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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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70話◆ヒロインと攻略対象者達との初顔合わせイベント。

生徒会室から出た僕達は講堂に向かった。

先頭をクリストファー義兄様が歩き、その後ろについて行く様に僕と姉様、その後ろをニコラウスとリュース、最後尾にグラハムとエドゥアールが続く。


部屋を出て階段を降りるとすぐ、中庭を突っ切る形で講堂へと続く渡り廊下に出る。

生徒会の専用通路とは言え一般生徒の立ち入りを禁止していたりはしないので別に居てもいいんだけど…。

この渡り廊下って、講堂を探して迷子になったからって迷い込む様な場所じゃないんだよな。

お探しの講堂なら後ろに見えてるだろう?とツッコミたい。

だが前世の僕も最初の出会いイベントがあるこの場に「迷子」って体で現れたワケで。

だから中庭のバラの咲き誇るガーデンアーチの陰で、こちらをガン見しているアカネちゃんを非難したりは出来ないワケで。

……つか、うわぁ視線がコワ。

獲物を狙う肉食動物みたいなオーラをビシビシ感じるわ。


バラのガーデンアーチの陰からズイっと身を乗り出してアカネちゃんが姿を現した。

僕達、生徒会メンバー側から「げっ!」に近い困惑の空気が流れる。


そうか、考えたらゲームではこの場所がヒロインと攻略対象者達との初対面のイベントだけど、現実では姉様と僕以外は全員既にアカネちゃんと顔見知りだ。

イベント破綻してないか?それ。


アカネちゃんが、中庭から渡り廊下に入って来た。


「はじめまして!すみませぇん!

ワタシも講堂へご一緒させてくださぁいぃぃ!」


うわぁ、初対面って体でイベントをゴリ押しすんのか!

ある意味すげぇたくましいわ。

こちらに向けた手をヒラヒラと振った後、アカネちゃんはイノシシが突進するかの様にダッシュで僕達の方に向かって走って来た。


何か僕の知る乙女ゲームでのふわふわしたイベントと違うんですけど!

ヒロイン、こんなタックルする気満々のラガーマンみたく走ったりしない!

必死過ぎて怖いって!!

こんなんでつまずいたりしたら、クリス義兄様に支えられる前に衝突事故が…!


アカネちゃんの必死の形相にドン引きしてしまった僕は、思わず一歩後ずさってしまった。━━ら、

いきなり不自然にズルッと足が滑った。


「ッは!?なんで僕がっ…」


ここで、倒れかけるのはヒロインじゃん!

これ、ヒロインのイベントじゃん!

僕、関係ないじゃん!!


「ギャーッ!」





転び掛けた僕は、クリス義兄様の腕に抱き上げられており━━

僕達の前には、クリス義兄様に受け止めて貰えなかったアカネちゃんが、ヘッドスライディングしてきた状態でて大理石の床にうつ伏せでぶっ倒れている。

このイベントで、つまずいて倒れかけた際のヒロインのセリフは「キャッ」だったと記憶しているが、完全にぶっ倒れたヒロインのセリフは「ギャーッ」だった。


渡り廊下のど真ん中でうつ伏せで倒れたヒロイン。

そして皆、ジリジリとアカネちゃんから距離を取り、誰も倒れたアカネちゃんに手を差し伸べられない。

なんか、猛獣の死体の周りを取り囲んで本当に死んだのか確認している猟師みたいだ。


「アヴニール、大丈夫か?」


「あ、ありがとう…義兄様。」


僕を抱き上げたクリス義兄様が僕に訊ねてきた。

つか、抱き上げたままの僕を下に降ろす気配が無いのだが。


「アヴニール様、お怪我はありませんか!?

ヒールが必要であれば私が…!」


リュースがクリス義兄様に抱っこされたままの僕に駆け寄って来た。

怪我なんか無いよ。見りゃ分かるだろう。

僕より足元に倒れたままのヘッドスライディング少女の顔面の方を心配してやれよ。


ふとアカネちゃんの方を見ると、姉様がアカネちゃんの手を取り起こしてあげていた。

グラハムは眉間にシワを寄せ、手を貸さずに不満げな表情を見せている。


「シャルロット嬢…彼女は…」


「存じております。

ですが、見ぬふりは出来ませんわ。」


グラハムの中でのアカネちゃんは、しつこく付きまとう変な少女ってだけではなく、可愛い妹を怖がらせた敵でもある。

その情報を文通にて共有している姉様とグラハムは、他の攻略対象者よりもアカネちゃんを警戒しているようだ。


姉様に手を貸して貰って顔を上げたアカネちゃんは、額と鼻の頭が赤く擦りむけている。

痛いだろうけど彼女にはそれどころではないようで、ヒロインの立場で見た有り得ないこの不可解な状況に混乱している様だ。


そして、本来ならばクリストファー王太子殿下に身体を支えられる筈だったヒロインは、そのクリストファー王太子殿下の腕に抱っこされている僕をガン見した。


━━あんたダレ!?━━


そんな表情で。

分かる、分かるよアカネちゃん。

僕が君の立場なら同じ事を思った筈だ。

こんなキャラクター、居なかったじゃんってね。


「まぁ、お顔が擦りむけて……痛いでしょう。」


姉様はシルクのハンカチを出して、擦りむけているアカネちゃんの額にそっと当てた。


「ありがとうございま…って、悪役令嬢じゃないの!」


咄嗟にハンカチを持つ姉様の手を振り払い、アカネちゃんは信じられない出来事を見るようにジロジロと僕達を凝視した。

アカネちゃんよ、確かに僕と君にとってココはゲームの世界で、彼らはゲームの中のキャラクターかも知れないけど…

でも今、この世界で生きて暮らしている僕達にとってココは、もう既に現実世界なのだ。

やらかしちゃってもリセットする事は出来ない。


アカネちゃんの態度は人としても失礼だけど、口のきき方や態度、不躾にジロジロ見るとか、貴族社会のこの世界で王族を含む上位貴族を相手に、とてつもない無礼を働いた事になる。

学園内だし、不敬罪で罰される事は無いだろうけど…。


「リュース、彼女に手当てをしてやれ。」


エドゥアールが僕の側に立つリュースにヒールで怪我を治してやるよう促す。

リュースは一瞬だけ不快な表情をし、すぐニコリと笑った。

そして懐から小さな容器を出してアカネちゃんに差し出す。


「傷薬の軟膏です。

差し上げますので、どうぞお使い下さい。」


リュースの笑顔の背後に「ヒールなんか使えるか。魔力が勿体ない、傷薬で充分だろ。」って黒い心情が箇条書きで見えた気がした。


「入学の式典が始まる。講堂に急ごう。」


アカネちゃんが傷薬を受け取ったのを見たクリス義兄様が講堂に向かい歩き出した。

ちょっと!いい加減僕を腕から降ろせよ!!


姉様はアカネちゃんに振り払われて床に落ちたハンカチを拾い、アカネちゃんに一緒に講堂へ行きましょうと声を掛けている。

アカネちゃんは、自分が知る悪役令嬢シャルロットが全くの別人なために混乱したままだ。


「入学初日から遅刻なんて良くありませんわ。

さぁ、一緒に行きましょう。」


姉様に促されたアカネちゃんは、僕達の後について歩き出した。

額と鼻の頭にうっすら血が滲み始めて痛々しい。


「リュース、なぜ彼女にヒールを掛けてやらなかった。」


僕達の後ろを歩くエドゥアールが、ボソボソと声を潜めてリュースに訊ねている。

リュースは神職者らしく柔和な微笑みを浮かべて首を少し傾けてシレッと答えた。


「私の魔法は女神様の御力をお借りして大聖堂に来られた信徒の方々に使うタメのものです。

大聖堂の外ではそう安易に使う事か出来ないのですよ。」


エドゥアールとニコラウスが、無言で「いや、ついさっきアヴニールに使おうとしていたじゃないか。」と言いたげな顔をした。



クリス義兄様が僕を腕から降ろし、僕の頭を優しく優しく撫でた。

講堂の扉の前に降ろされた僕は、頭を撫で回すクリス義兄様の顔を見上げた。


僕を抱き上げて密着していたのが、そんなに嬉しかったのか…満足そうな笑みを浮かべている。


こっわ。そのムフーみたいな顔をやめれ。

口元緩みっぱなしで、何だか鼻息荒いし…こっわ。


僕は頭に乗ったクリス義兄様の手から、さり気なく頭をずらして逃れる。

僕の頭から下ろされたクリス義兄様の手は、そのまま少し離れた場所を指さした。


「生徒会役員である我々はこちらの入り口から講堂に入るが、一般生徒の君はあちらの入り口から中に入りなさい。」


アカネちゃんに教える様に数メートル先にある講堂への入り口を指さした義兄様は、アカネちゃんの視線がそちらを見たのを確認して講堂の扉に手を掛けた。


「ま、待って下さい!!

クリス様、私を生徒会メンバーに入れて欲しいんです!」


うーん…ゲームだと、この場でクリス義兄様に生徒会役員にスカウトされるもんね。

色んな事をはしょり過ぎて不自然とも言えるけど、ソコはまぁ、ご都合主義のゲーム的お約束って感じで講堂に到着するまでの僅かな間に交わした会話により、ヒロインがAクラスの成績優秀者だと知ったクリストファー王太子が「ならば君も生徒会メンバーに入らないか?」とヒロインをスカウトする。


だけどゲームと違い、クリス義兄様からスカウトのスの字も無かった為に、生徒会に入りたいとアカネちゃん自ら、立候補の声を上げた様だ。


「それは無理な話だ。」


講堂の裏口扉のドアノブに手を掛けたクリス義兄様はアカネちゃんの方を振り向く事もなく答えた。

クリス義兄様の隣に立つ僕は、クリス義兄様の顔を見上げてゾッとした。

さっきまでムフーって変態みたいな顔をしていたのに、今は口元が引きつってるやん!

メチャクチャ、苛ついてるやん!


「君はなぜ、この国の王太子殿下を許しも得ずに愛称呼びするんだ?

君の行動には品位の欠片も無い。

そんな君を生徒会メンバーに出来るワケ無いだろう。」


グラハムもご立腹な様子。

女性を相手に声を荒げたりはしないが、妹ちゃんの事もあり敵意を滲ませて言い放つ。


「え?愛称呼び……?」


ゲームの中では愛称呼びが当たり前過ぎて、そう呼ぶ経緯が無い事にも気付いてないのか…。


「グラハム、もう中に入るぞ。」


講堂の扉を開いたクリス義兄様が、僕の手を引いて中に入った。

他のメンバーも後に続き、姉様を中に入れ最後尾となったグラハムがアカネちゃんを閉め出した。


「待って!待ってよ!私も一緒に中に入れ………!」


無情にも、アカネちゃんの前で扉を閉めたグラハムは、入って来れない様に内鍵を掛けた。

グラハムも相当、頭にきてんだな…。


【レクイエムは悠久の時を越えて━━ 】


多分、逆ハー狙いのアカネちゃんだけど…

ゲームがスタートして最初のイベントがこんな状態って…

ゲームと違って、ヒロインを中心に世界が回ってるって感じではないもんな。


どうなるんだよ、この先!




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