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うちでのこづち

作者: きる

A氏は秋葉原にある行きつけのコンカフェで飲んでいた。ふと見ると酒棚に金色の小槌が飾ってあるのに気がついた。


「あれ?あんな小槌あったっけ?」

「ああ、あれこの前お客さんが置いていったの」


女の子は振り返りながら答えた。


「コンカフェに飾るにはずいぶん和風だよなあ」

「うん、ちょっと違和感あるのよね。でもお客さんが置いていったから捨てるわけにもいかないでしょ?」

「じゃあちょうだい」


A氏は軽い冗談のつもりで言ったが、女の子は店長に聞きにいくとOKを貰ってきた。


「店長もね、本音では邪魔だって思ってたみたいよ」


酒棚から小槌を持ってくると、女の子が言った。


「案外軽いね」


A氏は小槌を持って家に帰った。

翌朝改めて小槌を見た。


「勢いで貰ってきたけど、どうしようこれ」


少し後悔してしまった。


「昔話だと、大判小判がざくざく出てくるんだよな。お金よ出ろ!」


ふざけてそう言いながら小槌を振ると、なんと高額紙幣が出てきた。


「ええ!これって本物の打ち出の小槌だったのか!」


A氏は何度も振った。そのたびに高額紙幣が出て来た。


「すごい!」


手がしびれてくるまで振ると、高額紙幣の山が出来た。


「これがあれば一生遊んで暮らせるぞ」


夜になって昨日のコンカフェに行くと、高いシャンパンを何本も開けて盛り上がって楽しんだ。


「Aさんどうしたのよ、すごいじゃない」

「いや、ちょっとした臨時収入があってね」

「えー、ちょっとどころじゃないでしょこれ」


その日の会計はお店が開店してから最高額のものだと驚かれた。


「いやあ、これはいいぞ」


A氏は毎日せっせと小槌を振り続け、高額紙幣の山を作ると毎晩豪遊した。


「いや、贅沢な悩みだが手で振ると疲れるな。なんとかほかに楽する方法はないだろうか」


天井から紐で吊して振ったりいろいろなことを試したが、さすがに手で振らないと出てこなかった。


「仕方ない、地道に手で振っていくしかないか」


A氏はせっせと小槌を振り、高額紙幣の山を作り続けた。


やがて月末に、大家から家賃が振り込まれていないという連絡が来た。

預金通帳を記帳すると、給料の振り込みがされると同時に全額”ダイコクファイナンス”ということろが引き落としていた。


「なんだこれは。誰か勝手に引き落としているぞ」


ネットで検索すると”ダイコクファイナンス”の電話番号が出てきた。A氏は早速電話をかけると抗議した。


「なんで勝手に引き落としてるんですか」


対応に出た女性が言う。


「当社の”うちでのこづち”をご利用いただいてますよね?」

「えっ」

「金色の打ち出の小槌タイプのキャッシングご利用となっておりますが」


そんな契約した覚えはない、と言いかけたが勝手に小槌を貰って出て来たお金を使ったのは事実なので言えなかった。


「お客様のご収入ですと、この先1年分のお支払いになります」

「そんな!毎月全額持っていかれたら生きていけない!」


あ、給料手渡しでもらえばいいのか。A氏はちょっと落ち着いた。


「当社は全額お支払いいただくことになっておりますので」


にべもない返答だったが、振り込まれなければ取られることはないだろう。怖い人が押しかけてくれば警察に電話すればいいし。

電話を切ると、A氏は手元にいくらあるか調べようと財布を開けた。


ない。あるはずのお金が全くない。お札どころか小銭すらすっかりない。


「な、なんだこれは。取り立てという概念ですらないのか。確かに無限にお金が出てくる小槌なんて普通じゃないしなあ」


A氏は頭を抱えた。どうやって1年も暮らせば良いのだ。だが周りを見渡すと物はある。要するに現金以外のものは持って行かれることはないようだ。


「持っているものは消えないのか。これを売って暮らせば・・・だけど売った瞬間にお金は消えるんだろうなあ」


このままでは飢え死にしてしまう。3食ついて住むところがあってそれなりの収入になる仕事を見つけるしかないということか。

A氏はしばらく考えると電話をかけた。


「もしもし海上自衛隊さんですか?ええ、入隊希望です。出来れば手当の良い潜水艦勤務を希望したいのですが」

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