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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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51話◆僕らは恋を知らない。

試験が終わり、もう力を極力抑える様な訓練はしなくて良くなった。

とは言え、普段の僕は力をなるべく隠して生活している。


父上と領地の魔獣討伐に向かう時ですら、全力ではない。

そんな僕が全力で暴れたい時に胸を貸してくれるのは、ルイしか居ない。



━━魔王の半身である邪龍ファフニールを倒した者の、現在のレベルとステータスにプラスされたものが魔王のレベル、ステータスとなる━━



ゲームの仕様で、そのようになってるらしい。


僕が強くなればなるほどルイも強くなるのだから、僕を鍛える事にルイは難色を示したりはしないが、どうもルイは僕自身が更に強くなる事を求めている様だ。


数値だけで言えば、僕はゲーム内でのカンストを越えてしまっているのだと思う。

当然ルイも。

だがステータスには現れない、戦いにおいてのセンスはルイは群を抜いている。

そこを徹底して叩き込まれていく。


ルイは……僕に「ナニか」と戦う強さを身に付けさせようとしている気がする。


ルイが率いる魔王軍と……なんて言わないよな。




なんて事を、冷静に考えられるようになったのは、ひとしきりルイとの稽古を越えた、殺り合いが終わってからだった。



「はぁっ…はぁっ……しんッッッど!!

息、出来ン……ッ……」



剣を投げ出して地面に大の字になって寝転ぶ。


大量のバフを自分に掛けて、剣も魔法も最大火力でルイに挑んだ。

ストレスが溜まり過ぎて正気で無かった気もする。


そのストレス発散の為に全力で魔法を放ち剣を振るう。

それを受けてくれる相手が居るのは有り難い。



「スッキリしたか。」



「スッキリした。………したんだけど……。」



ルイには相変わらず涼しい顔で全て受け止められ、悔しさは残る。

いや、ルイが強いのは今更だって分かってるよ。

初めての魔王様との邂逅で戦った時に、ルイに剣を突き立てたのだって、油断したワケでもなく魔王様のサービスだって知ってるさ。


この縮まらない差が悔しい。



「まさかまだ暴れ足りないのか?

これでは、どちらが魔王だか分からんな。」



「いやっ、僕、別に破壊衝動があるワケじゃないからね!

暴れ回って街を破壊したいとか、人々を蹂躙したいとか無いから!」



寝転ぶ僕がムクリと身体を起こし、ルイに抗議した。

ルイは僕の隣に腰を下ろし、砂だらけになった僕の頭を軽くはたいて髪から砂を払う。

優秀な従者と言うより、オカンか。



「奇遇だな。私もそんな事をしたいとは全く思わん。

馬車でお前が私に言った、魔王になるな。

これについては、私にもどうなるか分からんが。」



ルイは砂漠の砂を一掴みし、砂を握った手を上げると握った拳の下からサラサラと砂を落とし始めた。

粒子の細かな砂粒は、月の光に反射して金粉の様に僅かな風に流される。



「私自身で魔王にならない道を選べるのか、自我を失い、この砂の様に抗う事も出来ずに落ちて流れて行くだけなのか。」



これは……なんと返せばいいのだろう。


弱気にならないで!大丈夫だよ?頑張れ?

魔王になっちゃ駄目だよ?


よーく考えたら、魔王になっちゃ駄目って言ったけど


ルイは人間に扮してるだけで、魔王は魔王だし。

それは、この世界にルイが生まれた時から揺るがない設定だ。

クリストファー義兄様が変態でも変人でも王太子なのと同じで。


後はきっと……設定から外れたイレギュラーな行動をしているルイの気持ち次第?

つか、おこちゃまの僕が魔王サマに頑張れっつーのもどうよ。



「ナーニ、カッコつけてるんだよ。魔王サマ。

大人しく黙って流される様なキャラじゃないじゃん。

ルイは。

いっつも偉そうだし鬼教官だし、なのに変な所で世話ばかり焼くし。

もう魔王って言うよりオカンだよ。

その時点でもう、神だか運命だかに逆らってんじゃないの………ブハッ!!!」



ルイの手から僅かな風によりサラサラと流れる様に落ちていた砂が、いきなりブワッと吹いた少しばかり強い風により巻き上げられ、僕の顔面にバッサーッと掛かった。

砂かけばばあに攻撃されると、こんな感じかも知れない。



「アヴニール!!大丈夫か!?」



滅多に焦らないルイが、珍しく焦って声をあげた。

うわーっ!!って言いそうな位、焦った顔をしていた。

珍しい。


慌てた様に首に巻いたスカーフを取り、砂まみれになった僕の顔を拭う様にして砂を払い始めた。



「大…丈夫…でも…クチ…ん中…ジャリジャリする。」



「まさか砂を食ったのか?

目には入らなかった様だな。」



食ってないわ。

喋っていたから思い切り口に入っただけだ。

髪に絡まった砂をルイの長い指先が髪を梳かす様にして払い落としていく。

僕のまつ毛や眉毛に付いた砂も、スカーフで撫でる様にして払う。



「口に入った砂を飲み込むなよ。

腹を壊すからな。ペッて吐き出せ。」



いや、言われなくても飲み込まないって。

……つか、小さな子ども扱いすんなよ。



ルイの指先が僕の顎に掛かり、顔を上に向かされた。


…………顎クイじゃない?これ。

いやいや、顔の砂を払ってるだけだから。


顎を持ち上げた手の親指が僕の下唇に当てられ、口を開くよう促される。


何か………は、恥ずかしっ!


で、でも拒否したら「砂取ってるだけじゃん。ナニ意識しちゃってんの。自意識過剰じゃね?」って思われそうだし!



だ、駄目だ…前前世の記憶とダブって頭の中のルイが、絶対言わない言葉遣いをしている。



「口をゆすぐ水が無いが……。

そんなに大量には口に入ってないようだから腹を壊したりしないだろう。」



ちょっと限界だった。

意識しないようにと思えば思うほど意識せずにはいられない。

平静を装おうとすればするほど顔に出る。


ルイの手で顎先を持ち上げられ、下唇に親指が当てられ口を開かされた僕は、茹でダコの様に真っ赤になったまま、ルイを見上げるしかなかった。


ルイを見ているのが恥ずかしい。

顎が固定されていて顔をそむけられない。

かといって目を閉じたら、それこそキスをおねだりしてるよーな絵面になるじゃん。


恥ずかしさの余り、どんな表情をしていいか分からない。

表情筋が固まる。

中途半端に目を細めて情けなく眉を下げた僕は、ルイから目を離せなくなってしまった。



「アヴニール…………」



こんなもん、どうやって逃げたらいいんだよ。

分かんないよ、こんな事された事ないもの!!



切なげな表情をするルイの親指が僕の唇を撫でた。

ルイの顔が近付いても、強張った僕の身体は反応出来ない。

これが攻撃なら、完全無抵抗で受け止めるしかない状態。

逃げたら駄目だなんて、もう詰んでるなぁ。



ルイ…そんな表情初めて見たよ━━




ルイの唇が優しく僕の唇に重ねられた。

うん………それだけ。


それだけなんだけど………


僕の両手がルイの服を強く掴んでいた。

押し離したいんじゃなくて、縋るように。


顎を持ち上げていたルイの手が僕の頬を撫で、砂の絡んだ黒髪を長い指先で耳に掛ける。


優しく愛おしむ様に僕に触れるルイの手の感触に、思わず涙が出た。


どれ位の時間、唇を重ねていたのか分からない。


ゆっくりと唇が離れた時、僕はルイの腕を掴み小刻みに震えていた。






「なぁ……ルイ……お前さぁ……ふざけんなよ……」



ルイは無言で、僕の涙の付いた指先で僕の濡れた頬を拭う。

何を言われても受け入れると言わんばかりの、大人ぶった態度で。

静かに断罪の時を待つかの様に。

大人ぶって……ムカつく……



「弱気になんなよ!ルイはルイのままで居ろよ!!

僕の側に居るのをやめるなよ!!

オカンでもいいよ!魔王でもいいよ!!

何でもいいから!僕の敵にはならないでよ!

僕の味方でいて!いつまでも僕のルイでいて!!」



涙が止まらなかった。

ルイが抱える不安と同じ不安を、僕も心の奥底に抱えていたから。


ゲームが舞台のこの世界に、どれほど有能な神とやらが居るのか分からない。

前の世界を一度は経験した僕とルイが過去に飛ばされたのが、神の気まぐれなのか思いもよらないミスなのか


何らかのシナリオの一部なのかは分からない。


でも僕が持つ、この感情は誰にも支配されてない僕だけのものだ。


ルイを失いたくない。

今はただ、それだけだ。



「お前がそう私に望むのなら……

私は応えるしかあるまい。

私は、アヴニール様の従者なのだから。」



僕はルイの胸に抱き着いて、大きな声をあげて泣き続けた。

この姿のまま、子どもらしくワンワン声をあげて泣く僕をルイが片腕で抱くようにして頭を撫で続ける。


もう片方の手を砂地について、しがみつく僕を胸に抱いたままルイが空を見上げた。



「もうじき夜が明ける。邸に帰ろう。」



ルイの胸にしがみついたまま、コクリと頷いた僕を胸に抱いたまま、ルイが漆黒の大きな翼を拡げた。


この場に来る時は、荷物のように脇に抱えられて連れて来られたが、帰りは横抱き……姫抱きされた。


この、あからさまな態度の差が改めて自分達の先ほどの行為を思い出させる。



「ルイさんや……自分で飛べますが……」



「倒れるほど疲労した身体で無理をさせる訳にはいかん。」



地球人の喪女だった時には憧れていたお姫様抱っこだが……

いや、実際には何度かルイに似たような感じで抱っこされた事はあるんだけれど……


今、あの後のコレは恥ずかし過ぎる!


改めて、恋愛といったものの免疫の無さを痛感する。


お姫様抱っこという行為そのものと言うより、心が精神が大騒ぎをしている状態でのお姫様抱っこは、何かが色々ヤバい。


今まではここまで深く考えずに抱っこされていたのに、今はもう、ルイの香りや体温や呼吸、僕に触れる腕の感触とか…メチャクチャ意識し過ぎて…


無理をさせる訳にはいかんって言うけど…


心臓バックバクで、動悸激しくて余計シンドいって!





邸に到着した頃の僕は、ルイの腕の中で屍のようにグッタリしていた。



「思った以上に疲れた様だな…。

無理もない。

試験が済んだ後すぐに全力で私と戦ったのだ。」



いや…違うって……そうじゃないんだよルイ……

天然か?つか、動悸激しいの僕だけか?

僕のこの感情は恋なのか?

ルイの僕に対する感情は恋とは別モノか?


恋なんて、したことないから考えれば考えるほど分からなくなる。



窓から僕の私室に入ったルイは、僕の身体をベッドに寝かせた。



「邸の朝が始まるまで、まだ少し余裕がある。

朝食の時間まで深く眠るがいい。」



呟く様にルイが何か呪文を唱えると、一気に睡魔が押し寄せてきた。

まぶた重っ……あー寝ちゃう…………




僕、目が覚めたら……

ルイとどんな顔して会えばいーんだろ……。


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