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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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57話◆緊急事態。王城内にて姉様が行方不明。

僕を右腕に抱き上げたままのルイが王城のダンスフロアから、眺望を楽しむ為に庭園側にせり出す様に造られたバルコニーに出た。

僕等の出たバルコニーの両側には同じ様に他のバルコニーが幾つか並んでおり、熱のこもったフロアから涼を求めてか月明かりに淡く浮かんで見える庭園を眺めながらバルコニーで歓談する人の姿が見える。

何か、ここぞとばかりにイチャイチャしてるっぽいのも居る。

丸見えなんだけど。むしろ見られたいのか。



「人が多過ぎて、お前の両親とはぐれたな。

ま、さほど心配はされていないのだろうが。」



僕を抱き上げたルイが、喉元を引っ詰めたタイを左手で緩めながら普段の口調で話し始めた。

あー、偉そうだけどルイはやっぱその喋り方のがしっくり来る。

ルイが僕を坊ちゃま呼びとか、ハッキリ言って気味が悪い。



「小さな息子を心配しないって、酷くないか?

確かに、キッショイ大人達の目が姉様に向かない様にする為に連れて来られたんだから、実際にはそうなんだろうけども。」



ルイに抱き上げられたまま唇を尖らせ、暗いバルコニーから薄いカーテンの向こう側にある温かみのある黄金色に照らされたフロアに目を向け文句を垂れる。

僕の両親はまぁ、フロアを回って他の貴族の方々に新年の挨拶をしたり、されたりしているのだろう。


僕は僕で、アホンダラ伯爵のツラを拝んでやりたいと思ったけど、僕はそのアホンダラの顔を知らない。

フロアを歩いて回って、イチャモンつけて来る奴すべてをアホンダラの候補者にしときゃいいのだろうか。

僕の、いつかぶっ潰したらぁ的なリストに全員のツラぁ記録しといて。

……とは言え、フロアに戻る気にはなれずバルコニーで時間を潰す事にした。



「話を要約すると、アホンダラ伯爵には処刑された魔術師が魔法を教えていた僕より少し年上位の息子が居て……。

姉様を差し置いて、クリス義兄様の婚約者にしたい娘もいるって事だよね。

こんな言い方したくは無いけど、よくまぁ伯爵家が侯爵家に楯突く様な真似出来たよね。」



「あちらも元は侯爵家だったと聞いたぞ。

因縁めいたものがあるのだろう。」



人間共の事等さほど興味は無いと言うルイだが、僕に関わって来る事ならばと情報を集めてくれたらしい。

まぁ、因縁どうこうで我が家を目の敵にした所でどうにもなりませんけど?

ハイスペック勢揃いのローズウッド家に敵うわきゃなかろう。

あのパパ上でっせ?あの女神の権化の姉様でっせ?

人類では最強チートの僕に、魔王様が付いてるんでっせ?

ぶっちゃけると国も僕の味方でっせ?

まぁ、わざわざ言わないけどね。





「この様な場所に子どもを連れて来るなど。

あの方は本当に常識が無いのですよ。

ローズウッド侯爵様は。」



我が家の名前が耳に入り、ルイの身体からヒョイと顔を出して声の方を向くと、バルコニーからフロアに入ってすぐの所で聞えよがしに歓談する貴族のオッサンどもがたむろっていた。



「まったく、その通りですな。」


「マライカ国王陛下の御前にまで連れて来ておりましたからな。」


「あの子どもも、親離れも出来ていない甘ったれなんでしょうよ。

畏れ多くも国王陛下に抱っこをねだる位ですからな。

ほら、あのように。」



……ルイに抱っこされている僕の話を、僕に聞こえる様に話しているのは分かるんだけど。

子ども相手に、大人気ないよなぁ。



「それに比べて、伯爵様のご子息のご立派な事と言ったら!」



その、ご子息の魔法の先生が僕を拐ったんだけど。

まぁ、ご子息本人がどんな子か知らないし…子どもは本当に立派な子かも知れないけど。



「あのような輩だと早々に気付き、その場で暇を与えたとは、素晴らしい慧眼の持ち主でらっしゃる!」



暇を与えた……その場で?

ガキンチョが、いきなり先生をクビにしたって事か?

で、あの魔術師が僕の事を知っていたって事は……



「父親が息子にお前の話をし、息子が癇癪を起こして魔術師を解雇したようだな。」



「はぁー……で、逆恨みされて誘拐されたの?僕。

子どもも父親同様、ロクでも無さげだな。」



僕のチート能力については国王陛下と側近の方々、他でも僅かに限られた者しか知らずに誓約にも似た強い箝口令が敷かれている。


だが国王陛下の推薦を得た僕が、新設された学園中等部への飛び級での入学に加えて特級クラスに入ると決まった事は、貴族の皆様に知れ渡っている。

いくら優秀とは言え所詮は小さな子ども。

度を越した優遇ぶりにローズウッド家が裏で大金を動かしたと勘繰る者も多く、学園や国王陛下に我が子の優遇をほのめかして寄附を申し出る貴族家もあったという。



「陛下がいらん事するから。

試験受ける前から特級クラス行きを決めるとかさ。

普通に試験受けたってトップで合格するんだから、その後で良かったんだよ。」



「やらかし過ぎているがな。

普通ならばペナルティで評価が下がる所だ。」



ルイが余計な一言。

ピヨ子の鳥カゴぶらんぶらん事件は、今は思い出させないでいい。



「んー?飛び級制度を使っての試験にはアホンダラ伯爵家の子どもは居なかったけど?」



「年齢は12歳、今年の春に普通に入学してくる。

来月辺りの実力査定試験で高成績を上げれば特級クラスに入って来るんじゃないのか。」



「なんだよ…だったら僕がいても関係無いじゃん。

拐われ損かよ。」



「違うだろうな。

魔術師は唆されたのだろう、伯爵に。」



そっか。僕に何かがあれば姉様の婚約だって、破棄されてしまう。

不幸事があったばかりの縁起の悪い家とは王家も縁を繋ぎたくはない。

王太子と姉様が離れたくないと言っても、国全体が決める事には逆らえない。



「確かに、自分の娘が王太子妃になれなかったとしても、嫡男の僕に何かあればローズウッド家にダメージは与えられるよな。」



ムカつくな。

国王陛下の前に引きずり出して、本音を暴露するハニワ抱かせたろか。


眉根を寄せて黒いオーラを飛ばす僕に、ルイが囁いた。



「あんな者ども小物だ。放っておけば良い。

お前に何かがあれば、私が動く。」



あらやだ、イケメンじゃん。俺が守る的なアレ?

前世で攻略対象者くん達に言われた時より萌えるわー。



「だからっ…!何なんだ!」



そうそう、この声も言ってたわ。君を守るだの何だの。

…………ン?エドゥアール??


僕はルイに抱っこされたまま首を伸ばしてバルコニーの下を覗きたがった。

ルイは僕の仕草に気付いてバルコニーの下が見える位置に移動してくれた。

バルコニーの下辺り、庭園への出入り口付近にて3人の少年達が何か揉めている。


よく見れば、そこに居たのはクリストファー王太子とグラハム、そしてエドゥアールの3人。

攻略対象者の内の3人。

3人は幼馴染でもあり、同級生でもある。

プライベートでは身分に関係無く言葉を交わす仲でもある。



「何なんだ、あの生意気な少年は!

年上に対する敬意ってものが無いのか!」



「ははは!お前ントコのジュリ坊よりは大人だぞ?」



脳筋のグラハムは息巻くエドゥアールの背中をバンバン叩いて楽しげに笑う。

クリストファー王太子は変な勘が冴えたのか、何だか黒い笑みを浮かべていた。



「アヴニールとエドの相性が悪いって事だろう?

互いに不愉快な思いをするのだから、もう彼には近寄らない方がいい。」



クリストファー王太子が、さり気なくライバルの一人を排除しようとしている。

嫌な勘が働いてるな…あの変態王太子。



「そうだよな。

エドにはピンクの可愛い子が居るからな。」



「グラハム、彼女を押し付けようとしないでくれ。

私だって彼女には辟易しているのだ。」



グラハムとエドゥアールの会話でピンと来た。

アカネちゃん、僕より先にエドゥアールと接触を果たしたんだ。

で、相変わらず避けられてるなぁ…。

やはりヒロインが学園入学するまでは、どうあがいたって親密度が上がらない様子。



「だって、気味が悪くないか!?

私の好みの品を持って来て贈ろうとするとか…!

誰にも話した事が無いのに知ってるとか!

それが私だけではなく、グラハムとクリスにもだろ!」



アカネちゃん……それ、確かに気持ち悪いわ。

考えてもみなよ、いきなり知らない人から好みどストライクのプレゼント渡されるとか。

ストーカー行為されてるのかと疑うじゃん。

現代日本なら、盗聴や盗撮まで疑うよ。

親密度どうこう以前の問題じゃなかろうか。


僕はふぅ~っと呆れを含んだ溜め息を吐いた。



「アヴニール、フロアからシャルロットの気配が消えた。」



「えっっ!!」



姉様には、イワンの一部を髪飾りに潜ませてある。

姉様が危険な目に遭えば、守ってくれるハズだから…

危険な感じでは無い……よな?



「あと一時間足らずで夜会が終わる。

国王陛下とのダンスに間に合わなければ……。」



はぁあ!?まさか、どっかに連れ出された!?

いや、隣のバルコニーのバカップルみたいに婚約者と何処かでイチャイチャしてたり………



「その婚約者とやらは、私達の下で揉めている。」



「あー!!クソ!!役に立たねー婚約者だな!!

ずっと姉様エスコートしていろよ!!」



イワンの一部が姉様に付いているので場所は分かると、ルイが僕を抱えたままバルコニーからフロアに入った。

出入り口に固まって、聞えよがしに僕んチの悪口を言っていたアホンダラ伯爵と取り巻きらしき貴族達を、ルイが邪魔だとばかりに突進して弾き飛ばす。

ボウリングのピンのようにドタバタと尻もちをつくオッサン達。



「ルイ、ストライクだよ!」



「よく分からんが褒めて貰えたようだな。

緊急事態だ。アヴニール、走るぞ。」



ルイは僕を抱きかかえたままでダンスフロアから飛び出し、城内の廊下を駆け出した。


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