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G.A.M.E  作者: 黒煙草
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見切り発車

────…終わった


それは俺のひと夏の出来事であり、高校1年の夏でもある

超大作の、VRを用いたファンタジーで近未来なオンラインゲームが、8月31日を持って終了したのだ


シリーズを重ねる毎に超大作の頂点に立ったゲームというのに夏の終わりに終了したその原因は、その会社の社長が1人の女子への強姦・殺人・強盗・轢き逃げやらなんやらが原因だとか


巫山戯た話だ。バグが見つかれば速攻直し、ゲーム内の職のバランスに不都合があれば調整し、度重なる不適切な言葉や行動を取るものは過去のログを参照して措置もするほど、消費者(プレイヤー)に献身的だった会社が、女子に手を出しただけで倒産したのだ

普通にやりすぎだけどな


それが昨日での記者会見発表

そして今日の夜0時に仲の良かったクランメンバーと悔いなく大陸を冒険じゅうりんし、ログアウトした


中学の入学記念に、母に強引な形でVR専用のヘッドギアを買ってもらい、ソフトは貯めたお年玉で買った

未知の世界を探検するワクワク、たくさんの職業を見たり聞いたり、立ちはだかるボスにパーティを組んで倒したり────…

過去を振り返る度に寂しい気持ちが溢れるが、夏休みも終わる。データ化した夏休みの課題(しゅくだい)もまだ半分以上ある…辛い

9月1日から登校だと言うのにまだ終わってない?ふっ、人間とは追い込まれたら強くなるのだよ





まぁそんなことがあった翌日の朝

学校に行く途中、視界いっぱいに広がるゲーム記事を操作型携帯端末片手に弄りながら閲覧していると、工場の排気ガスと混ざる青空に浮かぶドローンの電子公告をふと見る


「……ぅん?」


”国内大手メーカー、ゲーム企業に進出!元超大作に変わる新たな兆しか!?”


……嫌味かコノヤロウ

割と愛着あったゲームの、その変わりと言われると無性に腹が立つ

しかも超大作だ、2番目3番目もあるのにそれらを蹴散らしてトップに食らいつくなんて


「寝言は寝て言えっての…」

「なんだ?影夜かげやまだ寝惚けてるのか?」


聞きなれた声のした方向に顔を向けると、2メートルの長身を持つガタイのいい男性がそこにいた


「いわちゃん、おはようございます」

「ちゃんを付けるなちゃんを、俺先生だからな?」


いわちゃん先生こと、『巖本 厳十郎』先生は俺の担任ではない

学校も違うし、いわちゃん自身体育大学なのだが……よく毎朝会うのだ


()()()!考えてくれたか?」

「あのさ先生、俺まだ高一だからな?”大学にはうちに来てくれ!!”なんて…確かに進路が大学なら嬉しいかもしれないけどさ、俺はさ────」


────将来の夢が、ないから

それを言ってしまえばどれだけ楽だろか…だけどいわちゃんにはそれを言ったことがない


「うん、まぁ……そうだよな。まだ見つからないのか?」

「そそ、超新星爆発して新たな星が出来るまで卒業する気ないから」


とかなんとか言って、のらりくらりといわちゃんへの言及を躱している

といってもいわちゃん自身も気付いているだろうし、こんな問答不要なのだが


軽く会話して、俺は交差点でいわちゃんと別れ、学校へと続く遠回りの大通りから外れ、路地裏に入ると俺は屈伸やアキレス腱を伸ばす


「ふぅー……うしっ、ストレッチは大事!」


視界を平常時に戻し、背景を映す

目前にはエアコンダスト、換気扇、細いパイプが地面に突き刺さった雑居ビルとビルの間だ


肩に掛けるタイプのカバンをしっかり固定し、時計を見ながら軽く飛ぶ


「学校が閉まるのはっ…7:30っ…今、7:28っ…58…59…ゴッー!!」


大通りからでは10分かかるが、この近道では3分でたどり着ける

ちなみに最高新記録は陸上部の卒業生で、1分ジャストだ

今その人はSASUKEとかでよく見かけてる


「っ、ほっ!……とぉ!」


俺は壁蹴りでフェンスを乗り越える

こうして自分を追い込むことで枷をかけ、1分を切ることを日課にしている

もちろん今まで切ったことは無いが…


「30秒!この調子だと間に合うか!」


今日はすこぶる調子がいい、便秘に悩む近所のネーチャンが1週間苦しんでやっと出したくらいだ!

知らんけど


だが、そう問屋は下ろさないのが俺の幸運値だ


「門が…くっそ!校長(おばさん)かよ!」


我が高校の校長は気が早くて有名だ

29分30秒で閉めたがるせっかちオバサンなので遅刻ギリギリの生徒たちはこのおばさんに良く止められ、遅刻扱いさせるのだ


だが乗り越えてしまえば問題ない!俺は路地裏から出て────


「いっ!?黒猫が…っ!」


俺は踏み込もうとした足を半歩ずらし、猫のしっぽを踏むことを回避すると黒猫を抱える


「とうっ!」


半歩後ろに下げたことで軸がズレ、コケるような体勢になるが俺は前転し、起き上がる状態で両足に力を込め、跳んだ


「校長!はえーんだよ!」


高さ2メートルの正門に片手をかけ、身を乗り出す

もう片方に黒猫を抱えているので腕1本で乗り越える形となった


「影夜!新学期早々遅れるたァ、いい度胸だな!」

「まだ2秒あんだろ……うお!正門前がウォーキングデッドみたいになってる」

「なぜ我が校はこうも遅刻者が多いのだろうな。あと影夜、2秒遅いからな」

「マジ?新記録樹立ならず…!じゃあな校長」


俺はゾンビのごとく正門に群がる遅刻者をスルーして教室に向かった



────────────────────────


「影夜くん…朝礼に遅れそうだからって猫を頭に乗せながら窓から入るの本当やめて…新学期くらい落ち着いて来れないの?」


窓を叩き、近くの席に着いている黒髪を腰まで伸ばした萌え袖おっとり清純派、クラスのアイドル的人気のある榊さんに窓を開けてもらい、侵入した俺は榊さんにやめてくれと懇願された


「榊の姐さん、こういう言葉知ってる?」

「な、なに…?」


「影夜ー!いるかー!」


「はーい!いまーす!……バレなきゃ罪にならない、ってな」

「いつかバレて痛い目に遭うといいよ…」


榊さんは俺が入学の時からこんな態度なので嫌われてる

俺は好きだがなぁ


「では課題をやってきただろうから、先生が出した課題、提出してもらうぞー」


俺の担任の先生は物理・化学を担当している

ふっふっふ、担任よ…アンタの課題は夏休み始まる前から終わらせてんのよ!






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