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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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41話◆何かが止まらない。止まれない。

「僕はね、別にこの世を救う勇者になるつもりはないんだよ。

だから世界を脅かす魔王を僕が倒さなきゃなんて別に思ってない。

あ、ルイは別。

あれは魔王とか関係無く、僕がいつかぶっ倒す。

僕は自分に振りかける火の粉と、僕の周りの人に振りかける火の粉は軽く払うけど、それ以上僕の方から何かする気は無いよ。

お分かり?」



僕は地面から何本も突き出た太い石柱の様なモノの先端に座って腕と足を組み、高い位置から地面に倒れてウゾウゾと動き回る魔の者達に声を掛ける。



「あ、でも姉様に髪の毛一本でも手を出したら鏖殺な。

今回みたいに生かしとかないから。」



僕の座る石柱や、隆起した地面は全て僕を倒す為の攻撃魔法だった。

僕の前でぶっ倒れてウゾウゾしてる奴らの。


蘭金剛石を取りに来たら、いきなり攻撃してきたんで、軽く撫でてやったワケだが。



「………アヴニール、気が済んだか?」



僕の背後からルイが現れて声を掛けて来る。

僕が一方的に攻撃を受けているのを離れた場所から黙って見ていた奴。



「うん、まぁね。

……やっぱり僕って、それなりに強いよな……。」



「当たり前だ。

元からお前は強かったが、そのお前を今は私が鍛えているのだぞ。敗ける理由が無い。


私の部下程度には。」



僕の前に倒れている20体程の魔物は全てルイの部下らしい。

僕がイワンだけ連れて蘭金剛石を取りに魔王城のある山に行くと言ったら、来なくて良いのについて来た。

まぁルイとしては、こうなるのを予測していた様で。


だが僕がついて来んなと言ったから一応は距離を置いて、ついて来ていないフリをしていた。


ルイなりに、心配したのだろう………。




僕にボコられる部下の身を。



「こんなに強いのにルイには勝てない…。

僕が強くなれば、なるほどルイも強くなっていく…。

納得いかん…!」



ぐぬぬぬと不満を漏らす僕の側で、久々にスライム状態になったイワンが触手のように一部を伸ばしてヒョイヒョイと蘭金剛石を採取して僕の前に集めてくれた。

集まった蘭金剛石を一度にインベントリに片付けた僕は、カラスの姿になったイワンと共にフワリと身体を浮かせた。



「先に邸に帰るんで。じゃ!」



ふところがホクホクな僕はメチャクチャ良い笑顔でサッと右手を上げてルイと地面に倒れてウゾウゾの者達に別れを告げ、その場をギュンっと飛び去った。



「…真っ直ぐ邸に帰らず大聖堂に寄り道する気だな。

……ったく、仕方のない主だ。」



ルイは黒い翼をバサッと拡げ、その場を飛び立とうとした。



「お待ち下さい!!陛下!!」



地面から生えた巨大な石柱の陰から白い衣服に白髪の青年が姿を現した。

額に一本の角を生やした青年はルイの前に片膝をついて頭を下げ、臣下の礼を取る。



「ジェノ。

やはり、この石柱の魔法はお前が放ったものだったか。


私の主を相手に無駄な事をしたもんだな。」



深く頭を下げたままのジェノの肩がピクッと揺れる。



「無駄…?至高の存在である陛下に従者の真似事などさせる愚かな人間など消えてしまえば良いのです!!

しかも彼奴は陛下の半身であるファフニールを奪い、我が物として隷属させている!!

そのような輩が、この城に攻めて来た!

迎え討ち、屠るが陛下の留守を預かる我が使命!」



「いや…我が主は、この城に攻めて来たワケではないぞ。

城の周りに生えた蘭金剛石を採取しに来ただけなのでな。」



ジェノは顔を上げ、キツイ瞳でルイを睨め付けた。

ジェノは自身の態度が不敬極まりない行為であると分かってはいたが、昂ぶる感情を抑える事が出来なかった。



「この世で!陛下が唯一無二の至高の御方です!

その陛下が我が主と呼び、かしずく存在などあってはならない!滅ぼすべきだ!!」



「……ほぉ……私の主、アヴニールを滅ぼすと……。

やってみるがいい。

無駄な事だと知るだろうがな。


だがアヴニール自身への攻撃ではなく、奴の精神を侵す様な周りの者への攻撃をするようならば許さん。

私がお前を殺す。」



ルイは強い威圧をその身から放ち、ジェノとその場に倒れたままの自身の部下達を震え上がらせた。



「へ、陛下!!なぜ、それほど人間の子供なんかに目を掛けるんです!?

あの子供が何だと言うのですか!!」



ルイは何も答えずにその場を飛び去った。

聞こえなかったのではない。

ルイ自身が分からない事を答える事が出来なかった。


アヴニール自身を攻撃するのは構わないと言ったのも、アヴニールならば簡単に倒されたりしないとの確信があった上でだ。

だからこそ、アヴニールの身内や知人など本人以外の命を人質の様にする事は容認出来ない。

ほぼ無敵なアヴニールであっても、精神まで強い訳ではない。

アヴニールが傷付き壊れてしまいかねない。



「私は…アヴニールを守りたいのか……ふふっ。」



何を今さら……今、初めて気付いたふりをした自身にルイが苦笑する。


それはアヴニールに懐いたイワンの感情に影響されたからかも知れないが━━




ローズウッド侯爵邸にルイが戻った時、アヴニールの部屋にはアヴニールが既に居た。

採取して来た蘭金剛石を机に並べて、大きさや純度別に石を仕分けている。



「アヴニール、大聖堂に行っていると思っていたが。」



「邸に帰るって言ったじゃん。

大聖堂に行くなら、行くってそう言うよ。

出かけるなら行き先は伝えるってルイと約束したからな。」



アヴニールは蘭金剛石を見ながら、ルイの方を見ないで答えた。

暗い部屋の中で机にランプを灯し、その明かりに石をかざして楽しそうに仕分けするアヴニールの小さな背中に


ルイが手を伸ばしかけた。



「魔王である私との約束を……守るのか?」



「今は従者で魔王じゃないんだろ。

まぁ魔王だったら約束守らないってワケでもないけど」



無防備にも魔王に小さな背を向けたままの小生意気な勇者は……

何と愚かで……何と……愛おしい……



ルイはアヴニールの肩にそっと手を置いた。

アヴニールが「ん?」と後ろを振り向く。

ルイの方を振り返ったアヴニールは




なんと、呪われていた。



「この愚かものー!!呪われているではないか!!」



珍しく焦るルイ。

アヴニールの口周りに呪言の様な黒い(スス)けた文字が浮いている。

青ざめた顔をしつつ、何かテンションだけは異様に高いアヴニール。



「なんかさ!石がね!キレイでさ!あはは!

見てたらキスしたくなってねっ!あはは!

キスしたら何か、すっげー寒い!あはは!」



「あははじゃない!蘭金剛石は死人の念を吸いやすい。

タチの悪い念を持った石に触れたのか……普通の人間ならば即死モンじゃないか……

アヴニールだから、まだこの程度で済んでいるのか。」



「あはは、だってなんかさぁ、きれいだったもん〜あはははは!」



ルイはハァ~っと大きな溜め息を吐いた。

段々とテンションが上がって笑いが止まらなくなったアヴニールを心配するように、ベッドに居た黒猫姿のイワンがルイを見た。



「……よりによって口とはな……

これは仕方なくだ。お前と私だけの秘密だな。」



ルイがイワンにボソッと呟く。

察したイワンは、開いた窓から部屋を出て行った。



「アヴニール、許せ。」



「あははははは!あは……………」



ルイはアヴニールの小さな身体を机の前の椅子から持ち上げるとベッドに押し倒し、両手首を頭の横に縫い付ける様に押さえつけ唇を重ねた。



「ッは…?……な、や……なに……ヤダ……やめて…」



顔を傾け、ルイの唇からアヴニールが逃げる。

逃げた唇を追ってルイが再び唇を重ねた。



「アヴニールのフリをするな。逃がさん。」



今度は深く、言葉も飲み込むほど深く唇を重ねたルイは、アヴニールの口内を吸い込んだ。


触れて呪いを身に受けた場合、触れた場所を浄化、あるいは生き物の様に蠢く呪いを食い殺すしか方法が無い。


魔族のルイには浄化魔法など使えないが、魔族の持つ呪法を食い殺す方法は術者の力量に左右される浄化より効果が高い。

だが、感情を持ったかのように呪いが食い殺されたくないと縋る為か、呪いを受けた側が苦しい思いをする。



「る、ルイ…もう……も……終わっ…ねぇっ…!」



「アヴニール……もう少しだ…耐えろ……」



アヴニールと深い口付けをしたルイの口の中に、ゴチャゴチャと煩いホコリの塊の様な物が入った。

ルイはそれを噛み砕く様に口の中で何度か噛み、プッと黒い塊をベッドの下に吐き出した。



「アヴニール、大丈夫か?」



ルイは組み敷いた状態のアヴニールに目を向けた。


ルイの下のアヴニールは空色の瞳が涙で濡れ、薄紅色の濡れた唇からは苦しげな呼吸が漏れる。



「………アヴニール………。すまん。」



ルイはアヴニールの唇に再び唇を重ねた。

優しく乗せる様にアヴニールの唇に自身の唇を重ね、アヴニールの髪を優しくそっと撫でる。

ルイには自身の行動と、自身をそうさせた感情が何なのかが分からない。



ルイが唇を離した時、アヴニールは眠りについていた。


青ざめていた顔には生気が戻り、いつも通りのアヴニールの寝顔だ。


ルイは自分が吐き出した黒い呪いの塊を拾い上げ、強く握りしめ塵にした。



「ジェノめ……咄嗟に石に呪いを付けたか……

いや、引っかかるアヴニールもアヴニールだが。」



普段ならば、呪法に耐性のあるアヴニールでも警戒を怠らない。

特に敵が多い今のアヴニールは、いきなり拐われた様に、いつどんな狙われ方をするか分からないのだ。


それが蘭金剛石を採取して気が緩んだのか、まさか自分が地面から採取した物に呪いが付与されているなんて思いもしなかったのか…。



「呪いを、浄化ではなく我々魔族の食い殺す方法で解呪すると、呪いごと呪われていた間の記憶を失う。

……良かったな、私に唇を奪われた記憶も無くなる。」



ルイは独り言の様に呟いてアヴニールの部屋を出て行った。

ルイの足音が遠ざかり、アヴニールはガバっとベッドから飛び起きた。



「良くねぇよ!!めっちゃ覚えてるわ!!

途中から正気に戻ってたわ!でも言えないじゃん!

ナニしやがんだ、コノヤロー!って殴る事も出来ないじゃん!!


あんな………必死な顔をされたらさ……」



「にゃぁん」



アヴニールは窓から部屋に戻って来たイワンを抱き締めた。


「イワン……お前の半身サマは……一体僕の事をどう思ってるんだろうね……。」



最後の唇を重ねるだけのキスと、すまんって言葉は…


何だったのだろうか。



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