✒ ようこそ、さちまの里 1
──*──*──*── さちまの里・手前
マオ
「 ──えっ?
この先って行き止まり? 」
厳蒔弓弦
「 いや、この先が私の故郷──≪ さちまの里 ≫だ。
対となる鏡を持たないと中に入れないようになっている。
鏡を持たない者には、ゴツゴツした岩肌でしかないんだ 」
マオ
「 へぇ……。
どうやって先へ行くの? 」
厳蒔弓弦
「 そのまま前へ進めば良い。
結界を抜けると≪ さちまの里 ≫の中だ 」
マオ
「 え゛っ……。
この岩肌に向かって進むって…… 」
セロフィート
「 マオ、何をモタモタしてます?
心配しなくても岩肌に顔をぶつけたりしません 」
マオ
「 そんな事、言われたって…… 」
セロフィート
「 良く見てください。
──ほら、大丈夫でしょう 」
セロは堅くてゴツゴツした岩肌に手を伸ばす。
セロの手は岩肌の中に入っている。
それはまるでプルンプルンなプリンの中に手を突っ込んだような光景に見える。
セロは躊躇しているオレの両肩に手を置くと、一緒に岩肌に向かって歩いてくれる。
オレはどうしても岩肌に顔をぶつけないかと怖くて両目をギュッと瞑ってしまったんだ。
情けない根性無しだし、チキン野郎だ。
セロに呆れられちゃったかな……。
──*──*──*── さちまの里
セロフィート
「 ──此処が弓弦さんの故郷ですか 」
厳蒔弓弦
「 ──あぁ、そうだ。
此処が私の故郷だ。
今は見る影もないがな… 」
両目を瞑っているオレを無視して、セロと弓弦さんが話している。
「 見る影もない 」って、どういう事だろう……。
セロと弓弦さんが話してるって事は、オレは無事に≪ さちまの里 ≫に入れたんだよな??
オレは瞑っていた両目を開けた。
視界に入って来たのは、既に廃れて酷く荒廃している土地だった。
民家があっただろう場所は倒壊していて朽ち果てている。
人が暮らしているような気配は一切ない。
マオ
「 ──何……此処は……。
何処だよ?? 」
セロフィート
「 マオ、弓弦さんの故郷──≪ さちまの里 ≫です 」
マオ
「 ≪ 里 ≫って呼べるような状態じゃないじゃないか!
誰も居ないじゃん……。
思ってた≪ 里 ≫と全然違う…… 」
セロフィート
「 そうですね。
あれが結界鏡の入った祠ですね 」
セロは祠を見付けると、祠に向かって歩いて行く。
祠に向かって何かしているけど、何をしてるんだろうな?
セロフィート
「 弓弦さん、対なる鏡を貸してください 」
厳蒔弓弦
「 鏡をか?
構わないが、どうするんだ? 」
セロフィート
「 鏡だと不慮の事故で割れてしまう場合もあるでしょう。
割れてしまえば鏡を直す事は出来ません。
≪ さちまの里 ≫へ辿り着けなくなります 」
厳蒔弓弦
「 確かにその通りだが… 」
セロは弓弦さんから鏡を受け取ると、祠の中に入っている鏡と合わせてしまった。
弓弦さんから受け取った小さな鏡が、結界鏡の中へ入ってしまったんだ!
これには持ち主の弓弦さんも開いた口が塞がらない状態で驚いている。
マオ
「 セロ──、弓弦さんの大事な鏡に何て事をしたんだよ!!
何で鏡の中に鏡を入れちゃうんだよ!! 」
セロフィート
「 必要があるからに決まってます 」
マオ
「 はぁ?
『 必要がある 』って何でだよ! 」
セロフィート
「 鏡は持ち運ぶのにデメリットが多過ぎます。
故にデメリットの少ない指輪に変えます 」
マオ
「 はぁ?
指輪に変える??
鏡を鏡の中に入れて指輪になるわけないだろ! 」
セロフィート
「 ワタシを誰だと思ってます?
不可能も可能に出来る吟遊大詩人です 」
そう言ったセロは結界鏡の中へ手を入れると何かを握ったように拳の状態で、結界鏡の中から手を出した。
セロフィート
「 どうぞ、弓弦さん。
結界鏡と対となる指輪です。
これなら割ってしまう心配も無くなり、荷物にもなりません 」
厳蒔弓弦
「 …………ゆびわ…?? 」
セロフィート
「 このようにワッカを指へ嵌めるだけです。
簡単でしょう?
弓弦さんの指の太さに合わせて常に調整されます。
弓弦さんにしか外せないようにしてます。
指から抜けたり無くしたりする心配もなくなりました。
どうでしょう? 」
厳蒔弓弦
「 無くす心配が無くなるのは有り難いが…。
この指輪…とやらが本当に私が先程まで持っていた鏡だったのか? 」
セロフィート
「 そうです。
神聖な祠も所々痛んでましたから直しました。
地震や津波が来ても、祠が壊れないように結界の力を強めました。
安心してください 」
厳蒔弓弦
「 …………其処迄してくれたのか?
吟遊詩人とは凄いのだな…。
セロは何故其処まで良くしてくれるんだ? 」
セロフィート
「 弓弦さんが、ワタシのマオの恩人だからです。
それ以外の理由はないです 」
マオ
「 荒れ果てていて見る影もない状態だけど……、弓弦さんにしたら大事な産まれ故郷なんだもんな…。
セロ、有り難な(////)」
セロフィート
「 どう致しまして。
今夜は此処にテントを張って、キャンプ地としましょう 」
マオ
「 賛成!
弓弦さん、良いかな? 」
厳蒔弓弦
「 あぁ……。
私は構わない… 」
マオ
「 じゃあ、直ぐ準備に取り掛かるよ! 」
セロフィート
「 お願いしますね、マオ♪ 」
マオ
「 セロも手伝うんだからな! 」
セロフィート
「 はいはい。
──ところで弓弦さん、命日には間に合いましたか? 」
厳蒔弓弦
「 あぁ、十分に間に合った。
セロとマオが同行してくれたお蔭だ。
有り難う 」
セロフィート
「 弓弦さんのお役に立てて何よりです 」
マオ
「 セロ!
準備を『 手伝え 』って言ってるだけど! 」
セロフィート
「 はいはい。
弓弦さんは休んでいてください。
法力を使って疲れているでしょう 」
厳蒔弓弦
「 済まない…… 」
セロフィート
「 指輪には法力を回復させる効果,体力を回復させる効果,疲労困憊を和らげる効果を附与してます。
回復に費やす時間を大幅に短縮出来ます 」
厳蒔弓弦
「 そうなのか?
凄い……指輪になったのだな…… 」
セロフィート
「 その指輪は指に嵌めている弓弦さんにしか見えてませんから、他人から盗まれる心配も無いです 」
厳蒔弓弦
「 そうなのか?!
それは……有り難いな(////)」
マオ
「 ──セロ!!
『 手伝え 』ってば!! 」
セロフィート
「 はいはい。
マオの怒りん坊さん♪ 」
マオ
「 セロの所為なんだけどな!! 」
オレはセロに文句を良いがら、キャンプ地の準備を黙々と進める。
弓弦さんと話していたセロも漸く手伝ってくれるようになった。