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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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33/96

33話◆我を置き時は遡り、目覚めと共に我は萌える

僕がローズウッド侯爵領に戻る頃には深夜となっていた。


中庭でクリストファー義兄様に右ストレートを繰り出してから、色んな事が立て続けに起こり過ぎて…。

僕は疲れ切っていた。


シーヤの為に奔走した事については、あれは僕がするべき事だと思っていたし、シーヤの事を煩わしい事をさせたなんて責める気は一切無い。

むしろ無事で居てくれて良かった。


無駄に一番僕を疲弊させたのは、魔王の存在だ。

いや、戦う意思を無くした後の魔王の言動だ。


うっせーわ、ムカつくわ、余計なお世話だわ。

今になって、どっちかぶっ倒れるまで本気で殺り合ったら良かったんじゃなかったかとさえ思えてくる。



自室の窓が開いていたので窓から部屋に入り、クタッとベッドに横になった。

隣に黒猫の姿になったイワンが僕の顔の横にゴロンと横たわり、クルンと丸くなる。

見た目も動作も本物の猫みたいだ。


これがあの……ファフニール。見えんなぁ。

前世で倒した時は、いかにも邪悪そうな、赤く鋭い眼光が目立つ翼のはえた巨大な黒い竜だった。


…前世では…思い切りブチ殺してしまったな。

そりゃ、自分を殺した相手なんだから恨むだろうし憎むだろうけど…イワンから、そんな負の感情を感じないんだよな。


「イーワーン。イーワーン!もふもふ〜!」


黒猫のイワンに顔を乗せてじゃれつく。

猫のようにゴロゴロと喉を鳴らすイワン。


「ンニャッ!ニャァ〜ン」


「…うぉあ、イワン、黒ヒョウになってから声が出せる様になったね。」


ますます本物の猫みたいで可愛いじゃないか。

僕はイワンの腹に顔を埋めたままイワンを抱き締める。


「イワンが今も僕を恨んでいたら…ごめんだけど、僕はイワンが好きだよ。大切な友達だと思ってるから…。」


友達…そう言えば、シーヤはあれからどうなったんだろう。

明日、父上に聞かなきゃな。


今夜は寝る……オーナメントが割れてシーヤのお守りから解放されて、やっと……ゆっくり……熟睡出来るのだから……。






険しい山々が多く連なる広大な山岳地帯の中央に、一際高くそびえる山の頂きに、魔王が棲むとされる巨大な城がある。


山の頂きは雲を突き抜けた更に上に在り、飛空魔法を使える魔法使いでもその高さに到達する事は出来ず、人々がその城を目にした事は無い。



アヴニールとイワンの元を去った魔王は、自身の居城に戻ると屋根先に腰を下ろし、腕を組み指の背を顎に当て考える仕草をした。



「ふむ………嫌な気配がするな。

私が目覚めたのは偶然ではなく、必然か……。」



約9年前に半身ファフニールが斃された時点で、その怒りや苦痛や憎しみの感情を受け、半分寝ぼけながらも目は覚めていた。


うつらうつらしながら半身の仇が来るのを今か今かと待っていたが、いつまで経っても来る気配が無い。


やがて再び寝入ってしまい、何度か目が覚めたが時間が経ち過ぎたせいか半身の怒りの感情が捉えにくくなっていた。


自分の魔力から生まれた半身と言えど自分とは別物だし、ファフニールの残滓がこの世から消えて無くなっていたとしても、私には特に影響は無く気にはならない。


だから時が経ち過ぎて、消えたのだろう位に思っていたのだが。


私の支配する地と、人間の管理する地の狭間に、消えたと思っていた懐かしい半身の息吹を感じた。


そして、その半身を斃した者の魂の存在をも感じた私は、9年前の続きを今こそ!と、居城では待っておられずに自ら出向いたワケであったが……。


9年前に、半身の視界を通して最後に見た光景……


私の半身である巨大竜ファフニールが斃され、咲き誇る春色の花の様な長い髪の美しい少女が剣を片手に勇ましく立っている様がそのまま目の前に繰り広げられているだろうと思いきや…。



小さなワッパが、大きな黒猫と居ただけだった。



だが確かに、この小さなワッパからは少女と同じ魂を感じ、大きな黒猫からは私の半身の息吹を感じる。

9年も経てば、姿形も変わってはいようが……少女が大人の女になったのではなく、オスのワッパになっているのは、どんな理由があるのだか。


そして私の半身の感情……あんなに激しかった恨みや憎しみが消え、私が初めて知る感情が半身から流れ込んできた。



━━守りたい、傷付いて欲しく無い…己以外の他に向けた、好意という感情。



「ファフニールを斃したのは、前世でのアヴニールだと言っていたな。

ふむ…私にもファフニールを斃されてから9年経過した記憶があるが、逆行するように、この世界の現在の時間はあの日より過去の様だ。

新しい花の乙女も居ると言っていたな……この先、私を斃す予定のか。」



同じ風貌だと言うならば、それは美しい乙女なのだろうが…

器が同じでも、魂は別物か。

今の私には全く興味をそそられない。



「私が目覚めたのはアヴニールを倒すためでは無い様だ。

アヴニールと私、双方を脅かす何者かが生まれようとしている。

……それを斃すために、私は目覚めたのかもしれん。」



魔王は、ふと腹部に付いた衣装の傷跡を見た。

身体にはもう傷痕ひとつ無い魔王だが、裂けた衣装の修復を失念していた。

衣装についた傷跡に手を触れた魔王は、小さな体躯の少年が大きな剣を手にし、魔王の半身であるファフニールの成れの果てを仲間だと言って守る為に強大な敵である自分に立ち向かう姿を思い出した。



「…フフ…小さな勇者アヴニールよ…。オスのワッパではあるが……


あっ……愛らしかったぞ!!中々にな!!」



思わず拳を握って、声を張って言ってしまった。

何だか顔が熱い気がするのは気のせいだろうか。




翌朝、アヴニールがステータスの確認をした際、魔王との親密度が50%から55%に上がっており、アヴニールがパニクる事となる。



「は!?寝てる間に何で!?なんにもしてないのに!?」







翌朝、僕は父上に呼ばれて父上の書斎に向かった。


一刻も早く事の成り行きを説明したいと、朝食も書斎で取れるようにと用意されていた。


お城に連れて来てからのシーヤお兄ちゃんの事を説明するだけで、わざわざこんな準備しないだろうから…僕に何かを求めてるのかな…。


「さて…アヴニール。

食事を取りながらで良いから聞いていなさい。」


「はい。」


僕はジュースを飲み、パンをちぎって口に運びながら父上の言葉に耳を傾ける。


「シーヤ国王陛下はまだ、我が国の王城においでだ。

これは、限られた者しか知らぬ事だから他言は無用だ。

当然、クリストファー王太子殿下にも知らせてはいない。

お前が突然消えたのは、転移アイテムの誤作動という事にした。」


「転移アイテム…それを僕が持ってるって時点で何故?って、クリス義兄様からの追及は無かったんですか?」


父上は首を横に振った。


「「ゆえあって、アヴニールに転移アイテムを預けたのは私だ」と国王陛下のお言葉があった。

何かを疑問に思ったとしても、それ以上誰も追及はできまい。」


クリストファー義兄様は王族でありながら、まだ子供であるがゆえに今回の事件では蚊帳の外だ。

真実を知りたくとも、まだそれが許される立場ではない。


「サンダナ様をはじめ、王城の魔導師達がマライカ国の一番近くにある転移魔法陣を経由してマライカに飛び、あちらの宰相殿と数名の側近を我が国にお連れした。

色々と割愛させてもらうが話し合った結果…マライカ国にはシーヤ国王陛下の影武者を立て、シーヤ国王陛下には暫くの間、我が国にて身を潜めて居て貰う事とする。」


「それって、その影武者さんがシーヤお兄ちゃんの代わりに襲われる可能性があるって事でしょ?何だか…ヤダなぁ。

それに、シーヤお兄ちゃん匿うって言って幽閉するみたいなのは気の毒じゃないですか?」


僕はパンをもっきゅもっきゅと噛み締めながら不満げに言ってみる。


「影武者をするのは我が国の有能な魔術師だ。

マンティコアより高レベルのキマイラ程度の魔物であれば負ける事は無いそうだ。」


レッサーでなく、キマイラに単独で勝てるならば強いんだろうな。

と、影武者さんについては安心したが……シーヤお兄ちゃんを、どこに隠すのだろう。


「シーヤ国王陛下についてだが……

アヴニール。今一度訊ねたいのだが、イワンは陛下を守れるだろうか。」



「あー、守れるでしょうよ。イワンはファフニールですからね。

この世のモンスターの中では最高種ですし。」



僕はボイルされたソーセージをかじった際に飛び散った肉汁に四苦八苦しており、焦りながら汚れた父上のデスクをナプキンで拭いたりと忙しなく動き回っていた。

で、意識がそれていて言わなくてもイイ事をポロリしちゃっていたと。



「…………………イワンが、ファフニールだと?」



「っっっ!!違います!!い、今のは冗談です!!

いっイワンは!!黒スライムですし、ジャムの妖精ですから!!」



「…フフッ……アヴニールよ。お前は賢いが………馬鹿だ。」



父上ひどっ!馬鹿?馬鹿って言われた!?



「誤魔化すのが下手なんだから、最初から口にしなければ良いものを。

その下手くそな誤魔化し様。イワンがファフニール。

これは真実なのだな?

さぁ、説明して貰おうか。アヴニール。」



父上はデスクに両肘をついて手の平を組み、顎を乗せて微笑んだ。

片方の肘が僕が飛ばした肉汁の上にビチャァと乗っている。

そんな事すら、気にしてられるか!とのオーラを感じる。

父上こぇえ!




邪竜ファフニール。

その名は、魔王の存在をひた隠しにしていた国のトップとその側近達しか知らない大いなる脅威の存在。


確かにゲームでも中盤以降になって、やっとその存在が明らかになる様な程、忌避されて人々の記憶から忘れられた古竜の名前。



「昨日……父上に言われて、ローズウッド侯爵領に行ったら……

魔王が現れて……イワンと喧嘩になりました。

僕はイワンの味方をして、そしたら魔王が自分が負けた事にしていいからもう帰って寝るって言って……帰っちゃったんです。」


嘘は一切言ってない。

父上は驚きを通り越して、笑顔のまま硬直している。

かろうじて息はしているようだが、石化しつつある。


「その時に魔王が、イワンは自分の半身でファフニールだと言いました。

で、自分は寝るけどイワンに危害を加えなければ悪さはしないと……。」


ここは少し嘘をついた。

ファフニールであるならば、イワンを殺すべきだとか言われても困るし。

そもそも倒せないし。

下手に攻撃なんかしてイワンが腹を立てたら、感情を共有しているヴィジュアル系引きこもりの魔王が自分も腹を立ててバサササーっと飛んでくるかも知れないし。



「…………それを信じろと?」



「信じなかったとして、どうします?

今の我々人間が、魔王に勝負を挑んで勝てると思いますか?

僕が………軽くあしらわれたんですよ?」



父上はデスクに肘をついたまま頭を抱え、大きな溜息をついた。


……前世の事は話せないから、魔王やファフニールとの因縁については内緒なんだけど、今回魔王が現れたのは僕のせいじゃないと思う。


どちらかとゆーと、ローズウッド侯爵領に行けと言った父上が悪い。


「アジ・ダハーカを倒せるアヴニールでさえ敵わない相手が、眠りにつくと去ってくれた。

これを、我々人間が魔王を倒す為の準備期間を与えられた好機と見るべきか…こんな事、誰にも話せん……。」



「その辺はまぁ…父上のタイミングで話すなり、隠しとくなり。

とにかくそんなワケで、イワンの一部が守ってるシーヤお兄ちゃんには、そこらの魔物なんか手を出せませんよ。」



「……シーヤ国王陛下は素性を隠すアイテムを使い、さる場所にてお守りしている。

これについては、お前にも話せん。

イワンを通して知る事は出来るかも知れないが。」



「僕にも話せない事だと言うならば、知ろうとは思いませんよ。」



知ったら面倒!シーヤお兄ちゃんの世話を焼く必要が無くなったのだから、僕は以前と同じ日常に戻るだけだ。

麗しき姉様とお茶を楽しんだり、夜には大聖堂に行ってアイテムを作って…。


そうだ蘭鉱石を使った武器って、剣以外も造れたよな?

また蘭鉱石取りに行って、新しい武器を作って………確か槍と弓!

早く図鑑を埋めよう!



「アヴニール、午後の授業が終わってからシャルロットと共に応接室に来なさい。

学園に行く準備として、大事な話がある。」



「はーい!」



僕は頭を抱えて再び溜息をつく父上を見なかった事にして、そそくさと執務室を出て行った。

シーヤの安全が何となく確保出来たらしい事に安堵し、前と同じ日常が戻った事で気が緩んでいた僕は、鼻歌まじりに自室に向かった。

午前の授業は歴史、午後の授業は剣技なのだが…

剣技は、もう講師より僕の方が遥かに強いんで、逆に8歳の少年として違和感を与えない程度に弱さを演じる授業となる。


これが難しいのだが実は楽しい。

講師は僕が強いのを知らないので、一生懸命僕を強くしようとアレコレ教えてくれる。

それを10%位出来た芝居をして、僕、出来ました!みたいな良い笑顔を見せるのだ。


いけ好かないオッサンをからかうのは楽しい。ハッハッハ!


なんて思っていたせいでバチが当たったようです。



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