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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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60話◆王城新年会はお開き。そして反省会と今年の抱負。

「それでは、ごめんあそばせ。」


シャルロット姉様の姿をした僕アヴロットに向け、令嬢二人が手の平を合わせて指を組み、憧れの人を見る様な面持ちでキラキラした眼差しを向ける。

二人に背を向けた僕は、静かにおしとやかに二人の前を離れて行く。

去り際にご令嬢らしいセリフを使ったつもりだったが、姉様が言っているのを聞いた事も無いセリフを口にしていた。

うぅ…ゲームの中の悪役令嬢シャルロットなら、よく言っていたんだけど…。


つか姉様の姿では走れない…まだ背中に二人の視線を感じる!

早く姉様とルイの所に行きたいのに!


王城の長い廊下をしずしずとおしとやかに歩いて角を曲がり、二人の視界から姿を消した僕は人の気配が無い事を確認してからカーテンの陰でアヴニールの姿に戻った。

衣服も元通りにちゃんと戻っている。

姉様の豊満なお胸もしっかりと消してある。


確認が済んだ僕は、ダッシュでルイが姉様を介抱する王城庭園のガゼボに向かった。


「ルイ!」


「アヴニール、戻ったか。」


僕をアヴニール呼びするって事は、側に誰も居ないって事だ。姉様の姿はガゼボには無かった。


「姉様はどこ?目を覚ました?」


「シャルロットは先に馬車に連れて行った。

目を覚まさせた際、シャルロットに国王とラストダンスを終えた後に緊張感から気を失った。

と……言い聞かせながら暗示を掛けておいた。」


ちょっと無理矢理な設定と言う気がしなくもない。

だが魔力で脳内の記憶に干渉して記憶を操り、本来の記憶を改ざんされるよりはマシなのかも知れない。

そういう事が可能なルイが敢えてそれを避けて、軽い催眠術的な方法を用いてくれた。


「だが暗示は解けやすい。

シャルロット自身がダンスの記憶が曖昧な事を訝しがり、その間の事を思い出そうと必死になれば解ける。」


「そこは多分大丈夫、令嬢シャルロットは国王陛下とダンスをしたとフロアに居た全員が知ってるんだし。

姉様には申し訳ないけど、記憶が曖昧なのはお酒のせいにしとくよ。

あの令嬢達にも、お酒とは知らずに飲ませてしまったって事にして貰って。」


姉様に本当の記憶が戻っても、国王とダンスをしたのが自分でないとは誰にも言えない。

そんな事を言えば王城の尊厳、警備体制全てをひっくり返す大問題となる。

姉様の姿をした誰か、が王城に現れるなど本来はあり得ないのだから。


「お前が魔族にしか使えない『深淵の闇魔法』を使える事を誰にも知られなければそれで良い。」


「変身の方法は、魔族の魔法でしか出来ないんだっけ。

僕が知ってるゲームや漫画なんかだと、変身や擬態する魔法ちょこちょこあったけどな。」


そもそも僕が居るこの乙女ゲームの世界で、地球でプレイした際のゲームの中にも、前世のヒロイン時代にも『深淵の闇魔法』なんて見た事も聞いた事も無かったけど。

どちらもクリアしてないから何とも言えないけど…

魔王と戦っていたら魔王ルイが使ったのだろうか。


「人間にも邪法を用いて変身する方法はある。

変身する相手の肉体の一部を使うがな。」


ルイの言葉で、マライカ国王シーヤの伯父上の事を思い出した。

ルイは肉体の一部と濁して言ったが、僕はその方法を知ってる。

相手を殺害して顔の皮を奪い、本人になりすます方法がある事を。

顔の皮を顔面に装着するだけで完全に本人にしか見えなくなるのだから、ルイが邪法と言うあれも魔法の一種かも知れない。


「………お前の思考に、顔の皮という単語が浮かんだな。

知っているのか。」


「ちょっとね……ルイと会う前に見たから。」


「よく本人ではないと気付いたな。

やりようによっては深淵の闇魔法より精巧な変身だと聞いたが。」


余り思い出したくはない記憶だ。

シーヤの伯父さんを殺した邪神の教会だか秘密結社だかのズルムケジジィがシーヤの伯父さんになりすましていたのだから。

僕は暗い過去を思い出し悲しげな表情をし、無言で拳を握ってファイティングポーズをしてルイを見詰めた。


「表情と仕草がちぐはぐだが、何となく分かった。

本人だと思っていた上で拳を振るったのか。

お前らしいな。」


「うん……ズルっとイッたの……顔が。」


ファイティングポーズのまま悲しげな表情でコクリと頷く僕を見たルイが、呆れを含みつつ少しばかり笑いも込み上げさせて僕に背を向けた。

背を向けたルイの口から「プッ」と吹き出す声がした。


「笑う所じゃないんだよ!この話は…死んだ人がいる…

犠牲になった人が居るんだから…。」


ルイは僕の身体をフワリと抱き上げて腕に座らせた。

不意の行動にバランスが取れず、僕は思わずルイの首にしがみついた。

抱き上げられた弾みで僕のコートがはためき、ガゼボ周りの寒空の下で咲き誇る白い薔薇の花弁が月明かりを纏いながらハラハラと舞った。

何だ、この取って付けたような絵面は。

乙女ゲームのスチル用か?

登場人物でもない僕用の?


「どこの誰かも知らぬ人間が何人死のうが私にはどうでも良い。

お前が無事であったならば、それだけで充分だ。」


ぐはぁ!!ここで言うのか!

その『お前だけが大事だ』的な台詞を!!


「……ルイ……このシチュエーションで、そんな台詞は胃に穴があく……。」


不思議そうな表情で僕を見たルイは、僕を腕に抱き上げたまま微笑して無言で馬車に向かった。

ローズウッド家の箱馬車は二台。

姉様と母上が乗る馬車、そして父上と僕を乗せた馬車と。

ルイに馬車の中にまで運ばれてしまったので姉様の様子を見る事が出来なかった。

母上と侍女が付いているので大丈夫だとは思うが…酒を飲んでしまったのは事実だし、ルイの暗示もあって意識が混濁していないか心配ではある。

気になり過ぎて、見える筈も無いのに馬車の窓から外を見た。

馬車の窓からは馬に跨り馬車と並走するルイが視界に入り、無意味にあたふたと慌てる。

…ルイを意識し過ぎだ、僕は。


「ところでアヴニール、アフォンデル伯爵をどう思った。」


「はい!?アホンダラ伯爵令嬢っすか!?

ヒステリーっした!」


急に向かいの席の父上に話しかけられ、異様な迄にキョドってしまった。

反応もおかしければ、言葉遣いもおかしい。

おまけに余計な主観を付け加えた。


「いつ、アフォンデル伯爵令嬢とまみえる場が?

お前とルイの側にアフォンデル伯爵らが居たのは見たが。」


「ね、ね、姉様を探しに行きました…。」


「フロアの奥まった一画にご令嬢達だけで集まって歓談していたと聞いたが。

男が近付ける雰囲気ではなかったと皆が言っていたぞ。」


違うんですよ、父上…。

姉様はフロアから連れ出されて、違う場所に連れて行かれて酒飲まされて眠らされてラストダンスに出れないように仕組まれ……

あれ、これ……あの場に男性でも連れ込まれていたらもっと大変な事になったんじゃね?

その男性にそんな気が無くとも、暗い部屋に男と姉様が二人きりになったって噂が立つだけでも姉様の立場は危うくなる。

ルイが姉様の不在に気付くのが早く、その場から姉様を連れ出せたけど……

もし、そこまで仕組まれていたのだとしたら……


「やっぱりアホンダラ伯爵んチの門の1つや2つ、ぶっ壊して良いですかね。」


「いいワケが無いだろう。何がやっぱりなんだ。

答えになってない上に何を急に物騒な事を言い出すんだ、お前は。」


僕の前で足と腕を組む父上は、呆れた様に大きな溜め息をついた。


「お前がどこで令嬢を見たのかは知らんが、その様子から察するに、父娘共々我が家を敵に回すつもりだという事だな?」


「つもりも何も、もう敵になってるじゃないですか。」


僕の中では、もう敵としてロックオンされた。

僕に何か仕掛けて来る位なら軽く払う程度でもいいけど、姉様にちょっかいを出す様なら百倍返しだ。

とりあえず、住む場所を失くしたらぁ。


「そうだ。そんな伯爵家の令嬢と子息が今年の春からお前達と同じ学園に通う事となる。

学園に入れば互いに親を頼る事は難しいが、奴の事だ。

学生の中に自分の手の者を紛れさせているかも知れん。

…………シャルロットを守れるか?」


元ヒロインに、悪役令嬢を守れって司令来た。

いや、パパ上は魔王様に元ヒロインの僕の世話を頼んでる位だしな。

カオスが過ぎて、いっそ清々しくさえ感じるよ。


「守るに決まってるよ。

僕は生まれた時から姉様のナイトだからね!」


そう、お姉ちゃん大好き弟であり、中身は妹が可愛くて堪らないお姉ちゃんでもある。

元々、姉様をヒロインから守るために学園に行きたかったんだし。


あれ…?でも姉様は悪役令嬢で…どちらかと言えばヒロインをイジメる側で……

姉様は、僕が知る悪役令嬢の様に人を蔑む様な言い回しをしたり、高飛車な態度で笑ったりしない。

それ全部さっきの僕……

アヴロットがやっちまっていたなぁあ…あー…


ゲームや前の世界がどうであれ、どうもこの世界での悪役令嬢はアヴロットのようだ。

って、もう姉様に変身する予定は無いんだけど!

これ、学園に行ったらどーなんの!?

イジメる予定もないヒロインなんて放置すっか!



「それでは、うまくいかなかったのか?」


「仕方ないだろ。

言われた部屋に向かったが部屋には誰も居なかったのだから。」


アフォンデル伯爵は王城から邸への帰路の途中で馬車の進路を変え、貴族用の宿に向かった。

護衛の従者を一人連れて宿の一室に赴いたアフォンデル伯爵は、部屋に居た貴族らしき青年と声を潜めて話をする。


「何も行動に移せなかったと。

ならば報酬も無しだな。」


「ちょっと待ってくれ!

私は貴方に言われた通り、ダンスフロアの上の歓談室に向かった!

誰も居なかったのは私のせいではない、あそこに呼び出す者が失敗したからだ!」


報酬が手に入らないと聞いた貴族の青年は、不手際があったのはそちらのせいだとアフォンデル伯爵を指さし、強く問責した。


「金を寄越せ!さもないと…!!」


「さもないと何だ。」


「伯爵がなさろうとした事を酒の席でポロっと口から零してしまうかもな。

どこぞのご令嬢を辱めようとしたと。」


アフォンデル伯爵の護衛が腰の剣に手を掛けた。


「おっと!私は、家人にアフォンデル伯爵と話があると言ってここに来ている。

宿の者達も、私がここに来た姿を見て知っている。

私に何かあれば疑われるのは…ハグッ!」


貴族の青年は話の最中に革の手袋をした護衛従者の手の平で口を強く押さえつけられ、革手袋の香りを吸い込んだ途端に声も出せぬまま大きく開いた眼をグリンと天に向け絶命した。


アフォンデルの護衛は床に倒れた青年の衣服を全て脱がせて全裸にし、その衣服を自分が身に着けた。

そして青年の顔の皮をナイフで剥いでいく。


「少しばかり予定が変わったが、まぁ良しとしよう。

これからしばらく、お前が貧乏貴族のコイツとして立ち回れ。」


「かしこまりました、旦那様。」


全裸で横たわる顔の無い男の遺体は、既に誰の物だか分からなくなっていた。

少し間を置いて部屋に入って来た宿の従業員は、青年の遺体を運んでゆく。

共に部屋を訪れた宿の女主人がニコリと微笑んだ。


「旦那様、部屋に押し入った浮浪者の遺体はコチラで処分致しますので、ごゆるりとお休み下さいませ。」


部屋を出る女主人と、貴族の青年に成り代わった護衛がすれ違う際に同じ言葉を呟いた。



「我らが神、万物の創造主たる大いなるアザトースに誓いを。」


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