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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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91話◆お兄さん達の膝の上。

「俺の事なら気にするな。

ゆっくり読書を続けるがいい。」


気にするなって…気にするなって…!

こんなの、気にしたくなくても気になるわ!!


「あのね、シ…司書のお兄さん、気にするなって言われても無理があるって言うか…ぅわ!わぁ!」


シーヤに背後から思い切り抱き締められた。

膝に座った状態の僕の小さな身体を抱き締められると、もう抱き締められてると言うより全方位から包み込まれた感じになっている。そりゃ焦る。


シーヤの僕に対する執着ぶりは、シーヤが少年を相手にする、そういう趣味の人だと周りに勘違いされる程スキンシップが過度なんだけど、シーヤにそんな趣味は無くて、これはシーヤの命を守った僕への安心感という依存もあるんだろうなと思う。


「暗殺者から俺を守るためとは理解しているが…寂しかった。

友も作れず、人と語る事も出来ず、学園の図書室に監禁されたような状態で…ただただ孤独だった…。」


確かにそれはキツいかもな……どこからシーヤの情報が外に漏れるか分からないから、マライカ国の従者を連れて来る事も出来なかったみたいだし、話し相手も居なかったのか。


「だからアヴニール、お前に会えて凄く嬉しい。」


「……そうだね、僕もお兄さんに会えて嬉しいよ。

無事で良かった。」


これは早く、シーヤお兄ちゃんを狙う邪神を崇める組織とやらを壊滅させないと、シーヤの命は守れていてもシーヤのメンタルがぶっ壊れちゃいそう。

なんだけど…情報が少ないんだよなぁ…その邪神が何なのかも実在するのかも分からないし、そんな存在感あやふやな邪神に何を願って崇めているんだか。


そもそもゲームのラスボスは魔王サマのルイなワケで…真のラスボスが居るとか聞いてないし。



リーン……ゴーン……



午前の授業の終わりを報せる鐘が鳴った。

シーヤと僕が同時に顔を上げ、僕は本を抱えてシーヤの膝から降りた。


「この本、お借りしても?」


「………ああ、貸し出しの手続きをしよう。」


貸し出しの手続きの間、シーヤは黙ったままだった。

図書室の外や中庭から教室を出た生徒たちの声が聞こえ始め、シーヤは司書の青年に徹する。

申し訳無さや切なさ、やるせなさとか色んな感情が僕の胸に渦巻いた。

何とかしてあげたい…でもシーヤに何かあった時に僕が必ず守れるとは限らない。

本音を言えば今のシーヤにはイワンの一部がついてるし、シーヤの代わりにマライカに行った影武者さんが襲われた話も聞かないから、多分もう国に帰っても大丈夫じゃない?とか思うんだけど、無責任な事は言えない。


「司書のお兄さん。

また図書室に、お話ししに来てもいいですか?」


貸し出し手続きを終えたシーヤは「えっ」と顔を上げ、僕の顔を見てから表情を綻ばせた。


「ええ、いつでもお待ちしております。

君が来るのを楽しみに……。」


シーヤから本を受け取った僕は深々と礼をし、ドアに向かった。

シーヤのためにも、一刻も早く邪神の組織を突き止めなきゃ……借りた本に何らかの手掛かりがあれば良いのだけれど。



図書室を出た僕は食堂に行く前に、ウォルフを誘いに一回教室に向かおうとした。

だけどきっと多分、てゆーか絶対に…

ピヨコがウォルフを気に入って離さず、一緒に食堂に行ってるに違いない。

寮の食堂と違って学舎の食堂はかなり広い。

昼食時間には学舎内にいるほとんどの人が食堂に行く。

そんな中でウォルフを探すのは大変だし…しかもピヨコが一緒だったらウザいな…。

いっそ姉様を探してイチャイチャ……いや、甘えさせて貰おうか━━なんて考えていたら、食堂とは逆向きの誰も居なくなった廊下にポツンと人影があった。


丸い…………………まんまるマル君だ。

えーと……アホンダラ家のマルセリーノだったかマルセリーニョだったか。

昨日、僕がサラダを彼の口にナイアガラの如く流し込んだマル君。

そんな彼をピヨコは躊躇なく「ブタ」と呼ぶ。


そのマル君が珍しく、取り巻きも連れずに1人でポツンと廊下に立って僕の方をガン見している。

もしかして…昨日の事を思い出して僕にビビってます?

食堂に向かう廊下に僕が居るから怖くて食堂に行けない?

ナイアガラの後の「お前の尻ぶっ叩く」は怖すぎたかな。

ま、いいや…放っておいて食堂に………


「そこの!ローズウッドのお前!!」


彼を無視して食堂の方に足を向けたら、マル君が僕を指差しながら焦ったように駆け寄って来た。

駆けて来たけど…僕の名を忘れたのかもだけど、ローズウッドのお前…だと?


「アホンダラ伯爵家の丸いの。僕に何の用ですか?」


ニッコリ微笑みながら、そおっと右手を挙げてそう返す。

ゆっくり挙げられた僕の右手を見たマル君は、僕に尻を叩かれる寸前だった昨夜の食堂での事を思い出したらしく、「ぅぐ!」と言葉を詰まらせた。


「あ、アヴニール…!アヴニール!」


駆け寄って来た割に僕に近付くのが怖いのか、彼に微妙な間合いを取られている。

そんなマル君は僕の名前を思い出したのか、確認するみたいに数回復唱し、改めて睨むように僕を見た。

なんで睨むんだよ。喧嘩売ってんのか?


「で、何の用なんですか。

昨日の食堂での事なら謝るつもりはありませんよ。」


睨まれたとて怯むハズも無く、逆に「文句あんの?」との意味を含んで思い切り睨み返した。

マル君の方が一瞬怯んで一歩後退る。


「お、オレ様と友だちになれ!」


「ふざけんな、丸いの。」


間髪入れずに当然の即答。

そりゃそうだろう、前は僕に「家来になれ」なんて言ったマル君とお友だちなんて無理だ。

僕の大切な友だちのウォルフをオモチャ呼ばわりするマル君とは友だちになんかなれない。

ウォルフに悪いと思うからとか、君を許せないからと正義感を振りかざしているワケじゃないんだ。


なんてゆーか…友だちなんて近い立場になってしまったら、隙あらば躾と言って君をどついたり、しばき倒そうとしたりしてしまいそうで。


要するにマル君に暴力を振るわない自信が無い。

これは僕の精神を健やかに保つためでもある。


「な、なぜだ!」


「なぜって……いや、君こそなんで急に僕と友だちになりたいなんて言い出してんだよ。

その理由を先に聞かせてよ。」 


不本意そうな感じで僕と友だちになりたいと言い出したマル君。何やらワケ有りかも知れないけど。


「うるさい!お前には関係ない!!」



深く━━深く深く長い長い深呼吸をする。

深く息を吸い、ため息のような長い息を吐いた。



「僕と友だちになりたい理由を聞いてるのに、その僕に関係ないワケあるかぁ!!!ッのボケェ!!!」


………………と、口から出かかったのをグッと堪えた。

もういだろう、無理だ…彼とは相容れない。


「…うん、関係ないね。僕も君と何らかの関係を持ちたくない。

君の事情なんかどーでもいいんで、もう二度と友だちになりたいとか言って話し掛けて来ないで下さいね。」


「ま、待て!アヴニール!」


知らん。マル君に背を向けた僕は振り返る事なく食堂を目指す。早く姉様を探して癒されたい。

後ろでマル君がずっと何かをわめいていたけどマジ知らん。



食堂に到着し大扉を開くと、僕を待ち構えるようにドアに一番近い席にピヨコと取り巻き君達と、ウォルフが陣取って昼食を食べていた。

だもんで食堂に入った瞬間、ピヨコ達と目が合ってしまい、ウォルフを無視してその場を離れて行く事が出来なかった。


「やっと来たか、アヴニール座れ!」


偉そうに言うピヨコの隣の席でウォルフが僕に、申し訳なさげに目配せをした。

自習ではピヨコを鬱陶しがって避けたがる僕のためにウォルフが間に入ってくれて、僕に極力近付けないようしてくれていたけど…昼食は難しかったみたい。

ウォルフが人質みたいになってるじゃん。

僕はあからさまに大きなため息を吐いてから、ピヨコの隣に座るウォルフの隣に座った。

ウォルフをバリケードにしてピヨコから距離を置く。


「アヴニール!顔が見えないだろう!話しにくい!」


「話すことなんて何にも無いし。」


壁代わりになってくれているウォルフの向こう側でピヨコがわぁわぁ何か言ってる。知らんがな。


無視をする僕に我慢ならなかったのか、ピヨコは僕の向かい側の席に座る取り巻き君の1人と席を替わった。

僕の正面に座り「どうだ」と言わんばかりのしたり顔のピヨコに「うぜぇ」と不愉快そうな表情を見せる。


「あっ…アヴニール!そこまで邪険にしなくても…ジュリアス様は、そんな悪い人では…。」


ピヨコに対するあからさまな僕の態度に、僕の右側に座るウォルフが心配そうにコソッと耳打ちしてきた。

アフォンデル伯爵家で奴隷のようにマル君に虐げられていたウォルフは、人の悪意を敏感に感じ取れるのだろう。

そんなウォルフがピヨコを悪い人ではないと言うのだから、ピヨコの性根が悪いヤツではないと分かる。


ただ━━うぜぇんだって。


「聞いたぞ、食堂でブタに解雇された従者の男、あれががウォルフの父君だったと。

ブタに解雇されたのならマーダレス侯爵家で雇うと言ったのだが。」


何事も無かったようにしれっと会話を始めるピヨコに、僕も彼を無視するのを諦めた。 


「ヴォルフガー男爵はうち、ローズウッドで働くともう決まったから。」


そう答えてウォルフの方をチラっと見たら、ウォルフはピヨコが善意を持って自分の父の心配をしてくれているのだと理解したみたいだけど、マル君の事を「ブタ」と呼ぶのがデフォな事に困惑している模様。


「それは残念だな。先日解雇を言い渡されたばかりで、もうアヴニールの侯爵家で雇用が決まったという事は、ウォルフの父君はかなり優秀なんだろう?

早いと言うと、ブタの新しい従者が決まるのも早かったがな。」


ピヨコがそう言うと、父親が解雇された後に決まった新しい従者に興味をそそられたらしく、ウォルフが詳しく聞きたそうにピヨコを見た。

ウォルフの視線に気付いたピヨコは「ふぅ」と小さなため息をつく。


「あの男、ウォルフの父君の代わりが務まるほど優秀な男には見えない。

だが偉そうなブタに、言う事を聞かせられる点だけはウォルフの父君よりもやり手かも知れないな。

…………デュマスとか言ったか…。」


マル君の事を偉そうなブタとか言ってるけど、ピヨコ、お前も偉そうなガキンチョなんだよな。

そして、お前ン所の従者の尻ユニコーンのジェノもな、すごく偉そうでムカつく。


「デュマス!?デュマスさんが!?

デュマスさんがマルセリーニョ様の新しい従者…

………いや、無理があるでしょう………。」


デュマスの名を聞いたウォルフが驚いたような声をあげた。


「ウォルフはデュマスを知ってるんだ?」


僕は、気になっていたデュマスの情報が少しでも知りたいとウォルフの方に身体を向けた。


「父の知人の1人だったが……一応貴族らしいが、詳しくは知らない。

だが、よく金の無心に父の所に来ていたんだ。

ペコペコ頭を下げる割には年上の父に馴れ馴れしい態度で…

うちも家計が苦しい事を知っている上で何度も。」


その様子を思い出したのか、ウォルフは怪訝そうな顔で視線を僕たちから逸らした。

あまり良い印象を持っては無いようだ。

だが……ウォルフの語るデュマスの人物像は僕とピヨコが見たデュマスの印象と異なる。

ピヨコも不思議そうな表情をしている。


昼食時間が終了したと報せる鐘が鳴った。

食堂に居る皆が席を立ち始め、ぞろぞろと午後の授業に向かう。

食堂に来たものの何も口にする事が無かった僕も渋々と席を立つ。

お腹空いたし……マル君とピヨコに会って疲れたし…姉様には会えず、癒されなかったし……


図書室でシーヤに借りた本を抱き締め、僕はある決意を胸に大きく頷いた。


━━そうだ、今日はもう早退しよう!━━





「ただいまールイ、早退しちゃった。

お腹空いたから、何かすぐ食べれそうなモノない?」


「早いと思ったら早退したのか。

ちょうど良い、今ローズウッドの邸から帰った所なのだが料理長が作ったミートパイを土産にもらって来た。」


部屋のソファにドサッと深く腰掛けて両腕を上に大きく伸ばして「ん~~ッ」とリラックス。

やっと落ち着いた、あとは空腹を満たして借りて来た本を読もう。


ルイがミートパイを乗せた皿と水の入ったグラスを僕の前のテーブルに置いた。

そのルイが、身を屈めた状態でグルッと顔だけ急にコチラに向け目をガン開きで僕を見た。

すっげーホラーなんですけど!!こっわ!!


「急にナニ!?

瞳孔開きっぱなしみたいで怖いんだけど!」


「アヴニール………

一体、どこの馬の骨といちゃついて来た。」


い、いちゃ!?いちゃついてきた?

誰ともいちゃついてなんか…………まさかシーヤ?


「いちゃついてはいないけど……なんで分かるの?」


「お前から、不愉快な香りが漂っている。

…………………気にいらん………。」


そういえばルイって鼻いいよな、前も尻ユニコーンに近付かれた事を隙を見せるなとか言ってキレていたし。


ルイはプイとそっぽを向くようにテーブルから離れ、ふて腐れたように離れた場所の椅子に腰を下ろした。

猫カフェ行った後の、実家の飼い猫かよ。


「不愉快て……ルイには隠す必要も無いから言うけどさ、シーヤに会ったんだよ。」


「以前助けたマライカ国王とやらか。

行方知れずになっていたと聞いたが…確かに匿うならば学園が一番安全だからな。」


ルイには既にシーヤの事を話してある。

シーヤを襲った人間が邪教の組織に関係している事も全て共有済みだ。


「シーヤは今も生命の危機が去ったとは言えないし…不安なんだと思う。

その不安を話せる相手も居なくて心細くて…。

だからちょっと……スキンシップが過剰で……。」


ビキッと何かにヒビが入る音がした気がして、思わず僕は「何の音?」と辺りを見回す。


「うわぁあ!!ナニすんだよぉ!!」


いきなりフワッと身体がソファから持ち上げられ、ルイが先にソファに座り、その膝上にストンと座らされた。

本日2人目のお膝の上!!もう、えーだろうが!


「私が気に喰わんだけだ。だからお前は気にするな。」


気にすんな!?気にするだろうよ!こんなの!

お膝の上で食べろとか、本を読めとか、ルイの場合は特に!僕を子ども扱いしてるだけでないって分かるから緊張感もハンパない。


「ルイさんや…これは、嫉妬ですかね…?」


「当たり前の事を聞くな。」


ハイと小さく頷いて、ルイの膝でミートパイを食べる。

嫉妬ですか。そうですか………


いやっ口元緩むほど嬉しいって何だコレ!!



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