47話◆ハーレムルート確定しても恋愛経験は無し。
そっか…クリス義兄様や他の攻略対象キャラの皆に、強い好意を持たれる事を、鬱陶しいと思っていたけど……
よく考えたら、それは僕を好きなんじゃなくて…
僕の中にある、前世のヒロインを好きなだけなんだ……
なのに僕、勘違いなんかして……
なんて馬鹿なんだろう。
でも僕だって…来たくて、この世界に来たワケじゃなかった。
25歳の喪女の自分が、ヒロインなんて分不相応な美少女に生まれ変わりたくなんか無かった。
恋愛経験なんて殆ど無いのに、ゲームの通りにイベントを進めたら、いつの間にか好きだと言われるようになっていた。
それを愛されていると勘違いするなんて、何て馬鹿なんだ。
自分自身の気持ちだって彼等に対して動いても無いのに。
キャッキャウフフなこの世界は、自分には居づらい世界だと思った。
だから魔王を倒してエンディングを迎えて元の世界に戻りたいって頑張ったけど、結局は戻れず。
再び同じ世界で転生させられた上に、今度は美少年とか…何だソレ。
しかももう、この姿で9年も生きている。
「今さら、戻れたってさー!
自分を僕とか呼んじゃう、ええ歳こいた喪女が爆誕するだけなんだけど!!
かと言って、この世界で男としての人生をやり遂げろって言われても、無茶ぶりが過ぎるんだよ!」
バキッ!!!「ほわー………」
僕の尻の下で、断末魔の声がした。
ハニワだ。
昨夜、デスクの上に置いたハニワが転がり落ちて椅子の上にあったらしく……
僕はそのハニワの隣に座っていたようだ。
しかも力んで声をあげたせいで壊れたっぽい。
……僕の尻にハニワがくっついていたって事か。
何だかエロいな。
「自分で作ったアイテムに呪われるとは思わなかった…。
呪いの効果自体は弱いクセに掛かりやすいとか…。
ハニワは意外に侮りがたいアイテムかも知れない。」
そして自分はネガティブになると、ウジウジした挙げ句にブチブチ文句を垂れ始め、最終的には本音をぶちまけながらキレる人間である事を知った。
「はー……ったく。
前世の事も、みんなが僕には興味無いかも知れない事も、暗くなるからなるべく考えないようにしていたのに思い出させるなんて……」
ハタと視線を感じて振り向けば……
………ルイが僕をじーっとガン見している。
そう言えばコイツ、部屋に居たんだった。
ハニワの呪いを受けた僕のネガティブな愚痴ばかりの本音から、何か思考を読み取ったらしい。
何をどの位?どの辺まで?
僕が……ヒロインには程遠い喪女だった事も…バレた?
バレても別に……いやでも何か…バレたくない気も……
僕をガン見するルイは何を知り、どう思ったのだろう。
ルイに対してどういう態度を取って良いか分からなくなった。
声を出さなくなった僕より先に、ルイが口を開く。
「……恐らくお前は……大きな勘違いをしている。
お前の前世とやらが、あの少女だったからといって、それが皆がお前を愛でる理由にはなるまい。」
━━いや……それが、きっとなるんスよ。
それがゲーム補正っつーもんなんです。
一緒に仲良く旅していた時の「好きだぁ」って感情を装備して僕の前に立ってやがるんですよ、アイツらは。━━
僕は無言で、頭の中でルイへの返事を語り出した。
思考の中から単語だけを読み取るルイが、僕の言いたい事をどこまで理解したか分からない。
でも口に出して説明するのもアホらしいと思ったんで。
「だったら、前世のお前と共に過ごした時間などが無い私の感情までも疑うな。
私は、今のお前しか知らないのだから。」
━━ルイの感情?ソレなんすか?口説き文句ですか?
自分はオスでもガキでも構わない位に今の僕を好きだって言ってんのと同じっすよ。
BLすか?この世界に、そんな要素は無いハズですが。
ある意味、ルイはただの変態ですな。━━
思考の中での僕は、今更だけど相当に口が悪い。
9年もお貴族様の坊っちゃんをやっているのに、素の僕は地球に居た頃の自分のままだ。
女だったけど、女らしさの欠片も無い……
大人としても、コレはどうなんだ……
「だったら、そうなんだろう。
変態でも結構だ。
お前を気に入っているのは事実なのだからな。」
「はぁあ?
シレッと、そんな事を言うんじゃないよ!ルイ!
お前っ僕が言う好きの意味を分かって無いだろう!
だから、そんな簡単に言えるんだよ!!」
僕はバン!とデスクを強く叩いた。
ルイに思わせぶりな言い回しをされて、「ハイハイ」とスルー出来ずに思わず動揺した自分が居る。
今までも、ルイが僕に見せる執着を恋慕ではないかと何度も勘違いしそうになった。
その都度それが恋情ではなく、お気に入りの物に対する愛着に近いものだと知る。
それに対して苛立つ自分が居る。
なぜ苛立つのかを分かりたくなくて、僕は更に苛立ちを募らせる。
「ルイの言う気に入ってるや好きは、お気に入りの剣や、好きな食べ物とかと同等だよな!
そんなもんと同じ扱いで僕を慰めた気になってんじゃない!
僕をからかってんのかよ……お前ふ……!!」
ふざけんなよ!と言いそうになった。
よくよく考えたら、ふざけた事を考えていたのは自分だ。
前世や前前世がどうであれ、今の自分は男だし幼い子供だ。
常識で考えたら、大人の従者と幼い男の主人が恋愛関係になる可能性はほぼ無いし、仮に好きになったと言われた所で………どうすんだ?僕。
それに……ルイは魔王だ。
魔族はゲームでの設定上、人間を見下している。
その魔族の頂点に立つルイが人間の少年である僕に惚れたとしたら、ゲームの中ではそれはもうただのバグだ。
この世界では、僕の存在自体がバグみたいなモンかも知れないけど…。
改めて思う。
僕が、この世界に生み落とされた意味はなんだろう。
僕は語る事を諦めて声を小さくした。
ルイから目を逸らしてうつむく。
「なんでもない………忘れて…」
「にゃーん」
僕の足元でうずくまっていた黒猫姿のイワンが、言葉を詰まらせて項垂れた僕の膝に乗った。
僕の顔にイワンが顔を擦り寄せ、落ち込んだ様な僕を慰める様に甘えた仕草を見せる。
イワンは、僕の心情を割と察してくれる。
ルイの半身と言われてるけど、イワンはまるで僕の半身みたいだ。
僕はイワンを抱きしめ、ふわふわな毛に覆われた身体に隠す様に顔を埋めた。
「…………アヴニール……」
ルイが突然、僕の膝に乗った黒猫イワンのうなじ部分を掴み、僕の膝から引き剥がしてイワンを床に投げ捨てた。
イワンは床に落ちる前に蝶に姿を変え、ヒラヒラ飛んで僕の頭にとまる。
「な、なにやってんの、いきなり…!?
自分の相方に。」
「……っ……分からん……」
自身の手を見ながら一瞬声を詰まらせたルイに、困惑の表情が浮かんだ。
本当に自分でも今の行動の理由が分かってないようだ。
自分の半身をいきなり乱暴に扱うって、なに?
僕の頭の中も困惑気味で、意識せずに色んなシチュエーションや単語を大量に頭に浮かべてしまったようだ。
ルイが僕の思考の中から、単語を拾ったようだ。
「そう……多分……今、私の中に浮かんだイワンに対する感情は……アヴニール、お前の頭に浮かんだ言葉を借りるならば……一番近いのが……
この、泥棒ねこが………」
え?まさかの昼ドラ系のセリフ……?
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翌朝、僕はルイと一緒に姉様の部屋に訪れ、天使のような姿を象った身代わりのオーナメント(改)を姉様にプレゼントした。
「まぁ可愛い。小さな羽根が生えてるわ。
これを、わたくしに?」
「はい、お守りがわりに姉様に持っていて貰いたくて買って来ました!」
人の生命までも救う様なそんなチート級アイテムを僕が作れる事は、極秘事項となっている。
この邸では父上しか知らないし、この世界でも限られた者しか知らない。
だから買って来たなんて言い方をし、どんなアイテムかまでは話さなかった。
身代わりのオーナメント(改)は持ち主が亡くなる直前に持ち主の身代わりとなって砕け散り、持ち主の生命を守ったと同時に僕をその場へ呼び寄せる。
王太子の婚約者である姉様だって、僕みたいに誘拐されたり生命を狙われたりするかも知れないし。
持っていて貰いたい。
シーヤの時は出来なかったけど、姉様が生命を脅かされるならば、入浴中でマッパであっても駆けつけるさ!
「ありがとうアヴニール。
わたくしからも、プレゼントがあるの。
アヴニールの瞳と同じシエルブルーの糸を使って刺繍をしたハンカチよ。」
姉様は、水色の美しい花が刺繍されたハンカチを僕の手に乗せ微笑んだ。
「試験に合格しますようにって願いを込めたの。
アヴニールが剣も魔法も両方の試験を受けると聞いて…心配だったのよ。」
「え?飛び級制度を使っての入試って、そんなモンだと聞きましたが…。」
「飛び級制度は、秀でている分野を見て判断するわ。
だから就学年齢に満たなくて筆記試験も出来なくても、将来有望とされる突出した才能の力だけを見る試験のハズよ。」
僕は無言でルイと顔を見合わせた。
やりやがったな……クリスのアホめ。
あるいは、その親父……国王か……。
何て、面倒な事をさせやがる。
僕は筆記試験も、魔法の試験も、剣の試験もある。
筆記試験は満点を取るつもりだが、魔法と剣は0.3%で挑まなきゃならんのだぞ。
力を抑えるってのが、解放するより難しいってのに!
「ルイ………いよいよ来週は試験の日だ。
……試験会場を壊さないで済む程度の魔力の出し方の感覚を掴まないとマズイ。」
「剣技は何とかソコソコになったのに……
まだ魔法の方は上手く出来てませんからね。」
「指先に火をともす程度は出来る。
そのマッチみたいな火を5本指にともし、的を射る。
で、何でそこで急に的を跡形も無く破壊するんだよ、僕の魔法は!勝手にブースト掛かるのか!?
ルイ、来週まで特訓だ!」
「仰せのままに。」
僕は昨夜━━
一旦、互いの事を主と従者だけの関係に戻す事にした。
僕がルイの本音と感情の境界線を探ろうとして、ギクシャクしながらの会話を続ける事に意味が無いと気付いた。
だからルイの口から泥棒ねこと聞いて笑い
「確かにイワンは猫みたいだけどさー
まぁいーや、もう寝るよ。」
と、その日を無理矢理笑い話で終わらせた。
僕は今、ルイの事以上に僕自身の本音が分からなくなってきている。
ルイに何を感じ、何を思っている?
僕の膝からイワンをどかしたルイを見た時に、それは嫉妬なのかと思った。
嫉妬だとしたら………何だって言うんだ………
どうしたいのさ…僕…。




