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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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54話◆家族の記憶より鮮明に思い出した名シーン。

追われて逃げて、追い込まれた路地の突き当りに佇む僕と、ピヨ子と従者のオジサン。

僕にぶっ叩かれたピヨ子と、それを見た従者のオジサンが石化したように固まった。

僕は僕で、今の自分の姿に驚いて石化した。

向かい合った3人が石化した状態に。


僕には自分の姿が見えないため、僕の前に居るピヨ子と従者のオジサンの目に、自分がどのように映っているかが微妙に分からない。

視界に入るストレートの黒髪と、この聞き覚えのある声音。

多分、今の僕は地球に居た頃の自分の姿に近い状態なんだと思う。


25歳だったんだけど、まだ15歳のシャルロット姉様と間違われるって事は………

東洋人は幼く見られがちな、あるある現象ゆえか?


と言うか……アヴニールに似てるから姉弟だろうと、シャルロット姉様かと思われたって事は…。

僕、アヴニールの顔の造りは、元々が地球に居た頃の喪女顔と似てるって事か?

喪女だった時のボンヤリ陰キャ顔と、美少年の僕が似てるって。

なんか納得いかなーい。



「ぶ、ぶ、無礼者!お前!!

よくもボクをぶってくれたな!」



石化が解けたピヨ子が第一声を放った。

石化が解けた僕も自分の手の平を見ながら、グッパ、グッパと手の平を握ったり開いたりを繰り返す。

うん、いつもの見慣れた僕の小さな手の平とは違う。

女の手の平だ。

石化の解けた従者のオジサンがピヨ子を庇う様に、僕の前にズイっと立った。



「僕はシャルロットって名前じゃありません。

でも、お前呼ばわりも不快なんですけど。」



「貴女様がどなたか存じませんが、こちらの方はマーダレス侯爵家の方で御座います。

理由もなく侯爵家の方に手をあげられたのですから、それ相応の覚悟があるのでしょうな。」



は?覚悟?知らんがな。

理由ならしっかりあるわ。

侯爵令嬢である姉様を呼び捨てしやがったんだぞ。

姉様より年下で姉様を呼び捨て出来る奴なんか、この国にはおらん!

しかもガキんちょのクセに人様をお前呼ばわりする。

躾がなってないわ。



「覚悟?そちらこそ覚悟は出来てんだろうね。

躾のなってない子どもには、お仕置きが必要だって。

僕は貴族だろうが王族だろうが容赦しないよ。」



僕は手の平をブンブンと素振りした。

そんな僕を見た従者のオジサンの顔が青ざめる。

僕が今、地球人だった頃の姿をしているならば、この世界には存在しない人間だ。

要するにローズウッド侯爵家に迷惑を掛ける事も無く、何かやらかしちゃっても、やり逃げ出来るって事だ。


僕は従者のオジサンを押し退けて、オジサンの後ろで「アワワワ」なんて僕を見上げるピヨ子の後ろ襟をニヤリと笑みながら掴んだ。

スカート裾を捲くりあげて片膝を立て、その場にしゃがみ、膝を立てた太ももの上にピヨ子をうつ伏せで乗せた。



「な、ナニするんだ!やめろ、お前!

ホッズ!早くボクを助けろ!」



「レディがはしたないですぞ!!」



ホッズと呼ばれた従者のオジサンはピヨ子を助けようとしたものの僕の生足を見ちゃって、片手で目を押さえながら見ないようにして手の平だけコチラ側に向けて僕に近付けなくなっている。

僕の生足は結界か。



「お前、お前と何回言うんだ!口が悪いな!!

偉そうに誰にでも横柄な態度を取るんじゃない!

偉いのは父親だろうが!!」



僕はピヨ子のお尻をパン!と叩いた。

ピヨ子がビクゥッと身を縮こまらせる。



「ぼ、僕をぶったな!2回も!なぜだ!

父上にも、ぶたれた事が無いのに!」



「坊やだからさ!!……………」



……ン?…懐かしい記憶が蘇った。

遥か昔に、父親に見せられたアニメの有名なシーンを繋ぎ合わせて再現したかのような気分になって思わず一瞬怯んでしまった。

いやいや気を取り直してだな!

もう1度、パン!と尻を叩く。

叩く際に、実はかなり力を抜いてるので、そんなに痛くないハズ。

ピヨ子のアマちゃん坊や傾向に改善が見られなければ、少しずつ強くしていくつもりだ。



「上位貴族の子息だからって、誰にでも偉そうな態度を取ってもいいと思ったら大間違いだ!

マーダレス侯爵家の次男は礼儀知らずだって言われて、お父上と、兄上に恥をかかせる事になるんだぞ!」



「誰も今までそんな事、言わなかった!

いつだってボクを褒めてくれたし、お前って呼んでも叱られなかった!」



「じゃあ、今まで甘やかされた分、僕が存分に叱ってやるわ!」



その後はピヨ子の尻を2回ほど叩きながらしばらく説教をした。

ピヨ子の世間知らずな所は、口のきき方と横柄な態度だけではない。

この国は治安が良い方とは言え、従者を振り切って護衛も無い状態で貴族の子どもが街中を走り出すなんて、誘拐されてもおかしくない。

まぁ今回に関しては、僕のせいでもあるんだけど。

考え無しに動き回って、そうやって周りに心配や迷惑を掛ける行為も云々とか説教を続けていたら、従者のオジサンも途中からは僕を止める事も無く頷きながら傍観していた。

いつも振り回されていたんだろうな。


スッキリした僕がピヨ子を解放してやると、ピヨ子は涙目で泣きじゃくっていた。

叱られ慣れてないアマちゃん坊やには、やり過ぎだったかななんて……思わない。

これはピヨ子の為にもなる。

つか礼儀作法教える教師いるだろ?

クビにしろ、そいつ。



「坊ちゃま、このお嬢様のおっしゃる事は正しいと思います。

暴力を振るわれたのは……いささか問題ではありますが。

そうだ、そちらのお嬢様のお名前をお聞きしたいのですが。」



従者のオジサンが、ピヨ子をなだめながら僕に名を尋ねる。

アヴニールなんて言えるワケ無いし…。



「僕の名前を聞いてどうするんだよ。

暴力を振るわれたって賠償金でも要求する気?」



「滅相もない!ただ……お嬢様のおっしゃっていた事は、実はマーダレス侯爵様も懸念されていた事でして。

いつか痛い目に遭うのではと…。

こうして指摘されたという事と経緯をご報告したいと。」



うーん、それでも僕の名前要らないんじゃない?

僕も素のままだったからメチャクチャ口悪いし、こんなお嬢様居ないし。

口の悪い町娘に言われたとでも言っとけば?なんて思う僕は名前を口にするのを躊躇う。



「ぉま…………。

……………ボクは、ジュリアス・マーダレス…です。

どうか、貴女様のお名前を教えて下さい……。」



オジサンの後ろに隠れていたピヨ子が、言いにくそうにボソボソと僕に名前を尋ねて来た。

言い慣れてなさそうだけど、ちゃんとそれらしく言えてるじゃないか。



「僕の名前はミ………ミライだよ!」



ピヨ子よ、よく言えた。偉い偉い!と思った弾みで、この姿の本当の名前「未来━━ミキ」を言う所だった。

今の僕とは無関係だから、別に言っても良かったんだけど何だかなぁ。だし。

懐かしー名前で呼ばれたら、ビクッとしちゃうとゆーか。だもんで教えたくない。

ま、いっか。そもそもアヴニールだって、未来って意味だし間違ってはない。



「ミライ様ですね、ありがとうございます。

此度の事は侯爵様にお話させて戴きますが、ミライ様にお叱りが行かぬよう致しますので。」



気を遣ってくれてるのだろうけど悪者にされた所でミライを見つける事は出来ないし、気にしてもない。

従者のホッズオジサンは、ペコリと頭を下げてピヨ子の背中を押しながら馬車の方へと歩いて行った。

途中、数回ピヨ子が振り返り僕の方を見る。

目が合う度に僕はニコリと微笑みながら手を振る。

怯えた様に慌てて視線を逸らして、しばらくしたらまたピヨ子が後ろを振り返る。

そんなに警戒しなくても、背後から狙うように尻を叩きに行ったりしないから、もう振り返るなよ。


ピヨ子が学園に来る時に一緒に来る従者って、あのオジサンなのかな。

優しいけど頼りない感じ。

親元を離れた途端にピヨ子が更に増長したりしたら、抑え切れなさそう。

ま、同級生になっても無視してればいっか。


さて……ピヨ子も居なくなったし帰ろう。



僕は自分の足元に目を向けた。

さっきはスルーした上にピヨ子の尻を叩く為に思い切り捲り上げてしまったが、僕は今ドレスを着ている。

これは姉様の持っているドレスの1つに形だけ似ている。

姉様のドレスは淡い紫だが、僕の着ているドレスは黒い。

ピヨ子に追いかけられて咄嗟に使った深淵の闇魔法とやら。

変身魔法だったのか何だか良く分からないが、僕は地球人だった頃の姿になっており、黒いドレスを着ている。

何だか良く分からないが、マッパでなくて良かった。


待てよ……忍者衣装のような黒い服にもなれる僕の相棒の姿が見えないんだけど………。



「………もしかしてイワン?」



身に着けたドレスの袖に声を掛けてみる。

袖に付いたリボンが不自然に揺れ動いた。

あー…あー!!!マジで!?

マッパの僕の為に、ドレスに化けてくれてんの!?

ありがとう!裸族にならずに済んだよ!

つか、マッパの僕のぉ!?肌に密着ぅ!?

イワンが!ルイと感情をシンクロさせちゃうイワンが!



「イ、いや、今までだって僕の衣装になってくれたりしてたよね。」



何にでも姿を変化させられるイワンの性能、便利だなって蝶のマスクや、黒装束、ブレスレット、蛇になって貰って服の内側にて待機して貰ったりもしたよね……

黒スライムだから感情なんて無いと思い込んでいたけど、イワンてメチャクチャ感情あるわ!

今になって、全てが恥ずかしーんだけど!

今すぐイワンに離れて貰おう!

そしたら僕、女の身体のまま真っ裸じゃん!

元のアヴニールに戻れば服を着ているハズだ!

魔法の解き方が分からん!!


路地の突き当りで両手で顔を押さえてウワァァなんて声を上げながらうずくまる僕の前に、手が差し伸べられた。



「レディ、いかがなされましたか。

ご気分がよろしく無いのでしたら、休める場所まで案内致しますが。」



僕が大きな声をあげたもんだから通りすがりの男性が、こんな路地の裏まで来てくれて声を掛けて来てくれた。

そうか、僕は今レディなんだ……。

挙動不審にならないようにしないと………。



「お気遣いありがとうございます。

でも、もう大丈夫ですわ。」



「まぁ、そうおっしゃらずに……何でしたらレディのお住まいまで送って差し上げますよ。」



「いえ、ご遠慮させて頂きますわ。」



は?ナンパかよ!

女が一人で薄暗い路地に居るからって強引に言い寄るつもりか!

顔を覆っていた片手が取られる。

グイッと力任せに引き寄せられた手の甲に男が優しく口付けた。



「まぁ、そうおっしゃらずに……。 

貴女と二人きりで話をしたいのですよ。

レディ·アヴニール。

なぜ邸を出て、こんな場所に居るのかなどなど。」



「………ルイさんや………。」



赤い目を細めて今にもお説教をしそうな青筋立てたルイの名を、僕は思わず「じいさんや」的なトーンで呼んでしまった。


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