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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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28話◆ワンパンですが、何か。

マライカ王国の御一行様を襲撃の現場に残して、シーヤとシーヤの伯父さんの執事とやらだけを連れ、公爵の邸を目指す。


僕はマライカ王国という国名を意識していなかったが、隣国という扱いで、前世でもこの国に来た事がある。

その時は王城に行く事も無かったし、街を歩いて買い物と宿泊位の通りすがり。

異国情緒たっぷりの国だな的な認識しかなかった。


城の位置は把握していたので、すぐさまその上空にまで飛空魔法とステルス魔法で姿を隠して飛んで来た。



人は…鳥の様に空を自由に飛びたいと言うが……


初めて空を翔けるという経験を、飛空魔法マッハで味わったシーヤと執事のオッサンは、今にも嘔吐しそうな程に顔色が悪かった。


「シーヤお兄ちゃん、伯父さんの邸と部屋はどこ?

このまま窓からカチコミかけるから指さして。」


シーヤの服の袖を摘んでクイクイ引っ張ると、シーヤが吐きそうな口を押さえた。


「んぷ、ま、待ってくれ…カチコミ?

聞いた事も無い言葉だが、非常に危険な事をしようとしてるのだとは分かる。

危ない事はやめるんだ、アヴニール。」


いーや。もう僕の気が治まらん。

未遂とは言え、王太子殿下に対してマンティコアもぶっ倒れる右ストレートを出した僕。

そのアクションと、いっぺん死んで来いとの暴言はもう、王太子殿下にも姉様にも、あの時に中庭に居た色んな人らに見られてるわ、聞かれてるわ。

帰ったら、どんなクドいお説教が待っているやら!!


「僕はねぇ…ずっと我慢していたんですよ。

貴族の子息としての僕の体面をを保とうと頑張っていたんですよ。

それが全部ブチ壊しですよ。

それもこれも全部、その公爵とやらが悪いんだ。

もう、ぶっ飛ばさずにはいられない。」


「えぇ…?そんな理由で…?」


八つ当たりじゃないか?とシーヤが驚きと呆れを含んだ、複雑な表情をした。


「ハッ!公爵様をぶっ飛ばすだと!?

貴様の様なガキが公爵様に敵うものか!

公爵様は私より強大な…!!」」


「はい小物の悪党ってのは懲りずに、だいたいこんな事を言うー。

お前の意見なんて聞いちゃおらん。」


「へぶぶぶぶ!!」


僕は空中に浮いたまま、執事の胸ぐらを掴み、スパパパパァンと往復ビンタをお見舞いした。

そして、顔の腫れた執事の胸ぐらを掴んだまま隣で宙に浮くシーヤに問う。


「もう僕が癒やしの魔法を使えるだけの天使じゃないと分かったでしょ。

シーヤお兄ちゃんは、その公爵によって二度も命を奪われたんだよ。二度とも僕に会わなければ死んでいた。

このまま野放しにして三度目の暗殺を許すつもりじゃないよね。」


「それは違う!だが、あのような巨大な魔物を従属させられる者を従える伯父上を相手にアヴニールが一人で立ち向かうなど…!」


「巨大な魔物って?

マンティコアなんぞワンパンですが、なにか?」


僕は拳をブンブン振り回して見せた。

シーヤは諦めた様に首を振り、大きな溜息をひとつつくと、王城の側に建つ大きな邸を指さした。


「無茶はしないと約束してくれ。あれが伯父上の邸だ。

この時間の伯父上は、敷地内にある礼拝堂に行き女神ヴィヴィリーニア様に祈りを捧げる。

……敬虔な女神様の信徒だった伯父上がなぜ、邪神を崇める邪教などに……。」


僕はシーヤの呟きを半分位聞き流した。

だってな、あの人がなぜ?なんて、この世の中に有り触れた話しじゃん。

人が変わった、悪人になったは、漫画やゲームの創作世界でも蔓延(はびこ)ってるしな。

だから、そうなっちまったもんは仕方が無いだろうよ。


ただ、そういう奴の前にはお約束の様に正義の味方的なモンが現れる。


で、公爵の場合は選んだ道の先に立ちはだかった壁が、あまりにもデカかったと嘆く事になるだけだしな!!



公爵家の広い邸の敷地内。

他の家屋から頭が2つ分程出た造りの塔が建つ。

この塔は最上階の四階が礼拝堂となっており、僕らは塔の窓から中に入った。

窓ガラスの無い四方の窓から太陽の光が中央に注ぐような造りの礼拝堂だが、その中央にあるべき太陽の光を浴びる女神の像が破壊されて石屑となっていた。

その石屑の前に立つ男が一人。


「……おのれ…シーヤ……まだ生きておったのか……!」


石屑となった女神像の前に立つ初老の男は、部屋に入って来たシーヤの姿が目に入ると、忌々しい者を見るかの様に眉間に深いシワを刻み、苛立つ様に歯噛みした。


「伯父上!やはり、貴方が俺を……!なぜなんです!?

俺が王になれるよう、後押ししてくれたのは貴方じゃないですか!」


「公爵様…!お許し下さい!またしてもシーヤ陛下暗殺が叶いませんでした!このような失態を…!」


「シーヤめ…お前さえ消えれば、上手くいくのに!!」



皆が、口々に自分の思った言葉を吐き出し会話になっていない。

て言うか僕の存在は無視?

僕、蚊帳の外じゃないか?



……公爵のオッサン気付けよ。

ねぇ、お前をぶっ飛ばしに来たのは、この僕なんだけど。



シーヤは台座を残し砕けた女神像の破片をひとつ拾い上げ、嘆く様に目を伏せた。


「あんなにも女神を信仰していた伯父上が…邪神を崇めるなど!

気でも触れたのですか!」


「やかましい!黙れ黙れ黙れぇ!!この国は儂のモノだ!!

儂が、この国の王となり、この国の全てを邪神様の贄とするのだ!儂の邪魔はさせん!!死ぬがいいシーヤぁ!!」


礼拝堂の中に煙幕の様に煙が立ち昇り、視界が遮られる。

怪しい煙から僕を守る様に、シーヤが身体の内側に僕を抱き込み、身を屈めた。


「アヴニール…!」


シーヤお兄ちゃんの腕に護られる様に抱き締められている僕は、シーヤの腕の中でスン…と無表情になっていた。



━━オッサン三度目だよ。シーヤを殺そうとするの三度目だよ。

もう、コイツ今見逃したら四度目、五度目あるんじゃないの?

この国ワシのモンだもん!とか脳みそスッカスカな事言ってるオッサンなんか、もうぶっ飛ばしてイイでしょうよ。━━



煙が霧散し消え去ると、塔の最上階にある天井の高い礼拝堂の中に、3つの竜の頭を持つ巨体の魔物が現れた。

ドラゴンの様な巨体に3つの鎌首をもたげたさせ魔物は、シーヤとシーヤの腕の中の僕を見下ろし、口からダラダラとヨダレを垂らす。


「ハハハハハ!この狭い場所では逃げる事も叶うまい!

喰われてしまえ!!!」


「おお!!さすがは公爵様…!!

このように強大な魔物を使役出来るとは……!」


執事が公爵が喚び出した魔物に歓喜し、嬉々とした表情をしたのを見た僕はイラっとした。


一方シーヤは巨大な魔物を前に、恐怖に耐え僕を守りながらも身体が小刻みに震えている。

優しいシーヤお兄ちゃんは自分が怖くて堪らないのに、幼い僕を守ろうと必死なんだ。

いい王様だよ。ホント。


だから、もうアッタマきた!!!


僕はシーヤお兄ちゃんのふところからスルリと抜けると、キラキラと虹色に光る、ど派手な剣でズバン!と魔物の首を3つ同時に一振りで斬り落とした。


「さすがは僕。このような魔物でもワンパンです。ワン斬り?」


大岩の様な巨頭が3つ、ズンズンズシンと立て続けに床に落ちる。

余りの重さに、床にヒビが入った。

塔の強度がちょっと心配だ。


「………は……はぁあぁ!?な、何をした…!貴様、何を!!」


公爵は顎が落ちそうなほど口を縦に大きく開いた状態で暫くフリーズ状態だったが、やがて我に返り僕を指さしギャンギャン騒ぎ立て始めた。


「なにって…アジ・ダハーカを倒しただけじゃん。

見た目はスゴイけど中盤位の敵だし既に図鑑にも載ってるし。

もうこんなん全然たいした事ないない。」


僕は目の前で手の平を「いえいえ大した事ありません」的にブンブン振った。


「ふ、ふざけるな!このガキが!お前なんぞ!

儂が直々に我が邪神様の御力を使って…!」


何やら魔法を使おうとした公爵の言葉に、思い出した様に僕は目を輝かせた。


「!邪神!イワン!!コイツ生け捕りだ!

自死する前に拘束するよ!

シェンカー大司教の土産にしよう!」


これだけの力量の差を見せ付けられ、怯む事なく魔法での攻撃をしようとした公爵の姿に、大聖堂の地下でニコラウスを殺そうとしていた3人の侵入者の事を思い出した。

生かしたまま捕らえるよう言われていたのに、僕の力を知った途端に即、自死を選んだ3人。

情報を奪われるのを恐れたのか、僕を子供だと侮りもせずに躊躇なく自死の魔法を発動させた。

恐らくソイツらと、メェム司祭、コイツは同じ組織の人間だ。


だがあの3人と違い、このオッサンは、その辺自分に甘い。

自分はガキに負けるわけがないと。

僕を何とか出来ると思ってしまったのだろう。


甘いよ。その甘さに感謝するけどね。


「むがー!!!」


執事の身体を巻いた鎖から一部を分離させ、黒いガムテープの様な姿になったイワンは公爵の身体をグルグル巻いて、す巻き状態にし、舌を噛まない様に開かせた口にも巻き付いた。


「よし!魔法も使えない様にしたから、もう死んであの世に逃げたり出来ないぞ。ざまぁ!

でも、ムカつくから一発ぶん殴る!歯ァ食いしばれ!せーのっ

グーパン!!」


いい土産が出来たと、ニコニコと微笑む僕は拳を握った。

黒いす巻きになった公爵の前に立ち、左頬に思い切り右ストレートを叩き込む。


「ぶほーッッ!!!」


「ひいいっ!公爵様ぁー!!」


「あ、アヴニールぅ!!ナニしてんだぁあ!!」



黒いす巻きになった公爵の左頬を殴った僕の拳に、ズリッと皮膚が滑る様なイヤな感触が伝わる。

そのまま公爵の皮膚がこそげ落ち、床にビチャと落ちた。


「あ、アヴニール!!いくら何でも皮膚をえぐり取るなんて!!」


パニックになったシーヤが、無意味にワタワタとパントマイムの様な面白い動きをしている。


「人殺しー!この、人殺しー!公爵様がぁ!」


執事もパニックのシーヤにつられて、もらいパニック状態だ。

イワンの鎖に拘束されたまま首を亀の様に伸ばしてギャンギャン喚き散らし始めた。

人殺しはお前だろうが。シーヤを殺そうとしたクセに。


「ねぇシーヤ。コイツは公爵様じゃないよ。

公爵様の顔を……多分、殺した公爵様の顔を使って成りすましていたんだ。」

 

す巻きになった公爵の顔から、残った皮膚を掴んで剥がす。

そこに現れた顔は、公爵とは全く別の老人の顔だった。


「う、嘘だ…嘘だ!公爵様は…公爵様はどうした!?

邸の前で行き倒れた憐れな老人のお前に、施しをお与えになられた公爵様はどうした!」


執事が信じられない物を見たかの様に震え、鎖で拘束された体です巻きになった老人に食って掛かる。


「弱々しい老人だと思って気を許したからだ!

公爵は儂を邸に迎え入れた日の晩に、さっさと殺して顔を剥いでやったわ!!」


シーヤと公爵の執事が愕然とし、シーヤが床に膝をついた。

執事は嗚咽を漏らし始め、シーヤが項垂れている。


「そんな…伯父上が…既に死んで…」



僕は……今もの凄く気分が悪い。

ここはキャッキャウフフの乙女ゲームの世界のハズなんだ。


一応冒険もののRPGでもあるから、サラッと文章で書かれた設定での「人々は苦しんでいた」も、リアルに体験すれば被害に遭った人がいて、血を流しているワケで。

こういう事は有り得るのかも知れないが……


「…僕が知ってる人の身内が現実に死んでる…

しかも何の罪も無いのに無慈悲に殺されたなんて血生臭い話しは…このキャッキャウフフな世界では聞きたく無かったよ。」


何なんだよ、邪神って。人を殺して国を奪うとか!

そんなん、ゲームの中じゃ聞いた事無かったよ。

物凄く気分が悪い。

物凄く腹が立つ。



「姉様の幸せを願う僕にとって、そんなヤツが居る世界じゃ姉様が幸せになれないじゃないか!!

この先、お前みたいな奴がグランディナージアを邪神とやらの贄にするために、クリストファー義兄様に成りすまして姉様の夫になったりするとか!

そんで姉様に触れるとか!万死に値するわ!

もう、想像しただけで(はらわた)が煮えくり返る!

潰す!ぶっ潰す!邪神も邪神を崇める組織もぶっ潰すから!」



僕は鎖で縛った執事の身体を解放し、す巻きになったジジイと項垂れていたシーヤを連れて宙に浮かんだ。


「執事のあんたはシーヤの城に行って、今知った事を全部話して。

僕はシーヤとジジイを連れて、グランディナージアへ行く。

…………あんたはさ………。」


宙に浮かんだ状態で、解放した執事を見下ろした僕は悲しげに眉を下げ、悔やむ様に唇を噛んだ。


「主人がシーヤの命を奪うと言った時に、なぜそれを受け入れたの。

忠義を捧げるがゆえに、主人の暴挙にも加担したのだろうけどさ…

シーヤが国王になるのを後押ししたのは公爵だったんだろ?

そんな優しい人の心を…公爵を敬うあんたが何で信じ抜いてあげれなかったのかな…。」


「……え……」


もし、執事が僕の言う様に公爵の正体を疑っていたら、執事も殺されていただろう。

だから、彼の選択は間違いではあったが、僕が関わってしまう今がハナから組み込まれた未来図だったのだとしたら、一番死人が出ないルートなんだろう。


僕は釈然としない何かを感じつつも、礼拝堂に執事を残したまま窓から飛び去った。


シーヤは飛空魔法の風圧で髪型がオールバックになりながら、隣で深く考えるように腕を組んで目を閉じている。


す巻きのジジイは、風圧のせいで下唇がベロベロとおかしな、なびき方をしていた。

ちなみに、髪があると思っていたが風圧で剥けた。

後ろ髪を前に持ってきていたようだ。


おっと、グランディナージアへ行く前に、まずは一回襲撃現場に寄ろう。

みんな放置して来たからな。



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