオ
「 5世代前?!
じゃあ、結構昔の陰陽師だったんだ? 」
厳蒔弓弦
「 帝の一族が1人の陰陽師を暗殺…… 」
セロフィート
「 魂を抜かれた肉体は、帝一族に葬られ、抜かれた魂は帝一族に関わる者達の手により動かない碁盤の中へ憑依させられた──所ですか。
魂の帰る肉体を葬られたのは、貴方の復活を阻止する為でしょうね。
碁盤に憑依させられ、永きに渡り放置され続けた事にも意味はあるのでしょう。
貴方が陰陽師であったならば、貴方の存在は当時の帝一族にとって邪魔な存在だったのではないですか? 」
絲腥玄武
『 …………そうだ。
我は帝の座を追われ、身分を隠して陰陽師として育てられた帝の実子──長子だった。
帝であった父の後妻が自分の息子を帝にするべく、刺客を送り込んで来たのだ… 』
マオ
「 マジかよ…。
じゃあ、今の帝は絲腥さんを刺客に襲わせた後妻の息子の子孫って事かよ? 」
絲腥玄武
『 そうなる… 』
マオ
「 その後妻の息子は、絲腥さんの異母弟って事? 」
絲腥玄武
『 そうだな。
父親は同じ帝だ。
現在の帝は異母弟の子孫だ 』
厳蒔弓弦
「 貴方は何故、今になって姿を現したのですか? 」
絲腥玄武
『 囲碁の対局を見ていた。
とても興味深い対局だったのでな。
我が憑依した碁盤を使い碁を打つ者は初めてだった事もある 』
マオ
「 まぁ……そうだろうね…。
小汚なくて黒ずんだ不気味なシミがこびり付いてた碁盤だったもんな… 」
厳蒔弓弦
「 囲碁の対局…… 」
絲腥玄武
『 我も囲碁を打てる。
陰陽院で囲碁を学んだからな。
我も強者と碁を打ちたい 』
セロフィート
「 弓弦さんの囲碁友が1人増えましたね 」
厳蒔弓弦
「 打つのは構わないが、碁盤を持ち歩く訳にはいくまい。
私達は宿へ戻らなくれはならないんだ 」
マオ
「 お別れかぁ… 」
セロフィート
「 碁盤から魂を抜いて別の物体へ憑依させれば良いだけです。
碁盤ならワタシが新品を用意します 」
マオ
「 別の物体に憑依させるって、どうするんだよ? 」
セロフィート
「 ワタシに任せてください 」
ニコリ──と微笑んだセロは、古代魔法を発動させた。
一体何の為にセロは古代魔法を発動させたんだろう??




