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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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68話◆レクイエムは悠久の時を越えて━━ゲームスタート。

綻ぶ口元を隠す様にして俯いたルイを見てしまい恥ずかしさが込み上げてくる。


ちょ…!あからさま過ぎなんだよ!

そんなに嬉しいのかよ!

僕がルイと居たいから、この世界が現実であって欲しいと思った事が、そんなに…?

そっかあ……う、嬉しいのかぁ。


思わず照れ臭くなり赤面してしまった僕は、ルイと同じ様に俯いてしまった。

照れ臭さから互いの顔を見れなくなった僕達は、向かい合ったソファの席で俯き合う。


いやぁ何だ、この甘ったるい空気。

学園の門をくぐるまで精神的に追い込まれていたせいで、喜びすら安堵を通り越して逆に疲れるんだけど。

泣いたり嘆いたり喜んだりイラッとさせられたりと、昨日から感情の起伏が激し過ぎて情緒不安定になるわ。


赤くなって俯かせた僕の顔が、段々真顔になっていく過程を見て僕の心情を察したのか、ルイはコホッと軽く咳払いをし、話を切り替える様にソファから立ち上がった。


「そろそろ、シャルロットとの待ち合わせの時間だな。

学舎の前に向かわねばなるまい。」


スイッチを切り替えた様に従者モードになったルイが懐中時計を出して時間を確認し、僕に準備を促した。


「ローズウッド家に仕える従者のクセに、姉様を呼び捨てすんなよな。」


「お前以外の人間が居る前ではちゃんとしている。」


不遜な笑みを浮かべて、ルイはソファに座る僕の手を取った。

ルイに手を引いて貰い、尻が深く沈んだソファから立ち上がらせて貰う。


「学校の中に部外者は入れないから、ルイと行動出来るのは学舎の前までだね。

変な魔法使って忍び込もうとしたりしないでよ。」


昨日は消滅しなかった場合の僕が、入学式で恥ずかしさに居たたまれなくなっている姿を見てやると言っていたルイだが、実際には従者は部外者扱いなので学校の中には入れない。


覗き見るような魔法を使おうにも、学園の敷地内には魔法に対して数々の制約や制御がなされており、そんな魔法を使うのも難しい。


「今の私は魔力をそこらの人間と同等にまで抑え込んである。

わざわざ解放してまで、そんな目立つ様な真似はしない。」


学園には魔法に対する魔法のセキュリティがあるらしいが、詳しくは分からない。

ルイが本来の魔族としての魔力を解放したら、迎撃システムらしきモノが発動するかも知れない。

ルイには大人しくしていて貰おう。





ルイと僕は、姉様と待ち合わせをした学舎の前に向かう事にした。

僕が居る上級貴族用の中等部男子寮は変態王太子が僕を優遇したせいか、学舎に割と近い場所に建てられていた。

大人の足で徒歩10分位、1キロに満たないって感じだろうか。

僕の中では近所の範疇。最寄りのコンビニもそんな感じだったし。

でも、お貴族様はこの距離でも馬車を使う場合が多いらしい。


「アヴニール様、学舎に向かわれるのでしたら馬車をお呼び致しましょうか?」


寮から出ようとした僕達は、エントランスで先ほど部屋に案内してくれた寮の従事者に声を掛けられた。

さっそく僕の役に立てるんだと息巻いて見える。


「いや、お構いなく。歩いて行きますんで。」


「あるっ…学園まで歩くのですか!?

それなりに距離がありますよ?」


僕の身体は見た目は、長距離を歩くには大変そうな小さなお子ちゃまだけど………

何しろレベルがカンストされているので、筋力や体力やら色々なモンがもう、常人の域を越えている。

学舎まで位の距離ならば、本気で走れば多分1分足らずで学舎に着く。

けどまあ、そんな事をわざわざ言う事もないし━━


「学園の道を自分の足で歩いてみたいので。」


寮の従事者にニコリと微笑みかけ、ルイを従えて寮の外に出た。


大豪邸みたいな造りをした寮から出てアプローチを通り表通りに出ると、学園の敷地内でありながら町の中の様に大通りがあり、離れた場所に大きな建物が点在するのが見える。

その建物ひとつひとつが大きな寮であり、学生寮だけではなく教職員の寮もある。

学生寮が男子寮と女子寮が別なのは勿論のこと、更に上級貴族用と下級貴族用でも建物は別となっている。

上級貴族用の寮の部屋は、一人に当てられた部屋が広くなる為に建物も横に広く大きくなり、結果、学園の敷地内は巨大な建物が幾つも建つ事となる。

観光地に建つホテル群みたい。


「懐かしいなぁ、この大通りも。

前世で僕の居た下級貴族用の女子寮って、割と学園から離れていたんだよね。

でも馬車を使う様な金銭的な余裕もないから、登校する時はいつも徒歩でさぁ。」


転生したてでレベルが低かった頃は体力もなく、通学も大変だったなぁ等と約9年ぶりの通学路をルイと並んで歩きながら追想し、学舎に向かっていた僕はハタと前世の今日を思い出して足を止めた。


「どうした?」


「今日、消えるかもって事ばかり考えていて、すっかり頭から抜け落ちていたけど…

今日って、ゲームスタート当日じゃないか…」


僕はルイに声を掛けられた事にも気付かずに、ブツブツと呟き始めた。


そう、今日からゲームがスタートし、ヒロインのイベントに向けてのフラグがあちこちに立ち始める。

思い出せ、僕!

ゲームで、あるいは9年前の今日以降に主人公が悪役令嬢と接触した場面を!

姉様を悪役令嬢なんかにさせられたらアカン!




【 レクイエムは悠久の時を越えて━━ 】


「困ったわ…。講堂がどこか分からない。

このままじゃ、入学の式典に遅刻しちゃう!」


広い校舎の中で迷子になった主人公の『ワタシ』は、講堂への道を探して学舎の中を歩いている内に、講堂と生徒会室を繋ぐ渡り廊下へと辿り着いた。


こちらに向かって歩いて来る複数人の生徒の姿を見た『ワタシ』は、あの人達も講堂に向かっているのだと思い、声を掛けようと正面から駆け寄った。


「すみません!ワタシも講堂へご一緒させてくださ……キャッ!」


慌て過ぎた『ワタシ』は、つまずいてしまい、大理石の冷たい廊下に倒れ掛けた。

その時、先頭を歩いていた男性が『ワタシ』を掬い上げる様にして腕を伸ばし優しく抱き留めてくれたのだ。


「大丈夫?怪我はないか?」


「は、ハイ…ありがとうございます……」


美しくも凛々しい男性は、『ワタシ』に優しく微笑み掛けてくれた。

なんて素敵な男性……王子様みたい。

見る見る『ワタシ』の顔が火照る様に赤くなり、胸がドキドキと音を奏で始める。

こんな気持ち、初めてだわ…。これが……恋?


それが『ワタシ』とクリストファー王太子殿下との初めての出会いだった。





………まぁー乙女ゲームなんて、ヒロインがヒロインたる為の笑える位にご都合主義的な展開ばかりだってのは分かってはいるけど。

ゲームをプレイしてキャラクターを動かしてソレをするのと、現実で自分がソレを実行するのは違うんだよな。

脳内で自分に突っ込み続けなきゃならないしさ。

ただもう、こっ恥ずかしいし。


迷子になって一般生徒の立ち入らない生徒会役員専用ルートに都合よく入り込むとか、継ぎ目のない一枚岩の大理石廊下でつまずいて狙った男にしがみつくとか、ハニートラップ狙いの工作員の仕事と変わらん。


そもそも正面から来て王子に話し掛けてるが、回れ右したら真後ろが講堂じゃん。

気付いてないワケないだろう?一人で行きゃいいじゃんとか。

とにかくツッコミ所が満載の導入部分だけれども、前世での僕もコレをしているワケで。


強くなりたければ、まず男どもを攻略せねばならない。

それが、このゲームのルール。


前世での僕は、とりあえず攻略対象者たちとエンカウントしなきゃならんと、生徒会専用の渡り廊下を探した。

わざとつまずいて抱き留めて貰うなんてつもりは無かったのだが、クリストファー王太子達の姿を見て声を掛けようとしたら━━


なんか知らんが、何もない場所でつまずいたのだ。


「大丈夫?怪我はないか?」


クリストファー王太子に抱き留められた時、改めてゲームの強制力の強さを感じた。


「は、ハイ…ありがとうございます……」


あの時の僕は、戸惑い気味に礼を述べた。

『わたし』をこの世界に勝手に呼び寄せといて、『わたし』の意図しない行動をさせた何者かに憤りを感じた。


ヒロインがクリストファー王太子に抱き付くシーンはオープニングの一部。

自分の意思に関係なく、させられてしまった。


だったら、そのゲームのルールに則って、攻略対象達をキュンキュンさせる最強のヒロインになってやる!


って、それが前世でヒロインをカンストさせた僕の始まりだ。


「オープニングかぁ…。

アカネちゃんも勿論、知ってるよな…。」


この、王太子に抱き付いた事がキッカケとなり、ヒロインは悪役令嬢シャルロットにロックオンされてしまうのだけど…。

そりゃあ、自分の婚約者が他の女が抱きつかれるとか心中穏やかではいられないよな。

前前世で見た、悪役令嬢シャルロットの憎ったらしい顔をしたイラストが頭に浮かぶ。


「アヴニール、待っていたわよ。」


学舎の門の前で手を振るシャルロット姉様の美しくも優しい笑顔を見ていると、あのムカつくイラストの悪役令嬢と同一人物とはとてもじゃないが思えない。


「姉様、お待たせ致しました!」


姉様に駆け寄り手を繋ぐ。

姉様の柔らかな手の感触に思わずニヘラと変な笑みを浮かべてしまった。

こんな素敵な姉様を、悪役令嬢なんかにはさせない!

前世の僕がそうだったように、ヒロインに都合よく物事が起きる世界であっても


僕が姉様を守るよ!


さぁ、ゲームスタートだ


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