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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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94話◆その正体は?

「アヴニール。お待たせしたわね。」


「姉様!」


学園の敷地内にある上級貴族用の女子寮の門前に立ち、寮の従事者にシャルロット姉様を呼び出して貰った僕は、門から出て来たシャルロット姉様の姿を見るなり甘えるように抱きついた。


「あらあら、どうしたのアヴニール。

貴方がルイではなく、わたくしに甘えるなんて珍しいわね。」


頭の上で、コロコロと鈴が鳴るような優しい笑い声が聞こえる。

うっ…何だか恥ずかしい…。

姉様から見た僕は、いつもルイに甘えているように見えるのか…。

入園時の馬車の中でルイに抱きついて泣いてる所も見られたから尚さらかな……。


「いきなり来ちゃってすみません…。

急に姉様の顔が見たくなって…お邸に居た時と違って、離れて暮らしているから寂しくなっちゃったんですかね。あはは…。」


誤魔化しながら笑い、甘えたがりで寂しがりな子どもを演じた。


僕は新年を祝う夜会で、姉様がデュマスに襲われていたかも知れなかった事をついさっき知った。

あの時はルイの機転で姉様を隠し、結果何事も無かったけれど、最悪の結果になる可能性があったと考えるだけで、まだ身震いする程の怒りに囚われそうになる。

デュマスに対する殺意が強過ぎて、我を忘れて暴れそうだ。

だけど、怒りの発端が姉様への愛なのに、その姉様の存在までも忘れてしまう程自我を失って暴れそうだなんて本末転倒だろう。


「甘えてくれて嬉しいわ。

アヴニール、貴方はまだ幼いのだから無理はしなくて良いのよ。寂しい時は寂しいと言ってね。」


姉様は僕をギュッと抱きしめてくれた。

僕の大好きな姉様がここに居る━━

僕の中に、ちゃんと姉様を大好きな気持ちがある。

それを改めて確認したかった。


中身が成人済みの大人の僕は、内心ではシャルロット姉様に甘えるというよりは、妹みたいに可愛がりたい、守ってあげたいと思っている。

その大事な妹に取り返しのつかない傷をつけられていたかもと考えると怒りが再燃しそうになるが…


「あら、貴族の令嬢方の寮の前で殿方と抱き合うなんて。

シャルロット様は随分とはしたない真似をなさるのね。」


聞き覚えのある声での嫌味に、僕は抱きついていた姉様から身体を離し、その声の主を見た。

アフォンデル伯爵令嬢。

まんまるマル君の姉君であり、当の夜会にて姉様を酔わせて歓談室に寝かせた人物。

つまり……

夜会の日にデュマスが姉様を襲う前準備をした人物。


一瞬、怒りをあらわにしそうになったが、そこは耐えた。ルイが━━


『あの時の令嬢たちは、シャルロットが国王とのラストダンスを棄権するという不名誉を与えるつもりで、あの様な行いをした。

シャルロットを襲うようにとデュマスを寄越した人物は別の誰かだ。』


と言っていたから。

じゃあ、その人物って誰?と聞いたが…


ルイは僕の立派な従者を演じるあまり「人」を演じる事を忘れ、人としての心の機微を疎かにする場合がある。


あの日、陛下とのラストダンスは僕が姉様に成りすまして事なきを得、シャルロット姉様は酔っただけで済み、何事も無く万事上手くいった結果だけを見たルイは、デュマスの事を『どうでも良い些末な事』と判断し、僕に告げる事もデュマスに指示を出した人物を探る事も無く、終了させてしまった。



「まあ、アフォンデル様。

不快にさせたのでしたら申し訳ございません。

可愛い弟が珍しくわたくしを頼ってくれて、舞い上がってしまいましたの。」


姉様はアフォンデル伯爵令嬢の棘のある物言いを、軽く微笑みながらサラリと軽く受け流した。

毎度、真っ向から相手をしてしまいがちな僕も見習わなければならないなー。


「いえ僕が悪いんです、いきなり姉様たちの寮を訪ねたりして…ご迷惑お掛けしました。

アフォンデル伯爵令嬢様、お目汚し大変申し訳ございません。」


僕はアフォンデル伯爵令嬢に丁寧に謝罪をし、姉様にも別れの挨拶をすると女子寮から離れ、僕を迎えに来ていたルイの方に向かった。

姉様はにこやかな笑顔で僕を見送ってくれたが、姉様の隣に立つアフォンデル伯爵令嬢はもっと喧嘩を売って僕たちの不快そうな顔を見たかったみたいだが、「小物の相手などする気は無いわ」って感じに姉様に軽くあしらわれて、歯噛みする程口惜しげな表情で僕たちを睨んでいた。



女子寮から少し離れた場所の街灯の下に立つルイを見つけた僕は、ルイに駆け寄った。

先ほどまで、ルイの翼の内側でルイに抱き締められていたせいか、ルイに近付くにつれ鼓動が激しくなる。

ルイを好きだって感情が溢れそうになる。

ヤバい、僕…おかしい。


「……お迎えありがとう、ルイ。」


「アヴニール、アフォンデル伯爵令嬢を前にして、よく耐えたな。立派だ。」


ルイが駆け寄った僕を掬い上げるように抱き上げ腕に座らせた。

この力強い腕も、低く響く優しい声も、体温も香りも何もかもが、まるで僕の一部であるかのように常に僕の一番近くにある。

これを奪われたくはないし、自ら手放したくもない。

そんな気持ちが止まらない。

僕は、そんな気持ちを表面には出さずに普段通りを装う。


「ルイと約束したからね。

僕は、ちょっと優秀なだけの幼い貴族の坊っちゃんでいるって。」


デュマスを殺したいと言い続け、殺戮の魔王みたいになりかけた僕を翼にくるめて止めてくれた心優しき魔王様は、あの後に思わぬ事を僕に告げた。



『残念だが、シャルロットを襲おうとしたデュマスを殺す事は出来ん。

夜会で私が知ったデュマスは、もう既に死んでいるからな。』


『………え?……それ、どういう意味……』


『今、男子寮にいる従者のデュマスは、私が知らないデュマスだ。』


ルイが夜会で見たデュマスと、マル君の従者をしているデュマスは姿形は全く同じ別人。


その話を聞いた時、ブワッと全身が総毛立った。

人が別人に成り代わる際、深淵の闇魔法という魔法があるが、それは本来魔族しか使えない。

僕は使えてしまうが、それは僕が前世ゲームヒロインだというバグに近い存在だからだ。


もう一つ方法があるのが邪法、外法と言われる、死体の顔の皮を剥いで使う方法だ。

成り代わられる側は顔の無い死体となる。


「…学園に来る前、父上から王都を囲む壁の外に顔の無い全裸の遺体があったって話を聞いた事があったんだけど…。

まさか、その遺体が本物のデュマスだった…?」


今、マル君の従者をしているデュマスが偽物かどうかは顔面をぶん殴れば顔がズルッとなるから分かるハズだ。


「よし、じゃあ確認のためにぶん殴りに行こうか!」


「殴って正体が別人だと分かった所でどうする。

仲間が居るならばデュマスの代わりに、また誰かが新たな犠牲となるだけだ。

我々が暴くべきは、奴がデュマス本人で無いと証明する事ではない。

何者が、何を果たす目的で、人を殺害して成り代わるまでしているのか、だ。」


確かにそうだ。

シーヤ国王陛下の伯父さんを殺害し、成り代わっていた頭ベロンの唇べろべろなジイさんは確か、邪神を信仰している組織かなんかに属していた。

大聖堂でレッサーキマイラを連れて暴れたメェム司祭だったかも邪教関係だったよな。

それらと偽物のデュマスが同じ組織の奴かは分からないけど、下っ端ばかり捕らえた所で何の解決にもならない。


だから僕とルイは、奴らを泳がせる事にした。


下っ端から尻尾を掴み、その謎の組織の中枢に近付いて奴らの目的を探るために。

そして、それらがただの邪神を崇めるだけの信仰者の集団なだけなのか━━


あるいは邪神というものが、魔王ルイやビビりの女神のように、人類を超越した神の領域にて実在する存在なのかを確かめるために。



男子寮内にて、アヴニールの部屋から殺意を孕んだ巨大な魔力が漏れ出し掛けているのをいち早く察知してアヴニールの部屋に駆け付けたジェノは、部屋の外側から魔力が漏れ出さないように広範囲で強力な結界を張っていた。

ジェノが居る事に気付かないまま落ち着きを取り戻したアヴニールが、姉に会いたくなったと女子寮に行ったので、ジェノは主が留守になった従者の部屋に入った。


部屋ではルイが魔王の姿のままグッタリと疲弊させた身体を休めるように深くベッドに腰掛けていた。

魔王ルイを崇敬するジェノは、荘厳なる姿のままでみすぼらしい部屋にて身体を休めるルイの姿に大きなショックを受け、アヴニールに対して強い憎しみを抱かずには居られなかった。


ジェノは憎しみを隠し、いつものように不遜で軽薄な口調でアヴニールを激しくこき下ろす。

アヴニールに対するジェノの悪口雑言は毎度の事であり、ルイも諦めたように何も言わなかった。

悪口雑言の内容は全てジェノの本音だ。

アホだと思ってるしクソガキだと思ってるし、小憎たらしいとも思ってる。

たが、ジェノはアヴニールへの悪口雑言に乗せ、一瞬だけ「アイツは殺した方がいい」と本気の殺意を滲ませてしまった。 

それを見逃すルイではない。


「…………ジェノ、今の内に言っておく。

アヴニールがこの世界から消える様な事があれば、私はこの世界を滅ぼす。

…………そして………私も消える。いいな。」


ジェノの悪口雑言を黙って聞いていたルイが厳しい口調で釘を刺す。

本音を聞かれ焦ったジェノはルイの前に膝を付いた。


「ッッ…陛下っ…もう一度よくお考え下さい!!

私は最初、あのクソガキの強大な力が我々の障壁になるのでは、とヤツを始末するつもりでした!

ですが陛下がヤツに寵愛を与えるならば、始末するのは諦め、逆にこちら側に引き込めば良いと考えもしました!

ヤツの強さは脅威でもあるが、味方にすればこれほど心強いものはないと思ったからです!

ですが先ほどのアレは、我々の手にも余る!

あまりにも危険です!」


現に魔力の量、強さ共に他の追随を許さない魔王ルイが、アヴニールを正気に戻しただけで自身の正体を隠す魔法さえ使えないほど疲弊している姿を目の当たりにし、ジェノはアヴニールを囲う事が空恐ろしくなった。


崇敬する魔王陛下が、一人の人間にその存在を壊されてしまうような恐怖心がジェノを苛む。


アヴニールがルイを斃すビジョンが浮かぶ。

ジェノがアヴニールから感じたのは、それほど強烈な殺意であり破壊欲だった。


「そんな事は認められない!駄目だ!

陛下!どうか目を覚まして下さい!

アレは魔族の敵になったとしても、人間の味方にさえなり得ない別の何かです!アイツは危険です!

我々は…いえ、私は!!

至高のお方である、陛下を失いたくない!」


「私もアヴニールを失いたくない。

………………失えない…………愛してるんだ。」


ジェノは言葉を失った。


━━━━あぁ……………陛下………

もう、そこまで…………━━━━


恋愛に疎く、自身の本心にも気付かない事を、恋愛ベイビーだとからかったりしたが………

こんなにもはっきりと、断言するまでになってしまった魔王ルイの心からアヴニールを忘れさせる事など出来はしない。


アヴニールが魔王の側に居る事で、魔王ルイが壊れるのではないかと危惧したが

アヴニールが魔王ルイの前から消えても、魔王ルイは壊れてしまうかも知れない。


「陛下……私はどうすれば良いのですか……。」


ルイはベッドから立ち上がり、深淵の闇魔法を使い、普段の従者ルイの姿になった。

ジェノに背を向けたままドアに手を掛け、小さく呟く。


「ジェノさん……貴方が思うように動けばいい。

今の私は、ただの人間の従者に過ぎない。

主人の傍らにあり、主人の為に動きたい。

……人間であれ魔族としてであれ、貴方が私の主人に仇なす者になるなら、私が貴方から主人を守る。

貴方を殺してでも。」


「我々魔族は、人間の敵なんですがね……

魔王様自ら、人間側に寝返るんですか。」


ルイはジェノに返事をせずに部屋を出て行った。

分かっている……魔王ルイは人間の味方になったのではない。

ルイはあくまでアヴニールだけの味方なのだ。


「いつか我々魔族は、人間と戦う日が来る…そんな予感がずっと頭にあります。

そうなった時、魔族の陛下と人間のクソガキの恋愛劇のフィナーレは、どこに行き着くんですかね…。」



━━昨日オレは…何度殴られたのだろう━━


アフォンデル伯爵家子息のマルセリーニョは、ポテポテと学舎までの道のりを一人で歩いていた。

今までならば馬車に乗り、道を歩く下級貴族の生徒達を見て「貧乏人どもめ」と見下すように鼻で笑って、そうやって悠々と学舎に通っていた。

だが、今日は馬車を待つ僅かな時間さえ耐えられなかった。

一刻も早く、デュマスのもとを離れたかった。


マルセリーニョにとって、昨夜のデュマスとの時間は地獄だった。


何度殴られたか、もう覚えていない。

血と歯が飛び、鼻が折れても回復魔法で治された。

そしてまた殴られる。

無意識に我が身を庇おうと手を顔の前にかざしたら、「反抗的な態度」だと更に殴られた。


やがて四肢をダラリと下げ、マルセリーニョは抵抗の一切をしなくなった。

デュマスの言う全てを受け入れるのが、この地獄から抜け出す唯一の方法だと気付いたのだ。


「坊ちゃま、やっと私の教育が実を結んだのですね。

良かったです。」


デュマスは満足気にマルセリーニョに回復魔法を使い、

身綺麗にしたマルセリーニョをソファに座らせた。

目の前のテーブルにワゴンに乗った料理を並べてゆく。

マルセリーニョは料理を前にしても、先ほどまでの空腹感を思い出す事は無かった。

だが、デュマスが用意した食事をしない事を、反抗的だと捉えられる可能性の恐怖に駆り立てられる。


「お腹が空いてらっしゃったのですよね、美味しいですか?坊ちゃま。」


「ハイ、美味しいです。」


回復魔法を使われ、歯も元通りになっている。

だが先ほどまで口の中にあった血の味を、身体が覚えている。

口の中にある食べ物全てに、血の味がする気がする。

マルセリーニョは噛む回数を減らし、飲み込んでいった。


「マルセリーニョ様、貴方には立派な友人が必要なのです。ですから、ローズウッド候爵家のアヴニール様と仲良くなって下さいね。」


「ハイ、アヴニール君と仲良くなります。」


マルセリーニョはデュマスに従順になった自分を演じる事にした。

デュマスがそれに気付いてようがいまいが関係ない。


今、目の前にある地獄の扉が再び開かないようにするためと

自分と同じ目に遭わないよう、姉の身を守るために。




「…………マルセリーニョ様?どうか…されました?」


馬車を使わず取り巻きも居らず、ポテポテと一人で歩くマルセリーニョに強い違和感を覚えたウォルフは、出来れば関わりたくないと思っていたマルセリーニョに思わず声を掛けてしまった。


「……ウォルフ……」


マルセリーニョにとって、見知った顔に出会えた安堵感はとても大きなものだった。

ウォルフに縋り付いて「お前の父親に、もう一度オレの従者をしてもらいたいんだ!」と懇願したいと思った。

だが、もしかしたらデュマスの魔法力によって監視されているのではないかとの恐怖心がある。

本来聖職者か女神への信仰心が強い者しか使えない回復魔法を使えるデュマスの魔法力が計り知れない。


「…ウォルフは、アヴニール様と仲が良かったよな。

オレもその、仲間に入れてもらえないかな…。」


「………え?アヴニール…様?」


ウォルフから目を逸らしたマルセリーニョに、ウォルフは強い不信感を持った。

かつて、自分を使用人の子だと蔑んで横暴な態度を取っていたマルセリーニョの姿はここには無かった。

従者だったウォルフの父親がマルセリーニョに解雇され、父の知人であるデュマスという青年が新しい従者になった話は聞いていたが━━

そこからしてウォルフには違和感しかなかった。


「それは俺には決められません。

学校で、アヴニールに会わせますから……。

一緒に学舎に向かいましょう。」


ウォルフはマルセリーニョの隣に並び、周囲に気を配りながら学舎へと向かった。



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