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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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37話◆嫉妬とは……?

翌朝、僕は自室のベッドの中で目を覚ました。


衣服は昨夜、大聖堂に出掛けた時のままで寝間着に着替えさせられてはいなかった。

思わずホッと安堵の溜め息が漏れる。


着替えさせられていたら、大パニックを起こす所だった。


「痛っ!アイタタタ…デコ痛い…。」


意識した途端にジンジンと痛み出した額に手を当てる。さすがは魔王サマだ。

人間に化けての頭突きでも攻撃力が高い様だ。


そこいらの魔物の攻撃位ではダメージを受けない僕に対して、気絶させた上に痛みまでをも残すとは。



「あぁあ!ルイの野郎…ムカつく!

ムカつくけど…昨夜のアレは僕が悪いよな……。

かなり大人げ無かった…。」



苛立ちがあったからとは言え、主の僕が従者に対して八つ当たりをしてしまった。

相手が魔王のルイだからいいだろうなんて理由にはならない。

ルイは従者の立場で、主の心配をしたのだから。


なのに、それに対してブチ切れた上に髪の毛まで掴んで引っ張ってしまった中身25歳オーバーの自分。

大人げ無いにも程があるだろ…何と恥ずかしい。



僕はベッドから降りると、昨夜から身に着けっぱなしの衣服を着替え始めた。

朝食までにはまだ時間がある。


ヒラヒラ舞う黒いアゲハ蝶のイワンを従えた僕は部屋を出て、邸の庭先にある開けた場所に向かった。

 

僕が剣の稽古をする時はいつもこの場所を使う。

父上のくれた剣を携えて庭先に出れば、分かってましたとばかりにその場にルイが立っていた。



「おはようございます、アヴニール様。」



ルイは日々変わる僕の気分の変化に伴い、その時々で僕が優先したい行動を把握して対応をする。


従者として優秀と言うよりコレは、イワンを通じて僕の感情と頭に浮かんだ単語を読み取り推測出来てしまう、魔王サマチートだと思う。



「おはよう、ルイ。

昨夜は……その……当たり散らして済まなかった。」



ルイに謝罪なんて、ホントはしたくない。

いつか、ぶっ倒すつもりの相手に頭を下げるなんて、謝り損な気もするし。

でも、ここはちゃんと大人として恥ずかしくないように誠意を見せとかないと。



「アヴニール様が私に謝る様な事は何も御座いません。

今朝は朝食前に軽く身体を動かしたいのでしょう?

お相手致します。」



ルイはくるりと僕に背を向けて、練習用の剣を構える為に僕から距離を取った。

何だか肩透かしを食らった気分だった。


ルイだったら、嫌味の1つ2つ言うのかと思っていたのだけれど。



「……それでも謝っとくよ。ごめん…。

何だかムシャクシャしていたんだ。」



面と向かってルイに何度も謝るのは何だかやっぱり納得いかない。

だけど、反省しているのも事実。

だから僕は、距離を取り背を向けたままのルイに向けて聞こえないかも知れない位の小声でボソッと呟いた。



「……それは私もだ……。」



返す様にルイも小声で呟いた。

僕の呟き、聞こえちゃっていたんだ。

で、ルイが呟いた一言…コレは僕に聞かせるつもりの無い呟きなのだろう。


聞こえちゃったんだけど。


ルイが何に対してムシャクシャしていたのか気になるじゃないか。

でも聞けないじゃん。聞こえないフリしてしまったもの。







ルイとの何だかぎこちない剣の稽古を済ませた後はルイと別れ、食堂にて家族での朝食を取った。


その後、僕は父上の書斎に呼ばれた。

学園関係の話との事で父上が呼んだのであろう、書斎には既にルイが居た。

従者として共に学園に来るルイも、父上が話を聞く様にと書斎に呼んだようだ。



「アヴニールの王立魔法学園の中等部への、飛び級での入学についてだが……

陛下から学園に、アヴニールを優遇するようにとの推薦状が届いたそうだ。

それにより、アヴニールは特級クラスへの入学が決まった。」



「はぁ?えぇ?は?いやっ!何でっ!!

そんな悪目立ちするような事をしちゃうんです!?

ただでさえ、年上に混ざって試験を受けて目立つのに!

それ、合格しても僕の実力でなくて、何だか贔屓された上にズルしたみたいになるじゃないですか!」



陛下はナニ要らん事をしてくれとるんだ!!

国王陛下の後ろ盾を持った小さな子どもが年上に混じって試験を受けて合格したって、学園の大半の人間が僕の実力だなんて思わないに決まっているじゃないか!


これは僕個人が国王陛下に贔屓されたと言うよりは、父上のローズウッド侯爵が国王陛下に子どもをダシにして媚びたかの様に周りの貴族からは思われてしまうのではないか…。



「特級クラスに入るとなれば将来的に国の為に大きく貢献出来る人物と見なされ、その者の家名にも箔が付く。

学園は完全実力主義の場ではあるが、まだ幼いアヴニールが試験を受ける前から特級クラス行きとなれば、まぁ……そう勘繰るなと言う方が無理な話で…。


王城と学園に、多額の寄附を申し出た貴族が何名か居たと聞いたな。」



でしょうね、そう、疑われてますもんね!

癒着だの賄賂だの裏金だの裏工作だの裏口入学だの!

何か知らんけれど、前前世でもニュースで見ましたわ、

そーゆーの!

自分には一生、縁が無いと思っていた言葉!



「僕は大好きな姉様と楽しい学園ライフを満喫したいだけなのに…。

陛下も要らん事をしてくれて…。」



今の僕は、マライカ国王陛下シーヤの友人としても、貴族達から懐疑的な視線を向けられている。

子ども好きなシーヤに、父上が僕を使って取り入ったと思われている。

シーヤの子ども好きの意味を、厭らしい意味で捉えている貴族も居るらしいから、父上を目の敵にしている貴族に僕は、どんな風に思われているんだか。



一軒一軒、お貴族様の邸を訪問して暴れ倒したろか。

お前らん所の私兵なんぞ、僕の敵では無いわ!

畏れよ、そしてひれ伏せ!我が力の前に!的に。

そんな事が出来たらなぁ……

いや、これ僕のが魔王みたいだわ。


それにしても実力を隠しているって……

意外に面倒だし大変だ。



「まぁ、そう言うなアヴニール。

陛下は陛下で、いつ復活するか分からないが確実に目を覚ましつつある、人類の大いなる脅威……

深淵の主である魔王に対抗する手段を集めるべく、尽力なさっている。

お前の類まれなる才能には期待を寄せているのだ。

魔王を倒す為には、お前の力が必要なのだと。」



その倒されるべき魔王、バッチリとお目々開けてシレッと父上の前に立っていますが。

つか、父上には言ったんだけどね。

魔王、一回目を覚ましちゃったって。



「僕の力に関しては、知ってる人が限られますもんね。

学園に入学する際にも全てを晒すつもりはありませんし。」



ヒールなどの回復魔法を取得出来る神聖魔法を使える事は隠しておくつもりだ。

女神を崇拝し信心深いワケでも無いのに、司祭であるリュースよりも僕のが高い回復の効果を出してしまうと教会関係者に睨まれそうだし。


他の魔法や剣技についても、中等部の生徒としては優秀な程度に抑え、実力の全てを出すつもりはない。

必要最低限の見せ方をするに留めるつもりだ。


僕は、この世界で世界を救う勇者になるつもりはないんだし、陛下に期待されてもなぁなんて思う。


魔王を倒す勇者としての役割はアカネちゃんに任せたい。

でもルイは僕がぶっ倒したい。


アカネちゃんの倒す魔王はルイなのか?別人なのか?

魔王は不在になるのか?

ややこしくなってきたじゃないか。


父上の前で、混乱して頭から湯気を出しそうな僕を見かねてか、ルイが助け舟を出す様に言葉を発した。



「ねたみ、そねみ、ひがみ……

幼いながらも多くの才を持つアヴニール様は、その様な凡愚な考えしか持たぬ者達に目の敵とされるでしょう。

その、子息らにも。

その様な輩からは、私がアヴニール様を必ずお守り致します。」



「そうか、頼んだぞ。ルイ。」



パパ上、今一番倒さなきゃならんと言ってる魔王サマに僕を守るよう頼んじゃってんの。

それに……従者は学園内には入れないよ。

つか、僕が学生(ガキ)共のイジメなんかに負けるワケ無いじゃん。



「………あー何か既視感。

前世もそんな事を思った気がする……。」



ヒロインだった時にね。

悪役令嬢のシャルロットのイジメなんか、全く意に介さない状態だった。

だからと言って、イジメられてない訳ではなかったし…やはり断罪イベントはあったハズなんだよね…。



僕はルイを後ろに従えて父上の書斎から出た。

昨夜の事と今朝の事もあり、互いに無言で歩く僕とルイの間には何だかぎくしゃくとした距離感がある。


いつもみたいな不遜な態度で憎まれ口を叩いてくれた方が、僕としてはルイとの会話と言うか、言葉のやり取りがやり易いのだと少なからず思った。



「アヴニール様。」


「……誰も近くに居ないんだから従者の真似事はしなくていーよ。

で、何だよ。」



背後を歩くルイが声を掛けて来た。

この居心地の悪い沈黙の続く間を、ルイの方から打破してくれて助かったと思った。

憎まれ口を叩くならば、それはそれでいつも通りのムカつくルイになるのだ。

苛立ってムカついて腹が立って仕方が無いのに、沈黙がしんどい今の僕はそんなルイの姿を望んでいる。



「ではアヴニールよ。

一人で行動する時は、前もって行き先を伝えておく様にしてくれ。」



「は?夜中に黙って大聖堂に行った事を言ってんの?

行く前にいちいちルイに言わなきゃならないの?

なんで?」



微妙に…背後のルイに掛ける僕の言葉からトゲが抜けている。

昨日までの僕なら振り向いて面と向かって「うるさい!何でお前なんかに!ウザい!黙れ!」なんて噛み付く勢いで言ったかも知れない。



昨夜の、キスかと思ったら実は頭突きでした事件が尾を引いてんのだろうか?

いやいや逆だろ。アレはブチ切れカマして良い案件だ。

何でこんな大人しく会話しちゃってんだよ、僕は。

ルイの顔も見ずにさ。



「今の私はお前の従者だ。

主の身に何かが起こったとして、守りたい時に守れない等あってはならん。」



「大袈裟だな…僕が、そんな簡単にヤラれるほど弱いワケ無いって知ってる癖に。

そんな回りくどい言い方しなくても、黙って会いに行った大聖堂の二人に嫉妬しちゃったって正直に言えば、もう少し可愛げもあるのにさー。

ホントはそうなんだろ?なぁ。」



僕は、いつもと違う態度でルイと接する自分を誤魔化すつもりで、軽い口調でおちょくる様に僕なりの冗談を言った。

そう、これは軽いジョークなのだ。

「そうなんだ」と答えても「いや、ちがう」と答えても、HAHAHA!なぁに言ってんだか!真に受けんなよバーカ!なんて笑って済むような。



「その通りだ。嫉妬した。」



「はぁ!?何のジョークだよ!それ!」



思いの外、真剣味のある声音でのルイの返事に、僕は大袈裟な位にガバッと全身を使って後ろのルイの方を振り返った。

自分の中で軽いジョークだと勝手に割り切っての質問に、こんな態度で返されるとは思わなかった。

僕を見下ろすルイは眉根を寄せ、その表情は苛立ちをあらわにしている。



「お前は、自分を分かっていない。

お前は貴族の御曹司で、私はその従者だ。

私には、お前を守る義務がある。」



「それ…嫉妬じゃないのでは…。

それに守るって…僕の強さ、知ってるじゃん…。」



もはや、ルイが何に対して苛立ってるのか分からない。

嫉妬?いや、心配?ルイが僕を心配して苛立ってんの?

一体、僕の何を心配してんの??

それこそ嫉妬よりワケ分からん。


ルイはその場で足を止め、半開き状態の口をパクパクさせて困惑している僕に対して頭を軽く下げると、その場を離れて行った。


え…?え?この状態で僕を一人にする?

ど、どうすりゃいいんだ……???



「あらアヴニール、お父様のお話はもう終わったの?」



父上の書斎を出てから、僕はルイを連れて何気無く邸の廊下を歩いていたのだが、いつのまにかルイに誘導される様にダンスルームに向かっていたようだ。

一人ポツンと取り残された僕はダンスルームのドア前に立っていたのだが、部屋の中からシャルロット姉様が現れて僕を部屋の中へ招いた。


僕はハッと、今日この後の予定を思い出した。



「あ、姉様とダンスのレッスンでしたね。

学園に入学する貴族のテスト項目にダンスがあるとは知りませんでしたよ。」



「ふふっそうね。

でも、あの学園の卒業式は舞踏会なのでしょう?

だからなのかしら。」



僕は姉様の手を取りダンスルームに入る。

僕の今日のスケジュールを把握していて僕をこの場に誘導して来た優秀な従者のルイ。


いつもならダンスのレッスン中も側に居るルイが僕から離れて何処かへ行った。

何処へ…?







「ジェノ!!ジェノは居るか!!」


険しい山々の頂にある、魔王の棲む巨城━━


深淵の城と呼ばれた魔王城の最奥部である王の間の玉座にルイが人間の姿のままで腰を降ろし脚を組んだ。


「お側に。陛下。」


額に角を生やしたジェノと呼ばれた魔族の青年はルイに呼ばれて姿を現すと、床に片膝をつき胸に手を当て頭を垂れ、臣下の礼をとった。



「久しいなジェノよ。

すぐ、また発つが許せ。」


下げた頭を上げたジェノは冷静沈着な面持ちを保とうとしてはいるが、人間の姿を模したルイを前に微妙に困惑の表情が見て取れる。



「何だ、ジェノ。

言いたい事があるなら言え。多少の無礼は許す。」



「はっ!恐れながら……


……陛下は、いつの間にお目覚めになられていたのでしょうか……。

陛下を斃そう等と愚考する身の程を知らぬ人間共に恐怖を与えると…機を窺う為に深き眠りについておりました陛下が……私の気付かぬ間にお目覚めになられており……

しかも、その様な…憫然たる人の姿を模しておられますのは…どの様な……。」



ルイは肘置きに肘を乗せ、拳をこめかみに当てるようにして数段高い位置にある玉座の上から側近であるジェノを見下ろした。



「ふむ…やはり、そうであるか。」



ルイが目覚めた時、城は空間が凍ったかの様に自分以外の者たちの息吹を感じる事が無かった。


此度城に戻って見れば、氷が解け始めかの様に少しずつ他者の息吹を感じられる様になっていた。

━━今から舞台が始まったとばかりに。


魔王の側近であるジェノにも9年の経過を知る様子が無い。

ジェノの語る完全に眠りに落ちていた魔王の姿は、ジェノにとっては今でも、ルイからしてみれば9年前の過去の自分の姿だ。


今、始まったばかりの舞台が、実は9年前の続きであると認識出来ているのはルイとアヴニールだけである。



「ジェノ。面白い事を教えてやろう。

私の半身のファフニールだが、とっくの昔に倒されているぞ。

一人の少女によって。」



「な、なんですって!?そんなバカな!!

今すぐ確認を!!」



ジェノを始め、魔王城の住人達が確認を急ぎ始めた。

この世界の者たちの中ではファフニールは倒されていない。

では、イワンとは別のファフニールが居るのか。

居たとすれば、それと対になる魔王も居るだろう。


そんな確認の意味を含めて、ルイはジェノに確認を促した。



━━そう言えば……

アヴニールの言葉につられて、つい嫉妬していると言ったが……

私の知る『嫉妬』とは微妙に違うようだったな。

私の知る嫉妬とは他者の境遇を妬み、嫉み、羨望する、そういうモノなのだが……で、あれば私があんなガキ二人の境遇なんぞに嫉妬などする理由など無い。


アヴニールは、何を指して嫉妬等と……━━



「ジェノよ、確認を急げ。

主のレッスンが終わる頃には帰らねばならんのだ。

従者としてはな。」



慌てふためく様に確認の指示を出していたジェノが、石化する様に固まった。





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