腕が三本あったら人生変わってた
今日は、何だか少し幸せが多い気がする。
空気中に、何処からか幸せが漏れたのだろうか。
坂を登るのも、全然、苦じゃない。
坂の先には、僕の家がある。
家に帰って、大好きな鍋をひとりで作る。
それが、僕にとっての最大の幸せなのだ。
両手には沢山の野菜がぶら下がっている。
ビニールの袋がはち切れそうなくらい、パンパンの野菜。
ビニールの持ち手が、手のひらに食い込んでしまうほどだ。
坂の上の方を見ると、何かが転がってくるのが見えた。
それは、坂の中腹の人が落とした、あの高級食材だった。
僕は迷った。
両手は塞がっている。
両手に持っている食材を置いたら、それも転がってしまうくらいの急な坂。
その坂の転がる先には、流れの早い川がある。
拾わなければ、すぐに、遠くの方へ流れていってしまう。
僕は迷ったが、その高級食材を受け流した。
そして、高級食材を追いかけ下ってゆく女性も、軽く受け流した。
僕は、少しの後悔と共に、上にある幸せを目指した。
腕が三本あったら、人生変わってた。
僕の腕が三本あったなら、助けたお礼に、きっと高級食材を分けてもらえただろう。
そうなれば、坂の上での幸せは、もっと満ち溢れたものになっていたはずだ。