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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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16話◆何者かも分からない、空の瞳を持つ少年。

リュースと別れた僕は姿を消したままで自室の窓から邸に戻り、何喰わぬ顔をしてティータイムに呼ばれたテラスに向かう。


テーブルには父上と母上、そして姉上が既に席についていた。


「遅くなり、すみません!」


「わたくしも今、来た所なのよ。」


慌てる様にして走って来た僕が席に着くと、その隣の席でシャルロット姉様がクスリと微笑んだ。


ああ姉様…その裏の無い優しい笑顔、なんて愛らしい美少女なんだ…心から癒やされます…。

さっきまで、腹黒いニセ癒やしの笑顔を振りまく少年司祭様と一緒に居たからね。

今、僕が前世のヒロインに戻ったら、間違いなく攻略対象の5人の野郎どもより姉上とお近付きになりたい。

悪役令嬢?構わん。ストーカー野郎五人衆より全然良い!


サカリついた少年達より、同性でも可愛い女の子のかいいわ。



「シャルロット、貴女にクリストファー王太子殿下から手紙が届いているわよ。」


母上が一通の手紙を姉様に渡し、姉様はその場で封を開き手紙を読み始めた。


姉様…仮にも婚約者からのお手紙、普通は自室に行って一人でじっくり読みたいものじゃないの?

思わず照れたりして赤くなったり、そんな姿を家族に見られて恥ずかしい!的なラブレターみたいなモンじゃ……ないみたいだ。


「…これは、わたくし宛てと言うよりはアヴニール宛てですわね。

分かっていた事ではありますけれど、わたくしにアヴニールの事を訊ねる事しか書かれておりませんもの。」



━━ブフォ!!この馬鹿王子!僕が文通を断ったからって!

姉様に僕の様子を訊くって何だ!━━



僕は席に着いたが、まだ紅茶に口をつけてなかった。

良かったよ、紅茶が口から毒霧の如く噴き出す所だったよ!

このクソ王子が!

いっそ、お前みたいな男とは婚約破棄した方がいいんじゃないか?姉様は。姉様にお前は勿体ない。


あの、苺の駄菓子みたいなヒロインに心奪われてしまえ。

………想像したら、おめでたいバカップルにしか見えんが。


駄目だ、そうなったら姉様が国外追放に……クソぅ!



「リュース様!また来ちゃいました!」


「………これは、リコリス男爵令嬢アカネ様。」


アヴニールと別れたリュースは、執務室を出て地下に向かう為に礼拝堂を横切ろうとした。

通りがかりのリュースの姿を見つけ、飛び付く勢いでリュースの前に来た無邪気な少女に、リュースはいつもの様な優しい笑顔を見せなかった。

ただ軽く頭を下げて挨拶とし、その場を離れようとする。


「リュース様!?あのっ、いつもの様にリュース様のお部屋でお話をしたいのですが!」


あからさまに今までと態度の違うリュースの様子に、焦ったアカネがズイとリュースの前に一歩近付いた。


ヒロインであるアカネは美しい容姿をしている。

フワリとしたストロベリーブロンドに、ピンクサファイアの瞳。

その愛らしい姿の少女に間近で見詰められれば、男ならば悪い気はしないであろう。

だが、リュースは気難しい顔をして目を伏せた。


「勉強熱心なのは結構ですが、私にも都合という物が御座います。アカネ様お一人の為に時間を割くのも限度が御座いますので。

失礼致します。」


リュースは再び頭を下げ、初めて見た冷たいリュースの態度に茫然としているアカネ嬢の元から離れた。

アヴニールによって手に入れたばかりのアイテムを研究所に保管し、早く自身の仕事に戻ろうとリュースは地下に向かう。


地下に着いたリュースは、研究所の棚にアイテムを並べながら独り言つる。


「アカネ嬢…美しく愛らしい少女だとは思っていたが…

見た目だけだな。彼女がレクイエムの乙女?フッまさか。

改めて見て……これ程までに何の魅力も感じないとは……。」


今になって、執務室の前で初めてアヴニールの素顔を見た瞬間の衝撃がリュースの中に蘇る。

幼い少年だとは聞いていたがニコラウスは顔を見ていないし、父上からもどのような姿かなど聞いてなかった。

リュース自身が美少年であるし、ニコラウスも顔の整った美少年だ。

多少、美しい少年を見た所で心揺らぐ筈も無い。


それがアヴニールの素顔を見た瞬間、心臓を鷲掴みされた様な衝撃が走った。

その見た目が想像より美しかった事も驚きだったが……

彼の澄んだ空の様な瞳と目が合った瞬間、リュースはアヴニールから目を離せなくなった。


理由も理屈も分からない。

ただひたすら、彼を求めて止まない何かが胸の内に芽吹いた。


同性である事も、年齢の事も、この気持ちの前には障害とならないのだと痛感する。

父であるシェンカー大司教の言う通り、早くもリュース自身がアヴニールを欲する様になっていた。


「ニコラウス…貴方には彼を渡しません。」





「ニコラウス様!リュース様のご様子が変です!」


アカネ嬢は、初めてリュースに冷たくあしらわれた事が納得いかず、帰路につかずに大聖堂の敷地内をウロウロしていた。


広い庭の一角で、木の根元に座り魔法書を読んでいたニコラウスを見付けたアカネ嬢は、すぐにニコラウスの元に駆け寄り、その前にしゃがみ込んだ。


「………。」


ニコラウスは読書の邪魔をされ、あからさまに不愉快そうな顔をするが、アカネ嬢は気にも留めない。


「いつも優しいリュース様が、何だか冷たいんです!

おかしいですよ!何があったんですか!?」


「………いつも優しい、が猫被ったリュースなんだよ。

あいつ、意外と性格悪いぞ?

……何で急にお前の前で猫被るのやめたのか知らないけど。」


ニコラウスの記憶では、リュースは前にアカネ嬢を無下には出来ないと言っていた。

だから取り繕った優しい笑顔を見せて、アカネ嬢に優しい男を演じているのだと。

聖職者には、熱心な信徒を増やす為に人心掌握術も必要となる。

シェンカー大司教もそうであるが、顔の造りの良いリュースに想いを寄せ教会の信者となった女性も多い。


「リュースに相手にされなくなったんなら帰れよ。

俺だってお前の話し相手は面倒なんだ。」


アカネは親指の爪を噛み、眉間にシワを寄せ苛立つ様にブツブツと呟き出した。


「ゲーム開始時期より早い時間に転生出来たから、早めに会って好感度を上げようと思ったけど……やはり、スタートしてからでないと好感度は上がらないのかしら…。

ニコラウス様はともかく、リュース様からの好感度は上がってると思っていたのに。ホストみたいな営業スマイルだったなんて。

やはり悪役令嬢がいないと、庇護欲を掻き立てる様な私の可愛らしさが目立たないのかしら…」


ブツブツと自分が可愛いとか呟き続けるアカネ嬢が気味悪く、ニコラウスは魔法書を閉じてアカネ嬢から離れようとした。


「ニコラウス様!」


すれ違いざまにアカネ嬢がニコラウスの腕を掴む。

驚いたニコラウスが思わずアカネの腕を振り払った。


「何だよ!貴族の令嬢が、婚約者でもない男の腕をいきなり掴むとか、有り得ないだろ!!ナニ考えてんだよ!!」


「私達、来年は同じ学園に入学ですね!ニコラウス様ともリュース様とも、私、絶対に特別に仲良くなりますから、待ってて下さいね!」


自信満々なアカネ嬢の様子に、ニコラウスは眉間にシワを寄せて「はぁ?」と苛立ちをあらわにした。


「意味分かんねーよ。顔見知りが同級生になった位の付き合いしかねぇだろ。特別仲良くって何だよ気味悪い。」


「やはり、引き立て役がいなきゃね!ニコラウス様、ご機嫌よう!」


パタパタと走り去るアカネ嬢を見たニコラウスに、ゾワっとした悪寒が走る。


「何だか、気持ち悪い女……。アレと同級生ってな……。」


魔法書を持つ手の甲で冷や汗を拭う。

その手の指に、イワンがくれた指輪が在る事に気付いた。

ビーズアクセサリーの様な、片手間に作った様な幼稚な指輪だ。

それでも防御力を上げるという魔法効果がある。


「こんな玩具の様な見た目で、高級アクセサリー並に価値があるモノを持っているだなんて…イワン…君は何者なんだろう…。」


魔法効果を有するアクセサリーなど、高価な物に違いない。

それを返さずに右手の中指に嵌めたままで持って来てしまった。

返したい。返すという理由をつけて、会いたい。

だが、何処の誰かが分からない。

何の手掛かりも得られないと思っていたのに、この大聖堂でイワンが居た気配の残滓を感じる様になった。


彼が身に纏っていた香りがシェンカー大司教の法衣から漂い、今まで入手の難しかった素材が急にズラッと陳列されている……。

この大聖堂に、イワンが居た筈だ。

なぜ隠される……。



大聖堂の庭から離れようとしたニコラウスの視界に、地下から上って来たリュースの姿が入った。

昼間に言い争いをした手前、顔を合わせにくい。

ニコラウスはリュースと、そのまま顔を合わせずに帰ろうとした。

が、


「……………!!!リュース!!!」


ニコラウスはズカズカとリュースに近付き、リュースの右手首を掴んで目の前に持ち上げた。


「ニコラウス?なんですか、急に……痛いじゃないですか。」


「この指輪は何だ!さっきまで、こんなもん身に着けて無かったよな!」


二人の顔の前にニコラウスに持たれたリュースの右手があり、その中指にはビーズアクセサリーの様な指輪が嵌っていた。


「ああ、先ほど頂いたのですよ。熱心な信者の方に。」


「その信者とやらは何処だ!案内しろ!」


「寄付をされた方の素性は明かせません。

名乗りを上げての寄付は売名行為とみなされ、女神様の恩恵が受けられなくなります。

教会でのそんな決まりを…忘れてるんですか?」


リュースの手首を掴んだニコラウスは、グッと言葉を詰まらせた。

詰まらせた言葉の代わりに、唇を噛んだニコラウスの目尻にジワっと涙が滲む。


ニコラウス自身も、そしてリュースも驚き、言葉を失った。


「……ニコラウス……この指輪を寄付下さった方は、高貴な方です。

その方の名前はイワンではありません。

………私が話せるのは…ここまでです。」


リュースは涙ぐむニコラウスに頭を下げ、その場を離れた。




「あの、人嫌いのニコラウスの気持ちをここまで虜にする。

アヴニール…君は一体、何者なんでしょうね……」



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