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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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80話◆ぽってり丸ちゃんとイケオジ。

ぽってり君に頭からジュースをかけられた僕だけど、意外と冷静だった。

冷静ですよ?ええ、本当に。

僕が冷静さを欠いて怒りを爆発させたら、僕の後ろに控えている魔王様が僕に触発されて学園に降臨なさるかも知れない。

世界を滅ぼす魔王様が、まずは学園を滅ぼすとか言い出すかも知れない。

そんな事にならないよう学園の平和を守る為にもここは、この学園で一番幼く愛らしいという僕の立場を利用させて貰おう。


「ごっごめんなさい…ぼくっ…お兄さまを怒らせるような事をナニかしちゃいました?

…ぼく、ぼく、小さいからッ…まだ……

しちゃイケナイ事が良く分かってないんです…」


ジュースまみれの僕は涙ぐみ、潤ませた瞳でぽってり君をあざとく上目遣いで見ながら謝ってみた。

幼い美少年が瞳を潤ませ謝罪する。

どうだ野次馬どもよ!庇護欲を掻き立てられるだろう!

これでどう見ても、ぽってり君の方が悪者にしか見えないに違いない!

周りからの視線にいたたまれず、ぽってり君が「仕方ないな、オレが悪かった」と言えば許す、面倒だからもう終わろう!


皆を味方につけた可哀想な僕に同情の視線が集ま…………らなかった。

むしろ、シラけた空気が流れてしまった。

ピヨコに至っては、目をカッ開いて僕をガン見しているし。

なぜに?


ジュリアスピヨコの後ろに控えた、尻ユニコーンのジェノが僕を小馬鹿にした様にクスクスと含み笑いを浮かべて嘲笑混じりに囁いた。


「アヴニール様、ルイさんも言っておりましたでしょう?

貴方様は有名人なのです。

大人達に緘口令を敷いた所で、お子様たちの中では貴方様の武勇伝は周知の事実となっております。

我が主ジュリアス様を鳥かごに吊るした事も、剣の試験で上級生を泣かせた事も殆どの方が知っておりますよ。

今さらそんな無知で無害な幼子を演じた所で、胡散臭い事この上ないだけなんですよね。」


「そうだぞ、お前もさっきブタをブタと呼んでたしな。

今さら猫をかぶるな。」


主従二人して僕にツッコミやがる。

と言うか、僕の鳥かご事件の噂はピヨコが発信源だろうが。

誰にも言うなって学園側から釘を刺されたハズなのに。

ブタ呼ばわりだって自ら言ってない、ピヨコにつられただけだ。

マズイ、僕を小馬鹿にしたジェノの態度にルイの方が先にブチ切れそうだ。

学園の男子寮食堂で、魔王様による魔王様の側近粛清とか始まったらヤバい。

仕方が無い、この場を納めるためにかぶった猫を数匹くらいは脱いでおこうか。


「そうなんだ…泣き真似なんかして損した。

みんなの庇護欲掻き立てられるかと思ったのに。」


僕はルイに「手出し口出し無用だ」と目配せをし、微力の風魔法を使って濡れた身体を乾かした。

果汁の糖分だけは残り、髪や肌が少しニチャっとするが今は仕方が無い。


それにしても、ぽってり君は暴れん坊少年みたいな、そんな噂のある僕にでも突っ掛かって来れるんだな。

お家の対立関係のせいで、僕に負けを認められないとかあるのだろうか。

そんな事を思いながらぽってり君の方に目を向けた僕と、ぽってり君の目が合った。

思わずニコリと愛想笑いしてしまう僕。


「そうだ、ローズウッドのアヴニール!

お前オレの家来になれ!」


…………はぁ?ナニがそうだ??

目が合ったから愛想笑いした瞬間に、いきなり何事?

愛想笑いから引きつり笑い顔になった僕の背後でルイが呟く。


「……これでも……私はまだ黙ってなきゃいけませんか?

アヴニール坊ちゃま……」


ルイが背中に怒音を背負ってらっしゃる!

ゴゴゴとかズモモとか何かそんなの!


━━黙ってろって!相手はお子様!無知なお子様だから!━━


僕は、思考をルイに読んで貰えるよう必死で念を送る。


「何でしたら私めが、バレない様に軽く呪詛を仕掛けておきましょうか?

あの愚鈍なブタに。」


続けてジェノが、僕とルイにだけ聞こえる様に囁いた。

ジェノの呪い、強力だしシャレにならないだろ!

解呪は誰がするんだよ!

呪いを吸収した箇所に口を付けなきゃならないんだろ!?

口から吸収したら、口で口に…………

ぐはっ!こんな時にルイとの口付けの事を思い出したじゃん!!


返事もせずに、ぽってり君の前で青くなったり赤くなったりしながらガチガチに固まった僕を見て、ぽってり君がニヤリと笑った。

彼の中での僕は、ジュースを掛けられ半泣きで謝る弱虫少年って印象で停まっているようだ。

周りからの「違う、アイツはそうじゃない」的な空気を読めてない模様。


「あの…アホ…んデル様は、僕が侯爵家の者だと解ってらっしゃいます?

僕は年下ですが同級生でもありますし、それに……

侯爵家の僕が、伯爵家のアホんデル様の家来になるなんて……

おかしな事だと思いません?」


中身大人の僕は、中坊になったばかりの世間知らずの少年に、やんわりと諭す様に進言した。


「そうだぞブタ。

アヴニールは、同じ侯爵家のボクの家来にもならないんだ。

ブタの家来になるワケが無い。」


ピヨコが横からしゃしゃり出る様にぽってり君に言うが、同じ侯爵家とは言え僕に家来になれと言ったお前さんも大概だからな。

それに、彼をブタブタって煽るのやめてくんないかな。

ピヨコの分のヘイトも僕んトコに来るんだよ。


「またブタと言ったな!お前ら年下のクセに生意気だぞ!

お前らなんか、パパに言って…!」


「はっ、パパだって?父上の事をパパ!?ガキか!

父親の伯爵が出て来るなら、ボクも宰相の父上を呼ぶだけだ。

そうなればアヴニールん所だってローズウッド侯爵が出て来るだろう。」


だから……なぜ、僕が売られた喧嘩をピヨコが買うんだ。

煽られたぽってり君の怒りが、全て僕に向けられてんじゃないか。

僕は諭す様に優しく言ってあげてるだけなのに。


僕の背後に立つルイが、僕の両肩に手を置いて耳の近くに顔を寄せた。

そして、ほくそ笑みながら甘い声音で囁く。


「はわっ!」


ルイからの口移しでの解呪を思い出したばかりの僕は、姿勢を正して必要以上にビクッと反応してしまう。


「アヴニール坊ちゃまもパパ上をお呼び致しましょう。

いやいっそ、王族をお呼び致しましょう。

いわれの無いイジメにあったと、あの変態王太子に言えば…

良い結果が得られそうですよ。」


はぁ!?

甘い声音で囁く内容じゃないな、それ。

魔王様まで僕の背後で密かに喧嘩を高価買取り中って。

そして、心密かに父上の事をパパ上と呼んでる事がルイにバレとる。

つーか、こんな事をクリス義兄様にチクれるワケ無いだろ!

過剰反応するのが目に見えとる!

こんなアホみたいな喧嘩で伯爵家を取り潰したるとか言い出したらどうすんだ。


入学初日の朝から、てんやわんやだったけど…今、この場がカオス過ぎて収拾がつかない。

僕は早く夕飯を終わらせて部屋でダラダラくつろぎたいのに。


何が悪いんだ、誰が一番悪いんだ、一体どうすればいいんだ。

どうすれば、早く部屋に帰ってダバダバ出来るんだ………

……そうか、僕がかぶった猫を全て取っ払う時が来たのか。


やんわり口調でぽってり君を諭していた僕がしばらく黙り込んだ後に椅子から降りた。



「…………よし、アホんデルんチのボクちゃん。

尻を出せ。」



椅子から降りた僕が開口一番に言った台詞に食堂が静まり返り、皆の視線が僕に集まる。

それこそ、貴族家同士のいざこざに巻き込まれたくないと、見ていないフリをしていた食堂の給仕の者まで全ての視線が集まった。

皆、幻聴でも聞いたかのようなポカンとした顔をしている。


「おっ……お前!馬鹿じゃないのか!

こんな場所でオレ様の尻を出させて、一体どうするつもりだ!」


しばし呆気にとられたように無言だったぽってり君は、怒りと「尻」ワードの恥ずかしさで茹でダコみたいに真っ赤になって僕を怒鳴り散らし始めた。


「オレ様くんには言っても分からないポイから、むっちり尻に叩き込む。

何でも思い通りになると思ったら大間違いで、相手を見極めないと痛い目に遭う事もあるんだと僕が教えてあげよう。

さぁ出すんだ、そのむっちりした尻を!オレ様よ!」


僕は手の平を風を切る様にフルスイングさせ、叩く気満々の姿勢を見せた。

そこにはもう、あざとく上目遣いで涙ぐむ美少年も、優しく諭す様な達観して大人びた美少年も居ない。

年上の少年に、お仕置きという名の暴力を振るう気満々の美少年がここに今、爆誕したのだ。

そんな僕から恐れおののく様に皆が数歩離れた。


「私の主の度重なる無礼、誠に申し訳ありません!

どうか、ご容赦願いたい!」


僕にドン引きした空気が漂う食堂内、ある意味戦々恐々としたこの雰囲気の中から声を上げた1人の中年男性が僕の前に現れ、床に両膝をついて僕を見上げた。

何なら、このまま土下座しそうな勢い。

中世ヨーロッパみたいなこの世界にも土下座あるのか?

いや元々が日本生まれのゲーム世界っぽいし、あっても不思議ではないのかな。


「アフォンデル伯爵家の従者さん…?」


だよな、このオジサン。

いや40前位に見えるから、僕の実年齢からしたら言うほどオジサンって歳でも無いけど。


「何だよ貴様!オレ様が悪いみたいな言い方しやがって!

馬鹿野郎!お前はクビだ!パパに言い付けてやる」


ぽってり君を庇う様に僕の前で平身低頭の姿勢を見せるオジサンにぽってり君が吐き捨てる様な声を掛ける。

フルスイング態勢でフリーズ中の僕が、思わず突っ込む。


「いや、悪いだろ。馬鹿野郎は君じゃん。

さっきから身分を笠に着てやりたい放題だったけどさ

その身分が通じない相手にもソレって、世間知らずで済まない問題だよ?

だから心優しい僕が、今後の君のためにも今の内に教えといてあげようと。」


暴力で?━━周囲からのそんな視線を感じるが、仕方が無いじゃないか。

言って分からないんだもん。

押しても開かないドアは、ぶっ壊すしかないだろう。


「マルセリーニョ様、こちらの方はローズウッド侯爵家の御子息です。

あちらの方はマーダレス宰相閣下の御子息です。

お二方とも王族の方からの覚えも良い。

あなたが正当な理由も無く問題を起こせば、アフォンデル伯爵様の方が立場が悪くなるのですよ!」


「うるさい!お前なんかクビだ!」


ぽってり君の名前はマルセリーニョって言うのか。

名は体を表すと言うが、ぽってり君改め「丸」だな。

なんか常識人のオジサンをクビとか言ってるけど、丸君は周りの大人達をこうやってすぐにクビするのだろうか。

まぁ丸君は、以前に自分がクビにした魔法の家庭教師が僕を誘拐したなんて知らないだろうな。


「でしたら私から伯爵様にお暇を頂く様にお伝え致しましょう。

ですから考え無しに、その様な態度を取るのは今後おやめ下さい。」


従者のオジサンが丸君に深々と頭を下げると、丸君は「フン!」と言って、取り巻きらしき少年達だけを連れ食堂を出て行ってしまった。


…いや、僕の風を切ってフルスイングさせた手はどうしたら…


「アフォンデル伯爵家の者として謝罪致します。

どうかこの場は穏便に…事を済ませて頂けないでしょうか。」


フルスイングした手を引っ込めた僕は、チラリとルイを見て小さく頷いた。

ルイも応じた様に頷く。

この、オジサンに免じて今日の事は不問にしようと。

まぁ次回があれば、猫即脱ぎで丸君の尻にフルスイング行くわ。


「分かりました。

今回の事を父上に話したりはしません。

それより…貴方の立場の方が心配です…。」


クビを受け入れたオジサンが気になり尋ねてしまった僕を、従者のオジサンは少し驚いた表情で見た。

だって、いきなり無職って大変じゃん。

それに、あのアホンダラが雇い主だったんだろ?

あること無いこと言いふらされたりして次の仕事も見つかりにくいかもだし。


「子どもらしからぬとは、噂に聞いておりましたが…

それでも先程までの貴方様も、全て同じ貴方様なのですね。」


???は?


従者のオジサンが、スッキリしたようなとても良い笑顔で言った。

意味が分からずキョトンとしている僕にルイが耳打ちする。


「コロコロ表情が変わって面白おかしいって言ってるんだ。」


泣いてみたり、あざとく上目遣いになってみたり、果てはぶっ叩いてやるから尻を出せまで全部、僕だし。

そーゆーことね!


「とにかく…今回の事は私がマルセリーニョ様に解雇を言い渡された経緯など含め、全てアフォンデル伯爵様にご報告致します。

アフォンデル伯爵家では、主人の言葉は絶対ですので解雇は覆らないでしょうが。

それでは失礼致します。」


オジサンは僕たち一同に礼をして食堂を出て行った。

張り詰めた空気が漂っていた食堂も落ち着きを取り戻し、皆もとの場所に戻って行った。


……僕、解雇を理由に前の魔法使いの時みたいにオジサンに恨まれて誘拐されたりしないよね?

オジサンは常識人ぽいから大丈夫かな。


「はぁー何だか疲れた…早くご飯食べて部屋に帰りたい。」


ルイは僕をクッションを重ねた椅子に座らせ、給仕を呼んで目の前のテーブルの冷めた食事を新しい物に取り替えさせた。

空になったジュースのグラスを見て、自分の身体がニチャニチャする事を思い出した僕はテーブルで頬杖をつき大きなため息をついた。


「おい、ミライ」


「違いますって。それはミキって呼ぶんです……………」


ため息ついでに、軽く生返事をした僕はあからさまに驚いた顔をしてピヨコを見た。

ピヨコは僕をミライと呼んだ。

そして僕は…………転生前に良く言われ、良く返した返事を惰性の如く返してしまった。



━━漢字で「未来」とありますが、ミライさんとお呼びすれば良いのですか?


━━あ、それはミキと読んで下さい。



ピヨコの視線がめちゃくちゃ痛い…………穴が開くほど見るって、こういう事?

いやマジで穴が開きそう!!


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