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飛べた魔女はただの呪われし魔女

 ある時は子豚。またある時は、王子の婚約者(仮)。その正体は、ただの悪い魔女です。こんにちは。

 何故脳内で変な自己紹介をしているのかというと、目の前にいる人と目があってしまい、何をどうしていいのか分からずお互いフリーズしているからだ。

 とりあえず、意味が分からないと思うので、私が脳内で勝手に現状をご説明しますと――。


「うわあああああああああ。お、お化けっ!!」

 ――脳内を整理しようと、心の中で自己紹介をしていると、整理が終わる前に目の前にいた男が叫び声をあげた。お化けって、失礼な。ちゃんと足……ないな。そういえば、今の私は顔と左手だけ元の世界に戻している状態だ。


 簡単に今の状況を言えば、使い魔チャンネルの調子がおかしかったので、前回同様病気の使い魔がいるのではないかと判断し、異界から顔だけこんにちはしてみたのだ。そうしたらタイミング悪く、男の人がいた。人と話すとかものすごい面倒なので、どうしようと固まっていた所、現在勝手に男がお化け扱いしてきたというわけだ。

「だ、だから、嫌なんだ。魔女なんかを殺すから、こういうことになるんだ!! うわああああ。殺さないでくれ」

 ……魔女を殺したのか。

 言い方的に、この男ではなく第三者がかもしれないけれど。でも殺人事件が起こっている時点で、お化けより人間の方が怖いの典型的な状況だと思うのだけど? 

 そんな状況でお化け程度で騒いでどうするのか。そもそも、私は人食い系の悪い魔女ではなく、ぷっくぷくにする系の魔女なのでジャンルが違う。

 とりあえず、関わると面倒なことになる気がする。正直回れ右したい。


 それでも、男のいる場所よりも更に奥に、箱型の檻に入れられた使い魔を見れば、流石にそのままにしておくのは良心が咎める。尻尾が何本もある白い狐は、苦しそうに檻の中で臥せっていた。白い毛にところどころ黒いものが付いているのは、血だろうか。こんな愛くるしいもふもふが苦しんでいるのに、放置するわけにはいかない。


「それは、何?」

「こここここ、これは。これは、世にも珍しい九尾で。こここここ、これをあげるので、許して下さい!!」

 私が檻を指さすと、男はブルブル震えながら頭を下げる。

 ……でも、あげるから許せって。

 別に私は生贄を必要とする系の悪者でもないんだけど。ただ蹴るようにして、檻を私の方へ向けたのは正直いい気分ではないので、むしろそれを止めろと言いたい。

 私はよいしょと右手も出すと、近くまで来た檻の隙間に手を差し込み九尾の尻尾に触れた。うん。ふかふか。素晴らしい毛並みだ。これが九本もあるって、神の生き物だろうか。素晴らしきもっふもふである。

 こんな子を虐待するとか、本当にあり得ない。

 私は無言で能力を使って、九尾を元の世界に強制送還する。消える瞬間、お礼なのか小さく振り絞るようにキュっと鳴いたのが、余計に心に響く。可哀想に。九尾なら人間の言葉を喋る事ができるはずなのに、鳴き声だけなんて、相当弱っているのだろう。


「きききき、消え。うわああああああ。俺を消さないでっ!!」

 腰が抜けたのか、男が座ったまま後ずさる。

 どうしよう。自分が【異界渡りの魔女】と馬鹿正直に名乗ると、絶対後から報復が来るタイプの厄介案件じゃないだろうか。今はお化けと勘違いしているから何もしないだけで。仕方がない。

「私は、呪われし魔女。私に関わるものは、皆呪われるのです」

「のののの、呪われっ!!」

 とりあえず、皆、ぷっくぷくになるがいい。

 私は常にその呪いにかかっているのだ。異界にいる間は、絶対太らないだろうと思っていたのに、すでにお腹周りに浮き輪が……くっ。私はまた破滅させられるのか。

 更に元の世界に戻れば、呪いの装備として引っ付き王子までついている。この王子は毎回私をブートキャンプと言う名の破滅へと導く、呪いの王子だ。


 そんな事を考えていると何だか、寒気が。

 とにかく目の前の人は、怖い人っぽいし、もう帰ろう。

 私は必要以上に関わり合いになりたくないので、異界の方へ首をひっこめた。うん。危ないところに首を突っ込む(物理)は良くない。

 それにしても、九尾……素晴らしい毛並みだった。今度ブラッシングさせてもらえないだろうか。

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