24話◆ゲームと前世では出なかったイケメン。
「いやぁ!笑った!
リュースに大量の指輪を見せられた時のアイツの顔ったら、無かったぜ!!」
「へー。そうなんだー。」
僕は深夜の大聖堂を訪れ、日中あった事を楽しげに報告するニコラウスの話を聞いていた。
ざまあみろと言わんばかりのニコラウスを見ながら、少し不安になり失笑してしまう。
学園に入るタイミングで、彼女を好きになっちゃうモードが発動したらどうすんだろうと。
なんと言っても彼女はヒロイン。
ゲームの世界が始まれば、世間で言う所のゲーム補正的ななにかが働きかけるかも知れない。
僕としては、姉様を悲しませたくないからクリストファー王太子は渡せないけど、後の攻略対象者ならくれてやってもいい。
と…思ってはいたんだけど…
あんまりにも、あんまりなアカネちゃんを見ていると、お姉さんとしては可愛い弟分みたいなニコラウスやリュース、妹大好きなグラハムとアカネちゃんがくっつくのも「なんだかなぁ~」って気がしてきていた。
勿論、彼女の猛アプローチにほだされて、ニコラウスやリュースの方からアカネちゃんを好きになったら、それはそれでも良いのだけれど。
……でも…もし、ニコラウスやリュースの方からアカネちゃんに惚れたら、今日の僕の行動が恨まれたりしないだろうかと少しばかり心配になったりする。
「なんで、可愛いアカネにあんなヒドイ事をさせたんだ!」
なんて、僕がリュースかニコラウスに責められたら………
うん
『知るか!このヒヨッコどもが!!お前らがピーピーさえずるから助けてやったんじゃねぇか!』
って怒鳴り散らしてから、絶交しよう!
今後の問題点について自己解決した僕は、ニッコリとリュースとニコラウスに微笑み掛けた。
「指輪の件、解決したんなら良かったね!クスッ」
「全てはアヴニール、君のおかげですよ!
ああ、アヴニール…いつにも増して、素敵な笑顔を…」
キュッと胸の辺りを握り、頬を染めてテレテレと呟くリュースに対し、ニコラウスが顔を強張らせ少し引いている。
「素敵な笑顔?そ、そうか…?
俺にはアヴニールから何やら腹黒い感情が見て取れる様な気がするのだが…気のせいなのだろうか…。」
ニコラウス…勘のいいヤツめ…ま、バレた所で構わないけどね。
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僕が深夜の大聖堂に行きリュースとニコラウスに、アカネ嬢に指輪を売ったとの話を聞いた5日後。
姉様が僕の部屋を訪れ、グラハムから届いた手紙の内容を話してくれた。
アカネ嬢は大聖堂で指輪を購入した翌日に、指輪を持って学園に現れたらしい。
クリストファー王太子の姿を見るなり、大声でクリストファー王太子の名を呼び、指輪を受け取って欲しいと懇願したそうだ。
クリストファー王太子はアカネ嬢には近寄らず、離れた場所から一言
「大切な人に貰った指輪があるから必要無い。」
と一瞥して、その場を離れたそうだ。
で、彼女は王族を遠くから「クリストファー様ぁ!」なんて大声で呼ぶなんて不敬行為を咎められて、その場で学園の警備の兵士にどこかに連れて行かれたらしいとの事。
おそらく、こっぴどく叱られた程度ではあろうが、下手をすればリコリス男爵家にも累が及ぶ様な事をやらかしたと。
僕達の居た現代社会の日本の常識を、こちらの貴族社会のルールに当て嵌めてはいけないのだが…彼女がそれを、どこまで理解しているのか。
「こちらの世界に転生…いや、前世の僕と同じならば憑依になるのかな。
こちらに来てから日が浅ければ、まだ貴族社会のルールに馴染んでないかもだけれど。
それにしても、ゲーム開始前の時期にクリストファー義兄様にイベントアイテム渡しに行くって…先走るにも程があるだろ。」
本来、あの指輪は魔王の存在が世間に知れ渡る事となり、不安に苛む国民を憂いる国王陛下のイベントがあった後に、ヒロインがクリストファー王太子に指輪を渡すのだ。
今、渡しても意味不明でしかない。
いや、ぶっちゃけて言えば前回の僕の場合、その指輪を入手しにクリストファー王太子も一緒にダンジョン行っとる。
一緒に行って、入手しとるの知ってる上で、渡した時に
「そ、それは…!伝承にある乙女の加護の指輪!」
とか感極まったように言われた。
僕にとっては色々ツッコミ所が多く、レア度も低いアイテムだ。
「お会いした事はないけれど、そのご令嬢様は…少し、幼さを感じる方ですわね。
グラハム様の事を、お慕いしてらっしゃるのかと思ったけれど…クリストファー殿下の事もお慕いしてらっしゃるのかしら。」
「……ハーレム狙いで、推しだらけだもんな。」
姉様の言葉に、つい無意識に呟いた。
姉様が、不思議そうな顔をして僕の顔を覗き込む。
「ハーレム?オシ?……とは、何ですの?」
初めて聞く言葉に、興味深げに目を輝かせた姉様から、思わず目を逸らす。
━━姉様に、ハーレムなんて俗な言葉を覚えさせたくない!━━
「そ、そんな事、言ってませんよ…姉様…。」
「え?しっかり聞こえてましたわよ?」
「幼い僕が、姉様の知らない言葉を知ってるワケ無いじゃないですかぁ、あははっ」
これ以上、どうやって誤魔化そうかと後退りつつ困惑していた所で、僕の私室のドアがノックされて返事を待たずにドアが開いた。
「まぁ、お父様…」
「アヴニール、急を要する。今すぐ私と王城に向かうぞ。」
「…父上??」
いきなり僕の部屋に現れた父上の表情は、現状の深刻さが伺える程に険しい顔をしていた。
僕が必要な、急を要する用事って何だ??
父上は僕をヒョイと肩に担ぎ上げると、玄関エントランスに向け邸の廊下を猛ダッシュで走り始めた。
「パッパパっ父上!!な、なんですか!?何をそんな急いでぇ!!どないしました!!」
初めて見た父の只ならぬ様子に気圧されて、パニクり気味に言葉がおかしくなる。
「隣国の国王陛下が我が国を訪問なさっているのだが、道中で魔物に襲われたらしい。
一刻を争う重篤な状態との事だ。
………馬を駆けても間に合うか………。」
父上がギリッと歯噛みする。
隣国の王様が、この国を訪問したが為に死亡。
それは確かに、とんでもない!
国王陛下の道中の安全を保障するべく、前もって魔獣の駆除や道路の整備など全て滞り無く行っているハズなのに。
「父上、飛びます!」
「は?とッッッッ!!」
僕は玄関までの廊下の途中、開いてる窓から父上の身体ごと外に飛び出した。
いつもの様にステルス魔法で姿を隠して、飛空魔法スピードアップ版で王城に向かった。
廊下を走り玄関に行き、馬を走らせ、城に着いて馬を降りて案内されて、城内走ってと、こまごま動けば一時間近くかかるであろう距離を5分に短縮。
命の危機にある人物の部屋は、王城が見えた時点ですぐ分かったので、ショートカット的にいきなり窓から侵入。
部屋の中には治療士や、衛兵、王城お抱えの神聖魔法使いなど人が多くおり、不意に窓から入って来た不審者に驚き身構えた。
「怪しいヤツ!何者だ!!」
国王陛下の衛兵に剣を向けられた僕は、それを無視して人だかりの向こう側の重篤な状態にあるという国王陛下の気配を探る。
「あ、これヤバい。」
僕がポロッとこぼした言葉に、その場に居た全員が総毛立つ。
皆も、そう思ってはいたが無理矢理思わない、考えないようにしようとしていた結論を、僕がサラッと口にしてしまったから。
「な、な、な、なんと不敬な!!幼い子供と言えど許しませんぞ!!」
恐らく、国王陛下の側近であろう老年の男が、涙でぐちゃぐちゃな顔で僕に食ってかかる。
「お、お待ち下さい……宰相閣下……」
僕の足元で、床に尻をついてゼェゼェ言っていた父上が立ち上がり、頭を下げた。
「そなたは…ローズウッド侯爵……あまりにも前衛的な髪型をしているから気付かなかったが…」
父上の髪は、風圧のせいで全て後ろに向かって真っ直ぐ伸びた状態で固定されていた。
「この場は、我が息子に任せては頂けませんか?
……我が息子アヴニールですら、手の施しようがないのであれば、この国の全ての神聖魔道士、治療士を連れて来たとしても、陛下の御身が助かる見込みは御座いません。」
「な、何だと!?このような小さな子供に、何が出来ると!!」
面倒くさい押し問答が始まった。
このままぎゃあぎゃあ言ってる間にも、国王陛下の命は消えかけて行く。
と言うか、既にエクストラヒールでなきゃ治らんし!!
あと十分程で、この人死んじゃうし!
馬で来てたら、もう死んでたな。
生きてる内に僕に会えたのは奇跡だよ。
きっと神様が、彼を生かす様にと僕を導いたんだ。
「父上、全員外に。そして、僕の存在は他言無用。
誰かの口から僕の存在や力について漏れたら僕はその人を……
……呪う……」
咄嗟に口から出てしまったけど、効果は絶大だったようだ。
ひぃい!と全員がビビり、父上に押される様に促されて全員ドアの外に追いやられた。
「アヴニール、頼んだ!」
ドアが締まり、貴賓室の広い空間には僕と傷ついた隣国の国王陛下との二人きりとなった。
ベッドに横たわる真っ赤な血に染まった国王陛下は……
ジイちゃんか、オッちゃんかと思っていたら、クリストファー王太子と同じ位の若いニイちゃんだった。
ゲームの中には出てきてないからなぁ…知らないよなぁ…
こんな血なまぐさいイベントも、シェンカー大司教様のアレだけだと思ってたのだけれどなぁ…うーん…。
「…………余は…………死ぬ…のか………?」
ベッドの中で寝ていたニイちゃん国王陛下が薄く目を開いた。
中々に美形だ。うん、アカネちゃんの大好物そうな。
「死にませんよ。でも、助けるかわりに僕との約束を守って下さい。
僕の力についての追及はしない。
僕を権力によって、どうにかしようとしたりしない。
約束を守って頂けなかったら…呪います。」
実際、呪う方法や魔法なんて知らないが…この世界では非常に効果のある言葉であるようだ。呪う、は。
「わ、分かった……命が助かるならば……そなたとの約束、女神に誓って守り通そう…。」
「女神……と、僕は仲悪いんですけどね。」
僕はエクストラヒールを唱え、隣国の国王陛下の身体は一瞬で完治した。
詳しく診てなかったんだけど、腹部に穴が開いていたらしい。
それを絶え間なくヒールとポーションで無理矢理、延命させていたようだ。痛みを無くすのは後回しにされていたようだから、相当辛かったろう。
「……い、痛みが無い……腹に開いた穴も塞がっている……な、何だこれは……こんな凄い魔法は、伝承の中でしか……」
自身の身体に起こった奇跡を確かめる様に、何度も自分の身体を見たり撫でたりする褐色肌のイケメンを前に、僕はぽやーと立っていたのだが、そのイケメンがやっと僕に気付いた。
「そなたが…余の傷を治療したのか?いや、これは治療なんてものではない、跡形も無く完全に傷口が塞がっており、あの怪我さえ夢だったかと……
いや、衣服は血だらけのまま凄惨さを物語っており、あれが夢であったはずも無い。
俺は確かに死にかけていた。死を覚悟した…。」
「あと数分で死んでました。で、死んだら流石に僕でも、どうしようも無いんで。
良かったですよ、間に合って。」
褐色イケメンは、僕の対応に戸惑っているようだ。
どう見ても、チョーンと小さい男の子が一人で部屋に居るだけで、どう見ても、この奇跡を起こしたのは、このチンまいお子様で、奇跡をもたらした少年を神の様に崇めるべきか、小さな子供に接するようにすべきか…
「僕は怪我人が居るから治療に来ただけ。すぐ帰ります。
お兄さんが誰かを知る気は無いし、お兄さんも僕を忘れて下さい。
じゃ!」
面倒くさいから、帰ろう。
父上は城での仕事があるだろうから、置いてっていいや。
僕は窓に足を掛け、飛ぶ用意をした。
「ま、待ってくれ!それでは余の気がおさまらぬ!何か望みがあれば…!」
「あ、じゃ、その堅苦しい言葉無しで!
さっき一回、俺って言ったよね?この先僕と会ったら、そんなカンジで!」
隣国の国王陛下なんて、そう会う機会は無いだろうけどね。
え、何かフラグ立った??




