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頭の中に描くエンディングまでたどり着くことが目標
そんなこんなで、なんやかんやあって放課後
帰宅部の俺は部活動の勧誘をのらりくらりと躱し、帰路に着いた
「ただいまー」
「おかえり狂ちゃん、今晩御飯できてるからね」
俺を玄関先で迎えたのは義母の”償絵 遥”さんだ
母は俺ともう1人を生んだ時に死んだと聞かされ、父はショックのあまり育児放棄したとか何とか
俺は義母に育てられ、もう1人は孤児院で育ったと聞かされている
「晩飯早くない?」
「今日は小学校入学記念日でしょ?狂ちゃんの!」
忘れていた、訳では無い
義母が晩御飯が早い時、何かと理由をつけて祝おうと努力している
不満はないが、それを利用して俺との距離を縮めようとしているのが魂胆だと察せる
「お金、よゆーないでしょ?」
「実はね、あなたのお父さんから今までの育児金を振り込んできたの!それで今晩は盛大にと思って!」
「あぁ、そう…」
それを聞いて、俺はなんとも思わなかった
俺を、俺たちを捨てた男の金なんざ汚物に等しい
だが、貰えるものは貰っておく精神は、遺伝子レベルで受け継がれた意思なのだろう皮肉なものだ
「相当な額だろうけど、貯金もしてよ?」
「まっかせて!狂ちゃん大学行くもんね?」
体育大学では無いがな
出来たら呼んでと、義母に伝えると俺は二階に上がり自室にてVRを起動する
しかし、起動しただけ…やり込んだゲームもサービス終了しており、虚無感だけがそこにあった
「……金、貰ったんだっけ……新たに別ゲーへと進出するのも有りか?」
俺の呟きとは他所に、視界の端にメールが届く
俺宛で、送った人物は不明だ
「なんだこりゃ?ウイルスなら速攻削除されるはずだし……」
とまぁ、何も考えずにメールを開くとパンパカパーンという効果音と共にどこかで見たキャラクターのアイドルが1万人突破記念!という看板を持ってホログラムを表示する
《おめでとうございます!!当サイトに貴方は登録した1万人目記念ということで────》
俺はすぐさまメールを閉じた
ウイルス検知を突破してたどり着けたのは褒めるところだが、如何せん胡散臭い
新手の詐欺だろうと、俺は一瞥しベッドに寝転ぶ
《なんで無視するんですか!》
……最近の詐欺メールとはすごいな、再度開いてもないのに勝手に出てくる仕様か
「……あんたの顔、どこかで見たな」
《私をご存知ない!?では改めて説明させていただきますが────》
「長くなりそうだな、3行で」
《え……えぇと!最近話題のアニメ『草原の英雄』ヒロインこと”アリア・サージェント”です!》
”アリア・サージェント”、聞いたことある名前と見たことある顔でどのようなアニメだったか思い出した
ファンタジー世界を舞台に、悪の権化である魔王と戦うはずが、途中途中の村で主人公が悪者扱いされ、満足のない支援物資の中、ボロボロの服と錆びた剣で魔王と相打ちになって両者ともに死ぬという救われないアニメだったか?
「自分の事ヒロインっていうの気持ち悪いからやめた方がいいぞ」
《なっ、……ぐっ、わ、分かりました……》
その主人公のヒロインがアリアだ、ふと歩けば罠に引っかかりパーティメンバーを困らせ、町についても悪漢に襲われかけ、仕舞いにはアニメの評判で『歩くトラップ』『こいつだけ18禁』などと称号を得たとか
まぁ内容がクソだとしても音響や映像に力を入れているということもあり、アリア自身の姿形はふくらはぎまである白のストレートに童顔低身長巨乳と、大きなお兄さんに連れ去られてもおかしくない設定だ
アニメの評価星は10段階あるうちの2で留まっている
「詐欺師さんは何しに来たんだ」
《詐欺師じゃないです!私ことアリアは新作VRオンラインゲームの招待をしに参りました!》
「よし分かった帰れ」
《何でですか!》
「俺は今やることがある」
《さっき暇になったとか言ってませんでした?》
む、口に出てたか?夢中になるものが無くなると途端に独り言が増えるのか俺は?
《今思い出したとか言わないでくださいよ?》
「そうだな、今思い出した。飯を食う」
《そういえば晩御飯の時間帯でし……早くないです?》
「早いだろ?うちじゃ普通なんだ」
会話もそこそこに、目の前のアニメキャラは1万人記念の詳細を語る
「今回、1万人記念として別世界のファンタジー世界をVR機器を用いて探検する『grand・FANTASY』というゲームを招待させて頂きます」
grand──壮大か
別世界というのは設定上の話だろうが、またゼロから始めるのは気が滅入る
「ただ招待されるのは嫌だな」
《そこで1万人記念です!初回は全ての職から選び放題!武器や防具も1式揃っておりますし、なんならサポートする精霊もつけますよ!》
一語一句、噛み砕いて理解した俺は告げた
「それが普通だよな??」
《ぇえ?》
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「狂ちゃーん、ご飯できたよー!」
私は台所から狂死郎の名前を呼び、反応がなかったことに不思議に思う
おかしい、いつもならすぐ出てくるものの返事のひとつもない
あまり部屋に入らないでくれと頼まれたことはあるが、返事ひとつもない時はやむを得ないと自己解決し、軋む階段を他所に狂死郎の部屋の前にたどり着く
「狂ちゃん?ご飯できたよ?」
返事はない、こういう時は本人曰く、大概VRオンラインゲームになかなか抜け出せなくなりログアウトが遅れるとか言っていた
今回もその類だろうが、ノックをふたつして部屋に入る
「……」
「狂ちゃ────あ、あなたは」
私が見た狂ちゃんの部屋の中では、VR装置を装着した狂ちゃんがベッドに寝転んでいたのと、その傍で一人の少女が立っていた
《お久しぶりです────オリジナル》