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飛べた魔女はただの使い魔女

 魔女集会。通称ザバト。

 それは、魔女ないし魔法使いだけが参加できるお祭りだ。大きなものは春と秋。春はワルプルギスの夜、秋はハロウィンと呼ばれている。

 彼らはそこで情報収集をしながら横のつながりを強化していた。


 何故なら魔女と魔法使いは、滅びゆくものでもあるからだ。

 昔よりも文明が進んだ世界で、魔女の能力の重要性は下がってきている。昔は異能があるというだけで尊ばれていたが、今では【名持ち】以外は価値が薄い。だから彼らは、自分たちの特異性を強化するために横のつながりを強化し、新たな力の獲得に励む。

 その新しい力の一つが【使い魔】だ。使い魔をこちらの世界に繋ぎ留められるのは、神から特別に愛されている魔女や魔法使いだけだった。使い魔たちはこの世界にあるけれど、この世界の生き物は必要としない【マナ】が欲しい為、こぞって契約しこの世界へやって来ていた。マナは不思議な力を使う源であり、使い魔たちはそれを使って様々な超常現象を起こす事ができる。だから使い魔はこの世界に繋ぎとめて貰う代わりに、契約者に力を貸すのだ。

 まさにウインウインの関係で、魔女と魔法使いは使い魔を大切にしている。

 そしてその延長で、ハロウィンでは、使い魔の仮装をするのが一般的だった。


「……おい。それは何の仮装だ。というか、中の人は俺の婚約者でいいんだよな?」

 面倒だから行きたくないけれど、行くしかないので私はハロウィン用の衣装に身を包んでいた。最初はいつものジャージで行こうと思ったけれど、公爵令嬢の話を踏まえて考えたのだ。

「中の人なんていませんと言いたいところですが私です。婚約者(仮)です」

「何だよその格好」

「私、使い魔を持っていないので、私自身を使い魔と見立てることにしたブヒ。ぶたっしーとでもお呼び下さいブヒ」

「あああああああっ!」

 王子が膝を付いて叫んだ。ものすごい後悔と背中に書いてある。……折角周りに少しでも溶け込むように、仮装したのに何が気にくわないのだろう。


 今日の私の格好は異界からお取り寄せした全身豚コスプレだ。別名着ぐるみ。中は正直暑いけれど、私なりに考えた上での豚コスだ。

「俺の嫁が豚になってるなんて。やっぱり俺が衣装を用意すればよかった。なんで全身豚なんだ。せめて一部でいいだろ」

「豚鼻をつけろと? いくら悪い魔女でも、それはないですね。トンだ罰ゲームです」

 いくら豚でも女なのだ。豚鼻は酷い。

「ちげぇよ。耳とかしっぽとかあるだろ」

「それだと豚って分かりにくいじゃないですか」

 豚の特徴はやはりなんといっても鼻だ。耳やしっぽでは分かりにくい。くるんとなった尻尾、可愛いけどそれはそれだ。


「なら、猫とか、犬とか、狐とか、俺とお揃いとか他にあっただろ」

「私、使い魔を持っていないですが、使い魔たちに対しては箱オシなんです。なので下手に誰かをひいきするわけにはいかないんですよね」

 特に今日はお菓子を配ってぷっくぷくにする予定なので拗ねて近寄ってくれなくなったら困る。

 なので平等にどれでもないものにした。

「その点、私が王子の使い魔女というのは、使い魔たちも知ってるので、分かりやすいかと」

「何だよ。その使い魔女って」

「私が王子の飼い豚だということです。同じ飼われたもの同士という事で、使い魔たちは仲よくしてくれているんです」

 私が堂々と世の真理を話すと王子が凄い微妙な顔をした。


「……俺が留学していた間はどうなるんだよ。その間も使い魔と仲良くしていたんだろ」

「野良豚ですかね? さあ、行きましょうか」

 さあ、皆さん震えながら待っていて下さい。悪い魔女が沢山お菓子を持っていきますブヒよ。 

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