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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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48/96

48話◆言い表せない恋という病の症状。

僕は……この世界に生まれて9年を過ごした。

…前々から…ヒロインとして、この世界に立った時から…

ずっとずっと思っていたんだ………

なぜ、この世界は………




可愛いスイーツは充実しているのに男クっサイ、ガサツ飯は少ないのかと。


乙女ゲームだからか?

キャッキャウフフだからか!?

いや中にはどう見たって、キャッキャウフフが似合わない奴らも居るだろうが!


カツ丼食いたい!

唐揚げとチャーハンをラーメンすすりながらがっつり食いたい!


小腹が空いたら、ケーキをお食べって!?

はぁ!?マリー・アントワネットかよ!







━━そびえ立つ山の頂きにある、深夜の魔王城。



アヴニールの入試を明日に控えたルイが我城を訪れていた。



「ジェノ!ジェノは居らぬか!」



扉から玉座へと敷かれた絨毯の上を玉座に向かって早足で歩きながら、ルイが巨城全体に行き渡る声をあげ側近であるジェノを呼ぶ。



「ハッ!私はここにおります!!

陛下のお側に!!」



ユニコーンが変化した白髪の青年ジェノが風と共に姿を現し、玉座の前に立つルイの眼前で床に膝をつき頭を下げかしずいた。

ルイの前にかしずいたジェノは、訝しげな表情をしながら鼻をスンスンと鳴らし、下げた頭を上げる。


玉座の間には、初めて嗅いだ何とも言えぬ香ばしくも食欲をそそる良い香りが満ちている。



「陛下……初めて嗅ぐ怪しげな香りが致しますが……

これは一体……」



「気付いたかジェノよ。

我が主アヴニールからの施しだ。

『鳥肉のカラアゲ試作品』なる物を持って来た。

ありがたく受け取り、皆で分けるが良い。」



ルイは何も無い空間から大皿に大量に載った鳥肉の唐揚げを取り出した。

鶏肉ではなく鳥肉。何の鳥かは分からない。

だが、その香りは肉を喰らう事が可能な者の胃袋を誘惑し、鷲掴みするかのように強く刺激した。


鼻腔から到達した香りの情報に脳が反応。

ジュワッと大量の唾液が口の中に分泌される。



「………陛下からの御厚意、ありがたき幸せに存じます。ですが…この茶色い腐りかけの木の実のような大量の塊…。

前回のハニワに続き恋慕する相手から、何と色気の無いモノを贈られてるんですかね、陛下は。」



ジェノはボソボソと呟きつつ受け取った大皿を魔物の部下を呼んで渡し、それを片付ける様に指示を出した。



「陛下から下賜された品だ。

私が戻るまで誰も触れてはならん。

私より先に勝手に食した奴は処刑する。

お前!顔近付け過ぎなんだよ!

ヨダレ垂れそうな顔で皿を覗き込むんじゃない!」



香りに釣られて城の魔物が集まり始め、ガヤガヤと玉座の間の入口が騒がしくなった。

初めて見る食べ物に皆が興味津々となり、野次馬の人だかりが出来てしまった。



「………皆に喜んで貰えたようで何よりだ。

感想も聞きたい所ではあるが、ゆっくりもしておれんのだ。

今日はジェノに急ぎの用があって来た。

ジェノ、人払いを。」



「ハッ!ハイッ!陛下のご命令とあらば、何なりと!」



カラアゲに気を取られていたジェノは、慌てた様に玉座の間から部下を全員追い出し、広い空間にはジェノとルイの二人きりとなった。

先ほどまでガヤガヤと騒がしかった玉座の間にしぃん…とした静寂が訪れる。



ジェノは詫びたとは言え、前回のルイの帰城時に魔王陛下に対して暴言を吐いた事などもあり、ルイに対してまだ緊張感が解けてはいない。

その緊張感が、静寂の中ではより強く心臓を締め付ける。

急ぎの用とは、一体どのような……。

私はやはり、処罰を受け………。



「ジェノよ、元が聖獣でもあるお前はまじないが得意であり、魔族となった今は呪いも得意であったな。

……お前の使用する呪いの中には、魔力を弱くする呪いもあったと記憶しているが……。

それをアヴニールにかけろと言ったら、可能か?」



「………はぁ。

レジストされなければ、出来なくは無いかと……。

なぜですか?」



あのクソガキの魔力を削いで弱体化させた後にアイツを叩き潰す!なんて事を考えて下さってるワケが無い。

だったら、何の理由で?

恋慕の情を持つ相手に呪いをかけろなんて。

ジェノは不信感いっぱいの表情でルイを見た。


ルイはジェノの訝しげな視線に気付き、ボソボソと口を動かした。



「我が主アヴニールは……魔力が強過ぎて、微弱な攻撃魔法というものが下手なのだ。

明日は試験だというのに……

私の教えが至らなかったばかりに、いまだ小さな炎を灯した後の攻撃が、的に小さな炎を当てるだけでは済まずに支柱ごと的を崩壊させてしまう。」



口惜しそうに拳を握るルイを見たジェノは、ルイに対して緊張感を持ち続けるのもアホらしくなり、人差し指でカリカリとこめかみを掻きながら、『あーソウデスカ』と、一旦は視線をずらした。


が、ジェノは何かを思いついた様にルイの前に膝をついて胸に手を当てルイを見上げた。



「恐れながら陛下…確かに私はクソガ…あの少年に、その呪いをかける事が出来ます。

呪いは口から体内に浸透させる方法ですが、呪いはいつか解かねばなりません。

そして、その呪いは術者の私にしか解けません。

それでも、良いのですか?」



「………なんだと?」



ルイの眉がピクリと動き、表情が変わったのをジェノは見逃さなかった。



「その呪いは、神聖魔法の解呪も効きません。

解呪は、術者の私が行うしかないのです。

我々魔族の使う……呪いを噛み殺す……あの方法で。

それでも構わないのですか?


私があのクソガ……

少年と唇を重ねる事になりますが。」



ジェノがそう言葉を放った刹那、ルイが放つ強い魔力により、広い玉座の間が一瞬で凍り付いた。

床は全面、高い屋根を支える太い支柱も氷に包み込まれてしまい、玉座の間で霜を纏ってないのはジェノとルイとルイの玉座のみとなった。


大きなツララが遥か高い天井から伸びて、その先端を一斉に狙い定めた様にジェノへと向ける。



「陛下!陛下!!待って下さい!

どんだけ、私に殺気を飛ばすんですか!

無自覚での嫉妬がえげつないですって!!」



真っ赤に染まった目を爛々と光らせたルイは、背から大きな黒い翼を出して拡げ、強い冷気を羽ばたきで起こした強風に乗せてジェノに向かって飛ばして来た。

ジェノの肌がパリパリと凍り付き始める。

ジェノは両腕を顔の前に出して冷気の暴風から顔を守りながら、ルイに対する畏怖よりも苛立ちをあらわにした。




「陛下!私とクソガキが口付けるのを想像しただけで、こんなに怒りをあらわにするなんて、陛下はあのクソガキが好きなんですよ!

つか、ソコいい加減認めてくれませんかね!」




「私はアヴニールを好きではある。

そんな事を今さら改めて言ってどうする」




「恋心を抱いてると言ってるんです!

あんなオスのクソガキに!!

ただのお気に入りみたいな程度の好きと一緒にしないで下さいよ!

何で、こんな事を私が陛下に教えてやらねばならないんですか!

馬鹿馬鹿しい!」



イラッとしたジェノは、玉座の間であるにも関わらず、自身の周りにドンッと火柱をいくつか上げ、ルイからの凍気を遮断した。



「カラアゲが好きーってのと同じレベルで好きなガキのせいで処刑とか冗談じゃないんですよ!!

陛下のソレはもう、恋です!恋してるんです!

好きの度合いが半端ないぐらい好きなんです!

嫌なんでしょ!私とあのガキがキスすんの!

いい加減、認めろ!!この初恋バカ!!」






再び訪れる、静寂の空間。


火柱が無くなり、凍気の暴風も収まり、今になってジェノがたじろいだ。

敬愛する魔王陛下に忠僕の自分が再び暴言を吐いた事を猛省しつつも、こんな口を利いてしまった自分が信じられないと困惑の表情を浮かべた。


思わず、また呪いのハニワが自分の身に触れているのではないかと辺りを見回してしまう。




「………恋…とは、何だ。」




拡げた大きな翼を、しおしおと萎れた花の様にダラリと玉座の下にまで下ろしたルイが、眉間に人差し指の背を当てて苦しげな顔を見せた。



「恋……は、私自身にも経験がありませんし……。

そもそもが言葉で言い表せて、人に教えられるような物ではありません。

ただ、陛下のクソガキに対する好きって気持ちは、お気に入りの域を遥かに越えているように見えます。

嫉妬で殺されるかと思いましたもん。」




「恋……それがどういったものか分からん……。

分からんが……アヴニールが私以外の誰かと触れ合うと想像しただけで……身を焦がす様な怒りが……」



「どういったものかまでは分からなくて良いと思います。

恋のカタチってのも、人それぞれだと人間どもは言っておりますし。

陛下の中にある、あのクソガキに対してこれだけは誰にも譲れないって嫉妬深さも恋するがゆえの…ッッヒッ!」



知ったかぶって得意気な顔をして教授している気になっているジェノの肩に、ポンとルイの手が置かれた。




「へ、陛下……?まだ、何か…お怒りで……?」




「お前はさっきから、我が主をクソガキ、クソガキと何度も言ってくれたが………

お前に、そんな親しみを込めた呼ばれ方をする様な仲では無いだろう…?

お前はアヴニールの何なんだ。」




「親しみ!?クソガキって呼び方が親しみ!?

アイツの何なんだって、何でもありませんよ!

アイツが絡むと、陛下の思考がおかしくなる!!」



ジェノは、改めてルイの中を占めるアヴニールの存在の大きさを知った。

これは、アヴニールを将来的な敵として排除するよりも、戦力として魔王軍に引き入れた方が良い━━そう考えた。

が…………



━━頭の中に漠然と浮かぶ、この先にある人間どもと魔族の全面戦争の未来……。

それは、本当に起こり得る未来なのか…?━━



ジェノは自身の頭にこびりつく、根拠が無い必然的な未来に疑問を感じた。




「ハッ!!陛下、そんな事よりも明日の試験の対策を講じないと!」



「それは、そうだが!

呪いが使えない以上、他の案を探さねば!」



「陛下、そもそも呪いの力で試験に挑むとか不正行為じゃありませんか?

そーゆーの嫌うでしょ、あのク…少年ならば。」





魔王城でルイが頭を悩ませ奮闘している事を知らないアヴニールは、早々に明日の試験の支度を済ませて夜空に浮かぶ月を見て呟いた。



「現実逃避してイワンと魔物討伐行ったり、その魔物で唐揚げ作ってみたりしたけど…。


的に当てるのが無理なら別にもういーや。

学園さえ破壊しなければ、的ぐらいぶっ壊したって構わんだろ。」



開き直ったアヴニールは、そのままベッドに潜った。



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