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4話◆力を隠して平凡な人生を送るべき?

魔物の討伐を終え、本邸から王都にある方のローズウッド邸に戻った僕達を出迎えてくれたのは、僕の大好きなシャルロット姉様。


淑女教育の授業が終わった姉様が紫色の髪をフワリとなびかせ、ドレスを少し持ち上げながら僕達の元に駆けて来た。


「アヴニール!大丈夫なの!?ケガは無いの!?」


「ええ、大丈夫です。姉様。」


シャルロット姉様が身を屈め、心配そうに僕の顔を覗き込みながら頭や頬を撫でて来る。

あー何て可愛いのかな。僕の姉様は…。


婚約者のクリストファー殿下そっちのけ、はどうかと思うけど。


「シャルロット、私がアヴニールを危険な目に遭わせる訳が無いだろう?」


「何言ってますの!わたくしの居らぬ内にアヴニールを独り占めするだなんて!ひどいですわ殿下!

だいたい何ですの?

このひと月ほど、毎日の様に来られるなんて来過ぎですわよ!」


うん。姉様。僕もそう思います。

それが全て姉様ではなく、僕に会うタメとか。駄目だろ。

来月から学園に入学だからって分かってますけど…駄目だろ。


この世界のクリストファー殿下……一体、どうしちゃったんですかね。

前世ヒロイン時の親密度MAXステータスが続いているとしか思えないんだけど。

続いてたって結婚とか無理だからね。意味不明。



「シャルロット……アヴニール。

私はもう、しばらく君たちと会う事が出来ない。

明日からは学園に入学する準備を始めなければならない。

次に会えるのは夏の休暇に入ってからになる。

……君たちと、4ヶ月も会えないだなんてツラいよ……。」


「嘘ですわね。

わたくしではなく、アヴニールに会えないのがツラいのでしょう?」


中々に辛辣な姉様の一言。

グッと言葉を詰まらせて目を泳がせるクリストファー殿下。

このやり取りも、もうお約束のパターンとなった。

そして


「もー。仕方が無い方ね。

では殿下。また夏にお会いしましょう。ごきげんよう。」


「義兄様、夏までお達者で。」


クリストファーの左右の頬に、姉様と二人でキスをする。

これも別れる際のお約束になった。


照れ臭そうに微笑んだクリストファー殿下は、邸で待機していた馬車に乗り、シグレンと他の従者と共に帰って行った。


次に会うのは夏休みか……。

日本に居た頃と同じく、この世界では春に入学式があり、夏には夏休みがある。

来年の春には、姉様も学園に入学するのだが……


ゲームでは、ヒロインも姉様の同級生として学園に入学する事となる。


前世のヒロインのステータスをほぼ引き継いだ僕がここに居るのに、新しくヒロインが来るのか……分からない。


でも、まだ魔王が存在している世界だし僕はもうモブと同じだし、普通にヒロインが現れてもおかしくないし…。



「アヴニール、難しい顔をして考え事?」


僕と手を繋いだ姉様が、僕を見下ろして微笑みながら話しかけて来た。


「ええ、姉様も来年には学園に行かれるのだなと考えました。

…寂しくなりますね。」


来年、シャルロット姉様が学園に入学し、ヒロインが現れてクリストファー殿下を誘惑したら…姉様は嫉妬にかられるのだろうか…

そしてこの優しく美しい姉様が、ゲームのイラストの様に『いかにも悪役令嬢!』な高笑いキャラになってしまうのだろうか。


それは……そう、させた事がある僕が言うのも図々しい話なんだが……ぜってーヤダ。


『オーッホッホ!不様です事!』って嘲笑う姉様なんか見たくない。



「そうね、わたくしもアヴニールと会えなくなるのは寂しいわ…。いっそ、わたくしの侍女に扮して一緒に学園に来ない?」


「僕が姉様の侍女……女性に変装してですか?

そんなの無理ですよぉ。」


アハハハっと互いに笑って、冗談にしたけど…

ぶっちゃけ、侍女になりきる自信ある!!

だって、元が女だし!

でもなぁ、父上や母上が許すワケ無いし、現実的じゃないんだよな。



その日の夕刻、食堂でディナーを頂いている時に父のローズウッド侯爵が、険しい表情をして僕に訊ねて来た。


「アヴニール、シグレンから話を聞いたのだが…妖しい生物を従属させたそうだね。見せてみなさい。」


ギックー!!

さすが王族に使える従者であるシグレン、仕事はきっちりスキが無い。

邸の誰にも知らせずスルーさせようとした岩ノリのイワンの情報を、既に父上の耳に入れているとは…


「……はい、父上……。」


僕は、ブレスレットの様に細い鎖に姿を変えて腕に巻いた岩ノリをテーブルに置いた。

岩ノリは、姿形は勿論だが体積や質量まで変える事が出来る様だ。


テーブルに置かれた黒い鎖は、ムニムニと姿を変えて大瓶ひとつ分のジャムをテーブルに溢れさせた位になった。


「ブルーベリーのジャムが生きてるみたいで気持ち悪いぃ!!」


シャルロット姉様が青ざめた顔をして椅子を引いてテーブルから距離を取る。

母上も緩く微笑みつつ真っ青な顔をしているが、父は興味深そうに岩ノリを眺めている。


「黒く変異したスライムだと聞いていたが、スライムでは無さそうだね。何だろう?

スライムには魔力がほとんど無いが、この黒いジャムからは魔力を感じるよ。」


この世界には岩ノリが無いからか、父上と姉様のイメージとして、黒いジャムで定着した。


「僕にも何か分からないんです……でも、僕に懐いてくれてるし……何だか、この子を消し去ってはいけないような…そんな気がするんです。」


━━倒したら魔王が!━━そんな声が聞こえた事は言えなかった。


この世界はまだ、そこまで魔王の存在に脅かされてはいない。

それに、魔王の存在はまだ国の中枢を担う者達だけが知る極秘事項で、一般の人々には隠されている。

僕が知っているのはおかしい。


「……アヴニールの言葉は理解している様だが、他の者の言葉も理解しているのか?

黒ジャムくん、姿を変えたり出来るかい?そうだね…黒い猫とか」


テーブルの上でウニウニと岩ノリ状態で僕の方に寄って来ていた岩ノリが父上の声に反応してぷるぷると震え、すぐに小さな細身の黒猫の姿になった。ぬっぺりしてるけど。

つか、え?岩ノリ、そんな事まで出来たの!?

しかも、言葉メチャクチャ理解してるじゃん!!


「えっ!すごい!ねぇ、ジャムちゃん、黒いチョウチョになれる?飛べる?」


黒い猫の姿になった岩ノリに興味を持ち、気持ち悪さが上書きされたのか姉様が楽しそうに黒猫に言った。

黒猫は黒い蝶に姿を変え、ヒラヒラとテーブルの上を舞う。


「これは、面白いね!初めて見る魔物だよ。今後の事も考え、色々と研究させて貰いたいもんだが…」


「お父様!研究したいだなんて、ジャムちゃんを切り刻んだりヒドい事をするおつもりなんですか!?」


シャルロット姉様は自分の言葉通りに蝶になってくれた岩ノリがいたく気に入った様で、手の甲に黒いアゲハ蝶の様な岩ノリを乗せて父上に対して抗議の態度を見せた。


父上は上位貴族でもあるし、恐らく魔王の存在を知らされている。

今この世界の国々では、民に知られて混乱を招かない様にと上の者達だけで情報を交換しながら、いつか現れるであろう魔王に対して抗う術の情報や可能性を集めている所だ。


強い武器や、強い魔法、強い従魔など。


「父上、岩ノ……イワンは、僕が主でなければ言う事を聞きません。

もしイワンを研究したいと言うのであれば、研究室のある王立魔法学園に、姉様と一緒に僕も入学させて下さい。」


家族みんなと、食堂に居る侍女達や使用人達までが驚きの表情をした。


「アヴニール…魔法学園には飛び級制度もあるし、早く入学出来ない事も無いが…

本来16歳になる者が入学する学園に10歳になるお前がか?

飛び級で入学する為の試験は通常より難しい。

筆記試験は勿論だが、魔法と剣の試験もある。

アヴニールには、まだ……」


「………全部、余裕でクリア出来ます。

父上、人払いを。」



父上が頷き、家族以外の全ての者を食堂から退室させてくれた。

僕は誰にも聞かれないよう、結界を張る。

僕が張った結界の規模、強度、精密さに、魔力の強さを測れる父上は驚嘆の表情をした。


この食堂の席で家族の視線を集めた僕は、頭の中で色んな事を秤に掛けてみた。


まず秤に乗せたのは、平凡で大人しく普通の人の人生を平和に歩む自分。


僕は自分の実力を隠して

━━平凡な貴族の坊ちゃま。しかし愛されキャラの美少年。━━

として、可愛い姉の幸せを見守りながら静かに生きていこうかと思っていた。


だけど僕が姉様と一緒に学園に行かねば、ヒロインが現れた時に対処出来ないし、僕が側に居ない間に姉様が国外追放なんかになってしまっては困る。

それに、やはり僕が倒さなかった魔王の存在も気になる。


姉様を嫉妬に狂った醜い悪役令嬢にしない事と、僕が倒すハズだったのに放置してリセットしてしまった魔王の事。


その2つを考えたら、僕が実力を全て隠して平々凡々と生きていくのは……逃げかなぁ、無いよなって思ってしまった。


「アヴニールは賢いし、勉強は既にシャルロットと並ぶ程だと教師からは聞いているが…飛び級入学試験では魔法と剣の試験がある。

魔法と剣。それは、教師からまだまだ未熟にも届かないほど拙いと聞いたが…?」


「出来ないフリをしていました。……攻撃魔法は全属性使えますし、神聖魔法も使えますから治癒魔法も使えます。」


ううん……家族の視線が……痛い。

母上は相変わらず優しく見守るような目で「何があっても、母は貴方の味方ですよ」と言ってくれている。

姉様は、すっごいドヤ顔をしている。「わたくしの弟、最高ですわ!」と、ヒーローの正体知っちゃいました、人に教えたい自慢したい的なキラキラな目で僕を見る。

父上は……

「なぜ、それを今まで隠していた?」と無言のままジイッと僕を見詰め、強い圧を飛ばして来る。


「………ぼ、僕は、生まれる時に神に神託を受けました!

この世界のために何が出来るか考えなさいと!

でも、実力は隠しておきなさいと!

し、神託を受けた事を思い出したのは最近で、魔法や剣が使える様になったのも神託を思い出してからで!」


父上の無言の圧に耐えられずに、僕の方から説明をする。

ほぼウソを。


「アヴニール、治癒魔法は何が唱えられる?」


「ヒールのみです。」


僧侶など聖職に就く者や、神の恩恵を得た者しか使えない神聖魔法の一部、治癒魔法。

ヒールを使えるだけでも、その人物に対して高い評価が与えられる。


すみません父上……

僕、完全回復のエクストラヒールも唱えられます。



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