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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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79話◆口が悪いのはお互い様だったね。

王立魔法学園入学の日━━

この日は僕が転生した世界、乙女ゲームである【レクイエムは悠久の時を越えて━━】のスタートとなる日だ。

僕がこの日のゲームスタート時点を経験するのは、今日で3度目となる。


一回目は自分がプレイしているゲームの画面でオープニングとして、プレイヤーの目線で見た。

二回目は自分がヒロインになっていて、ゲームのスタート地点である学園の大門前に立っていた。

唐突に、現実と区別がつかないほどリアルなヴァーチャルゲームが始まった様な変な感覚だった。

もしかして転生した?とは思いつつも、ただの夢かもなとも思っていたので、パニクったりせずに冷静にヒロインをやれていたと思う。


そして三回目となる今日。

もう自分が転生している事を疑うつもりも無いんだけど、僕はなぜ、少年としてこの世界に転生させられたのかな。


ヒロインだった前世では、魔王を倒す為にお喚ばれしたっポかったけど、魔王に会う前に女神にビッチ呼ばわりされて見捨てられたし。

で、元の世界に戻してくれる事も無く、まだこの世界に居るし、しかも新しい生を受けて知らないキャラクターになってる。


「そんな僕だから、ゲームのスタートに伴いバグとして存在が消されたりするかもとか思ったけど……。

僕は存在し続けているし……ルイも、僕のルイのままだね。」


これはもう…僕が何かを成す為にこの世界に生まれたとか関係無く、単なる神の気まぐれつーか何つーか。

たまたま前世の記憶を持ってるってだけで、普通にこの世界の人間として生きていけばいいって事かな。

日本人として生きていた時だって、自分が生まれたのは地球の平和の為に自分が何かを成し遂げるために違いない!なんて大層な事は考えなかったし。

だから普通の人間として、この世界での僕としての人生を謳歌して良いんじゃない?

姉様を愛でつつ、ルイとも今までみたいに……


「『僕のルイ』か。良い響きだな。」


ブツブツと独り言を呟きながら思案中の僕を膝に座らせた状態で、囲う様に緩く抱き締めて僕を離さないルイが微笑混じりに呟いた。


「ちっ、違うし!僕が知っている普段のルイって意味だし!

従者のまま魔王に戻ってないって意味で!

つか、もう下ろしてくんない!?」


僕は長椅子に座るルイの膝の上に横向きで座らせられたままの足をバタバタさせて、下ろす様に訴えた。

僕が消滅しなかった事を喜んでくれてるのは嬉しい。

僕も、この世界に存在を許された事を嬉しく思っている。

互いに喜びを噛み締めて感極まったってのはあるが、スキンシップが過剰な気がして、いい加減に恥ずかしい。


「人間離れした天賦の才を持つお前が普通の人間として…とは、いささか無理があるような気もするが……

今まで同様に私と共に過ごし、私と歩む人生を謳歌すると言うのであれば、それで良い。

私と……つがいとして。」


僕を緩く囲うルイの腕に、僅かに力がこもる。

さりげに近付いて来るルイの顔に焦った僕は、捕まったアヒルみたいに手足をバタつかせた。


「ちょ…!僕の思考読むなって!

僕とルイは、つがいじゃ無いだろ!

つか、もう下ろせってば!」


私と、私とって何度も言いやがるじゃん!

グイグイ攻めて来るけど、つがいは認めてないから!

僕は認めてないからな!



━━コンコン━━



部屋の扉がノックされた。

甘く優しい表情から秒で鬼のような形相になるルイ。

その一瞬、僅かに力が緩んだルイの腕から抜け出した僕は、膝の上から脱出して逃げる様にドアに向かった。


「はぁい、どなたで……ぅわ!」


従者を差し置いてドアを開けようとする小さな主人の僕を背後からヒョイと抱き上げたルイは、隠す様に自分の背後に僕をストンと下ろした。


「どんな危険が潜んでるか分からない。

従者より先に主人自らがドアを開けたりしてはならん。」


おかしな所で従者としての矜持を持つルイは、主人である僕が護衛を兼ねた従者であるルイを差し置いて危険な行為をしようとした事をたしなめた。


「僕が、そうそう危険な目には遭わないって知っているクセに。」


とは言え、ルイが警戒するのも分からなくはない。

僕たちは既にドアの向こう側に立つ人物が誰かを把握しており、ルイはその人物が僕に近付く事を危険視している。

ゆえに苛立ちを隠さない。

ルイは庇う様に僕を背後に隠したまま静かにドアを開けた。


「これはこれはジェノさん。

アヴニール坊っちゃまに何か御用でしょうか。」


穏やかな語調と表情とは裏腹に、サブイボが立つ程の威圧を身に纏うルイ。

魔王様が、魔王の右腕と呼ばれた側近に大変ご立腹。

これは以前ジェノが僕を呪殺しようとしたからってだけではなく、さっきまでのイチャイチャを邪魔されたからってのもあるかも知れない。


「突然で申し訳御座いません。

ジュリアス坊ちゃまが夕食を共にいかがかと、お誘いする様に申し付けられまして。」


尻ユニコーンのジェノはジェノでにこやかな表情を崩さず、ルイの威圧をしれっとスルーしている。

魔王様の配下ってのは、絶対服従が徹底されてるのかと思っていたけど、意外とふてぶてしいのも居るんだな。


「間に合ってます。」


押し売りを撃退したかのような一言だけ告げ、ルイがドアをバン!と閉めた。

僕は、ピキピキと顔を引き攣らせて不機嫌な表情を隠さないルイを見上げて溜め息をつく。


「……ルイ〜、気持ちは分かるけどさぁ。

ジェノは主のピヨコに言われて、従者として来てるんだろ?

アレはアレで、無視すると厄介なんだよな……」


ルイと話してる途中で、激しくドアが叩かれた。

ドアの向こうで、ピヨコがギャアギャア喚く声がする。

やっぱりピヨコも居たのか。ああ…面倒くさい…………


「子分や家来になれなんて言わないから出て来い、アヴニール!

友として、ディナーを一緒に取る位いいだろう!」


は?出て来いだと?何様なんだよ。

ルイの不機嫌な表情が伝染ったかの様に、僕もピキピキと顔を引き攣らせ始め、バンっと勢いよくドアを開けた。

叩いていたドアがいきなり開いた弾みでフッ飛ばされ廊下に尻もちをついたピヨコの前に、両手を前に組んだ僕は小さいなりに仁王立ちになり、尻もちピヨコを見下ろして睨み付けた。


「子分や家来はもっての外ですがね……

僕は貴方に友と呼ばれる筋合いも無いんですけど。」


廊下に尻もちをついたまま見上げた僕の形相と、その背後に控えるルイの形相があまりにも怖かったらしく、ピヨコは小鳥みたいに「ピャッ」と声を上げて恐怖にガチガチに身体を強張らせた。

そんなピヨコの背後から腕を伸ばした尻ユニコーンのジェノがピヨコを庇う様に「まぁまぁ」とか言いながら尻もちピヨコを立たせた。


「アヴニール様もルイさんも、その様に怖い顔をなさらないで下さい。坊ちゃまが怯えております。

ジュリアス坊ちゃまは食堂で独り、夕食を取るのは寂しいので、顔見知りであるアヴニール様とご一緒したいと申しているのです。」


「バッ…!バカ!ボクは、さ、寂しいなんて言って無い!!」


ジェノのフォローに、焦った様にあからさまな反応を見せるピヨコ坊ちゃま。

バツが悪そうな、それでいて恥ずかしそうに不貞腐れた顔をしてチラッチラッと僕の反応を見る。


この寮では一流の料理人が朝食と夕食を用意する。

生徒は食堂で料理を食べるか、自室に運んで食べる事になるのだが………従者は食堂のテーブルに着く事を許可されていない。

だから僕は、夕食を部屋に運んで貰って自室でルイと一緒に食べるつもりだったんだけど…。


ルイと僕は互いに顔を見合わせて呆れ顔で溜め息をついた。

ピヨコの父である宰相のマーダレス侯爵様は王城に居る事が多く邸にあまり帰らないそうだし、インテリ眼鏡の兄エドゥアールは学園の寮に入ってしまっている。

母親は居ないのか、マーダレス侯爵邸にはピヨコと使用人しか居なかったようだ。

だから、増長して我が儘放題になったんだろうし…寂しがり屋だってのも仕方が無いのかも知れない。


だからって、可哀想なコだね環境のせいだよねなんて、僕は思ったりはしないけどな。

捻くれてるのは、お前の性根のせいだろうと思っている。

だが、ピヨコはまだ子どもで、僕の中身は大人だからな。

一回位は折れてあげよう。


「入学初日だし…今日だけピヨコさんとご一緒します。

明日からは、別の誰かを誘って下さい。」


「おまっ!ボクをピヨコと呼ぶな!」


ピヨコの文句は無視し、僕に文句を言いながらジェノに支えられて立つ尻モチピヨコの顔を見た僕はニコリと微笑んだ。

僕の笑顔を見て承諾されたのだと、嬉しそうにパァっと表情を明るくしたピヨコとジェノに改めて釘を刺す。


「ホントに今日だけですからね。

明日からは絶対に誘わないで下さい。

本当に、大人しくしていて下さいね。

うざいと感じたら僕、どちらにも容赦しないんで。」


「…え?…私も容赦無し?……ですか?」


ジェノがキョトンとした顔をしながら僕に尋ねて来た。

ルイが自分の側近でもあるジェノに対して、僕に何かをするのではないかと警戒する様に、僕もジェノを警戒している。

個人的に僕に何かするかも…と言うよりは、人間を敵視する魔族として、この場に居るのは何か企みがあるのではないかと。

だからジェノにも釘を刺す。


「誘わないではピヨコさん、大人しくしていて下さいは…ジェノさんに向けた言葉です。

ルイ、食堂へ行くから案内を頼むよ。」


僕は背後のルイに、食堂について来る様合図を送った。

ルイは「やれやれ」といった表情で頷き、着崩した衣服の襟を整えながら部屋から出て来た。

まぁジェノが何か企んでもルイが居れば……


…え?…胸元開いてたんだなルイ…そんな格好で僕を抱き締めていたのかよ。

無防備過ぎて、全く気付いて無かった。

僕は、ルイの事も少しは警戒した方が良いのかも知れない。





到着した食堂はとても広く、新入生で賑わっていた。

高級レストランの様なラグジュアリーな内装で造られており、等間隔に並んだテーブルのセッティングも美しく、学生寮の食堂とは思えない。

思えないって言うか、絶対コレじゃない。

そりゃ、この寮には上流貴族の坊っちゃんばかりなんだけどさぁ……凝り過ぎヤリ過ぎ。

新設の中等部には嗜める様な上級生も居ないから、中学1年生のボンボンで図に乗ってはしゃぎまくってる奴も居る。

実家でマナー位は学んでるだろうに。


僕らは騒がしい奴の居る場所から離れたテーブルに向かった。

ルイが椅子を引いて厚めのクッションを置き、僕を抱き上げてから椅子に座らせる。

そうか、僕の座高ではテーブルが合わないもんな。

気が利くけど…ピヨコとジェノにガン見されてるし恥ずかしい。

よく見れば、僕を見ているのはピヨコとジェノだけではなかった。

周りの年上の同級生達が、小さい僕に注目している。

『なんで?』って顔をした僕にルイがそっと耳打ちしてきた。


「アヴニール坊ちゃまは良くも悪くも貴族の方々の間では有名ですからね。

侯爵様と共に、本来参加する事の無い社交の場にも何度か顔を出しておりますし。」


ああ、親から色々聞いてるんだろな。

幼いのに優秀程度なら良いけど、大金積んで裏口入学しただとか、隣国マライカの若い王様におかしな意味合いで気に入られてるだとか。

どんな風に聞かされてるかは、僕の父上を敵視する度合いによるだろうけど………


「お前!そこのガキ!

さっき、オレのおもちゃと一緒に居た奴だな!」


食堂の中の騒がしかった一画から、僕を指差しながらドスドスとぽってり君が取り巻きをわらわら従えてやって来た。

あー忘れていたよ、君のこと。

我がローズウッド侯爵家を目の敵にしているアホンダラ……

いや、アフォンデル伯爵家の嫡男である君の事を。

衆目が集まる場で貴族の令息が、侯爵家の令息2人が居るテーブルを指差してガキ呼ばわりなんて…駄目だろ。

いや、ぽってり君は僕をローズウッド侯爵家のアヴニールと知らないかも。


「アヴニール、何だこのブタは。

お前の知り合いか?」


ピヨコも平然とした態度で呟く様に、ぽってり君をブタ呼ばわりした。

おいおい!そんなの駄目じゃん!?

貴族の中でも上流階級に位置する僕らが、皆の前で悪口雑言を口にするなんて!

僕はテーブルに両手をついて身を乗り出し、仲裁を兼ねたつもりで声をあげた。


「ちょッ…!ピヨコ待てって!

ガキ呼ばわりされたからって、みんなが見てる前でぽってりをブタ呼ばわりとかしちゃ駄目じゃん!?」


声を上げた僕に更に視線が集まった。

テーブルに乗り出した身体を椅子に戻らせ、僕はハァー…と溜め息をついた。

悪かったよ。ハナからマトモに名前を呼ばない僕にはそんな事を言えた義理じゃなかったよね。

しかも、ピヨコが呟く様に言った『ブタ』を大きな声で言ってしまったわ。


「貴様ら!オレ様の事をブタと言ったのか!?」


いきりたつぽってり君が、僕たちのテーブルを両手で力任せに叩いた。

周りの同級生のお坊ちゃん達は、巻き込まれたくないのか口出しはせず、それでも気になって仕方が無いのかコチラに注目している。

僕達、今凄く目立ってるよなぁ。

ぽってり君は自分の事をオレ様とか言ってるし、お前はまるでジャイア…………まぁいいや。


「それはまぁ…言葉のアヤと言いますか。

そちらも僕達の事をガキだとか貴様だとか呼んでましたので。

お互い様じゃないかと。」


「そうだな。先にボクらをガキ呼ばわりしたのは、お前だ。

ブタ。」


僕がしれっと答えれば、ピヨコもしれっと答える。

今さら言うのも何だけど、ピヨちゃんは素で悪態をつくよな。

しかもそれを悪い事だとも思っても無いようだし。


「ぶ、ブタだと!お前!!

オレの父上は伯爵なんだぞ!偉いんだ!

お前なんか父上に言えば…!!」


激昂し過ぎて、アホンダラ伯爵家のぽってり君は忘れてしまっている様だ。

この寮は、伯爵家以上のお坊ちゃん専用の寮だって事を。

同じ伯爵家と言えど序列はあるが、逆に僕達が伯爵家より上位貴族だなんて思いもしないのか。


「そうかブタ。

ボクの父上は侯爵だ。王城では宰相をしている。

つまり、お前の父親より偉い。」


「なっなんだと…!?」


我が国の宰相と言えばマーダレス侯爵。

皆が、ピヨコをマーダレス侯爵の子息だと認識した。

次は僕の素性が気になるコ達もいるわけで。

知っている者も居るであろうが当然の様に視線が集まってしまう。


「……僕はローズ……」


「そしてコイツは、ボクの友人でローズウッド侯爵家のアヴニール。

お前の伯爵家より貴族位は上だ。

分かったか、ブタ。」


僕が自己紹介するより早く、ぽってり君を煽るピヨコが僕の紹介まで勝手に済ませてしまった。

僕がローズウッド侯爵家のアヴニールだと知った事により、ブタ呼ばわりするピヨコちゃんよりも僕が彼のヘイトを買ってしまった。

ぽってり君が凄まじい目で僕を睨んで来る。

アフォンデル伯爵家はローズウッドを目の敵にしてるからな。

それに、彼の中で僕は彼から学園への優先入学を奪った奴ってイメージらしいし。


「貴様がローズウッド侯爵家のアヴニールか……!」


ま、だから何だって話しなんだけど。

彼のせいで僕は彼の変態家庭教師に誘拐されたワケだし。

僕の姉様は、ダンスパーティーで彼の姉君に陥れられる所だったし。

こっちの方が怒り心頭って感じだけど、ガキの相手をするのも馬鹿馬鹿しいので無視する事にした。


「ルイ、今日は疲れたから早く食事を済ませて部屋で休みたい。」


「かしこまりました。では料理を運ばせましょう。」


ルイとジェノが給仕の者に話しかけて料理の用意を始めさせた。

テーブルの上に運ばれた料理が並んでゆく中、ぽってり君はずっと何か喚いていたが完全に無視。

悪役令嬢の姉様とヒロインのアカネちゃんの事とか、魔王様が不在で邪神とやらの存在が危ぶまれ始めた世界の行く末を案じたりと僕は忙しいのだよ。

子どもの喧嘩になんて、付き合ってられな…………


「アヴニール!何するんだブタ!」


ピヨコが驚く様に椅子から立ち上がった。

周りの子ども達や、その従者の大人達もザワザワと騒々しくなった。


うん、そりゃあね………

上位貴族の坊ちゃんが、いきなり頭からジュースをぶっかけられたらね。驚くよね。

でもね、僕はなぜだか意外と冷静なんだ。


さて、どうしてくれようかな。



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