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3話◆ごはん○すよ!との出会い。

魔法陣を利用して僕とクリストファー殿下、殿下の付き人のシグレンの3人は、ローズウッド本邸に転移して来た。

本邸に居る兵士の1人が僕の護衛として森に同行するからと厩舎から3頭の馬を出してくれたので、馬に乗り4人で森に向かった。


僕は本邸の兵士の馬に同乗させて貰っている。

そんな僕をクリストファー殿下がずっと見ている。

彼は、本邸を出るまで自分の馬に僕を乗せて行くと何度も言っていた。


クリストファー殿下の、僕が前世でヒロインだった時からのブレない執着ぶりはいつになったら終わるのだろう。

シャルロット姉様と結婚しても変わらないのではないかと、少しばかり不安になる。


もし殿下が学園に行った時に新しいヒロインが現れて、前世で僕がやったようにクリストファー殿下に猛アタックして来たら…どうなるんだろう。


攻略しやすかったと言うか惚れやすいクリストファー殿下の事だから、サラッとそちらに気持ちが向いてしまうのだろうか。


━━僕から気持ちが離れてくれるのは有り難いんだけど…

ヒロインにハマって婚約破棄だとか言って姉様を泣かせるのは許せないんだよな。

そうなったら、殴る位じゃ収まらないけど。━━



かつてはヒロインとして散々、シャルロットを泣かせた立場の自分だが……

8年も弟の立場で可愛い姉を見続けてしまった今は、完全に姉の幸せ第一!となってしまった。

自覚してるけどな。かなり自分勝手な事を言ってると。



森の中へと馬を走らせ、少し開けた場所に出た僕らは馬を繋いで付近を散策する。


「魔物の気配が少ないですね。……誰か、最近間引いてくれたのでしょうか。」


シグレンが先頭を歩きながら呟く。その後ろを僕が歩き、僕の後ろをクリストファー殿下、兵士と続く。


そりゃ少ないだろうな…

僕、昨夜ここら一帯の魔物倒してしまったし。暇だったんで。


「アヴニール、怖くないか?もっと、くっついていていいぞ。」


「義兄様、怖いも何も…まだ魔物が一体も現れておりません。」


肩を抱こうとして延ばされたクリストファー殿下の手を、ススっと身を引いて躱す。

そりゃ現れたら一応は少しだけ怯えたフリをする予定だけど。

まだ何にも出とらんって。


「アヴニール坊ちゃま!背後から、魔物です!」


一番後ろを歩いていた兵士が剣を抜いて声を掛けて来た。


「アヴニールは私が守る!」


「義兄様!」


僕の身体が、クリストファーに庇われる様に抱き寄せられた。

えーっと…怯えたフリって、どうすりゃいいんだっけな。

とりあえず不本意ではあるが、僕からもクリストファーに抱き着いとこう。ギュっ。


「アヴニール……」


「義兄様、抱き締め返さなくてイイんで!剣を構えて下さい!」


ギュムゥと抱き締め返して来たクリストファーの身体を押して離して僕は剣を構えた。


「殿下、アヴニール様のおっしゃる通りです。

サッサと剣を構えて下さい。」


シグレンが呆れた様にクリストファーに言い、クリストファーが渋々剣を構えた。

いや、クリストファー殿下さぁ…魔物を倒しに森に来たんだろ?

僕とデートしに来たんじゃないよね。いや、デート目的かな。


「坊ちゃま!殿下!来ます!」


群れをなした狼型の魔物が5頭、こちらに気付いて駆けて来る。

僕を守る様にして3人が僕の前に並んで剣を構えた。

飛び掛かって来た狼達を相手に剣を振るう3人。

背後で怯えたフリをしていても誰も見てないだろうなと、僕は3人に背を向けしゃがみ、地面に転がる石を指で転がして遊んでいた。


「…………ん?何だろ…」


立っていたら気付かなかった、しゃがんでやっと気付く程の低い場所。

木の根と地面の隙間に、ポッカリと開いた薄い隙間から黒い何かがはみ出している。

前世ヒロインの時も含め、それなりにこの世界の魔物を見て来た自分ですら見た事が無い奇妙な生き物。

それが穴から逃げる様に森にズゾゾゾと移動して行った。


クリストファー達が狼と懸命に戦っているのをチラッと見た僕は、こちらに気付いて無い今の内だなと、それを追い掛ける事にした。




黒い物質は、素早く地面を這う様にして素早く移動していく。

それは流動的で、形が定かで無い不思議な物質。

よし、捕まえてみよう!! 

剣は無理そうだな…刺してもスルッと抜けそうだし。


僕は立ち止まり、手を構えた。

よし、動きを止めてみるか。アレを凍らせてしまおう。


「氷華!!」


僕は自分が魔法を使える事は誰にも言ってない。

しかも初歩魔法で中級魔法クラスの効果を発する。

だからこの姿を誰かに見られたら困る。

見られる前に早く回収したい!あの物体を!


僕の手から放たれた氷の花が吹雪の様に宙を舞い、黒いソレを包み込む。

黒いソレは動きを止め、凍り付いてしまった。


「一応手加減したけど…生きてるよな?」


近付いて回収。手の平に乗せて少し氷を解かしてみる。


「何だコレ……黒くて、ヌルッとしていてテラテラしていて。

……ごはん○すよ?」


前前世の、日本の食卓で見た、ご飯のお供の岩ノリみたいだ。

これ、生き物?植物?マジで岩ノリ?

でも、逃げたよな。一応は逃げようとする本能があるんだ?

じゃ、植物でなく生物?


「オマエ何?なんか悪い事するつもりある?」


僕の手の平の上で岩ノリは、クンと縦に伸びて焦って首を振るように激しく左右に揺れた。

あ、意思の疎通が可能なんだ?


「悪さをするつもりが無いならイイや。じゃあ行っていいよ。」


特に強い魔力も悪意も感じなかったので、岩ノリを解放する事にしたのだが、その岩ノリは僕の手の平から降りずに手首を登って肩に乗り、頬に擦り寄って来た。


「うーん…クリストファー殿下といい、岩ノリといい…

何で僕はこう変な物に懐かれるのかな。」


仕方が無いので、僕は岩ノリを肩に乗せたまま皆の所に戻った。


「アヴニール!」


森の中から姿を現した僕に一番最初に気付いたのはクリストファー殿下。


「無事だったんだな!良かった!!」


予想通りと言うか、両手を拡げたクリストファーが駆けて来たので、僕はシグレンの後ろに逃げる様に隠れた。


「ハグはイヤです。何度言わせるんですか。絶交しますよ。」


シグレンの背後からプクと頬を膨らませて顔を出す。

拒否の表現のつもりだったのだが、変な方向に効果大だった様だ。

口を押さえて目を輝かせたクリストファーが真っ赤になって震えている。


「かっ…!可愛い!どうすればいい?

シグレン!私の義弟が可愛過ぎる!!」


シグレン、貴方の主がおかし過ぎる。

早く学園に入学してくんないかな。そしたら、夏と冬しか会わなくて済むのに。


「どうもしなくて良いです。殿下のアヴニール様愛は分かりましたから………

おや?アヴニール様、何をお連れになってます?」


シグレンが、背後に隠れた僕の肩に乗った岩ノリに気付いたみたいだ。

シグレンが顔色を変え、剣を構えた。


「アヴニール様!それはスライムです!流動性のある魔物で、自身の体で覆った物を捕食するのです!

皮膚を溶かされます!今すぐ肩から下ろして下さい!」


え!?スライム?

スライムって水色か半透明かで、マンジュウみたいな形してポヨンポヨンしてるアレじゃないの?

こんな岩ノリか、アメーバみたいのがスライム?


「あっ…ちょ、ちょっと!!」


シグレンの放った殺気に怯えるように、岩ノリが僕の鎧の内側に潜り込む。ニュルニュル動いて、腹部にまで移動した。

ま、待ってよ!なんか、これ、エロアニメみたいじゃん!!


「うわぁあ!あ!あ!お腹くすぐったい!!あひゃ!」


「………いいな…私もスライムになりたい………」


うおぉい!!聞き逃さなかったぞクリストファー!!

この変態王子が!!


「シグレンさん、剣を収めて下さい!怯えてます!

だ、大丈夫!!僕が、守るから大人しく出て来て!岩ノリ!」


僕の言葉を聞いたからか、暫くすると首の辺りからニュルと岩ノリが姿を現した。

怯える様にゆっくりと僕の手首に巻き付く。


「……坊ちゃまの言葉を理解しているのですか?そのスライムは。」


本邸から僕の護衛として付いて来てくれた兵士が尋ねて来た。

正直な所、僕にもよく分からないのだが……理解しているっぽい。


「スライムにしか見えないが…こんな色のスライムは見た事が無い。

スライムは、魔物の中でも一番知能が低いのに人の言葉を解するなど…。変異種なのだろうか。」


剣を収めたシグレンが何度も首を傾げて不思議そうに僕の手首に巻き付いた岩ノリを見る。


「アヴニールの可愛さに抗えなかったのだろう。

イワンと名前まで付けて貰ったのでは、もう従属するしかないと思ってしまったんだろうな。」


はぁ?クリストファー殿下がなんか1人で納得し、勝手に話を纏めてしまった。

岩ノリって一回呼んだのが、イワンになってるし。


「殿下、冗談ではなく魔物を従属させる事は危険なんですよ。

…私は、そのスライムを始末した方が良いと思います。

意思の疎通が図れるほど知恵があるなら尚更です。

従属するフリをして油断させて、いきなり主に襲いかかるかも知れません…。」


シグレンの言う事は至極もっともだけれど、いざそうなっても僕なら敗ける気はしない。

僕以外の誰に対しても、おかしな行動を取れない様に監視魔法と制御魔法を掛けとけば良いし。

それに……初めて見た気がしないんだよな……この岩ノリ。


「僕、この子飼いたいな!ちゃんと、お世話するから!」


ニパッと微笑んで、クリストファーの手を握り可愛く甘えてオネダリをする。

クリストファー殿下さえ懐柔すれば、シグレンも逆らえないだろう。


「シグレン、私の愛しい義弟がこう言ってるんだ。意地悪言わずに許してやれ。」


「私は意地悪で言ってるんじゃない!

アヴニール様の身を案じて言っているのです!

心配しているのですよ!」


うわ!意外と嬉しいシグレンの言葉!

やっぱ、15歳の若造よりも、しっかり意味があり重みのある26歳の大人の男の言動!ステキ!……なんだけど


「シグレン、ごめんなさい……。

なぜだか分からないんだけど、岩ノ…イワンは僕が手放しちゃいけない気がするんです。

だから、ごめんなさい…見逃して下さい。」


僕にもなぜだか分からない。

でも、シグレンが岩ノリに攻撃しようとした時に、僕の中の何かが強く警鐘を鳴らし、声をあげたんだ。


━━倒したら魔王が…!!!━━


って……。




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