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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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21話◆将来の伴侶がナゾ。イワンの正体もナゾ。

「アヴニール。エイミー様をお連れしましたわよ。」


応接室で待つ僕の所に、姉様がエイミー嬢を連れて来た。

姉様、スゴい!

姉様はエイミー嬢を怯えさせたアカネと同じ年の令嬢だから、姉様の事も怖がって部屋から出ないと思っていたのに!


「アヴニール様、ご心配をお掛けしました。」


僕に挨拶をしてくれたエイミー嬢は、まだ怯えた感じが無くなってはいないけど、僕の作ったブレスレットを身に着けた事もあってか少し落ち着いた感じがする。

チラッチラッと何度か姉様の顔を見上げるエイミー嬢は、姉様が微笑むとフワッと安堵の表情を見せた。



姉様が悪役令嬢だなんて、誰が信じる?

ねえ、女神だよ!?天使だよ!?悪役令嬢?ざけんなよ!

エイミー嬢が、すっかり懐いてるじゃん!


「わたくし達、お友達になりましたのよ。

お時間のある時に、お茶をご一緒しましょうとわたくしからエイミー様に申し出ましたの。」


侯爵令嬢の姉様が、貴族籍としては格下の伯爵令嬢のエイミー嬢を立てて気遣うとか……!

優しいんだけど大丈夫?それ。



暫く応接室にて3人で会話を楽しんだ後、僕達が帰る頃には控え目ではあるけれどエイミー嬢も笑顔を浮かべる様になっていた。


グラハムからの手紙では、僕の事をエイミー嬢にとっての勇者と例えていたけど、今回の勇者…いやエイミー嬢の心を救った女神は姉様だ。

天の岩戸に引きこもったアマテラスを外に出した、アメノウズメ並のな!

て、言った所でこの世界の人に日本神話は分かるまいが。





「本日は、お招き下さりありがとうございました。」


「シャルロット様!アヴニール様…また、いらして下さい!」


笑顔を見せる様になったエイミー嬢に見送られ、ゲイムーア伯爵邸を出た帰りの馬車の中で、姉様が僕に話し掛けて来た。



「わたくし、学園に入学するまではエイミー様を励まし、寂しさを紛らわせてあげようと思ってるの。

エイミー様…寂しさもあるでしょうけど、あるご令嬢に酷く怯えてらっしゃって…また会ったら怖いと。

わたくしが学園に入った後に、また何かされたりしなければ良いのだけれど。」


「それは…多分、大丈夫でしょう…。」


そのご令嬢、アカネも学園に入るからね。

エイミー嬢には手を出せなくなる。


僕が心配なのは、今度は学園内で姉様がアカネ嬢のターゲットになる事だ。

嫌がらせをされたり…言い掛かりをつけられたり…因縁つけられたり…イチャモンつけられたり…



いや、どっちが悪役令嬢だっちゅーねん!!



「なぜ大丈夫だと?

アヴニールは、そのご令嬢に心当たりでもあるの?」



い、いかん!咄嗟に本音がポロリと。



「い、いえ…そうではありませんが。

エイミー嬢の侍女の方が、エイミー嬢が外出する際には警護の兵士の配置を今より近くにすると言っていたので…。」



これはその場を凌ぐ為のでまかせではなく、本当に侍女が言っていた事だ。

エイミー嬢の侍女も、今回の事を大変悔やんでいた。

大事なお嬢様のお心に傷が付く様な行為を、令嬢とはいえ許してしまった事を。



『もう貴族のご令嬢であろうが、何処の誰かも分からない者がエイミー様に近づく事は許しません。』



そう言っていた。

エイミー嬢。彼女は使用人にも愛されている。

あんなヒロインのせいで引きこもりになってほしくない。



「そうそう、わたくしエイミー様と他愛もないお喋りをしていたのですけど、エイミー様ったら大好きなお兄様のグラハム様の事をたくさん話して下さって。

グラハム様が、エイミー様をアヴニールの婚約者にどうかと言ったとのお話もされたわ。」


「………え?……ああ、そんな話、してましたね。」


すっかり忘れていたけど。


「わたくし、悪い話ではないと思うのだけれど…アヴニールはどう思う?

エイミー様が、社交界デビューなさる頃には美しい立派な令嬢になられていると思うわ。」


「………ぼ、僕の婚約者には、クリストファー王太子殿下の妹君がなられるそうで……

い、今から頑張るそうです。国王陛下と王妃様が。」



な、ナニ言ってんのかな!!僕は!!

思いもよらない事を言われて、パニクったじゃん!



「今から、国王陛下と王妃様が頑張ってクリス様に妹君を……?

気の遠くなる話だけど……王女がアヴニールの妻に…。

そうなれば王妃としてわたくしが王城に入っても、アヴニールと会う機会が増えそうね…。悪くないわ。」



前世のステータスとかまったく関係無く、姉様は弟の僕を溺愛している人だった。

うん。僕も姉様大好き!前世では馬鹿にしていたけどね。


いや、本当にバカだったしな……シャルロット嬢は。




エイミー嬢の報告は、姉様がグラハムに手紙を書いてくれるとの事でお任せした。

クリストファー義兄様にもついでに手紙を書くからと。

婚約者のがついでって。


自室に戻った僕は、婚約について考えた。

まだ僕は幼いし、そんなすぐに婚約者を決める事は無いだろうけど…。

世界の危機とやらが訪れて僕の本当の力を知れば、国は僕を逃さない様に囲いたいだろうし、僕は本当に王族との婚姻関係を結ばされるかも知れない。


「僕は、アヴニールとして生きていくつもりではあるんだけれど…

頭の中が25歳の非モテ女なままなんだよね!

可愛らしい女の子は好きだけど、それは妹みたいな意味で!

イチャイチャラブラブしたいとは思わないしっ!」


そう、今この世界で誰か一人を恋人に選べって言われたら、僕は迷わずシグレンを選ぶ。

クリストファー王太子殿下の付き人のシグレン。

僕の18歳年上の26歳。


優しいし、気遣いは出来るし、ちゃんと大人の男!

つか、シグレンしか思い付かない位、この世界に恋愛対象が居ないんだって!

今、顔見知りの攻略対象の4人は絶対に無理!

そもそも男同士だしな!女の子で恋愛対象は皆無!居ない!


これ僕が歳頃になったら、女の子を好きになれんの!?

次期ローズウッド侯爵として、妻を娶って世継ぎ作れんの?


ちょっと……無理じゃね?


「…僕、前前世でもヴァージンのまま死んでるのに…

この世界では女の子を抱く立場なんて…

ハードル高過ぎないか?」



ま、まぁ……今8歳の僕には、まだまだ先の事だしね。



「今はそんな事よりエイミー嬢が元気になった事を喜びつつ!」


喜びつつ…改めて、この世界について考える。


神様とやらの、どういう悪戯心があってかは知らないが、僕はこのゲームの世界にヒロインとして転生した。

馬鹿馬鹿しい話だが、乙女ゲームに転生。

今どきの、あるあるネタっポイよな。


だが僕はヒロインの座から降ろされ(いや、自分で降板希望したよな?)

僕はモブとなり、新しいヒロインが喚ばれた。


…僕はモブだよな?悪役令嬢に弟がいたなんて知らなかったし。


だがモブに降格された僕は、前世ヒロイン時代のカンストステータスを引き継いでる。

しかもカンストしているのに、表示出ないだけで更に強くなってる感。


いや、いいよ!?チート万歳だよ!?

魔王が現れたって、きっとヘッチャラさ!


だけど、攻略対象者との親密度は引き継がなくて良かったんじゃない!?


しかも男なのにさ!何なの?神様はBL推奨派なの!?

僕は、その気まったくありませんけど!



そんな訳の分からない世界だからこそ、怖い。


来年の春、全てがゲームの世界通りに塗り替えられるのではないかと。


姉様がおバカな悪役令嬢となり、僕を熱愛しているクリストファー王太子がヒロインを好きになり


僕の持つステータスが全てヒロインに移行され━━


もし、そうなったら…僕は…どうなるのだろう。

なんの力もない、普通の少年になる?

それとも…存在する意味が無くなり消える?



「………イワン?なぁに?甘えてんの?」


僕が少し不安を感じたのを察したのか、黒い猫の姿になったイワンが僕に擦り寄って来た。


「イワン…ありがとう…慰めてくれ………ってイワン!毛がボーボーに生えてるじゃん!!」


驚き過ぎて、変な言葉になった。

イワンって、岩のりみたいな、ブルーベリージャムみたいな、何かに変身してもツルッ、ノペッとしていたのに!

本物の猫みたいにフワフワの毛に覆われている!すげー!


「つか、コレなんですかぁ!!」


なぜか無性にステータスが気になって開いたら、ステータス欄にイワンの名前が出ている。


従魔:•••••

名前:イワン

Lv:••••のレベル


いや、従魔の種族名!何だ点々って!黒スライムとか、岩のりとか、何か無いんかい!


そいでレベル!点々のレベルって、何だよ!はぁ!?

誰の、何の、レベルなのさ!



「ちょ…今さら言うのも何だけどさ…イワン、お前って何モノ?」

 


そうだよ、前世レベルがカンストするまで世界を回ってモンスターの図鑑だってコンプしたのに、イワンの情報だけは無いんだよ。


イワン…お前は一体何者なんだ…分からない…

分からないけど、分かる方法が分からない。



だから、考えない事にした。

悩んだ時は、一回睡眠を取ってリセットする。

明日、目が覚めてからスッキリした頭でもう一度しっかり考える。


起きた時に忘れていたら、それはそこまで重要性が無いって事で、とりあえずスルーする。


「よし、今日は討伐もしないし、研究所にも行かない日だし!

寝るか!」



「何だよ……リュース、滅茶苦茶機嫌悪いな…」


夜分に大聖堂の研究所に来たニコラウスが研究所の大きな机に厚い本を重ね置き定位置の椅子に座り、いつもの様に魔法書を読み始めた。


「今夜はアヴニールが来ない日ですよ。

ニコラウスはなぜ、わざわざこの場所に?

読書ならば自宅でも出来るでしょう。」


言葉の端々にトゲを持って話すリュースも定位置である椅子に座り机に肘をついて、重ねた手の平の上に顎を乗せた。


2人の視線が、空席になった中央の席を見る。


この席はアヴニールの席で、背の低いアヴニールの為に椅子の位置を高くしてある。


「いや…俺、リュースに挨拶しなかったけど、今日の昼に大聖堂に来ていたんだよな。

久しぶりに来ていたろ?アカネ。」


ニコラウスはリュースの不機嫌な理由がアカネであるとは気付いていたが、一応は教会の信者である彼女と会っただけで夜になっても不愉快そうな顔を続ける理由が分からない。


「…………あの、クソアマ。」


「えっ!?リュース、お前…何かいま、スゴい事を言わなかった!?」


リュースの口から罵詈雑言なんて聞いたことが無いニコラウスが、思わずリュースを2度見した。


「……言ってませんよ?と言いたい所ですが、大事な友人であるニコラウスの前で偽るのはやめときます。

アヴニールも、私がニコラウスに隠し事をするのは好まないでしょうし。」


「…お前のアヴニール愛は、時々重過ぎるんじゃないかと思うが…まぁいいや。

で、何があった?」


リュースは無言で右手の中指を見せた。

ニコラウスは一瞬「はぁ?」と意味が分からないという表情をしたが、自分の右手の中指にアヴニールから貰った指輪があるのを見て気付いた。

リュースの中指に嵌っているアヴニールが作ったビーズ細工の様な指輪が、切れそうなほど崩れかけている。


「は?それ…どうした?どっかに引っ掛けたのか?」


「違います。アカネ嬢に奪われそうになったんですよ。」


「……はぁ〜?司祭のお前の私物を奪おうとしたのか?

有り得ないだろ?バッカじゃねーの?」


リュースは指輪を外して机に置いた。

防御力が少し下がった。


「私の私物と言うより…なんて言うんですかね…アレは。」


━━彼女は指輪に気付いた時

「こんな時期に、その指輪があるなんて!それ、譲ってくれませんか!?」

そう言って私の指輪を強引に奪い取ろうとした。

私やニコラウス、父上でさえ知らなかったこの指輪を、アカネ嬢は知っていたのだ…━━


「とにかく…気味が悪かったのです…。」


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