美食家 VS 汚い料理屋の店主
私の名前は海原 川瀬。
『旨いもん倶楽部』という、会員制の料亭を営む美食家である。
今回は我が『旨いもん倶楽部』の会員であるニコニコテレビの社長が、どうしても自分のテレビ局の番組に出てくれと言ってきて、普段なら一喝して断るところだが、何か予感がして出演を受けることにした。
それで番組の趣旨としては、客も寄り付かない汚い店に行って料理を食べて批評するという、ありきたりな番組である。全くくだらん。
店に着いたが、見るからに薄汚い木造の小さな料理屋だ。まぁ問題は料理の味だな。名前は"ラッキー食堂"か・・・不安しか無いな。
ガラスの引き戸を開けて中に入ると、無精髭の汚ならしい男が現れた。
「いらっしゃーい」
本当に汚い男だな。白い料理服が黄ばんでいるし、歯も虫歯だらけ、体からアンモニア臭もする。
店も噂に違わぬ汚さで、壁には黒い染み、テーブルも油でギトギトしているし、極めつけは床を大量のゴキブリの大名行列だ。
普通の美食家ならココで帰るところだろうが、この海原 川瀬は逃げも隠れもせん。
番組スタッフが簡単な説明をした後、やたら元気の良い女アナウンサーの声で収録は始まった。
「はい、おまち。味噌汁です。」
うむ、とても味噌汁とは思えん、ドブ色の液体が茶碗で出てきたが、店主が味噌汁と言えば味噌汁なのだろう。早速頂くか。
女アナウンサーは躊躇っていたようだが、私が口をつけたのを見て、渋々味噌汁をすすり始めた。
「うっ!!」
"バターン!!"
すすった瞬間、テーブルに前のめりに倒れる女アナウンサー。白目を向いて泡も吹いているではないか。理由は分かっている味噌汁が不味すぎるからだ。
まず、生臭く気分害する匂い、そして飲んだときに口に広がる、おぞましいドロッとした何か。この私ですら一瞬頭の中が真っ白になったわ。
そして、この味噌汁には致命的な欠点がある。
「店主、この味噌汁。味噌が入ってない様だが。」
私が質問すると、店主は腹を掻きながら、不遜な態度でこう答えた。
「いやぁ、一応入ってるんですけどねぇ・・・かに味噌。」
「ふふっ、やはりな。この海原 川瀬の舌は誤魔化せん。味噌はどうしたのだ!!」
「切らしてて、すいません。」
「貴様それでも料理人の端くれか!!あとなんだこれは!?」
「えっ?」
「いや、聞くまでもない。これはリンゴの皮だ。問題は何故味噌汁にリンゴの皮が入っているかと言うことだ!!まさか鍋をゴミ箱と間違えたわけではあるまいな!!」
「えーっと、違くて・・・材料無くて、お昼に食べたリンゴ切った時に出た皮しかなくてぇ・・・食感良くないですか?」
「ふざけるな馬鹿者!!この生臭汁に食感など求めるか!!貴様は料理人失格だ!!」
「えぇ、ショックだなぁ。」
ほぉ、ショックと言いつつ変わらぬ不遜な態度。度胸だけは一人前だな。さぁて、ここからが本題だ。
「しかしだ。このリンゴの皮。身を削り取らず皮だけ見事に切り離してある。これはお前が皮を剥いたのか?」
「えっ?はい。勿体無いじゃないですか。」
「そうか。」
悔しいが神業だ。この男、現段階では料理人として失格だが、光るものがある。私が感じた予感はこれであったか。
「貴様、この私の下で修行する気はあるか?あるなら、この海原 川瀬が貴様を一流の料理人にしてやろう。」
「えっ?マジですか?やった。」
イマイチな反応だが、これでこそ鍛え甲斐がある。まず手始めに。
「人と話しをしている時に鼻クソをほじるな!!」
「あっ、サーセン。」




