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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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32/96

32話◆条件が整いました。

翼部分が完全にツルりノペりになった大鷲姿のイワンを庇う様にして前に立っていた僕は、イワンの胸元に抱き着いてイワンの顔を見上げた。


このイワンが…僕がヒロインだった時に倒した邪竜?

つかファフニール?


ホント今さらだけど、色んな世界の神話やらおとぎ話やら混じってんなぁ…さすがはゲームが舞台の世界。


名前はまぁ、北欧神話か何かに出て来る竜の名前を使われているけど、この世界でのその名は邪竜扱いで、しかも魔王の半身だと言う。

ゲームとしては終盤、魔王を倒す力を得る為の試練として出て来るらしい。

プレイしたゲームではそこまで進んだ事が無かったのだけど、ヒロインだった前世の僕は大きな黒竜と戦った。


しかも攻略対象らがウザくて、一人でサクっと倒してしまった。ゴメン…。



「イワンは僕の事、恨んだり憎んだりしていたんだね……

そりゃそうか……

僕はイワンを倒したのだものね。」


邪竜ファフニールを屠ったヒロインだった僕。

前世の事とは言え、その命を奪ったのだから恨まれて当然………。


……にしては、えらく懐いてないか?


胸元に抱き着く僕の頭に、大鷲姿のイワンがクチバシを擦り寄せる。

やがて大鷲は、小さな黒猫に姿を変えて僕の足元に絡みつく様に擦り寄って、抱っこをねだった。


僕は頭にたくさん「??」を浮かべた状態で、とりあえず的にイワンを抱き上げる。

本物の黒猫の様に僕の腕の中で甘えて喉を鳴らすイワン。

どうゆー事??



「……イワンは、本当にお兄さんの半身なんですか?

これ、僕を恨んでる?憎んでる?めっちゃ擦り寄って来てますが。

懐いたフリして、僕をバクっと食べるつもりとか…?

って言うかお兄さん、自分の半身に攻撃したり、されたりしてましたよね…一人相撲??」



考えれば考えるほど僕は頭が混乱してきた。

だが、そんな事よりも……僕の前に立つ魔王は僕の渾身の一撃にもピンピンしており、いつ再びバトルが始まるか分からない。


僕は警戒を怠らずに、魔力を流すとシャララ〜ンと音の鳴るこっ恥ずかし剣2号を片付けないまま魔王をずっと凝視していたが、魔王は心臓にこっ恥ずかし剣1号を貫かせたまま顎に指先を当て何やら思案中だ。



「ふむ…良いだろう。

今宵の勝負は私の敗北としよう。

ワッパは世界の脅威となる魔王を打ち負かした事を誇るが良い。」



「……はぁ?世間様はまだ、魔王の存在すら知らない人が殆どです。


僕が魔王を倒したなんて言っても誰も信じてくれませんし、魔王の存在を知ってる人には「嘘をつくな」と逆に叱られます。

だって倒された事にするって言って、お兄さんめちゃくちゃ元気じゃないですか。」


魔王さまは僕のお恥ずかし剣を心臓に刺したまんまで、普通に話してるし。

とてつもなく健在だ。


だいたい、ゲーム開始前の時期に現れて、モブの僕によって倒された事にしとけって言われても…。

誰も信じてくれないし、そもそも倒れてくれてないし。



「案ずる事は無い。私は再び眠りにつく。」


「………はぁ。眠りに……」


この世界での正式ヒロイン、アカネちゃんが魔王を倒す旅に出るまでは寝ているって事だろうか?

そんな自分の出番まではゴロ寝して待つわ、的に言われても…。


そういやアカネちゃんが旅に出たとして、最後の試練はどうすんの?

邪竜ファフニールいないじゃん。


僕、イワンを倒され役で貸し出すのは嫌だよ?



魔王は、心臓に刺さった僕のレインボーソードをスポンと身体から抜くと、刃の方を持ち僕の方に柄を向けて差し出した。


「ほら、返すぞ。」


「…ご丁寧にどうも。」


自分が刃の方を持ち、人に刃を向けずに剣を渡すとは。

親御さんの躾がしっかりなされてますわね。


いや、魔王に親御さんおるのかも知らんが。


「ワッパ。名は何と言う。」


「えっ?僕?アヴニール……。」


不意をつかれて尋ねられ、思わず答えてしまった。


魔王の大きな手の平が僕の小さな頬を包む様に触れる。


「げっ!!!」


僕は、黒ヒョウのイワンの頭を魔王が衝撃波でふっ飛ばした事を思い出し、変な声を上げ身構えた。

だが魔王は深紅の目を細め、両手で僕の頬を包む様に挟んだ。


「……良い名だな。」


…………は?なんじゃそれ。


僕に抱っこされたイワンが、黒猫のままフシャーっと魔王を威嚇する。

いやいや、あんたら元々一人なんでしょ?

自分が自分に威嚇って!

違う違うそうじゃないんだ。

イワンの威嚇は、僕の心情を反映している。


僕が魔王を警戒している。

それは、再び戦いが始まるかも知れないからって警戒ではなく……



何だよ、この甘ったるい雰囲気は!

いや、おかしいだろ、ちょっと、有り得ん!!



僕は魔王の両手で頬を包まれたままグギギギと無理矢理顔を傾かせて、正面から見詰めてくる魔王の視線から逃れようとした。


イケメンが、間近で僕の顔を見詰めて来るとろくな事が起こらない。

クリストファー義兄様しかり。


「アヴニール………艶羽根の様な美しい黒髪に、澄んだ空の様な瞳……

何とも美しいものだ。」


意味分からん!髪はアンタも黒い!

ついさっきまで、殺し合おうだの、消えて貰うだの言ってた相手に、口説くようなセリフを言うってナニ?

乙女ゲームに出るイケメンは、敵も含めてみんな頭がユルイのか!?


「アヴニールよ……」


「ッッ!!……やっ…!やめて!!いや…!」


魔王の手の平で頭を覆う様に掴まれ、グイッと顔を引き寄せられた。

シチュエーション的に、強引に唇を奪われるのかと思わず、素の僕と言うか前前世の自分が出た。




「はぁーぁ……

…美しい見てくれだった所で、お前はガキな上にオスだからな。

はーっ。」



小娘の様に身体を強張らせた、中身25歳オーバーの喪女、外身小さな少年の自分。

その僕の顔を、すんごい近くで見ながら、すんごいヤル気無さげに魔王に溜息を吐かれた。


「以前の、花の様な長い髪を風に遊ばせた美しくうら若き乙女の姿であれば、我が寵愛を授けてやっても良かったのだがな…。」



………………………………



僕は、さっき魔王に返して貰ったばかりのレインボーソードを右手に握り、魔王に向けて構えて戦闘態勢に入った。



「……おい…魔王………殺し合いを続けようか………」



よく分からんが、何かがブッチーっと切れた。


偉そうに寵愛だなんて言った魔王にムカつく。

僕をガキだとかオスだとか言った魔王にムカつく。

だが、キスされちゃうかもなんて思って、やめて!いや!なんて言っちゃった自分に、一番ムカつくわ!!クッソ恥ッずかしい!!


そんなセリフ、前世でも前前世でも、女だった時にだって言った事無いわ!

そんなセリフを言わせた魔王…しかも、聞いてやがった魔王……

お前を消して、そんな事実は無かった事にしてやるわ!



「は?なぜ急に好戦的になった?

私は、もうお前をいたぶるつもりが無いと言うのに。」



「マジでムカつくわ!!何なんだよ、その上から目線!!

いたぶられたりしねーし!むしろ、コッチがお前、いたぶるし!

花の様な長い髪の乙女だとか、ウッセえわ!

ちゃんと新しいのが居るから会いに行けばいーよ!!

死んでからな!!」


僕は虹色の剣を大きく振りかぶって、魔王の脳天に向けて叩き込む様に下ろした。


スイ、と躱されて魔王の脳天をかち割るつもりだった僕の剣がガゴッと地面を抉った。

そのまま刃を返して剣を上にあげ、魔王の足元を狙う。


「眠りにつくと言ったろう。悪さをするつもりも無いと。

何に対して腹を立てている?アヴニールよ。」


魔王はふわっと身体を浮かして、膝から下を狙った僕の剣を空振りさせた。

大人が子どもを諭す様な、落ち着き払った口調が余計に僕を苛立たせる。



「眠りにつく前に、僕がお前にとこしえの眠りをプレゼントしてやるよ!!

永久に眠ってろ!!」



「やれやれ…何だ、まさか妬いてるのか?

花の様な長い髪をした乙女………』



「だから、もーえーっちゅーんだよ!!

黙れ!ヴィジュアル系引きこもり!!」



羽根を拡げて宙に浮いた魔王を追った僕は、下から貫くつもりで高く飛び上がった。


魔王は、剣を構えて凄い形相で飛んできた僕の顔を見て苦笑すると、手の平をこちらに向け、僕の全身に衝撃波を放った。


「少し冷静になれ。」


「ぐっ!!!」


衝撃波を受け後方に飛ばされた僕は、再び大鷲の姿になったイワンの胸元でクッションの様にボフッと受け止められた。

痛みはさほど無く、力を加減されたようだ。


「半身が無茶をするお前を心配している。

半身がお前の心配をすれば、私にもその感情が伝わる。

私も、お前が心配になるではないか…アヴニール。」



━━すっげー余計なお世話なんスけど!━━


そう言ってやりたかったが、衝撃を受けた影響で胸が少し圧迫されたのか痛みは殆ど無いのだが声が出せない。


狂犬の様に唸り、今にも魔王に飛びかかる勢いの僕を、イワンが翼でくるむ様にして僕を拘束して止めている。



「ではアヴニールよ、私は再び眠りにつく。

しばしのお別れだ。達者でな。」



いちいち言う事がもう、ムカつく。

しばしのお別れでなく、永遠のお別れをさせろ!

世界の平和とか関係なく、僕の心の平穏の為にこいつは殺った方が良い。



だが、僕がイワンにくるまれて身動きが取れない内に、魔王はバサササーッと羽ばたいて去って行った。


連なる山々の奥地へ。


「イワン!!何で邪魔したんだよ!

あんな風に人の神経逆撫でするような奴はね!

この世から消した方がいいんだよ!」


やっと声が出せる様になった僕が、僕を抱きしめる様に翼でくるむ大鷲姿のイワンに、食って掛かった。

大鷲のイワンは、謝る様に頭をコクリと下げる。


「いや、イワンが悪いんじゃないよ!?

悪いのは、あの引きこもり魔王で!!………あ。」



よくよく考えたら………イワンは魔王の一部だ。

性格というか性質が違い過ぎて、別人みたいなんだけど。

だから魔王を倒したら、半身であるイワンも消えて無くなるかも知れない。

イワンとのお別れは…何だか、寂しい。

そう考えたら、僕を包むイワンにギュムと抱き着いてしまった。


あの魔王が「ははは、甘えおって。可愛いヤツよ。」なんて言っている映像が浮かんだので、すぐ離れたが。



イワンだけ残して、この世から消えてくれないかな魔王。



ピロピロリーン



無意味に疲れたんで、邸に帰ろうかと身体を浮かせた瞬間

頭の中に、マヌケな電子音が鳴った。


この世界に転生してから、久しく聞く事の無かった電子音。



「はい?何の告知だよ…。」



━━━━条件が整いました。情報の一部を解放します。━━━━



僕の呟きに答える様なタイミングで、電子音声のガイダンスみたいな無感情な女の声がした。



「???は?ナニ、何の条件?つか、いきなり何だよ!

ここは今現実世界のハズなのに、いきなりゲーム臭くなるとかさ…!」



情報の一部解放?僕は………

恐る恐る、ステータス画面を開いてみた。


こないだまでは


従魔:•••••


名前:イワン


Lv:••••のレベル



だった••••表示がオープンな状態になっており、


従魔:ファフニール


名前:イワン


Lv:本体(魔王)に影響を与える存在と同レベル


と書き換えられていた。

魔王の強さに影響を与えてるのは僕らしいから、イワンは僕のレベルと同じ?



いいよ。

別に今さらイワンの正体が魔王の半身で、邪竜だって表示されても驚きもしないよ。


それよりさぁ……ずっとロック掛かっていて見れなかった親密度のページだよね。


クリストファー、グラハム、リュース、ニコラウスの4人、そして僕自身は会った事も無いのに、宰相のご子息のエドゥアールとの親密度が高い。


で、親愛度?ラブ値?

一人につき10個あるハートマークが全員10個全部真っ赤だ。



これ、ヒロインから告白したら絶対に成功するやつ。

逆ハーも望むならば確定ってヤツ。



アホじゃね?意味無さ過ぎるだろうよ。

僕が、告白するワケ無いんだし。



だが、この辺はまぁ…多少、予想出来ていたよ…。

新しいヒロインのアカネちゃんが学園に行くまでか、行った後も続くのかは分からないけど。


解せないのは━━


そのページに、「さぁ、攻略しなさい」とばかりに親密度50%、ハートの半分が黒い状態で表示されている………


魔王。


なんなんだよ!こんちくしょうが!!


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