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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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49話◆ままならない気持ちを抱え

ルイがローズウッド侯爵邸に戻った頃には空も白み始めており、夜が明けてしまった。


まだ早朝ではあるが、やがて邸の者達が起きて朝の支度を始める。


ルイは結局、アヴニールの魔力を抑える方法とやらを手に入れる事は叶わずに邸に帰る事となった。



「魔王である私に不可能な事が有るなど…何とも不甲斐ない事だ。」



フッと自嘲気味に微笑したルイではあったが、教育係としての責任感と魔王としてのプライドの高さが相まって、それなりに気が沈んでしまっていた。


何となくアヴニールの顔を見るのがはばかられ、ルイはアヴニールがまだ寝ているであろう事を理由に、空から舞い降りてアヴニールの部屋には近付かずに窓から自室に入った。



「アヴニール……。」



「ルイ、おかえり。

また魔王城に行ってたんだな。」



ルイの部屋で射し込む朝日を受けつつ、眩しそうに目を細くして窓の前に立っていたアヴニールは、少しばかり不機嫌そうに唇を尖らせる。

部屋に入ったルイが朝日を遮る様に薄手のカーテンを締めてベッドに腰掛け、前髪を掻き上げる様に額に手を当て苦笑した。



「フフッ見張られている気分だな。

野暮用があっただけだ。

お前が気にする様な事は何も無い。」



「ルイはさぁ、何でもかんでも僕の事を心配し過ぎなんだよ。

従者としての気概を見せてくれるのは有り難いけど、保護者じゃないんだからさ。

どうせ僕の事で何とか出来ないかって方法を探しに行ってたんだろ。」



図星を指されてルイが黙り込む。

アヴニールは腰に両手を当てて溜め息をついた。



「あのなぁ……あまり魔王城に行って欲しくないんだ。

ルイは人間のフリをしているけど魔王なんだから。

何がきっかけで、ルイの魔王モードが発動するか分からないじゃないか。

ルイが魔王としての自分に目覚めて人類の敵となったら……

僕は全力でルイを倒すしかなくなる。」



「ハッ、私を倒すだと?馬鹿げた事を言うもんだ!

いまだ稽古で私を倒せた事も無いお前が私を倒すだと!?

そんな事が出来ると思うのか!この愚か者が!」



売り言葉に買い言葉の様な流れで、今日一日が思い通りに事が運ばなかった苛立ちのせいもあり、ベッドから立ち上がったルイが思わずアヴニールに対して声を荒らげた。

ルイの珍しい反応に、一瞬目を丸くしたアヴニールだったが、キッとルイを見据えて言葉を返す。



「出来るか出来ないかは関係無い。するんだよ。

全力で。ボロボロになっても。

たとえ僕が死ぬ事になったとしても。

僕は姉様の居るこの世界を守ると決めた。

だから、ルイが魔王になって人間を滅ぼすつもりなら僕は命をかけてルイと戦う。」



立ち上がったルイを見上げ、ルイの目を真っ直ぐ見詰めるアヴニールの空色の瞳に、表情を歪めたルイが背を向けた。



「私がお前を殺すとでも言うのか?

その、魔王モードとやらになった私がお前を。

それが私に与えられた役割なのか?

それが私の魔王としての使命なのか?

ふざけるな!!!」



背を向けたルイが、ブワッと背から怒気を放った。

表情が見えないものの、ルイが激昂しているのは部屋を満たす空気で分かる。

というより怒りのオーラが半端なくて息苦しい位だ。



「僕が負ける前提!?

いや、だから分からないんだって!

何がきっかけで、どうなるかが!

ルイだって、初めて会った時は僕…というか、聖なる乙女を倒す気満々で現れたじゃん!

乙女でなくて、ワッパだったから何でや!?みたいな感じになって、有耶無耶になったけど!

僕達は、元々が戦う相手だったのだから!」



朝っぱらから珍しくキレているルイに、困惑したアヴニールが必死になって言い繕う。

自分が口にした言葉が原因とは言え、いつものように軽く流されると思っていたのだが、ここまでルイが激しく反応するとは思わなかった。



「私は、神の手の平で弄ばれるだけの駒では無い!

与えられた役割とやらを、私の意志無くして全うする気は無い!

高い位置より見下ろす者よ、私を舐めるな!!!」



ただ、その怒りの矛先が自分に向けられていない事を知ったアヴニールは、そっとルイの背後に近付きその背中をポンポンと軽く叩いた。



「分かる、分かるよルイ、落ち着きなって。

魔王サマも大変なんだよね。

僕にも魔王サマに与えられた役割とやらが、具体的にどんなものか分からないから…何とも言えないけど…。

過去を一度経験している僕達が、もう一度同じ時間を

魔王ルイは眠りから覚めた状態で人間に扮して

僕は全くの別人となって

やり直しさせられてる理由が分からないんだけれど。

僕は今の魔王ルイとなら、人類が魔族と敵対しない未来があると信じている。

……だからルイも悪い魔王になら……ないよう…!?」



小さなアヴニールの身体が、ルイの腕に抱き締められた。

頭と背中に回されたルイの手の平にグッと力が込められており、ルイの胸に押さえ付けられた状態で、その腕から抜け出す事が出来ない。

ルイの顔はアヴニールの肩の上にあり、熱く荒い息遣いが耳元で聞こえる。



「るー……ルイ?ルイ?ちょ、ちょ、ナニナニ?

ど、どうしたんだよ!」



「………私は、お前を倒したりしない………。

まして、その命を私の手で奪うなど……。」



「そ、そうだね…ルイは僕の従者だし、僕の師匠だもんね!

だったら、やっぱり魔王城に行くのは控えようよ!

どこにフラグあるか分からないし!」



アヴニールは、ルイに囚われた檻から抜け出そうとモゾモゾと身体を捩りながら逃げられる隙間を探す。


何で急に、こんな状態に?まさかどこかにハニワ持ってんじゃないだろうな等と勘繰りつつ、アヴニールが一瞬の隙を見付けてシュルンっとルイの腕から逃れた。



「じゃ僕!部屋に戻って学園に行く支度をするんで!

ぅわ…ッ!!」



逃れた際にルイに左手首を掴まれ、アヴニールの小さな身体がクンとルイに引き戻された。


そのままルイの胸に再び抱きとめられたアヴニールは、顎先を持ち上げられ、顔を上向かせられた。

アヴニールの視界に影が降り、浅く触れる様に唇が重ねられる。



「ッッ!?………ルイ!?ちょ…!待って!やめろ!」



焦った様に思わずルイを突き飛ばしたアヴニールだったが、いつものように無神経なルイに対する怒りや苛立ちより驚きが先立つ。


普段とあまりに違うルイの様子を心配したアヴニールは、ルイの顔を少し距離を取りながら覗き込んだ。




「な、なんだよルイ……お前、おかしいよ…?」




「…………アヴニール、お前が好きだ…………」




「は…?はい!?ホントにどうしたんだよー!!

ナニ、これも試験!?もう始まってんの!?

メンタルの試験!?どーゆーこと!?」




混乱したアヴニールは、ルイの前でオロオロとしだしたか、ルイがフウッと大きな溜め息をついてアヴニールの肩に手を乗せた。



「混乱しておりました。大変申し訳ございません。

もうじき、邸の皆が起きる時刻です。

アヴニール様は、一度部屋にお戻りになって朝の支度を…。

私も、学園にお送りする準備をさせて頂きます。」



「えっ!?え…あ…ウン…ちょ、ちょっと!押すなよ!

じゃ、じゃあまた後で!」



ルイにグイグイと強く肩を押されて部屋からポイと追い出されたアヴニールは、廊下にポツンと立ったまま暫く呆けていた。



「………はぁ?結局………何だった……?好きって……?

ルイいわく、オスのガキに対して本気で言ってんの?

いやいや……ルイの場合、好きの定義が広いからな。」




アヴニールはなるべく感情を動かさない様に努めた。

意識すれば、他の事が考えられなくなる。

それが今は怖い。



それはルイも同様に━━━━




「何をしているんだ私は……

よりもよって今から試験だという、こんな日に……

……ジェノのせいだ。」



抑える事が出来なかった衝動を、ジェノのせいにした。









ルイが御者をする馬車に乗り、学園に到着した僕は学園の試験会場に向かった。


馬車の御者をしているルイとは、今朝の事があってお互い何だか気まずく、一切会話は無かった。

馬車を降りる際に、一言「ご健闘を」とだけ言われた。


今は、今朝のルイの行動もルイの言葉も深く考えないようにしている。

思い出し掛けるだけで心臓がバクッと大きな音を立て膝がガクガクと揺れ動くので、身体に掛かる負担が半端ない。

とにかく、今日という日を無事にやり過ごすまでは思い出してはいけない。




筆記試験の試験会場には、当たり前だけど僕より年上の人ばかりが居た。


高等部、姉様やリュース、ニコラウスと同級生として入学するつもりの、中学生みたいな位の年の子も居る。

これは、毎年数人受験者がいるようだ。


今年は、新しく出来た中等部に入学する為に試験を受ける、僕と同じか少し上位の小学生みたいな子たちも数人いる。


集まった受験者は三十人程、意外と多い気もする。

みんな、何らかの能力に特化しているのだろうか。


合格者の枠があるだろうし全員が受かるワケではないのだろうけど、ま、落ちた所で12歳以上であれば普通に春から通えるんだし。

僕は落ちたら来年、10歳で再受験だ。



「目立つな。僕は。」



誰よりも幼く、小さい僕に皆の視線が集中する。

そうだよな、小学3年生位で中学の試験受けに来てるみたいなモンだしな。

だが、手を抜く気はない。

一応、国王陛下の陰謀で、特待生扱いで入学が決定してるんだけど、学園側に納得させるだけの力量を見せとかないと。

今の僕は、父上が国王陛下に媚を売って息子を優遇してもらったのだと思われている。



指定された席に着くと、テスト用紙が配られた。


筆記試験はとりあえず現在の知的能力を見るのが目的で、実際には試験年齢に達してない者も居るワケだし、点数の良し悪しはさほど合否に影響は無いとの事。

極端な話をすれば、無回答でも良い。


って、僕は満点パーフェクト出すけどな。


ヒロイン時には、高等部でも一応首席だったからな。

舐めんなよ。



「はい、出来ました。」



終われば挙手をして、テスト用紙を席に置いたまま部屋から退出するのがルール。

僕は、他の受験生の席の横を通って、教室の入口に向かった。



「チッ、頭でっかちのガキが。」



「実技に参加するようなら泣かせてやる。」



ボソッと聞こえた声に、思わず笑みが溢れる。

そうか、僕は勉強が出来るから受験をしに来たのだと思われているのか。

僕をビビらせて棄権を促して合格者の枠を空けときたいって事かな。

だから、早くもマウント取りに来てやがるのか。

この、ガキンチョどもが。



ふふふ………ハハハハッ!

楽しみだなぁ、実技!!

こっちがお前らを、泣かせてやるわ!!







「どうしたんです?

えらく、しょぼくれてるじゃないですか。」



学園の敷地内、馬車の待機場所の御者席にてアヴニールを待つルイの前に、ルイと同じく従者のような格好をしたジェノが現れた。



ルイは馬車の御者席から下を見下ろし、不意に現れたジェノに不愉快極まりない表情を見せる。



「何の用だ。それに、何だその格好は。」



「人前に現れるのに、不自然ではない格好をしただけです。

それに、昨夜の思い詰めた陛下のご様子から、今日の試験が心配になりまして…。」



ルイはジェノの存在を無視し、無言で御者席でゴロッと横になった。



「随分と…ご機嫌がよろしくない様ですが…何かございました?

そう…例えば、あのクソガキと何か………」



「勘繰るのはよせ!!不愉快だ!!」



御者席に横たえた身体を起こし、大声をあげたルイにジェノが頭を下げた。



「出過ぎた事を申しました。お許しください。」



━━わっかりやすっ━━



ジェノは思わずニヤついてしまった。



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