表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/92

5話◆ふわふわ乙女ゲームの世界の裏に実は暗い世界。

僕の父上ローズウッド侯爵は、一年後のシャルロット姉様の学園入学に向け、僕の学園入学も前向きに検討して下さると言ってくれた。


僕の張った結界をその目で見て、ヒールを使える事も知ったのだから、まだ見せていない剣の腕は置いておいても、僕の実力を疑っているのではないと思う。

だが、諸手を挙げて飛び級入学を応援してくれてる感じには見えない。


貴族社会に生きる者はプライドが高い。

いくら僕が侯爵家の次期当主であり、王太子の婚約者の実弟であろうと、16歳で入学する者達にとって10歳の僕が同級生として入学して来る事に自尊心を傷付けられ、不満を持つ者も多く居るだろう。


「進学高校に小学生が入学して来たようなもんだしな…。

小学生と学力を比較される高校生の身になると、それは確かに申し訳無い気がする。」


うん。何だかたくさんの敵を作りそうだよね。

父上はそれも心配してくれてるのだろうな。


僕としては、姉様の同級生にヒロインさえ現れなければ、無理を言ってまで姉様と一緒に学園に入らなくても良いのだけど。


この世界には前世でのヒロインのステータスを引き継いでる僕が居るけど…

魔王を倒す者として、新たなヒロインは現れるのだろうか?


「この辺り、先に調べてみた方が良いのかな…。」


ヒラヒラと、僕の周りを蝶の姿をした岩ノリ……イワンが飛ぶ。

この正体不明の岩ノリの様な魔物は、黒いアゲハ蝶のような姿がお気に召したようだ。


「お前の存在も謎だらけだよ。

正体も不明だけどさ、何でこんなに僕に懐いてるのかが一番の謎だよね。」


頭に蝶の姿をしたイワンを乗せたまま、僕はベッドに入った。

あくびをしながらベッドに潜り、この世界と前世の僕の事を思い出す。



【レクイエムは悠久の時を越えて━━】


グランディナージア魔法王国を舞台とした、そんなタイトルの乙女ゲームのヒロインは、ストロベリーブロンドに、ピンクサファイアの瞳の美少女であるリコリス男爵家のご令嬢。


早い話がピンクの髪にピンクの目玉の美少女。


公式での名前は無く、僕がヒロインをしていた時はプレイヤー本人の名前である『未来』をそのまま使っていた。

未来・リコリス男爵令嬢だったワケだ。


孤児院で育ったヒロインは、実は貴族の血を引いていた的な設定で、13歳の時に男爵家の養女となる。


それから2年後。

16歳になる年齢のヒロインは魔法学園に入学し、魔法の腕を磨きながら女神の加護を得て、秘められた力を少しずつ解放させていく。

最後はこの世界を脅かす魔王を倒してパートナーと結ばれハッピーエンドとなる。


ゲームの主軸は5人の攻略対象者とロマンスを紡ぐ乙女ゲームとなってはいるが、ほんわりしたキャッキャウフフな世界の裏で、魔王が居て魔物が居て、人が苦しんでいたりする。

主人公は世界を救うために力を蓄え技を磨き、やがて魔王を討伐する存在となる。


で、自分はこの世界にヒロインとして転生されてしまった時に、魔王を倒してエンディングを迎えたら元の世界に戻れるのではないかと、必死で頑張った。

心を繋いだパートナーの持つ力がそのまま自分のモノになるから、必死でみんなと心を繋いだワケで。

そしたらハーレムルート確約されてしまったワケで……



「……………今夜は考えるの、やめよう。」


僕はそのまま眠りについた。



翌日


グランディナージア魔法王国の王城に出向いたローズウッド侯爵は国王陛下の前に行き、アヴニールについての報告をしていた。


「私の息子のアヴニールは、幼い頃からどこか達観した雰囲気を持つ大人びた子供ではありました。

賢い子だというのは前々から分かっておりましたが……学ばせる前から、魔法が使えるとは思っておりませんでした。」


「魔力が多く生まれつき魔法を発動させてしまう者は居るだろ?

幼い子が小さな火を手から放ってしまいボヤ騒ぎになる等、たまに危なっかしい事故も起こるだろ?」


国王の警護をしている近衛騎士であり国王の側近の一人、ゲイムーア伯爵が横から口を挟んだ。


「アヴニールは、魔法を使えませんでした。

いや…使えないフリをしていたのだそうです。それが先日…

姉のシャルロットが学園に入学する際に、自身も学園入学したいと飛び級入学試験を受けたいと申し出ました。

その際、初めて息子が私に魔法を使えるのだと見せてくれました。

それは強固で安定した造りの…大きな結界です。」


ローズウッド侯爵が重い口を開く様に報告をすれば、宮廷魔術師のサンダナが驚きの声を上げた。


「結界!?侯爵のご子息って、確かまだ小さかったよな?使えないフリをしていたって事は、魔法の師も大したの付けてないだろ?

まさか独学で結界の張り方を学んだってのか?」


「ローズウッド殿、そなたのご子息は確か9歳でしたかな?

姉君と一緒に入学となると、まだ10歳ですか。

……その才能は学園にてより磨きを掛ければ国の大きな力となり、復活の兆しが見える魔王に対抗する力ともなりますな…。

しかし、16歳の者と共に学ばせるとなると……僻み、妬み、やっかみなど、敵を多く作るぞ。」


宰相を務めているマーダレス侯爵が渋い顔をしてウウムと唸った。


「……今日、ローズウッドが来る時間に合わせてこの場に皆を集めたのには理由があってだな。

実はかなり前から、息子のクリストファーに学園に中等部を設立するよう言われていたのだ。

どうだろう、これを機会に学園に中等部を設けるのは。」


言いにくそうに目を泳がせながら言う国王に、皆の視線が集まる。


「この…親バカが!!陛下、またクリストファー殿下にオネダリされたんだな!?

シャルロット嬢とアヴニール様が側に居ないとヤダとか何とか殿下に言われたんでしょう!!」


宮廷魔術師のサンダナがクワッと眼を見開いて言えば、騎士のゲイムーア伯爵も同意するようにコクコクと頷いた。


「いや、だがこれは悪く無い話だぞ?

国の財政を圧迫しなくはないが国の未来を思えば、シャルロット嬢とアヴニール君と過ごす避暑地の別荘が欲しいと言われるよりは、よほど建設的な話だ。

来たる日に備え、戦力を多く用意するなら早く育てた方が良い。

早く就学すれば才能を持つ幼い者の力をそれだけ早く伸ばす事も出来るのだからな。」


宰相のマーダレス侯爵が興奮気味に賛成意見を述べる。

魔王復活までに、少しでも多くの対抗出来る術を用意しておきたい今、クリストファーのワガママから出た要望は採用される事になった。


━━…シャルロットと言うより、アヴニールと一緒に居たい、が本音だろうな…。━━


国王とローズウッド侯爵の二人が心で呟いた。




父上が王城に行って留守の間に、僕は王都の街中にあるリコリス男爵邸を見に行く事にした。

貴族の子供が街中を一人で歩くなど、誘拐してくれと言っているのと同じだ。

だから誰にも言わずに内緒で行く。姿を隠して飛んで。


勉強中を装い自室の内側から鍵を掛け、姿を消して部屋の窓から空に飛ぶ。


黒いアゲハ蝶を従えて、空中からリコリス男爵邸を探しながら飛行する。


「ヒロインだった時は前半ほぼ学園で過ごして、学園から見送られて討伐の旅に出てるから、もと実家って言っても僕が住んだ事ないし馴染み無いんだよね。」


それでも、ヒロインに転生した時に既に頭に入っていた実経験の無い『それまでの記憶』を頼りに、僕はリコリス男爵邸の上空に辿り着いた。


「ファイヤー!ファイヤー!」


王都のローズウッド侯爵邸よりは小さい邸の庭に、全身ピンクの少女がおり、一人で魔法の練習をしている。

かなり大声で魔法を使っているが、頑張ってるぞアピールだろうか。


僕はその様子を少し離れた位置から姿を消したままで観察した。


「ピンクの髪に、どピンクのドレス……

イチゴの菓子みたい。何だか凄いな。」


僕がヒロインになった時は学園の入学式。

学園に制服は無いから私服姿だったヒロインは、もう少し大人しい色合いのドレスを着てその場に立っていた。

だから僕の自我が目覚めるまでのヒロインは、割と謙虚で控え目な性格をしていたのだと思う。



そう考えたらあのヒロイン、中身がもう既に別モンじゃないか。



「高位の貴族令嬢や子息が通う学園で、下級貴族の男爵令嬢が派手で目立つ姿をするなんて。

もう、苛めて下さいって言ってると同意だね。

苛められたいって事だよな。」


やる気満々なイケイケオーラを発する彼女の中身は、どんなタイプの人かは分からないけれど、間違い無く転生者だ。

と、なると………シャルロット姉様を悪役令嬢にさせる気満々て事だよね。


「あのやる気満々さを見ていたら、絶対ハーレムルート狙いだ。

クリストファー殿下以外と結ばれてくれるならいいんだけど。

殿下以外のルートなら姉様の国外追放はなくなるし。」


父上は僕が姉様と一緒に学園入学する事を認めたくないみたいだったけど、試験さえ受けてしまえば僕なら必ず合格する。


「うん、父上には悪いけど無理矢理でも試験を受けて入学してしまおう。

侯爵令嬢である姉様を国外追放なんて不名誉な事にさせない為だもの。」


今後の方針がまとまった事で、僕は鼻唄まじりに帰宅した。

帰宅すると僕の部屋に父上が居て、窓から帰還した僕と目が合ってしまった。

心の中で「げっ!」と声が上がる。


「ち、父上……」


「アヴニール、まさかお前は飛空魔法も使えるのか?

……どこまで規格外なんだ、お前の魔力は。

話しがある。座りなさい。」


自室に降りた僕は、ずっと一挙手一投足を見られながら、父上の向かい側に置かれた椅子に座る。

膝の上に握った手を置き、何だか日本人だった時の面接を思い出す。


「お前がなぜ、シャルロットと一緒に学園に入りたいのか分からないが…。

今、我が国では多彩な才能を若い内から育ててはとの話しが出ていてだな…来年度から、魔法学園に中等部が出来る。

中等部は13歳からの入学となるので、どちらにせよ入学するならアヴニールには飛び級入学試験を受けて貰う事になるが。どうだろうか。」


「中等部の校舎は高等部と離れてますか…?」


学園に行けたとして姉様の側に居られなければ意味が無い。


「いや、校舎は同じ学び舎を使う。

学園は全寮制だから先に寮を完成させるらしい。

私は知らなかったのだが、既に敷地内に中等部用に寮を造り始めているとの事だ。」


早いな!もう寮を造り始めてる?

いつから学園に中等部をなんて、そんな事決まってたんだろ?


でもおかげで姉様と一緒に学園に入学するのは何だか上手くいきそう。

…なんだけど、僕がヒロインだった時には学園に中等部なんて無かった。

本来のゲームの内容から色々とズレてきていて、それが僕にはとても不安に思える。


この世界は、魔王に滅ぼされる未来に向かっているのではないかと。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ