飛べた魔女はただのお取り寄せ店
「カリカリくださいニャー」
「はい、喜んで!」
今日も元気だ、使い魔可愛い。
モフっとしたボディーよし、小さくてよしよししたくなる姿よし、ぴくぴく喜怒哀楽で動く耳も、ぶんぶんはちきれんばかりに動く尻尾も、人間の言葉とは明らかに違う泣き声も、全て愛らしい。
使い魔たちが暮らす世界はきっと楽園だろう。うんうん。
そんな事を考えながら、ケットシーに注文されたカリカリをご用意する。ついでにおまけで減塩の猫ちゃん用の煮干しも用意。
煮干しは猫が食べ過ぎるとよくないと聞くので、使い魔たちにもあまり与えていない。しかしちゃんと量を加減し、減塩されたペット用ならば大丈夫だと思う。というか厳密には、彼らは猫じゃないし。ケットシーはハンバーグの玉ねぎも大丈夫だと以前言ってたぐらいだ。でも猫型はケットシーだけではないし、駄目な子もいる可能性もあるので、渡す時には確認が大事である。
食事は安全安心第一だ。
「では、ご注文のカリカリです。おまけとして減塩煮干しも付けておきますが、食べ過ぎだけは注意してください」
「分かったニャー。これ代金にゃー」
「あ、代金は、あちらの豚さん貯金箱に入れておいて下さい。おつりは出せませんので、お気持ち程度で十分ですよ」
「分かってるニャー」
そう言いながら、豚の貯金箱に金貨を入れられた気がするのだけれど気にしてはいけない。うんうん。多分見間違え。あれは銅貨がキラリと太陽光で反射しただけに違いない。そう思っておこう。
「本当に、勝手に魔女が人間の貨幣社会を貴方達に強要しているだけですから、無理しなくてもいいんですよ。私は家に遊びに来られた方に、お茶菓子を出さないような非道の魔女ではありませんので。お金がなくて、ヒモジイ思いをしている使い魔がみえましたら、気にせず来るように言って下さいね」
私は悪い魔女だけれど、食べ物を渡さないなんていう非道でちっさな悪事はしないのだ。
お腹がすくのはとても辛いことだ。渡すものがなければ我慢してもらうしかないが、予言の魔女のおかげで、異界のお金は十分ある。私から配りに行くことはないけれど、欲しいと言われたら私は渡す。
「大丈夫なのニャー。吾輩たちも、【異界渡りの魔女】とは対等にいたいニャー。吾輩は人間のような恩知らずじゃないニャ。お金ない奴には、働き口を伝えるニャ。でも虐待されてるのが来たら、今まで通りお願いするニャ」
「はい。しっかりぷっくぷくにして、王達に連絡します。もちろん貴方にも」
彼は猫系のまとめ役だ。頭に飾られた王冠と赤いマントがとても可愛い。
「吾輩はケットシーだニャ。猫系の霊獣の飲食代なら、吾輩が立て替えるから、ちゃんと覚えておくニャ」
律儀な猫の王様は、そう言って、ひげを手でぐりぐりやる。……肉球可愛い。眺めているだけで癒しだ。こんな可愛い彼らからお金を取るだなんて、非道ではないだろうか? むしろ私がお金を払うべきではないだろうか?
「いえ……。もしも払えない子がいたら、体で払ってもらいますからご安心を」
「か、体?」
ケットシーが毛を逆立てた。ふふふふ。そんな姿も可愛らしい。
余り脅かすのは可哀想だが、魔女と取引きをするということは、危険性もあることを覚えてもらわなければ。使い魔は素直な子が多いので、心配なのだ。
「ふふふふ。私、悪い魔女なので。なでなでして、ブラッシングして、肉球もみもみして、爪を切ってしまいましょう」
「……そうニャ。その危険、まずは吾輩が真っ先に体験し、他の奴にも伝えてやるニャ。体験代も貯金箱に入れておくニャ」
「なんと、罰ゲームにまでお金を払うなんて」
流石は王様だ。
チャリンと、再び黄金に輝くお金が入る。……本当にお金持ちですね。
最近設置した、豚の貯金箱が私のように、確実に肥え太っていく。お茶会の度に公爵令嬢にあずけているけれど、彼らは一体どう調理されているのやら。説明はしてくれているけれど、あまり記憶に残っていない。
今日も元気だ、ケットシー可愛い。
色々癒されるけれど、癒される度に私の分身のような豚の貯金箱は肥え太り、出荷されていくのだった。まあ、豚の運命ってそういうものか。




