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8話◆身長140センチ。小さな強き者。

僕と父上が国王陛下に謁見を賜った日から一週間後。


うららかな春の良き日に、クリストファー王太子殿下はグラハム様と共に王立魔法学園へと入学した。


二人は寮生となったので、夏休みになるまで学園からは出られない。


鬱陶しい二人の顔を夏まで見ないで済むかと思うと心の底からホッとする。


ついでにクリストファー義兄様からの文通の申し出も、受験勉強を理由に断らせてもらった。

毎日何通も手紙を送り付けて来そうでウゼ…勉強の妨げになるし。



ゲームの設定では攻略対象者5人の父親達は、国王陛下を含め友人同士である。

そして、その息子達も幼馴染み同士だったり何だったりと、何らかの交流を持っている。


だから今年入学した中に、宰相の子息でありクリストファー殿下の親友でもある、もう一人の攻略対象者が居る事も分かっている。


冷静沈着なインテリタイプの彼までが、僕の前世のステータスの影響を受けているのか気にはなったけど、面倒くさい事は避けた方が良い。

だから、会わずに済んで良かったかも。


ちなみに、クリストファー、グラハム、宰相の息子以外の二人は、姉様とヒロインと同級生なので来年が入学となる。



僕が今、気になっているのは来年の受験の事よりも、シャルロット姉様の事。


ゲームの中での悪役令嬢シャルロットは、クリストファー王子が大好きで大好きで好き過ぎて。

『クリストファー様ぁあ』なんて呼びながらクリストファー王子の事を常に追いかけ回していた。

人が居る前でもベッタリ腕を絡めてくっつく位に殿下に夢中で、頭悪そうだった。

僕が前世でヒロインだった時も、確かそんな感じだったと思う。


でも、今の姉様にはその悪役アホ令嬢の片鱗も見られない。

クリストファー殿下の事は、好きなんだと思うけど…。

そんな嫉妬に狂って、少女を苛める様な短絡的で愚かなキャラクターには見えないんだよね。


いや、恋敵が現れたら変わるのかも知れない。

あるいは、ゲームのスタート時に変わるのか。



僕と姉様は今日の稽古を終えて、広い庭にある大樹の下で芝生の上に絨毯を敷き、午後のティータイムを楽しんでいる。

邸の敷地内なので二人きりでくつろぎたいと、警護の者には離れて貰った。

読書を楽しみながら紅茶を飲むシャルロット姉様は、これぞ深窓のご令嬢と呼ぶに相応しい佇まいをしている。


「ねぇ、姉様…もし、なんだけど…クリストファー義兄様が、姉様以外の他の人を好きになってしまったら、どうします?」


「え…?殿下が?……わたくし以外を好き……

ある意味もう既に、そんな状態だと思うけれど……」


何か今、僕を見ながらサラリと姉様、とんでもない事を呟かなかった?


「殿下が、わたくしとの婚約を無かった事にして、ローズウッド家と縁を切るのは有り得ないと思うのだけれど。

そうね、もしも殿下がわたくし以外の女性を妻に娶りたいと、そうなったとしたならば、わたくしは喜んで身を引くわ。

だって、アヴニールの姉であるわたくしをないがしろにする男なんて、何の価値もありませんもの。」


そこに、僕の名前……関係ある?


て言うか、姉様自身は…クリストファー王子の事を好きではないの…?

僕の考えは、まんま表情に出てしまっていた様で、姉様は困った風に微笑んだ。


「不思議に思うかも知れないけれど、殿下とわたくしは互いを生涯の伴侶として、とても好き合ってますわよ?うふふ。

………それよりアヴニール。今なら誰も見てないわよ。

森に修業に行きたいんでしょう?」


姉様が開いた本を膝に置き僕の黒い髪をサラリと撫でて、陽射し避けに肩に掛けていた薄手のストールを僕の肩に掛けてくれた。

姉様の香りが付いた薄い紫のストールは柔らかく、羽織っているだけで気持ちがいい。


「…はい、行きたいです。あはは…姉様には敵わないなぁ。

いいんですか?」


姉様は頷くかわりにウィンクをした。

年下の旦那の面倒をよく見る、年上のよく出来た嫁さんみたいな姉様に『惚れてまいそう!』と言いそうになる。


姉様がクリストファー殿下の所に嫁に行く時は『ワイより、大事にしてやってぇな!』とか思ってしまうかも知れない。

それはさておき


僕は、岩ノリのイワンを僕の背格好に変化させ、僕の上着を着せた。

遠目に見たイワンは、姉上と一緒に本を読む僕の後ろ姿に見える。

このままイワンには姉様の護衛も任せられる。


「じゃあ、二時間ほど修業に行って来ます。イワン姉様を頼んだよ。」


僕は遠巻きに僕達を警護している兵士の目をかいくぐり、そのまま空高く飛び上がった。

この邸で、僕が飛空魔法を使えるのを知っているのは父上だけだ。隠しておけと言われている。



姉様には、ローズウッド本邸の森の入口付近にて剣の修業を行っていると嘘をついているのだが……実は違う。


最近の僕は、いくつかある王家所有の広大な森の中でも手つかずの未開の場所が多く、どんな危険が潜んでるかも分からないという『深淵のへさき』と呼ばれる森の中にある洞窟に行っている。


その広大な森は周りが断崖絶壁で、浮島の様に切り立つ岩山の中に、ポッカリ浮かぶ。

遥か上空から森を見ると、切り立った岩山に囲まれた場所にいきなり現れる巨大なブロッコリーだ。


その島の様な森に行くには王家が通行許可を出さねば通れない巨大な橋を渡るのみ。

だが、飛行魔法を使える者なら上空から行けない事はない。

生きて帰れる保障は誰もしてはくれないが。


そんな場所に行く理由は、そこでしか手に入らないアイテムがあるからだ。

しかも、日中でないと手に入らない代物で、今までの様に夜中に邸を抜け出して魔物を討伐していたのでは手に入らない。


一日に一時間、あるいは二時間しか来られないので、中々踏破出来ない。

今は地道に行った事の無い道を進み、このダンジョンのマップを作っている所だ。


て、言うか……前世で来た事あるんだけど、マップがリセットされていた。ここ、中盤以降辺りに来る所なんだよね。

魔物もそれなりに強いのが奥には居る。


ただ、いやらしい造りをしているこの洞窟は、最初はザコしか出ない。

弱い敵に安心して更に奥に進む。

あるいは注意深く、あえて引き返す。


その途端に、意思を持った様にこの洞窟は牙を剥く。

出てくる魔物の種類が、いきなり強いものに変わるのだ。


「うん。それでも僕にとってはザコなんだけど。深淵のへさきは、本当に舳先なんだよね。」


魔王の住む魔界を船に例え、その船の名前を『深淵』と名付けた時に、本当に先っちょの部分にあたる場所がこの森林なのだ。


魔物が居るこの世界には、冒険者と呼ばれる者が居る。

個々のレベルがあり、冒険者としてのランクもある。

それらが規定を満たし、3人以上のパーティーであって初めて国王陛下から『深淵のへさき』と呼ばれる森に入る許可が下りる。


とはいえ前世も今世でも、この森林で人に会った事は無い。


まぁ、手続き面倒くさいし……だったら他のダンジョン行くよね。

飛空魔法をパーティー全員に使って来れない事も無いけど、それじゃ魔法使いへの負担が大きい。


「全員が魔法使いなら別か。

でも、それ魔法効かない敵には詰んじゃうよな。あははー」




詰んでる人に会ってしまいました。




フード付きの黒いローブを頭からスッポリ被っている、見るからに魔法使い的な人がボロボロになって、歩く甲冑みたいな敵に隅の方に追いやられちゃってます。


ソイツな…ソイツなぁ……魔法効かない訳じゃ無いんだよなぁ。

ただ、効きにくい。タフだしな。

ソイツ倒すには、魔法よりは斬撃、斬撃より効果が高いのは意外に打撃。

もっと効果があるのはアホみたいな威力の魔法。


つか、他のパーティーメンバー居ないのかな。

まさか、魔法使いが一人でここへ?

まさかの飛空魔法使って一人でこんな危険な場所に突撃?

……いや、死ぬで?



「………うぅ…さすがに目の前で人が死ぬのは見たく無い……。」


自己責任だと考え無視したかったのだけれど、僕には出来なかった。でも、姿を見られたくも無いので……。




「お困りの様ならば、私が助太刀致そう。」


目だけ出して頭と口元をストールで覆い、子どもの様に小さいが、実はそれなりに大人で、通りすがりの冒険者です的なスタンスで現れてみた。


一応、声は低めにして話し方は落ち着いた感じで……腕を組んで壁に寄り掛かり、大人的な余裕を見せてみた。


「バカ野郎!!ガキがどうやって、ここに来た!早く逃げろ!」


「失敬な!!こう見えても私は大人だ!!子どもの様に小さいからと…!!」


そうだ!

小さく見えて恐ろしく強い大人は居るんだ!

デカいのと戦う、どこぞの兵士長みたいに!!

140センチしか無い、今の僕ほど小さくはないだろうけど!


「俺の知ってる大人は、小柄だからって半ズボンは履かない!」


確かにね!兵士長もエプロンは着けても半ズボンは履かないわ!

でも、もう姿を現しちゃったからね。

素通り出来なくなった。助けるしか無いじゃん。


「私は、れっきとした大人だが、そういう趣味なんだよ。」


自称、危ない趣味の大人になってしまった。


僕はフワリと身体を浮かせ、剣を構えてローブの魔法使いを追い詰める鎧の背中にトンッと両足をつけた。

そのまま鎧の頭部を背後から両手で抱える様に持つと、曲げた膝をグンとのばして鎧の背中を蹴り飛ばし、抱えた頭をブチぃっともぎ取った。


「うわぁあ!!首をもいだぁ!エグい!グロい!

そして、趣味で貴族の坊ちゃんが履く様な半ズボンを履く大人!!変態か!

うわぁ!色々エグいわぁあ!!うわぁ!!」


命の危機から一転して奇妙な人物が現れ、目の前で敵の首がもがれるという残酷な映像を見てしまい、恐怖混じりの混乱からかローブの魔法使いは興奮状態で騒ぎ出した。


「いや、首をもいだけど肉体引きちぎったワケじゃないし。

鎧の中はほぼ空洞だからね。

……君、騒ぎ過ぎ。他の敵が来る。」


僕はもいだ頭部分、兜をローブの人物に投げた。


「うわぁあ!うわあぁ!エグっ!キモい!うわぁ!」


男は受け取った兜をお手玉みたいに手の中で投げたり掴んだりを繰り返し、余計うるさくなった。


「それより、ここは魔法使いが一人で来るべき場所ではないよ。

洞窟の外まで送ってあげるから、お家に帰りなさい。」


「………いや、半ズボン履くのが趣味の大人の人に言われたく無いと言うか……大人のフリをしてバレないと思っている子どもに言われたく無いと言うか…。」


黒いローブの魔法使いらしき人は、兜を両手に抱いたまま不審者を見るような雰囲気を醸し出している。


やはり、この背格好で大人のフリは無理があったか。

しかし、ローズウッド侯爵の息子だなんて正体がバレる訳にはいかないので、変態趣味の大人を貫く事にした。


「私の実力は今見ただろう?さあ、出口まで送ってあげよう。」


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