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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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88話◆ネガティブな狼父子。

朝食後ルイに、アカネちゃんにロックオンされただろうから、これからガンガンアタックされるよって話をした。

ルイは相手にしなければいいだけだと、さほど気にしてない様子だったけど、内心穏やかで済まないのは実は僕のほうで。

アカネちゃんがルイにグイグイ近付いて、過剰なアプローチをする事を考えると…ものすごくイラッとする。

これは…嫉妬だと言いたくないけど嫉妬…なのかなぁ。

とにかく、ルイには近付かないで欲しいんだよね。

………ルイ、なんで嬉しそうに微笑んでるんだよ。

こいつ、僕の思考を読みやがったな!恥ッッず!



注意喚起した後、なんだかゴキゲン状態なルイが微笑みながら学校まで送ると言って抱っこしようとしやがったので、色んな意味で恥ずかしいからやめろと断固拒否し、渋い顔をしたルイに見送られて僕は寮を出た。


徒歩で学舎に向かう学生は、上級貴族のボンボンばかりの僕の寮には僕以外にはおらず、寮の前の通りにはズラリと登校用の馬車が並ぶ。

当然、ピヨコの乗る馬車もあるわけで。

ピヨコが僕を見つけた途端に偉そうに声を掛けてきやがった。


「アヴニール、お前も馬車に乗せてやろう!……って

オイ!無視すんな!」


返事はおろか目も合わせず完全に無視して横を通り過ぎるわけなんだが、ピヨコの隣に立つ従者が僕を見てニヤニヤ笑っていた。

アイツ、一度は呪い殺そうとした僕の事を今どう思ってんだか知らないけど…朝からムカつくなぁ。

魔王サマ側近の尻ユニコーンのくせに。

お前なんざもう、略して尻コンでいいや。



多くが徒歩で登校する下級貴族のお坊っちゃま達にまぎれて学舎に到着すると、エントランスで前を歩くウォルフを見つけた。

僕はウォルフに背後から声を掛けながら駆け寄る。


「おはよ、ウォルフ!」


ポンと軽く背を叩くとウォルフが振り返った。

そう言えば、今日ってウォルフのお父さんが僕んチに就職面接に来る日だってルイが話していたっけ。

ウォルフはそれを知ってるのかな。

振り返ったウォルフは僕に向け一度姿勢を正し、僕に向かって深く頭を下げ礼をした。


「……おはようございます、アヴニール様。」


ウォルフの思わぬ反応に、驚いた僕はフリーズしてしまった。

うっわ…お父さんがウチに面接行ってるって絶対に知ってるわー知ってるからこその、この態度!

ウォルフの中には雇い主の息子には絶対に逆らえないって思い込みが、どんだけ深く根付いているんだか。


「ウォルフ!アヴニール様なんて呼び方やめてよ!

友達なんだからさ!

ウォルフの僕への態度でお父さんの評価が悪くなるとか無いからね!」


「……だが、もし俺の父がローズウッド侯爵様の所で雇われる事になったら、アヴニール様は俺の主人だ…」


「いや、違うだろ!ウォルフのお父さんがウチで働く事になったって、僕とウォルフは友達!

主従関係なんか無い、これは変わらないよ!」


「邸の使用人の息子が、邸の主の子息に対等な態度を取るなんて…邸の主人に良く思われる筈がないだろう。」


いやもう…どんだけっ…どんだけッッッ!

どれだけ長い間アホンダラ伯爵んトコで嫌な思いをさせられてきたのか…そんな考えを当然の様に受け入れるなんて。

幼い子どもだったウォルフが、まん丸マル君にひどい扱いを受けていただけでなく、その父親にも気を遣って幼少期を過ごしただなんて…。

それも、お父さんの立場を守るため?

そんなお父さんだって、ウォルフの家族ためにアホンダラみたいなアタオカん所で頑張っていたりしたんだろ?

親子ともども人が良過ぎるし、人生無駄にしてない?

なんか勿体ないって!


「いや、ウォルフのお父さんが僕んチに雇われたとして、僕が理由も無くウォルフに横柄な態度を取ったりなんかしたらウチのパパ上は僕を絶対に許さないよ。

僕がウォルフに土下座するまで、きっと目が笑ってない怖い笑顔でおっそろしい圧飛ばして来る。」


もうウォルフのお父さんの雇用が決定した感じで話を進めているけど、これで「今回はご縁が無かったという事で」とかなったらバツが悪いなぁ。

けど…ルイが大丈夫だと太鼓判押していたから大丈夫なんだろう。

ルイは僕について学園に来るまで、短い間だったけどパパ上の補佐的な仕事もしていた。

ルイはウォルフのお父さんになら、その仕事を任せられると思っているみたいだ。

魔王サマのお墨付きなんて優秀じゃん。


「だが………」


「いや僕が困るからさ。

ウォルフが僕の言う事に逆らえないって言うのなら、そんな態度は禁止。

これからも友達でいて。」


「分かった…父の仕事が見つかり、俺がまだ学園に居られたならば、その間はアヴニールの友人でいよう。」


今のウォルフに一匹狼ティストは皆無だ。

ロンリーウルフを気取ってカッコよく学園デビューを果たしたはずなのに今はしおしおネガティブウルフ…ああ勿体ない。

いや、まだ大丈夫だ。器用貧乏臭くもあるがAクラスに振り分けられたウォルフは文武両道で中々優秀な人材。このまま枯らすのは惜しい。

まずは、ウォルフのお父さんが僕のウチで雇われて、学費の心配が無くなってからだね。

大丈夫だと思うんだけど……きっと大丈夫だよね…?




王都内、学園から20分ほど馬車を走らせた場所にあるローズウッド侯爵家の王都邸に到着したウォルフの父は、大きな門扉の前で立ち尽くした。

ローズウッド侯爵家は数ある王都の上級貴族の中でも王族と関わりの深い有数の貴族家であり、先日伯爵家から解雇を言い渡されたばかりの領地も無い下級貴族の自分がこの場に居る事が何かの間違いにしか思えない。


解雇を言い渡された翌日の朝、寮を去ろうとした男の元に一昨夜寮の食堂で会ったばかりのローズウッド家の従者が現れ、「明日、ローズウッド侯爵邸に立ち寄って下さい。」といきなり告げられたのだ。

男の中に、ローズウッド家の嫡男の気分を害した事を咎められるのだろうか、との考えが浮かんだが、ローズウッドの若い従者はすぐそれを否定した。


「咎める気などありません。貴方の今後について、私の主人の親である侯爵様と話して欲しいだけです。」


考えを読まれたのかと一瞬驚いたが、それほど分かりやすい表情をしていたのか、と男は思った。

その後に男は何度か従者の申し出を遠回しに断ろうとしたが、全て先回りした答えを返されて訪問を断る事が出来なかった。

それで、仕方なく今この場に立っているのだが…やはり立ち去った方が良いのではないだろうかと考えてしまう。


門扉の前で立ち尽くす男に気付いた門兵らしき邸の者が門扉を開けて男を迎え入れた。

邸の者に案内され、ぎくしゃくしながら長いアプローチを歩いて邸に向かった。

邸のエントランスに着いた男は、次は邸の執事らしき男に案内され、邸の応接室に通された。

男が邸内を案内されながら感じたのは、調度品も含め豪華なしつらえにしてあるが、嫌味を感じるような華美さは無く洗練された美しさがあり居心地が良い空間である事。

以前の雇用先が、ところせましとばかりに豪華な調度品が置かれた仰々しく派手な場所であった事をふと思い出した。

目に入るモノの自己主張が強くて、目がチカチカするし頭が『うるさい』と情報を拒否するほどだった。


「いきなり呼びつけた上に待たせてすまない。」


少し遅れて応接室に現れたローズウッド侯爵に対し、男はソファーから立ち上がり深く頭を下げた。


「こちらこそ…!ご子息への無礼、誠に申し訳ありませんでした…!」


男の低姿勢ぶりにローズウッド侯爵は目を丸くして驚きの表情をしたが、すぐに表情を戻すとソファーに腰掛け、男にも座るよう促した。


「息子に対する無礼など、あって無いようなものだ。

アレは自分が納得するよう遠慮無く自己解決させてしまうし、気にするような事ではない。」


呆れを含み半笑い気味になった侯爵はボソッと「報復も遠慮なく…な」と呟いた。

ソファーに腰を下ろした男は、先日食堂で見た貴族の子息だろうが年上だろうが遠慮なく尻を叩こうとしたアヴニールの姿を思い出して「はぁ…」と納得した。


「謝罪では無い、ならば私はなぜこちらに呼ばれたのでしょうか…」


「なんだ、ルイから何も聞いてないのか?

あやつは目の前で解雇を言い渡された貴方を見て、ローズウッド家で雇えないかと言って来たのだ。」


男は無声のまま「えっ!?」と言わんばかりの驚愕の表情を見せた。驚き過ぎて声が出なかった。

確かにローズウッドの従者は「今後」と言う単語を口にしたが、まさかそれがローズウッド侯爵家での雇用の話だとは思わなかった。

焦った男は、思わず声をあげる。


「それは…!それはなりません!

私は、先日までアフォンデル伯爵家に仕えておりました!内情を探りに来たと思われても可笑しくない立場だ。

そんな私ごときが…侯爵様の信用に足るとは思えません!」


「自らスパイかも知れないと進言するのか?

なんだ随分と卑屈になったものだな…。

学園に居た頃は、もっと堂々たる佇まいであったのに。」


侯爵の言葉に、男の脳裏には若い頃の情景が浮かんだ。

自身とローズウッド侯爵は直接の交流こそ無かったが、同時期の学園に在籍していた。

若かりし頃の自分は自信家ではあったが努力は怠らず、研鑽を積めば未来は輝かしいものだと信じて疑わなかった。それが今では…

そんな、忘れていた遠い過去の自身の姿をローズウッド侯爵に思い出させられるとは思わなかった。


「そ…れは…あの頃の私は…無知な若者だったので…」


「貴方の父君が先代アフォンデル家の派閥に加わった事で貴方は今の立場になったのだろうが、亡くなった先代の不手際を貴方が負う必要は無いだろう。

少なくとも私は派閥どうこうに関心は無い。

私に対し媚びへつらう必要も無い。

必要なのは与えられた仕事をこなせるかと国に忠誠を捧げる意志の強さだけだ。」


「国に忠誠を捧げるのは貴族の責務でしょう。

…しかし…私は……」


「信用に足る人物か否かは今の貴方の態度が物語っている。ルイが勧めるほどでもあるしな。

謙虚とは卑屈になる事では無いぞ。

ヴォルフガー男爵。」


貴族として爵位を付け名を呼ばれるのは久々で、嬉しさと戸惑いから男の噛み締めた口の端が震えた。

自分には、もう貴族たらしめるものなど何も無いものだと思った事もあった…が。


「ですが私は…やはり由緒正しきローズウッド家に相応しくは…」


想像以上に頑なな態度を崩さない男に、ローズウッド侯爵は困った風な表情をした。

ルイから聞いた食堂での話では、ここまでウジウジとした男ではなかった様だが…

家族を守る為に気を張った男の、こちらが素の姿なのかと思うと同時に、どれだけ今の境遇を諦めて受け入れてきたのかとも思う。

侯爵は一度、はぁーと長い息を吐き、ソファーに浅く腰掛けるようにして男の前に身を乗り出した。


「時間が惜しい、綺麗事はやめよう。

私のせがれが貴方の息子どのを気に入っている。

学園を退学して欲しくないそうだ。

貴方は今から新しい勤め先を探さねばならないとルイに聞いた。

解雇したのがアフォンデルだと知られれば、次の勤め先は中々見つからないだろう。」


アフォンデルは一度自分の物だと認識したモノは、自ら手を離しても自分に所有権があると思い込んでいる。

そんな蛇のように執念深い男とは誰もが関わりたくないだろう。


「私の息子を気に入っている…それは、アヴニール様が私の息子を小間使いにしたいと、そうおっしゃっているのですか。」


「なぜ、そうなる。

学友として共に学びたいと言っているだけだ。」


侯爵は男の言葉の意味をすぐ悟った。

アフォンデル家では息子が小間使いのように扱われていたのだろうと。

いや、小間使いどころか下僕のように扱われていた可能性もあり得る。

何しろあそこは、親も子も頭の足りない莫迦………


侯爵はアフォンデル家への思考を止めた。

考えを止めなければアフォンデルに対する罵詈雑言がいくらでも頭に浮かんできてしまう。

自らを低俗な人間に貶める事に無駄な時間を費やすのは避けたい。


「……しかし…」


こちらはこちらで卑屈な上に偏屈そして頑固である。

なんと面倒な男だと思いつつも、その場限りの軽薄な言葉を口にしない裏表のない正直な人物だとうかがえる。

ローズウッド侯爵は、この焦れったいやり取りの間に男の人となりを知り、雇い入れる事を決めた。


「埒が明かないな。

こうなったら貴方が納得するまで話をするとしよう。

無駄に時間を浪費するのは嫌いだが、貴方を納得させるための時間ならば惜しくはない。

根競べをしようではないか。」


侯爵は男に向け、不敵な笑みを浮かべた。




「アヴニール、あのダンゴムシみたいな奴の従者だった男の雇用が決まったそうだぞ。」


「ダンゴムシ!?誰それ!?」


寮に帰って部屋に入るなりルイにそう告げられ、一瞬何の事だか分からなかった。

そもそもダンゴムシって誰…ああ、アフォンデル家のまん丸マル君の事か。

確かに彼は丸いけど、ダンゴムシってひどくないか?


「お前たちのブタ呼ばわりと、さほど変わらんと思うが。」


僕の思考を読んだルイにさらっと答えられた。

マル君をブタって呼んだのはピヨコなんだけどな。

ああ、でも僕も人を尻コンとか変なあだ名で呼んでるし今さらか。

いや、アイツは人じゃねーな。ユニコーンだ。


「そっかウォルフのお父さん僕んチに勤める事になったんだ、良かった。

これでウォルフは学園を退学しないで済むんだね。」


ホント良かったよ。

彼が居なくなったら僕に関わって来る同性にロクな奴が居ない事になる。

僕を溺愛する鬱陶しい先輩たちと、僕に絡んでくる面倒くさい同級生たちだけに。

鬱陶しい先輩たち━━と思い浮かべた中で、リュースの顔を思い浮かべた僕は、同じクラスの姉様が「今日、アカネ様は欠席でしたの。お身体の具合でも悪いのかしら。」と言っていたのを思い出した。

何が何でも攻略対象者に近付こうと、あんな頑丈そうなメンタルとフィジカルの持ち主が体調不良なんて珍しい。


「………アカネなら、午前中に私に会いに来たが。

水を持参して。」


僕がポワンと頭に浮かべた単語を拾ったらしきルイが、言いにくそうに控えめに声を出した。

ルイにアタックするとは思っていたけど、昨日の今日だよ…その行動力よ…

驚いた弾みで、無意識に変な方向に返事をしてしまった。


「お水…?ルイをお花か何かだと思ってんの?」


「よく分からんが、アヴニールの言う攻略法とやらに水とぶどう酒が好きだと、そう記載があったらしい。

まぁ…意味も分からない上に煩わしいので早々に距離を置いたが。」


多分━━それはゲーム上で魔王を討伐した後のシナリオにてイベントをこなしたり会話を重ね親密度を上げたりした結果、後のルイにそういう嗜好が生まれるのだろう。

条件を満たしていない今では、まったく意味不明だろうな。


ルイの心が僅かでもアカネちゃんに傾く事が無かったと知って安堵してしまう僕は、僕自身が思っている以上にルイに執着しちゃってるらしい。


前世含めて初めての経験で、大変戸惑っております。


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