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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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19/96

19話◆ライバル令嬢には容赦しない。

夏になる頃には、魔法学園に中等部が設立され生徒を募集するとの報せが国内外に広がった。


中等部入学は強制では無いため、自学自習を希望する者は15歳となるまで学園に入る必要は無い。


ただ魔力が高いのに、それを効率良く開花させるだけの良い師を雇う費用を捻出出来ない様な下級貴族にとっては、これは大変有り難い話であり是非にと入学の願書が集まるようになっていた。


同様に高位貴族の中からも、良い教師を雇っていても邸での学習に限界を感じ、学園で本格的な魔法の技術を学びたいと思う者も居た。


更に中には、この中等部設立を提案したのがクリストファー王太子である事から、媚びを売る様に子息を入学させたいと申し出る貴族も。




「ところで、アヴニール。

学園の試験に向けての勉強ははかどっているか?」


中等部入学は、日本の中学と同じく1年生時に13歳の年齢となる者が対象となる。

学力を測る為の試験はあるが、成績が悪くとも入学を断られることはない。


だが飛び級で入学を希望する者には、ある程度厳しい試験が課せられる。

親元を離れての全寮制、学園が始まれば年上の者に混じっての厳しい授業が始まる。


多少、腕や知識に覚えのある程度では、幼い者にとって精神的に辛い学園生活となる。

それゆえに試験は、厳しい試験をクリアしてまでも入学したいとの意思表示とされる。



「勉学については、姉様と同じ授業を受けてますし落ちる事は無いでしょう。

魔法や剣技については……言わずもがなではないでしょうか。」



僕は父上と共に、本邸のあるローズウッド侯爵領の広大な森の中に来ていた。

領民から、最近になって大きな体躯の魔物が出るようになり、森に入りにくくなったと討伐依頼が来ていたのだ。


領主として領民の為に動くのは当然であり、多くの領主は討伐隊を雇い駆除を依頼するのだが…………



「父上は僕が剣を振る姿を見たくて、わざわざ連れて来たんでしょ?」


僕の足の下には、横たわる巨大なイノシシの死体がある。

父上は警護の兵士を一人も連れずに、僕と二人きりで森に来た。

で、こいつが現れた瞬間に父上は「任せた」と一言だけ言って、距離をとりやがった。


僕は父上が僕に与えてくれた剣を使い、およそ半分にも満たない力を使い、すこーし苦戦ぽい芝居をしつつイノシシを倒した訳だが……。


優しい紳士のイメージしか無かった父上だが、だてに魔物の多い森を含む地域一帯の領主をしているのじゃなかったのだなと知った。


もし僕に何かあった場合は、父上がイノシシを狩っていたのだろう。

父上が腰に携えた剣はかなり使い込まれており、飾りでは無い様だ。

身の動かし方も無駄がなくそれだけの力量を感じる。


「アヴニール私の与えた剣は所詮、幼い子供が初めて手にする程度の剣だ。

れっきとした武器ではあるが、お前の力には見合っていない。

力を加減して振っているだろう。

……わざわざ下手な立ち回りまで演じて。」


あ、そんな事まで分かるんだ。

父上が剣を使って戦える人物だってのも驚きだったけど、剣士としての観察眼みたいなのもちゃんとあるんだ。


「神託を受けたと言うのであれば、今更お前の隠した力をどうこう言う気はない。

学園に入る迄には一流の鍛冶師にお前専用の剣を造らせておこう。

ある程度、お前の力に耐え得る様に。」


「ありがとうございます、父上。

………で、このイノシシは……」


実は、もうそれなりに強い剣を何本も造って持っているんだけどな…なんて思いつつ。

僕はお山の大将の様に、巨大なイノシシの上に立ったまま尋ねた。


「依頼を受けて駆除したものだ。そのまま領民に与える。

これは食料としても素材としても、価値のあるものだからな。」


なるほど。今更だけど、父上は良い領主だな。

こんな優しい父上と、慈母のような母上に育てられた姉様が、ゲームで見た様なあんな意地悪な悪役令嬢になるなんて普通に考えたら有り得ないんだけどね。

我儘放題に育てているワケでもないし。

ゲームの設定だからこそかな。



父上はアイテムバッグを取り出して、巨大なイノシシを収納すると、森の管理を任せている町に向かうと言って僕を馬に乗せた。


一頭の馬に父上と共に乗り、町に向かう事にした。



王都の中心街━━

アヴニール達が来年通う事となる、魔法学園の大門前。


大門には大きな鉄製の門扉があり、中には入れないが門扉の鉄柵の隙間から内外のやり取りは出来なくはない。

タイミングさえ合えば、姿を見たり僅かながら言葉を交わす事も。


「エイミーお嬢様、久しぶりに街にお出でになられたからと言ってまさか学園に来られるとは…。

グラハム様のお姿を見れるとは、限りませんよ?」


「わ、分かっておりますわ!

お兄様の居られる場所を見れるだけでも良いのです!」



まだ幼い、ゲイムーア伯爵令嬢エイミーは、大好きな兄グラハムが春に入学した学園前に、侍女と二人で立っていた。


門扉の外で中を通り過ぎる在校生の中から、懸命にグラハムの姿を探す。


「グラハム様が授業中でしたら表門には来ませんでしょうし。

……あと、10分だけですよ?

前回街に来た時の様に、またお嬢様が拐われたりしたら大変ですからね。」


「…………アヴニール様……。」


エイミーは門扉の冷たい鉄の柵を両手で持って、しゅんと落ち込む様に目を伏せた。

大好きな兄とも簡単に会えなくなり、前回街に来た時に誘拐されかけたエイミーを、騎士の様に現れて悪漢から救い出してくれた優しい少年アヴニールにも、あれ以来会う事が出来てない。

寂しさを耐え忍ぶにはエイミーはまだ幼い。


「さ、お嬢様……。もう行きましょう。」


門扉の前にはエイミー以外にも数人の令嬢が居た。


先に入学した婚約者に会いに来た令嬢、憧れの令息の姿を見に来たミーハーな令嬢など様々だ。

そんな令嬢のパワーに気圧される様に小さなエイミーの身体が段々と端に追いやられる。



「お!エイミー!どうした!?俺に会いに来てくれたのか!?」



門扉の向こう側に、剣を手に汗ばんだ顔を首に掛けたタオルで拭いながらグラハムが、偶然その場を通り掛かった。


「お兄様!お兄……。」


「きゃぁあ!グラハム様!!お初にお目にかかります!」


ストロベリーブロンドの少女は、小さなエイミーの身体を自身の身体でグイグイと端に追いやり、エイミーの前に立ったグラハムの正面に自分が立った。


「…す、すまないが、久しぶりに会った俺の妹が辛そうなんで…どいて貰えると有り難いのだが…。」


グラハムは初対面の少女が自分の名を呼び、興奮状態で自身の前に立った事に戸惑った。


「あらやだ!私ったら!」


ピンク色の髪をしたテンション高めの少女は、エイミーの両肩に手を置いて自身の前に立たせた。


「グラハム様の妹さま、可愛いですね!私もこんな妹が欲しいわ!」


「そりゃどうも……」


「それに、私はですね!!」


初めて会う少女が何かを一人で話し出し、困惑気味のグラハムと両肩に手を置かれたエイミーは彼女の言う事が理解出来ず、自分達は言葉を発せなくなった。


始業の鐘が鳴り、ハッと気付いたグラハムが鉄柵を握るエイミーの手をキュッと握った。


「会いに来てくれて、ありがとうな。エイミー。またな。」


「お、お兄様……。」


離れて行くグラハムの姿を見送り、エイミーはハラハラと涙を流し始めた。

久しぶりに兄に会えたのに、一言も話せなかった。

あんなに近くに居たのに。


「えぐっ…ひっく…お兄様ぁ……ぁぁあん…っく」


幼いエイミーの流す涙を、侍女が慰める様にハンカチで拭う。


二人の逢瀬の邪魔をした令嬢はグラハムが居なくなった途端、サッサと何処かに去ってしまった。


「……綺麗な顔をしていたけど、随分と気味の悪い表情をする令嬢でしたこと。」


侍女がポツリと呟いた。

侍女は、令嬢が去り際にエイミーを見てニッとほくそ笑み、意味の分からない言葉を呟くのを見てしまった。



「あんたはグラハムルートのライバルなんだよね。ウザーい」



巨大なイノシシを持って、父上と一緒に町に来た。


僕は、アヴニールとして生まれてからローズウッド侯爵領の本邸には何度か来ていたけど、領地にある町に来るのは初めてだった。


森の管理を任されている町は、名前の通り村よりは人が多く賑わっているが、街よりは規模が小さい。

ローズウッド侯爵領には大きな街もいくつかあるとの事。

王都に比べれば田舎には違いないが、人も多く賑わっていると。

いつか行ってみたい。



そして僕はなぜか━━


訪れた町の人々を集めて、倒した巨大なイノシシでトンカツを作る指示をしていた。


いや、切り分けられた肉を見ていたら豚バラブロックみたいで美味しそうで。

それにいきなり串を刺して、焚き火みたいな直火で焼こうとしたから勿体ないと、慌てて止めた。


ワイルドだぜぇ?いや、それも美味しいかもだけどさ!


何だかトンカツが食べたくなった!本当ならカツ丼!

でも、ライスが無い。

よし、パンはあるしカツサンド!トンカツ!トンカツ食いたい!


大量の油を大鍋に用意させ、パンを削ってパン粉を作って、まぶして揚げるのだ!

トンカツの材料ならば何とか揃ったからイケる。

ソースが無いのが残念ではあるが、時間のある時にコレも作って貰おう。


「何だコレ!美味いぞ!サクサクしてる!」

「パンに挟むとより美味い!肉汁がしみて!」

「坊っちゃん、スゴイな!尊敬するぜ!」


かなり好評だ。

ワハハハ領民たちよ、時期領主の僕のポテンシャルが分かったか。


「今度、ソースの作り方も教えるんで…上手く出来たら新しい収入源にもなるかと。」


僕の呟きを聞いた父上が、カツサンドを平らげてからボソッと僕に囁いた。


「お前は後に、我が国の大きな戦力となるだろう。

だから敢えて隠さずに言うが我がローズウッド家の広大な領地は、この先我が国…いや、世界を脅かすであろう災厄の王が生まれる地に一番近い場所だと言われている。」


災厄の王って……魔王?

魔王が出現する可能性が高い場所だってゆーの?


僕が将来、領主となる領地が。

そんな………僕が守らなきゃいけない領地に魔王が………



ま、現れたら、現れたで、何だか倒せるような気がする。



「あ……そっか……」


僕はさっきから頭の中でモヤモヤと霧がかって思い出せない何かを必死に思い出そうとしていた。

久しぶりにトンカツを食べたら、その美味さで記憶トンだけど、今になって、やっとトンでもない事を思い出した。


僕は前世、ヒロインだった時にこの町に来た事がある。


悪役令嬢の領地が魔王の出身地って、マジか。

そりゃ令嬢の性格もひん曲がるわな!って思った記憶もある。


その時の町はもっと閑散としていて、空気は澱み、雰囲気も暗かった。

僕が前世で立ち寄った最後の町が、この町だった。

この町を後にして、女神の試練を受けたのだ。


………で、どうしたっけ??


何しろ9年も前の話だし、ビビりの女神に腐れビッチと呼ばれたインパクトが強すぎて、他の記憶が曖昧になっている。


「アヴニール?どうした?」


「……何だか、とても大事な事を忘れている気がして……。」


何を忘れてるんだっけ………。




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