63話◆アホが飛び交うツガイへのお誘い。
「夫婦…
そうかツガイには、夫婦という意味もあるのか。」
ツガイとは…夫婦と言う意味のみにはあらず。
なのに僕はなぜ……
ルイとの会話で、ツガイと言う単語をピンポイントで夫婦なんて意味に変換してしまったのだろう。
自分の思考が恥ずかし過ぎる!
前前世にて、まともな恋愛遍歴がほぼ皆無の喪女だからって何だかがっつき過ぎたんじゃないか?
恋人って感じでは無いよなぁって自分でも思ったくせに、ルイからは恋人でなければ夫婦だと言われたいとか?
色々はしょり過ぎて頭オカシイだろ!!
「だが、そうではなく━━━━」
「分かっておりますとも!!
ルイが!ルイがねっ!若い夫婦二人に僕達を重ねたなんてゆーからさっ!
そこにツガイなんてワードを聞いて、思わず僕達も夫婦?なんて言ってしまっただけで!
そんな深い意味はござんせんよ!
ええ、ございませんとも!!!!」
ルイと互いの両手の平を合わせた状態で交差させ組んだ指を解こうとしたが解かせて貰えない。
しかも真正面から顔を見られた状態で、解けない指にきゅっと力を入れられる。
クッッッソ恥ずかしいから顔を背けたい。
「私の言うツガイとは互いを得て初めて完全となる半身であり対となる唯一無二の存在。
この世界では時間を越えた私の存在は異質だ。
私とて、この様な事態に不安を募らせない訳では無い。
そこに私と同じ様な者が居る事での安堵感たるや…。」
「おっしゃるとおりで!!」
ルイが何か言っているけど聞いている余裕が無い。
僕はただコクコク頷きながら空返事をし、手を揺らしたり指を立てたりしてルイから離れようと必死だ。
ルイを見るのも、ルイに見られるのも恥ずかしい。
「私とお前が何かを成す為に共に過去に送られたのだとしたら、我々は共にそれを探るしかあるまい。
準ずるにしろ抗うにしろ、お前が居なくては話にならん。
もちろん、それだけが私がお前をツガイと呼ぶ理由では無いが……
手汗が凄いな……どうした。」
手汗すげーって…女性に言っちゃアカンでしょ。
デリカシーなさ過ぎるだろ。
いや僕、今は女性じゃないですもんね。
「よ、要は、この意味不明な世界にバコンと一発入れる為の無くてはならない相棒って話ですよね?
そーゆーことでしょう!
ヨシ!理解したから手を離しましょう!」
ルイの前から逃げたい。
逃げ出して、顔と手をめっちゃ洗いたい。
何か色んな汁でベトベトなんだけど!!
「お前が真っ先に頭に浮かべたツガイの形。夫婦か。
確かに生物の雌雄もツガイと呼ぶな。」
「も、もーツガイの話はいいッ!
僕の勘違いを掘り返すな!!」
「悪くない。
アヴニール。我々も、そうなるか。」
…………はぁぁあああ!!!???
驚き過ぎて声も出なかった。
突然、ナニ言っちゃってんの魔王様は!!
そうなる…そうなるって…僕とルイが夫婦の方のツガイに?はぁ!?
「……ルイは……アホなの?」
言うに事欠いて…ルイをアホ扱いしてしまった。
だってだってだって!
中身はどうであれ今の僕は子どもだし、男だし、貴族の坊っちゃんだし!
ルイは大人だし、男だし、平民出の従者であり実は魔王様だし!!
もう、立場だけで考えたってルイと夫婦になれる要素が何一つ無いじゃん。
そもそもが僕達、人間の男女ではないし!
「私がアホだと?
アホのお前にアホと言われるとは。」
ムキーッ!!
「アホ」単語が飛び交うこれが、地球人時代も含めて僕の人生初のプロポーズだなんて認めねぇ!
「夫婦になんてなれるワケ無いじゃん!
僕とルイは、大人と子どもだし男同士だし!主人と従者だし元勇者と魔王だし!!
こんなの誰にも認められないじゃん!
ってゆーかもー!ニチャニチャする!手を放せよ」
放すどころかニチャニチャする手がより強く握り返される。
両手を囚われたままの僕は、椅子の上で思わず大きく仰け反り、宙に浮いた両足をバタバタさせた。
「だぁあ!ルイぃ!人の話を聞けい!!」
「お前がオスのワッパであろうが、人間の従者という仮の私の主であろうが。
元勇者とやらで魔王の私を倒すべき者であっただろうが。どれも私の意思を縛るような物では無いな。
私の持つ感情を誰に認められる必要がある。
私がお前を求めるのに他者の許しなど必要無い。」
もっもっ求める!?僕を求める!?
何か凄いコト言われてない!?
つか、さすがは魔王様だよゴーイングマイウェイだよ。
いちいち世間の評価なんぞ気にしてたら魔王なんてやってらんないよな。
「おっ男同士だしっ!僕はまだ小さいし!
ふっ…ふっ…夫婦らしいコトは出来ないしっ……」
「………夫婦らしい事………とは?」
ナニを言っちゃってんのかなぁァ!!僕は!!
そして、頭に一瞬それに通ずる単語を連想した模様。
「初夜とは……?」
「思考を読むな!聞くなぁあ!!」
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この日の夜、僕は久しぶりに大聖堂に来た。
ルイは不快感を露わにし、ついて行くと言ったが断った。
大聖堂は元々が身元を隠してお忍びで来ているのだから、従者を連れて来るなんてことはしたくない。
ここでは、ただのアヴニールとしてアイテム製作にいそしむのみ。
僕の右隣の椅子に座り、身代わりのオーナメントを作る僕を見るリュースの熱い眼差しはカチ無視する。
「ここにこうやって集まるの、久しぶりだな。
試験も終わったし後は学園に行く準備をするだけだ。
かなり気が楽になった。」
僕の左側の椅子に座るニコラウスが楽しそうに笑う。
二人の試験は姉様が受けたのと同じもので、結果によりクラス分けがなされる。
上級貴族のニコラウスや、まだ少年の身で司祭の肩書きを持つ二人にはAクラス編入が必須だったろう。
かなり勉強したはずだ。
姉様は当然の如くAクラスであった。
ゲームでは、悪役令嬢シャルロットとヒロイン、そしてリュースとニコラウスは同じAクラスだった。
「姉様はAクラスだったよ。
ニコラウスとリュースもそうなんでしょ。
二人とも何だかんだ言って優秀だし。」
「そうなんですAクラスです!良く分かりましたね!
私達を信じてくれていたのですね、アヴニール!」
知ってるし。
だってゲームでは、そうだったし………あ?
どさくさに紛れて僕の右手がリュースの両手でしっかりと握りしめられていた。
喜びの余り無意識になのか、シレっと無意識を装い狙った行動なのか分からないが。
ルイといい、今日はよく手を握られる日だ。
僕はリュースの手を振り払うでもなく、今日ルイにされた様にリュースの左手の平に僕の右手の平を合わせ、指を交差させてギュッと握ってみた。
「あ、アヴニール…ッ…う…」
リュースの顔がサァっと赤くなり、それを見ていたニコラウスの顔がサァっと青くなった。
グッパ、グッパと交差させた指を数回曲げ伸ばししてからリュースから手を離した。
顔を真っ赤にしたリュースが口を押さえて小刻みに震えており、そんなリュースを心配そうに覗き込むニコラウス。
「アヴニール!おまっ…!このタラシ!
リュースをこれ以上、お前の中毒者にすんな!
コイツ普段との温度差が激しくて扱いにくいんだから!」
「……………ぅーン……」
ニコラウスとリュースを無視して、サラッさらに乾燥しきった自分の手の平を眺めて唸る。
ルイとは、体温の上昇と共にあんなにニチャニチャになるほど手汗をかいたのに。
何なら今のリュースの様子が、ルイと居る時の僕に近いかも知れない。
「ま、いーや。
今、考えても何にも分からないし。」
「アヴニール、お前……ナニがしたかったんだよ。」
熱のこもった瞳で僕を見詰めるリュースの隣で、冷めた目を僕に向けるニコラウス。
ナニがしたかった……ルイと何が違うのかを確認?
なんてニコラウス達に言うのもなぁと濁した。
「いやぁ……何となく……かな?」
リュースやクリストファー王太子の僕に向けた頭のおかしい偏愛っぷりは、僕の前世がヒロインだからだと思う。
そんな風に、ゲームの設定がどこまで今に影響しているのかは分からないけど
前世でヒロインと会う事が無かったルイにはさ………
「ゲーム仕様だとかさ!設定だとかさ!
そーゆーのまったく関係無く、本心から僕を好きになってくれたんだって思いたいんだよね!!」
「当たり前じゃないですか!
私が貴方を好きになったのは女神様のお導きです!
運命なんです!」
声高らかに言葉を発した僕の左手の下でガチャンと陶器が割れる音がし、「ほわーっ」と間の抜けた断末魔が聞こえた。
身代わりのオーナメントを作っていたハズが失敗していたらしくハニワになっており、そのアイテムの微弱な呪いを受けた僕が本音を吐露していた。
「誰が」の部分を口に出しそびれたせいでリュースが自分の事だと勘違いした模様。
「ゴメン、リュースの話じゃないんだ。
そんな運命は絶対に無い。
それとリュース、僕アンチ女神派だから。」
「えぇー…」
キッパリと否定すれば、あからさまにシオシオと花がしおれる様に可哀想なほど元気が無くなるリュース。
リュースには早く僕離れをして欲しいから、フォローはしない。
ニコラウスはジッと僕を見ながら何かを考えている様だ。
僕がハニワのせいで口にした本音の相手を探っているっポイ。
リュースよりは冷静なニコラウス、さすがに「その相手とは俺?」と思ったりはしないようだが。
「………学園の話に戻すが。」
ニコラウスが話題を戻して仕切り直した。
ニコラウスは少なくとも今この場で、僕の本音の相手を探るつもりは無いらしい。
それは賢明な判断だと言わざるを得ない。
リュースがこの場でこれ以上面倒くさいヤツになるのはニコラウスも御免なのだろう。
「Aクラスと言えば、例のアカネ嬢もAクラスだ。
なぜだかな。」
「うわ面倒くさいのが増えた。
彼女、よくAに入れたなぁ。」
ニコラウスの報告にハニワ無しで本音を漏らす。
ニコラウスと同じクラスに、リュースとアカネちゃん、そして姉様が入るワケか。
あのアカネちゃんがAクラス入り。
ヒロインなんだから魔法の素質はあるとしても、恋のフラグを立てるのに勤しんでばかりの彼女が座学もイケるとは思わなかった。
いや、これこそゲームの設定通りになるべく、補正されてるんだよな。きっと。
「彼女に対しては、僕もちょっとした不安があってさ。
ニコラウス達に頼みがあるんだけど……。」
「アヴニールが俺達に頼み?珍しいな。
言ってみてくれ。」
ニコラウスが開いていた魔法学の本を閉じて聞く態勢に入った。
リュースも姿勢を正して僕の方を向く。
「………そう言えばアヴニール。
先ほど言っていた、本心から好きになって欲しかった人って…誰の事なんです?」
リュースの突然の質問に僕とニコラウスが無言で固まる。
…………今それ……聞くの!?
今?その話はニコラウスがさり気なく流したのに!?
いや、空気読めリュース!
時間差で鬱陶しいのキタぁ!!!




