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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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56話◆やって参りました、お城で新年を祝う盛大なるダンスパーティー

この世界にはイエス・キリストが居ないので、クリスマスは無い。

だから年末に世間が浮かれて馬鹿騒ぎするようなものは無かった。

新年を迎える事の方が一大イベントであり、年末は皆その準備に明け暮れる。


まぁ、年齢と彼氏いない歴が同期状態のわたしには縁の無いイベントだったから、クリスマスなんて無くたってどのみち何の感慨もわかないんだけど。


だが、ゲームの中では学園だけに伝わるクリスマス的な聖夜イベントがあった。

そこはやはり、ゲームなんだな。

雪の降る聖夜の背景を前に、一番攻略の進んだ対象者とのスチルがご褒美ってイベント。


ちなみに…前前世で未クリアのわたしは、このイベントで、クリストファー王太子殿下の美麗スチルを何枚か見た。

当時は素敵な絵面だと思った。

イラストレーターさんの神絵が素晴らしくて、クリストファー王太子が最推しになりそうな雰囲気だった。


まぁ、アヴニールになってから現物を見たら一気に冷めたが。


ヒロインとして前世で会った時も、もう少しマトモだったのだけれどな。今は駄目だ。

僕フェチの変人だから。




「まぁ殿下、まだ新年のご挨拶が済んでおりませんわよ。クスクス…」



仕方の無い方ね、といった感じでクスっと微笑む姉様とげんなりしている両親の前で、僕はクリストファー殿下に思い切りハグされている。

いや、国王陛下と妃殿下もいらっしゃるしな。

ちなみに妃殿下は、ご懐妊中との事。

これ、アホ王子の計画通り王女様が誕生したら僕の婚約者にされてしまうのだろうか。



「陛下、妃殿下、新しい年を迎えた良き日に、共に慶びを祝う機会を賜りました事、ありがたく存じ上げます。」



僕の家族が、僕を放置して挨拶を始めてしまった。

今日は王城にて開かれた、新年を祝う特別な夜会だ。

王都に住まう貴族の殆どが国王陛下に挨拶をしに来る。


夜会に参加出来るのは伯爵家以上の者となるが、挨拶のみの者を含めて多くの人々が行き交う。


母上と姉様が、この日の為にあつらえた美しいドレスを身に纏い、美しいカーテシーを見せた。

父上も二人の中心でボウアンドスクレープをし、一枚絵の様に美しい。

いや、なんでソコにローズウッドの一員の僕が居ないの?

なんでって、そりゃ僕を抱き締めて離さない、このボケ王子様のせいか。クソッ。



新年の王城パーティーに喚ばれた貴族の国王陛下への挨拶の列はまだまだ続く。

王子だって、お人形みたく僕をずっと抱き締めては居られない。

他の貴族の方々に挨拶に行った父上達に遅れて、僕もやっとフロアに足を着く事が出来た。

いや、父上達……僕を待っててよ。

こんな大勢の大人ばっかのいるフロアに、一人置き去りとかイジメか。



「坊ちゃま。」


「ルイ!助かったよ。」



大人ばかりのフロアに、ぽつねんと立つ僕をルイが見つけて掬い上げた。

背の高いルイに抱き上げられると目線が上がり、フロアに集まる多くの大人の顔が見える。

中にはアヴニールとして見知った顔もあるが、交流は無かったが前世で見たなぁって顔もある。


僕の目が宰相のマーダレス公爵と、その長男エドゥアールの姿を捉えた。

アヴニールになってから会った事は無いが、殿下と同級生の彼も攻略対象者。

前世で最後に聞いた台詞がファフニール戦時の


「その通りだ。

未来、我々があやつを仕留めるまで君はそこで……

ただ、微笑んで居てくれれば良いのだ。」


だったインテリ眼鏡。

今さら確認したくもないんだけど、会った事も無いのに親密度も親愛度もMAXなんだよね。

だから面倒だし会いたくない。

どうせ学園に入ったら嫌でも顔を合わせなきゃなんないし。



「ルイ。

宰相様の隣の眼鏡少年と僕を会わせないようにして。」



「承知致しました。」



僕の思考から単語を拾い上げるルイは、即座に僕の考えを理解してくれた。

…………ちなみに、どんな単語を拾い、どんな風に理解したのだろう。

前世の事もあってとか、分かってくれてんのかな。



「僕が会いたくない理由、分かった?」



「はい。インテリ眼鏡は面倒だと。

眼鏡を掛けた男に対する偏見をお持ちのようで。」



え、その程度の理解力だったんかい。

別に眼鏡を掛けて知的に見える男性全体を、面倒な奴らだと思ってるワケじゃないよ?


まぁ……ルイは僕の思考を全て覗けるワケじゃないし、この様に人の多い場所だと他の人の思考も聞こえたりするだろうからな。



「違いましたか?」



「まぁ、そんなトコかな。半分は合ってる。

今、会わないで済むなら何でもいいよ。」



楽団が演奏を始め、フロアの中央が空けられる様に人が

動き出す。

夜会に喚ばれた貴族達の国王陛下への挨拶が終わり、舞踏会が始まったようだ。

本日の夜会は、のちの王太子妃殿下としての姉様のお披露目も兼ねている。


クリストファー王太子殿下にエスコートされた姉様がフロアの中央に進み、二人のダンスが始まった。



「姉様ぁ…なんて…なんて美しい!美し過ぎて泣く!

天使か?いや、女神!マジ女神!」



「興奮し過ぎです、坊ちゃま。」



ルイに呆れられる程に感極まる僕。

悔しいけど変態王子の見てくれも絶品なので、そんな二人のダンスはゲームで見た数々の美麗スチルでも及ばないほど美しい。

なんで、こんなたおやかで美しい姉様が悪役令嬢?

もうゲームの主人公、姉様でも良かったんじゃない?

いや、駄目だ駄目だ、姉様に魔物と戦うとか危ない事はさせらんない。

美しい姉様には…そう。

ただ、そこに居て、微笑んで居てくれれば良いのだ。



「う、今…インテリ眼鏡の台詞と同じ思考をした。」



スン…と真顔になってしまった。

ルイは、抱き上げた僕の手を軽くつついて意識を向けさせ、顎先でフロアを指した。



「シャルロットお嬢様は、敵が多いですね。

いや、ローズウッド家に敵が多いから尚さらなのでしょうが。」



促されてフロアを囲む貴族達の顔を見ていけば、嫉妬を含む羨望の目で姉様を見る令嬢達が多い事に気付く。

まぁ見てくれ抜群の、しかも一国の王子様の婚約者なのだから、その立場を羨むのは当然かも知れない。

だが、その令嬢の傍らに立つ大人達の表情は妬ましく浅ましく令嬢ら以上に欲にまみれて醜悪だ。

隙あらば、王太子妃殿下としての立場を我が娘にと虎視眈々と窺っているのが分かる。



「ルイ。

今日の僕は姉様の為のスケープゴートだ。

姉様に敵意が向けられないように、なるべく目立つよ。」



「注目を集めるのは構いませんが、向けられる視線が敵意だけとは限りませんよ。

坊ちゃまは、その愛らしさゆえに愛でられる事も多いでしょうし。

インテリ眼鏡にも興味を持たれてしまうのではないかと。」



あーそれな…。ルイの言う事も一理あるんだが…。

僕の面倒臭い、よりも姉様の精神的な安寧の方が重要。



「構わないさ。全て適当にあしらえば。

新年会で身に着けた、上司におべんちゃら使いまくって自分は酔わずに、お開きまでその場を上手くやり過ごすスキルを使う。」



とりあえず、口撃的なくだを巻く奴には聞いてる風な的確なタイミングで相槌を打ち、否定無しの同意に近いが曖昧に濁す「そうなんですか〜」と返事をする。

そして畳み掛ける様に酒を注いで酔い潰し………

あ、それ、今の僕には出来ないヤツだ。



「坊ちゃまの仰っしゃる新年会と言うものが、私の知る新年を祝う夜会とは微妙に違う気がするのですが。

まぁ、それは良しとして………

夜会の締めくくりには、シャルロットお嬢様が国王陛下とラストダンスをするそうです。」



「敵陣真っ只中みたいなモンだしなぁ。

無事に陛下と踊るまでは、姉様が精神的に疲れたりしないよう、ガードしてなきゃだね。」



とはいえ、社交も必要な訳だから……姉様も他のご令嬢との友好を結ぶ必要もある。

近付く者すべて排除しては駄目だ。

でないと、学園に入ったら姉様はボッチになってしまう。



「シャルロットお嬢様には、ご令嬢の友人がちゃんとおりますよ。

奥様と共に、お呼ばれした茶会等に参られておりますし。

坊ちゃまが把握してないだけです。」



なんと!そうなんですか。

完全なる、美貌の箱入り娘だと思っていたわ。

宝石の様に愛でられ、邸から一歩も外に出ずに外界の穢れには一切触れず知らず、美しい物だけ見て其処に居る……。

聖域に囚われた無垢なる聖女…。



「坊ちゃまは、ご自身に病的な執着を見せる殿下を、変態と罵りますが………

私から言わせて貰えば、坊ちゃまのシャルロットお嬢様への偏執的な愛情も大概だと思いますよ。」



ルイめ。僕の思考を読みやがったな。



「じゃあ、姉様はそのご友人たちの所へ行くのだよね。

僕も紹介して貰いたいけど、アホンダラ伯爵のツラを拝んでおきたいし……。」



「アヴニール!」



ルイに抱き上げられたまま声の方を振り返る。

ゲイムーア伯爵家の嫡男グラハムが、手を大きく振りながら僕の方に向かって来ていた。

礼装を兼ねた黒い騎士服を身に着けており、カッコイイ。ただの脳筋には見えない。

馬子にも衣装とは良く言ったもんだ。

近くまで来たグラハムは満面の笑みを浮かべて両手を広げ、ルイに僕を渡す様にアピールした。



「久しぶりだな、会いたかった!

俺にも抱かせてくれ!」



やめろ、その言い回し方。

僕は拒否の意を示し、ルイにしがみついた。



「ゲイムーア伯爵家のご子息様ですね、申し訳御座いません。

坊ちゃまは、慣れない夜会の参加で人混みに酔った様なのです。

やっと落ち着いてこられましたので……。」



グラハムが腕を下ろしてシュン、と残念そうにしたのを見逃さなかった。

ルイに上手いこと言って貰えて助かったのだが……



「そうか、ならば仕方が無い。

新年の夜会は王城で開かれるパーティーの中でも盛大だから、慣れないと気疲れするしな。

あ、友人だけ紹介させてくれ。」



そう来たか…。

僕はルイの右腕に座る様な態勢で抱っこされたまま、グラハムと友人の方を向いた。



「私は、エドゥアール・マーダレス。

先日は……愚弟のジュリアスが無礼を働いた様で…。

すまなかった。」



グラハムを介して、ピヨ子の無礼を詫びに来たお兄ちゃん。

多分、僕との相性値は前世からの引き継ぎでオールマックス。

でも、本人同士は初顔合わせだ。


父親である宰相様からも秘匿情報のチート級の僕の事は何も聞いてないだろうし、エドゥアールの中の僕は、多少出来が良い僕ちゃん程度なんだろう。

そりゃ、弟より小さい子どもに頭を下げたりしたくないよねー。

だから、謝罪もそんな風に上から目線なんだ。



「無礼を働いたのは、ジュリアス君ですよ。

お兄様からの謝罪は必要ありません。

ましてやそんな、不本意ながらと見て分かる様な謝罪。

かえって迷惑です。」



僕は一度微笑んでから、プイとそっぽを向いた。



「なっ…!不本意だなんて思ってはいない!

本当にジュリアスのした事を詫びて!」



僕の事を良く知っている宰相様は、僕と良好な関係を続けたいだろう。

特に、殿下やグラハムと僕の交流を知っているから、その輪にエドゥアールを入れたいのだ。

でもエドゥアール本人には意味不明だよね。

こんな子どもと仲良くする理由が分からない。


そういやぁ攻略するまで、やたらプライド高くて苛つく奴だったよお前は。

このインテリ眼鏡め!!



「もう良いでしょうか。

坊ちゃまを風に当たらせて差し上げたいので、失礼させて頂きます。」



ルイが、僕を抱いたまま軽く礼をして、王城のバルコニーに向かった。

ナイスフォローだよ、ルイ。

ちょうど、顔を見てるのもイラッとすると思っていたトコだったんだ。



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