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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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42話◆救命措置だったのなら仕方ない。

「アヴニール様、おはようございます。」



「うー…おはよ……。」



部屋のドアが叩かれ、侍女を連れてルイが部屋を訪れた。

いつもと変わらず何事も無く迎えた朝。


部屋に運ばれた桶のぬるま湯で顔を洗い、侍女に着替えを手伝って貰う。

身支度が出来た所でルイと共に食堂に向かった。



「今朝は僕がベッドを抜け出して早朝から剣の練習に行かないって分かってたんだ?」



「ぐっすりとお休みになられておりましたので。

昨夜の魔王城での戦闘の疲れがあったのでしょう。」



ルイの様子から察するに、昨夜僕が呪いを受けた事や、口付け解呪の事は無かった事にする模様。

ルイが昨夜呟いたように、僕には昨夜の呪われていた間の記憶が無いと思っている様だ。


いやメチャクチャ覚えてるんだけど!

だけど、それをルイに言えない…!何となく!


僕がルイの行為を覚えている事をイワンは知っているから、イワンからバレるかとも思ったけれど、ルイと今のイワンを繋ぐのは感情のみで、具体的に思考や情報を共有しているわけではないらしい。


完全体のファフニールの時は視覚や聴覚等から得た情報も共有出来たらしいけど。



「そう言えばルイ、昨日寝る前に僕が机に並べた蘭金剛石…起きたら全部消えてたけど、持ってっただろ。

今夜アレで、武器造りたいんだけど。」



「魔物が跋扈する魔王城の周りにあったものです。

良からぬ瘴気を含んだ物もあるので、一旦没収致しました。

確認してからお返し致します。」



僕は不貞腐れた顔をして、そして会話が途切れた。

……うう……どう会話して良いのか分からない。


ファーストキスの相手との距離感って、どんなの?

皆、次の日どんな顔して会ってんの?


いや、アレはキスじゃないってば。

あれはそう…人口呼吸みたいな救命措置だから。


だったら無かった事にしないで、むしろそう言ってくれよ!助けるためには仕方なかったって!


隠されるから逆に意識しちゃうじゃないか。

助けてくれた礼も言えないし、ナニしてくれとるんだと責める事も出来ない。


自分の立ち位置が分からない。


そもそも解呪にチューは必要だったのか?


神聖魔法を使っての解呪は浄化の魔法で、祈る様に魔法を唱えるだけだ。触れる必要は無い。

浄化魔法以外での解呪なんて僕は知らないから…どう突っ込んで良いやら…



あまり会話をしないで歩いている間に、僕達は食堂に着いてしまった。

ルイが食堂の扉を開き、僕が中に入る。



「父上、母上、姉様、おはようございます。」



一番遅れて食堂に着いた僕は一人一人の傍に行き、家族の皆に朝の挨拶をして回る。

挨拶を終え僕が席につくタイミングで、父上が僕と姉様に顔を向けて話し掛けて来た。



「以前から伝えてあったが、今日は学園見学の日だ。

学園の門まで送るから、王太子殿下の従者であるシグレンに学園を案内をしてもらいなさい。」



「以前から伝えて……?」



そうだっけ?とルイの方に目を向けると、ルイが「そうです」と頷いた。

多分、父上の話を聞いて無かったんだな…僕は。

記憶に無い。



「まさかアヴニール…先日、私が二人に話をしたのを聞いて無かったのか…?」



「いえっ!聞いてましたけど!?

ちょっと忘れておらりましたが、ルイが覚えてくれてるようなんで!」



まったく、ルイが優秀な従者で助かるよ。

父上も僕と同じ事を思った様だ。ヤレヤレ的な顔をしている。

父上からしたらルイは、倒すべき魔王なんだけどな。



学園内には部外者であるルイやマルタは連れて入っては行けない。

だから学園内を案内してくれるシグレンが一応は僕達の護衛も務める。


学園は貴族の坊っちゃん嬢ちゃんばかりだし、国の未来を担う才能の育成場でもあるから、セキュリティは万全らしい。



朝食が終わり、ルイを従え部屋に帰った僕は学園に行く支度を始めた。

学園の前まで馬車で送ってもらい、父上とルイは一旦王城に向かうとの事。


魔王様を王城に連れてっちゃうのか?

ルイ、城の中で暴れたりしないだろうな。



「そんな無意味な事はしない。無駄な心配はするな。」



あ、思った事をルイに読まれてしまった。







支度の済んだ僕と姉様を乗せた馬車を走らせ、学園に向かう。

ルイは馬に跨り馬車と並走している。


向かい側の席には父上。僕は姉様の隣に座り、ニコニコを通り越し、ニヘラ〜と緩んだ顔を姉様に向けていた。


何しろ今日も姉様は美しい。昨日も美しかった。

明日も美しいに違いあるまい。

悪役令嬢?今の姉様なら、悪の華と呼ばれる程の美しい悪女ならば似合いそうだ。


ゲームでのアホみたいな悪役令嬢ではなく。



「姉様、僕、学園に行くの初めてです!

どんな所なのかなっ!楽しみ!」



「うふふ、わたくしもよ。緊張しちゃうわね。

でも、楽しみだわ。」



ある意味これは姉様とのデートだ。

いや、学園を案内してくれるのはクリストファー義兄様の従者のシグレンか…

シグレン、いいんだよな…年齢もちょうどイイし、キラキラし過ぎてない純朴系のイケメン。

そんなシグレンと姉様に挟まれて学園をデート…。

かなり嬉しい。


シグレンは僕が生まれた時から、お兄さんみたくずっと僕を……

クリストファー義兄様の過剰スキンシップから守ってくれていた優しい人………って、学園に行ったら居るじゃないか、クリス義兄様も。


ウッぜぇな……。


ぶっちゃけると、前世でヒロインとして学園に通っていたから学園内の地理は全て把握済みだ。

いざとなったら、変態王太子をまいてやろう。




馬車が学園の門の前に到着した。


学園とは言うが、全寮制であり貴族の地位により寮の建物もいくつか分けられて建ち、学園敷地内には多くの建物があって小さな町の様になっている。


それゆえに学園と外界を隔てる門は大きく、門の前は馬車が何台も並ぶ様にかなり大きな広場となっている。


今週一週間が学園見学が可能な日で、本日は侯爵家、そのゆかりのある者が見学可能な日となっている。



「お待ちしておりました。シャルロット様、アヴニール様。」



「シグレン!久しぶり!!」



出迎えてくれたシグレンの姿を見た僕は、嬉しさの余り思わずシグレンに飛びついてしまった。

シグレンが僕を緩く抱き締め返し、頭を撫でてくれた。

本当に、シグレンは僕の良いお兄ちゃんだ。



「ははは、相変わらずお元気でいらっしゃる。

アヴニール様に触れるのが、殿下が居ない時でよかったですよ。」



只今、授業中であるクリス義兄様は出迎えに来れてない。分かっていてシグレンに飛び付いた。

アレが居ると、意味不明なヤキモチを妬いてうるさいからな。

婚約者の姉様の前でも、僕フェチを隠しゃしねぇ。



……え?ルイ?何だよ…その不満げな顔は……






僕と姉様を学園で降ろした馬車は父上を乗せて王城に向け走り去った。

父上にはルイが警護をして付き従う。



「では、シャルロット様、アヴニール様、うるさいのが来る前に学園内を案内致しましょう。」



長年クリス義兄様の従者をしているシグレンは、さりげにクリス義兄様に対して辛辣な言い回しをする。

シャルロット姉様と僕が、シグレンに同意して良い笑顔で頷いた。

確かに……アレが来たら見学にならないからな。

僕は思い切り頷き、ニッコニコな笑顔をシグレンに向けた。



「うふふ、アヴニールは本当にシグレンが好きなのね。」



「だってシグレンは…クリス義兄様による、僕誘拐事件を何度も未然に防いでくれたのですよ?

赤ん坊の頃から幼児期まで、僕は何度馬車に連れ込まれかけた事か…。」



そうだ、シグレンは命の恩人だ。クリス義兄様の。

何かされていたら、半殺し位じゃ済まなかったと思う。僕の攻撃がな。



シグレンは、広い学園の本校舎の方から案内してくれた。

初めて見た体で、子供らしく感心したり歓喜の声をあげたりしたが、僕にはもう既に見慣れた場所ばかりだ。

まだ案内されてないがトイレの位置も、食堂も、攻略対象者といちゃつくのに丁度良い、蔵書の倉庫や魔法石の管理室なんかも把握している。



「姉様!シグレン!

僕、急にもよおしたので!お手洗いに行って来ます!」



僕はクルッとUターンをし、今歩いて来たばかりの廊下を逆走した。



「アヴニール様!!お手洗いはそちらでは……!!」



廊下の角を曲がりシグレンと姉様の視界から姿を消した所で、3階の廊下の窓から校舎の外に飛び出した。

窓の外には4階建ての校舎の高さを越える大木が生えており、広く伸ばされた枝には葉が生い茂り枝や木の幹が見えにくいが、僕は葉を掻き分けて太い枝の上に乗ると木の幹の部分まで走った。


そして一人の男を追い詰め、木の幹を背にしゃがみ込む男が逃げ出さないように、僕は足を木の幹にドン!と当てた。



「そこらの魔物が入れない様な結界のある学園に、よく忍び込めたなァ。

さすが魔王の側近サン。」



蘭金剛石を採りに魔王城付近に行った時に、彼は前線には出て来なかったが、僕は彼が居たのを把握していた。

……昨夜見た時はデコに角あったがな……人間に化けてんのか。

ギリッと悔しげに険しい顔をして僕を見上げる白髪の青年が僕を脅す様に低い声で問うて来た。



「なぜ生きている…あの呪いは、そこらの人間なんかに簡単に浄化出来る様な代物ではない!」



あ、僕が呪われるように仕向けたのコイツなんだ。

なるほど、そうかー

納得した僕は、木の幹ドン状態だった足を降ろした。

だが、座ったままの青年を逃さぬ様に仁王立ち状態で青年を見下ろし続けた。



「何だか分からないけど、その呪いはルイが取っ払ってくれたよ。」



「陛下が呪いを…?

お前の様な汚らしい人間の手に、陛下が口で触れたと言うのか!?」



青年は、信じられないとでも言うかのように、焦った様に僕の手に目を向けた。



「汚らしくて悪かったな。

つか…手?なんで手に口で触れんの。」



「浄化魔法を使えない魔族の解呪術は、呪いを噛み殺す方法だ。

解呪をする時は呪いを受けた場所に口で触れ、蛇の毒を吸い出す様に呪いを吸い出す必要があるからだ。

呪いには意思があり、生き物の様に抵抗する。

それを吸い上げて噛み砕く。」



なるほど。何か納得した。

僕は腕を組むとうんうんと数回頷いた。



「あー、だからルイは僕の口に自分の口を重ねたのか。

やっぱり他意はなく仕方なく。

まぁ人口呼吸みたいなモンだな。」



ブフォッ!!



青年が思い切り噴き出した。



「な、な、何で!?何で陛下が………

お前のようなクソガキにくっくっくっ口付け!?」



「仕方無かったんじゃないの?

僕、石にキスしたせいで口から呪われたみたいだし。」



「くっ!口から呪われた!?石にキスしたぁ?!?

馬鹿だろう!お前!

だ、第一、呪われたからと言って陛下が……その御身体をお使いになってまで、そのような行動をなさるなんて有り得ない…」



青年はかなり動揺し、混乱している様だ。

そんなにもルイが解呪をするのが意外なのか……



「僕は爆笑していただけで記憶が曖昧なんだけど、結構強力な呪いだったんだろ?

ルイはがんばってくれていたよ。

角度を変え数回、割と長い間、口が重なっていたし。」



引。そんな空気が流れた気がした。



青年が青い顔をして黙り込んでしまった。

……なんで?



「……呪い自体は一瞬で吸い込む事が出来る。

口を触れるのは僅かな時間で良い筈だ。

それを…時間を掛けて数回…?陛下が?えぇぇ……?」



病んでる人の様に暗い顔でブツブツ呟いた青年がジィーっと僕の顔を見始めた。

何か言いたいが何を言いたいのか分からないみたいなモヤモヤっとした複雑な表情をしている。

納得したくないが、認める必要があるのか?いやでも納得いかん!みたいに一人百面相みたいに表情が複雑に変わる。

僕を見て何を深く考え込んでいるのやら。



「………私にとってお前は、始末すべき敵だ。だが……

今、お前を始末する事は陛下を敬愛する私にとって、大きな裏切り行為となる……多分。」



「多分て。

つか僕、お前が何を言ってるんだか全く分かんない。」



「私だって自分が何を言ってんだか分からないんだ!

お前のせいで大混乱中だからな!

何なんだ、お前!人間のガキのくせに!」



青年が急に逆ギレした。

何を急にキレてんの?しかも僕に何なんだって…

僕、お前に呪いを掛けられた被害者なだけですけど?



「あのねぇ僕が助かって文句があるなら、僕を助けたルイに言ってよ。」



「言えるか!!バーカ!!」



青年がキレ過ぎて、何かおかしくなった。

混乱が過ぎると、思考能力も低下するのだろうか。

これでは、どちらがガキだか分からない。

何だか面倒くさい奴に関わったなぁ…そう思って僕は溜息をつき、青年から目線を外した。



「……お前、男のガキのクセに良い香りがするな……

処女の……これは乙女の香りだ。」



目線を外した僕の耳元で、不意に青年がボソッと呟いた。

慌てる様に僕が青年の方に目線を戻した時、青年の姿は無く


空に向かいこちらに尻を向けて宙を駆けて行く白馬の後ろ姿があった。

その額には、長い角が生えている。



「なっ!!ゆ、ユニコーン!?

あいつの正体ユニコーン!?

あいつ、元々が魔族ではないのか…!」



だから、魔族に強く反応する結界もくぐり抜けられたのか……

って、何で魔王の側近なんかやってんだよユニコーン。







一角獣であるジェノは、アヴニールの元から隙を突いて逃げおおせると、山の頂きにある魔王城へと帰って来た。



「魔王陛下は、あのクソガキに恋情をお持ちになられているのかも知れない……だが!何でですか!

人間ですよ!?ガキですよ!?しかも男ですよ!?何で、よりによって、アレなんですか!!

もっと、他にいいの居るでしょう!?」



魔王城の食堂で、酒を片手にクダを巻くジェノ。

珍しく酔っ払ってクダを巻く魔王の側近ジェノには、魔王城の誰も近寄れず、遠巻きにその様子をうかがう。



「魔族でもないのに拾って頂き、側近にまでして下さった陛下……。

その御恩に報いる為にも、陛下をこの世界の頂点に立たせる事が私の使命。

その為に、その障害となり得る物は私が排除しよう。

だが、陛下がもし本当にあのクソガキに恋情をお持ちならば、私は一番の障害となり得るかも知れない、あのクソガキを始末する事が出来ない…。」



何を実行するにしても情報が足りない。

そもそもが、魔王自らが下賤なる人間のフリをしてまで人間どもの社会に紛れている理由も分からない。


どうすれば、陛下の御心に近付き、陛下の望みを叶える手助けが出来るのだろうか……


ジェノは深く考え始めた。



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