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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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34話◆僕の従者が決まりましたよ。ふざけんな。

「紹介しよう。

今日よりアヴニールの従者となったルイだ。」



「………ルイ………さん。」



「彼は、ローズウッド侯爵領の森の奥地から隣国との国境までの管理を任せていた一族の跡取りだ。

その一族は古くは我がローズウッド侯爵家の分家から派生した、いわば遠い親戚にあたる。

今までは森の最奥部から連なる山々の管理を任せていたのだが、優秀な彼にはこれよりアヴニールの従者として働いて貰う事にした。」



「…古い分家…遠い親戚…初めて聞きましたよ、そんなの。

山々の管理って…深淵でしょ?魔の領域でしょ?

人は立ち入れないハズでは……。」



午後の授業が終わったら学園入学の準備の話があるから応接室に来るようにと父上に言われていた僕は、午後の剣技の授業が終わったので姉様と共に応接室に向かった。


応接室には父上と共に、姉様の専属侍女であるマルタと青年が一人居た。



学園の生徒は多くが貴族の子女であり、上位貴族は身の回りの世話係として侍女や従者を一人のみ付き添わせる事が出来る。


姉様には、姉様と姉妹のように仲の良い侍女のマルタがついて行くらしい。


クリストファー義兄様も幼少時からの付き人のシグレンを学園に連れて行っている。


父上は以前、幼いアヴニールには護衛の腕が立ち、身の回りの世話も出来る優秀な従者が必要だと言っていた。

で、見つかったから紹介すると。




「お初にお目にかかります。

アヴニール様の従者を仰せ付かりました、ルイ•サイファーと申します。

以後お見知り置き下さいませ。」



長い黒髪をハーフアップにして括った青年が僕の前に片膝をつき、胸に手を当て頭を下げた。

僕は無言で、立ち居振る舞い美しく僕の前に跪く黒髪の青年をしばし呆然と見下ろしていたのだが


我慢出来なかった。

思い切り指をさして声を大にして言ってしまった。



「お初だぁ!?…おまっっ!お前なぁ!!

ハナっから正体を隠す気の無い偽名なら、最初からつけんなよ!

ルイ•サイファーなんて!!」



父上とルイが二人して「え?」なんてキョトンとした表情をしている。



━━映画やゲームでルイ•サイファーとか名乗るヤツは、正体がルシファーなんだよ!!定番なんだよ、お約束なんだよ!

そいつの正体は絶対に魔王様なんだよ!!


なんで、シレッと人間のフリして現れてんだ!!

ヴィジュアル系引きこもり魔王が!!━━



「ちょっと!!父上!!こいつ…ルイは…!!」



世界を破滅に導く魔王本人じゃないですか!!

ルイを指差し喉元まで出た言葉を、僕はゴクリと飲み込んだ。


僕が正体を暴露して魔王だとバレたがゆえに「もはやこれまでだな!」なんて魔王が本領を発揮してしまい、この場で僕とバトルになってしまったら父上と姉様も巻き込んでしまう…。

ローズウッド侯爵邸が崩壊してしまう。


つか、何だ?何で人間のフリして現れてんの?

何で就職活動なんかしてんの?はぁ?

しかも遠縁?山の管理?そりゃ、確かに本邸のお隣さんですし、ご近所さんですし、そもそも山はあんたの領域でしょうよ!

だって狂暴な魔物だらけで人間は入れんしな!


なのに父上、そんな場所から来たルイをなぜ人間扱いしてんの。不自然極まりないだろ。

しかも親戚筋とか?


もう、ツッコミ所が多過ぎて、おかしくない所を探すのに苦労する。




「ルイは?ルイが何だ?」



「…かっ…カッコイイお兄さんですよね…。」



不思議そうに尋ねる父上に対し、僕はこれ以上何も言えなかった。

黒猫姿のイワンは姉様の膝に乗っており、ルイが現れた時には一瞬驚いた様に頭を上げたが、またウトウトと姉様に撫でられながら夢の世界に旅立った。


イワンが警戒してないから安全と取るべきか、イワンもルイの一部だからルイの企みを隠しているのか……。


父上も、あからさまにおかしい事を当たり前の事の様に話してるし、洗脳みたいなモノなのか、ゲームの仕様なのかも分からない。

分からないし下手に刺激したくない。

今、キレられたら困る。



僕は父上に言われて、ルイを自室に案内する事になった。

なんで、魔王に僕の部屋を見せにゃアカンのだ。

家庭訪問じゃあるまいし…

どこの世界に昨日「殺し合おう」と言った魔王を、お部屋に招待するヤツが居るんだよ。

僕だけだよ。



「アヴニール様。」



「やめてよ気持ち悪い。

倒す予定の魔王サマに、様付けされて名前を呼ばれるとか意味が分かんないよ。」



僕は自室に着くと、休憩用の背もたれ付きの椅子にドサッと深く腰掛けた。

深く腰掛けると足が床に届かず宙に浮くので、プラプラさせる。



「では、人の気配が無い時はアヴニールと呼ぼう。

まだ私を倒すつもりとは恐れ入ったが…

アヴニール、私は世界を破滅に導く気は無いぞ?」



窓枠に寄り掛かる様に立ち、腕を組んだルイ…つか魔王が首を傾げながら言った。


それ、僕がさっき口に出さずに思った事だ。



「魔王ッッ!おまっ…お前って、人の心が読めるの!?

うわ…ますます気持ち悪いんだけど…。

眠りにつくとか言ったじゃんか…。

なんで僕の従者なんかになってるんだよ。」



「私は人の思考までは読めないが、たまに頭に浮かんだ単語だけを拾う事がある。

そこからお前の考えを推測したまでだ。

それに眠りにはついた。

半日寝て目を覚ましたから、お前に会いに来た。」



窓枠を背にして腕を組んで立つルイは首を少し傾けながら僕の問いに答えた。

なんかシレッと答えやがって、ムカつくな。

このくそイケメンが。



「会いに来なくてイーよ!!

だって魔王なんてモンはさ!世界に破滅をもたらし闇の世界を作るとか人間滅ぼすとか!そんなモンだろ!

ナニ普通に雇われちゃって、僕んチに来るんだよ!」



昼寝したけど目が覚めたから会いに来たってか!?

何だその自由人っぷりは。

イケメンなら何を言っても許されるとか思ってんじゃないぞ、この野郎!



「それに私は闇の世界なんぞ別に望んではいない。

日光浴、わりと好きだしな。」



…日光浴…ひなたぼっこが好きな魔王…。

アウトドア派のヴィジュアル系引きこもり魔王…?

ますます意味が分からんわ。



「僕に会いに来たって…まさか僕を倒しに来たんじゃないよね?」



「倒されたいのか?

だったら、そこに押し倒す事も出来るが。」



ルイが窓枠を背にして立ったまま顎先でクイと、僕のベッドを指した。


………………………。


僕はニコリと微笑み、ソファーからストンと下りた。




「……ルイ……お前は僕の従者だったね……。

この際、お前の正体はどうでもイイや。

主人をからかう下僕に、どんな罰が待っているか…

その身に刻み込んでやる…。」



「従者から下僕に格下げされているが…殺気が凄いぞ。

アヴニール、一旦落ち着け。」



微笑む僕の手には虹色まばゆい、小っ恥ずかし剣1号が握られていた。







「どうだ、アヴニール。

ルイとは仲良くやっていけそうか?」



夕食時に邸の食堂の席についた僕に、父上が開口一番に尋ねて来た。



「彼は、学園に行くまでの僕の教育係も務めるのですね。優秀ですもんね。

まぁ…いいんじゃないですか?」



僕の席の斜め後ろにはルイが立っている。

父上に視線を向けられて目が合ったルイは、手を胸に当て軽く頭を下げた。



「お前がいつも剣の講師をからかって遊んでばかりで授業を疎かにしていたからな。

ルイならばお前の剣の鍛錬の相手が出来るだろう。


学園に行くまでは、勉学と剣の鍛錬を中心に準備を怠らない様にな。」



確かに……

貴族の坊ちゃんに剣の扱いを初歩から教えるような実戦経験も無い講師程度では、僕にとってはお遊びにもならない。

だからこそ、ボク頑張ってます的な芝居が楽しかったんだけど……。



ルイは魔王だから当然ではあるが、剣の腕も魔法の腕も僕よりも上だ。


レベルは、半身のファフニールを斃した僕のレベルに影響を受けていると言っていたが、剣や魔法の技能については元より相当の実力があったようだ。

それに加え、僕の影響で高レベルを取得したもんだから各パラメーターもアホみたいに上がってるっぽくて手に負えない。



さっきも部屋で、激怒した僕が振り回した剣を全て手にした木製のペーパーナイフで受け止められた。


「なんで木製のペーパーナイフが、蘭鉱石で出来た僕の剣を受け止められるんだよ!」


とブチギレた僕の身体を、ルイがヒョイと正面から抱き上げた。


僕が座っていた椅子にストンと腰を下ろしたルイは、膝の上に僕を座らせて僕の肩に顎を乗せ、背後から僕の両手を握ってきた。


ぎゃあああ!!!と叫ぶつもりが、心の中で叫び過ぎて声が出なくなった。

無言でガチガチに硬直した僕の両手の平を開かせたルイは、僕の耳元で話し始めた。



「魔法剣と同じ事だ。硬化魔法を掛けた。

魔法剣を媒体としなくとも物体に魔力を纏わせる事は出来る。

要はイメージを強く持つ事と、それに見合った魔力を適度に流す事。

少なくてもいかんが、多くても駄目だ。

こうして、開いた右手と左手でバランスを取り…

アヴニール?聞いてるか?」



聞いてたけど頭に入らなかった。

肩に顎を置かれて耳元で囁かれるって。

意識飛んだわ。イケボこわっっ!!






「ルイは父上が僕の為に見つけてくれた優秀な人材ですからね。

うまく…やっていきますよ。」



僕はもう、前向きに考える事にした。


魔王が悪事を働かない様に、僕が側で監視しているのだと思う事にした。

剣の扱いや魔法についても、「いずれお前を倒す技を、お前から学んでくれるわ!」と思う事にした。


さっきステータス画面の親密度ページをチラ見したら、早くもラブ値のハートが1個赤くなってて、そのチョロさに膝から崩れ落ちそうになったが耐えた。


なんで6人目の攻略対象者扱いなんだろうな魔王。




ルイいわく━━


「私が目覚め深い眠りにつけなくなったのは、何かしらの理由がある筈だ。

私には9年前の過去の記憶があるが、それはこの世界の未来だと言う。

私は自分の為に、今のこの世界を知る必要がある。

よって、今すぐ世界をどうこう等とは思っておらん。」



だそうで、どのみち今の人間には魔王を倒すだけの力が無い。

だから、今はルイのその言葉を信じる他無い。


中途半端に魔王に攻撃を始めても、返り討ちに遭うのがオチだ。


って、僕はスキあらばぶっ倒す気が満々だが。





翌日の日中。

僕はルイと共に、黒ヒョウ姿のイワンを連れて深淵のへさきに蘭鉱石を取りに来ていた。


「って言うか……もっと勿体ぶって現れろよ魔王。

目覚めてすぐに倒された事にしろって自分で言ったのに、翌日には復活、人間界に人間の従者として降臨とか……安いな。ラスボスの癖に。」



「現れるタイミングを勿体ぶる意味が分からないな。

従者になりたかったワケではないが、アヴニールの側に居るためにはこれが一番最適な選択だと考えたのだ。

私は常に、私の思うままに行動するのみだからな。」



「………キモ………」



側に居るとか、キモい事を言う。

オスのガキだとか言って盛大な溜め息を吐いた癖に。

僕は同意を求める様に黒ヒョウのイワンの首に抱きついた。



「ソイツは私の半身だ。

ソイツに懐く位ならば、私に甘えたら良かろうに。」



「黙れ下僕。イワンはもう僕の半身だ。お前のじゃない。

お前は頭が春みたいな新しい乙女でも追っかけていろ。」



「乙女に嫉妬か?狭量だな。

自分は前世で5人もの男を手玉に取っていたのに。」



「好きで手玉に取っていたワケじゃないわ!」



イチイチいちいち、口を開けばムカつく事しか言わない魔王のルイ。

そして僕達の間でオロオロする心配性なイワン。


同じ感情を共有してるのがピンと来ないほど、ルイとイワンの性格は別物だ。



イワンは好きだがルイはムカつく。

サッサと魔王としてヒロインに倒されてしまえ。




……あれ?……ルイとイワンって、アカネちゃんに魔王討伐のフラグが立ったら、その立ち位置に戻るの…?




挿絵(By みてみん)

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