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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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83/96

83話◆これはイケメンを落とす乙女ゲームだったハズでは。

「えっもう朝…?…はやっ」


ベッドの上で上体を起こした僕は、陽射しが眩しい部屋を眺めながら茫然とした。


きちんと睡眠をとれた気がしない。

昨日一日が、あまりにもカオス状態でゴタゴタしていたせいか、ルイの膝上で寝落ちてから1時間も経ってない気がする。

とは言え、実際には8時間以上爆睡していたっぽいし…。


「疲れてたんだな。

…なんか夢を見てたよな…どんな夢だったっけ。」


目を覚ましたと同時に、夢の内容はほぼ忘却の彼方に行ってしまった。

ま、忘れるって事は大した夢じゃないのだろう。

それより学校に行く支度をしないと。


「目が覚めたか、アヴニール。

朝食の支度が出来ている。部屋で食して行くがいい。」


スリッパを履いてペタペタ足音を鳴らした僕に気付いたルイが、朝食の並んだテーブルに僕を案内した。

従来、朝食も夕食同様に食堂に行って取るのだが、気を利かせたルイが部屋まで運んだらしい。


「気が利くー、さすがルイ。」


あんな大騒ぎした食堂に、昨日の今日で行きたくなかったから助かる。

朝っぱらから、またぽってり丸クンに絡まれたり、ピヨコにミライがどうこう訴えられて注目を集めるのもウザいし。

そんな僕の気持ちを汲んでくれたルイに感謝。

とは言っても学校に行きゃ、また絡んで来るのかも知れないけれど。


「まぁシカトするしかないよな。

僕が学園に来た本来の目的は、アカネちゃんが姉様を悪役令嬢にする事から守る事だし。」


今日は学園生活2日目で、ヒロインの初登校イベントがある。

ヒロインが学舎に向かう途中で悪役令嬢シャルロットに絡まれてイビられ、そこにクリス王子達が助けに来るみたいな。


姉様がアカネちゃんをイビる…?いや、しないだろうな。

アカネちゃんが姉様に苛められたと言い掛かりの罪を擦り付ける…いや信じてもらえなさそうだし無理っぽいぞ。

だからクリス義兄様達がアカネちゃんを助けに来るってのも無さげだよな。 

クリス義兄様達がアカネちゃんと関わりたくないみたいだし。

…うーん、今の状況ではアカネちゃんの何から姉様を守るのか分からない気がしてきた。



  【 レクイエムは悠久の時を越えて━━ 】


学園に来て二日目の朝━━━━

いよいよ今日から憧れの学園での本格的な授業が始まる。

遅刻しないように学園に向かわなくっちゃ、とワタシは下級貴族用の女子寮を出た。


下級貴族のワタシは馬車を使わずに徒歩で学舎に向かっていた。 

その際、通学路の途中にある上級貴族用の女子寮の前を通りかかった。

そこでは上級貴族令嬢の方々が、それぞれがお呼びになった馬車に乗り込む所で大変な混雑。

ワタシは邪魔にならないように道の端に行き、そそくさとその場を立ち去ろうとした。


「あら、貧乏貴族令嬢の『ワタシ』さんではなくて?

まぁ、みすぼらしく歩いて学舎まで行きますの?」


ワタシを見つけたローズウッド候爵令嬢のシャルロット様が、他の上級貴族令嬢の方々の前でワタシを見下す様な事をおっしゃった。

シャルロット様の声に他のご令嬢方もワタシに注目し、クスクスと嘲笑を浮かべる。

ワタシと同様に徒歩にて学舎に向かう下級令嬢の方々は、巻き込まれないようにとワタシから距離を取った。


ワタシを嘲笑したシャルロット様のお言葉は、エスカレートし、やがてクリス様に色目を使ったなど罵倒を含めてワタシを強く責める様になった。


ワタシを庇う味方も無く酷い言葉を浴びせられたワタシは、ジワッと目尻を潤ます涙が溢れ落ちない様に、自分の腕をキュっと掴んで嵐が過ぎるのを待ち耐え忍んだ。


「何をしている!」


そこに現れたのはクリストファー王子殿下と、ご学友のグラハム様とエドゥアール様。

男子寮から学舎に向かう馬車にて通りがかった際に、ワタシを見つけてくださった…。


道端に追いやられたワタシを庇う様に、グラハム様とエドゥアール様が前に立ち、クリストファー王子殿下はご令嬢達の前に立ち厳しい視線を投げかけた。


「…クリストファー王子殿下、何か誤解なさっている様ですが、わたくし達その方に何もしておりませんわよ?

婚約者であるわたくしの言葉を信じて下さいませ。

あら嫌だわ、もうこんな時間。

皆さま参りましょう。」


シャルロット様は、クリストファー王子殿下に甘える様な表情を見せてから、何事も無かったかの様に馬車に乗った。

他のご令嬢方も各々の馬車に乗り込み、それらが学舎に向かって走り去ると、緊張から解放されたワタシはポロポロと涙を零した。


「あ…ありがとうございます…。」


足が震えて立っていられなくなったワタシの身体をクリストファー王子殿下に支えてもらい、グラハム様の提案もあってワタシは殿下達の馬車に同乗させて戴いた。


学舎に向かう馬車の中、クリストファー王子殿下達はワタシを慰め、励まして下さった。

力強く、温かく、包み込む様な優しさで……

クリストファー王子殿下……

ワタシ……殿下を好きになっても……良いでしょうか……。



━━━分かっていたわよ。

昨日の、あの雰囲気ではゲームと全く同じイベントは起こらないかもなって。

この世界に来て学園に入って、自分の目で見て自分の手で触れて自分の足で歩いて現実を理解したけど。

ついでに地理も把握したんだけど、私の通学路をクリス様達を乗せた馬車が通るワケ無いんだよね。

男子学生寮は学舎を挟んで向こう側にあるし、学校行くのに女子寮側を通る必要はないもん。

じゃあ、ゲームではなんで通りかかったの?

乙女恋愛ゲームのご都合主義的なアレ?

それとも、ゲーム開始2日目から攻略対象者に興味持たれてる?待ち伏せされた?それがヒロイン力?

何にせよ、クリス様達が助けに来ないだろう状況で、私は今ご令嬢達に絡まれてるんですけど。━━━



下級貴族の女子寮を出たアカネは、ゲームの通りに歩いて学舎に向かった。

上級貴族の女子寮前を通りかかった時、多くの馬車と学舎に向かうご令嬢方々がおり、ゲーム通りだなぁなどと思いつつ、シャルロットの姿を探した。


ただ、昨日出会ったシャルロットには自分を苛める悪役令嬢といった雰囲気は一切無く、ゲーム通りのイベントは起こらないのかも…と思っていた所で

アカネはアフォンデル伯爵令嬢と取り巻き達に絡まれた。


「あら、貧乏貴族リコリス子爵令嬢のアカネさんではなくて?

まぁ、みすぼらしく歩いて学舎まで行きますの?」


━━━昨日のヒス女じゃん。なんて名前だっけ……

なんか凄くバカにしたくなるような響きの名前だったハズ……

馬フン出る伯爵令嬢……??

現実ではコイツが真の悪役令嬢なの?

悪役令嬢リニューアルされたの?

シャルロットから馬フン令嬢にキャラ変更されたの??

私がプレイしたゲームと内容が違い過ぎて分からないじゃないの!━━━


「……これ、ゲーム通りにクリス様達の馬車が通りかかって私を助けてくれるとかないよね……。

だってクリス様達の寮って学校の向こう側だし……。」


━━━と言うか昨日のクリス様達の感じだと、通りかかってもスルーされそうな感じがするんだけど!

私、イジメられ損じゃない?━━━


思わず声に出したアカネの呟きを聞いたアフォンデル伯爵令嬢は取り巻きの一人に目配せをし、その令嬢はアカネの肩を強く押して突き飛ばした。

 

「いったっ……!!ナニすんのよ!!」


突然強く突き飛ばされたアカネは態勢を崩し、ドンっと地面に尻をついた。

地べたに座り込んだアカネは、アフォンデル伯爵令嬢らを睨みつける。


「貴女、ご自分の立場を分かってらっしゃらないの?

誰に向かって、そんな口の利き方をしているのよ。

貴女の家みたいな弱小貴族、私のお父様にお願いすれば、すぐに無くす事が出来るのよ。」


「はぁ!?無くす!?」


この世界に来て、まだ日の浅いアカネは貴族社会に馴染みが薄い。

階級制度の厳しさは、知識として把握しているが身にはついていない。

だから思わず、素のままの反抗的な態度を取ってしまった。


「クリストファー王子の事をクリス様と愛称呼びするなんて、恥知らずも良い所だわ。

貴女みたいな礼儀もなってない愚かな娘を持つ貴族家なんて、無くなった方が良いのではなくて?

国王陛下にそう伝えるよう、私がお父様に言っておくわ。」


「やめてよ!家は関係無いでしょ!

文句があるなら私に言えばいいじゃない!」


ゲーム上の流れとは言え、アカネは自分を迎え入れてくれたリコリス子爵家が好きだ。

リコリス子爵家についてはゲームの中では詳しく描かれてなかったが、新しく出来た家族との『貴族の家族ごっこ』は楽しい。


「関係無くはないわよ。

私に向かって暴言を吐くという無礼を働いたのですもの、貴女に文句を言う位じゃ治まらないわ。

リコリス子爵にも罰は受けて貰わないとね。

だから、陛下にお伝えするようお父様に言うわ。」


「それはやめて!お父様は関係ないってば!」


アカネの焦る様子を見たアフォンデル伯爵令嬢とその取り巻きは、思わずほくそ笑んだ。

令嬢らしく感情を隠す事をしないアカネの態度は反応が面白く、新しい玩具の様に見えた。


「でしたら謝罪を求めますわ!

まずは殿下に近付かないと誓いなさい。

今後、貴女は私の言う事に逆らわず私の言う事を聞くのよ。」


ふんぞり返る勢いで、意味不明な条件をつけてきたアフォンデル令嬢にを見上げ、地べたに座ったままのアカネが引き気味に呟いた。


「うわぁ…これ、私にパシリになれって言ってんの?」


「まぁ、何をしてらっしゃるの?

アカネ様に手もお貸しにならずに。」


侍女のマルタを伴って現れたシャルロットは、アカネとアフォンデル令嬢の間に割って入り、しゃがんだ状態のアカネに手を差し伸べた。


「アカネ様、お召し物が汚れますわ。

さぁ、お立ちになって。」


「ど、どうも………??」


アカネはシャルロットの手を取って立ち上がると、軽く頭を下げた。

下げた頭の中で、ゲームに似たイベントが全く違うキャスティングで始まっている事に混乱する。

立ち上がらせたアカネをマルタに任せたシャルロットはアフォンデル伯爵令嬢に向き合った。


「アフォンデル伯爵令嬢様、御家に身分の差があるとはいえ学び舎でのわたくし達は等しく学生ですわ。

アカネ様に下女の様な扱いを要求なさるのは不当かと存じます。

…貴女様の御父上や陛下の耳に入って恥をかく行為をなさっているのは、果たしてどちらなのでしょう。」


「な、何よ!私の方が恥ずかしい真似をしているとでも!?」


シャルロットはたおやかに微笑みながら、アフォンデルと取り巻きの令嬢達に向け圧を掛ける。

あからさまに態度に出るアカネと違い、シャルロットは感情を表には出さないが、態度には見えなくとも肌で感じるほど強い圧を立ち昇らせた。


「さぁ…わたくしに答えを求められても困りますわ。」


アカネを庇う様にアフォンデル令嬢達から離したマルタは、シャルロットの様子に「あら」と呟いた。


「シャルロットお嬢様、かなりのご立腹ですわね…。

お気に入りのアカネ様を傷付けられたのが余程腹立たしかったのでしょうか。」


身体を支えてくれているマルタの言葉に、思わずアカネが驚愕の表情を見せて声を上げた。


「はぁっ!?お気に入り!?私を!?なんで!」


「さぁ。面白いからなんじゃないでしょうか。」


さらりと答えたマルタに、混乱したアカネがぷるぷると首を何度も横に振る。


「いや、おかしい。

こんなの絶対おかしい、あり得ない!

悪役令嬢が私を気に入るとか!」


「何が、おかしくてあり得ないんですの?」


不意に背後に立っていたシャルロットに、アカネが異様なまでに驚き「ギャピッ!」と変な声をあげ振り返り、ズザッと足を開いてシャルロットに対して身構えた。

途端に、左足首に激痛が走る。


「いったァァ!!アイタタタ!」


突き飛ばされた際に足首を捻ったらしく、歩くのが困難な状態になったアカネは、恨みがましくアフォンデル令嬢達の方を見たが、シャルロットの圧に気圧されたのか、彼女らはそそくさと馬車に乗り込み走り去ってしまった後だった。

行き場の無い怒りと足首の痛みに、アカネの目尻に悔し涙が滲む。


「こんなの、違う〜ムカつくぅ〜

こんな痛い目に本当にあうなんて思わなかったしぃ…」


泣き言を口にしながら、グスグスと鼻を鳴らし始めたアカネの足首を見たマルタがシャルロットに告げた。


「アカネ様は足をくじかれているみたいですわよ、シャルロットお嬢様。」


「まぁ、それでは手当てをしないと。

じっとしていて下さいね…。」


シャルロットはアカネの足首に手を乗せ、小さく囁く様に呪文を唱えた。

アカネの足首にヒヤリとした冷たさが浸透し、痛みがやわらいでゆく。


「わたくし、リュース様程の癒し魔法は使えませんので冷やして痛みをやわらげての応急処置となりますけど。

学舎に着いたら、治療室に向かいましょう。

さぁアカネ様、わたくしの馬車にお乗りになって。」


「え!?あ、ハイ、ちょ!何で勝手に決めてんの!

私、承諾も何もしてないんだけど!」


マルタが呼んだ箱馬車が到着するとシャルロットが先に乗り込み、中からアカネの手首を掴んで強引に引く。

外からはマルタがアカネの背中を押して2人がかりでアカネを馬車に乗せた。

2人はアカネを挟む様に両側に座り、アカネを挟んで会話を始めた。


「シャルロットお嬢様、私は学舎前までしかお供出来ませんので。」


「ええ、分かっているわ。

アカネ様は、わたくしがお守りして治療室にお連れします。」


「ま…守る…?

悪役令嬢シャルロットが私を守る?え?」


理解不能な会話を聞いたアカネは疑問を口に出しながら、シャルロットとマルタを理解に苦しむ様な表情で見た。

アカネの視線に気付いたシャルロットはアカネに向けてニコリと花が咲き誇る様な美しい笑顔を見せた。


「ええ、心配なさらないで。

わたくしがアカネ様を必ずお守り致しますわ。」


アカネはヒクッと引きつり笑いを浮かべてからシャルロットから顔を逸らした。



━━━━そのイケメンムーブ、やめい!!

意味不明にトキメイてしまうじゃないの!!━━━━




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