飛ばした王子はただの呪いの装備
今日も元気だ、異界の流行り小説で萌え豚になろう。
王子を正気にさせる為とはいえ、とんでもない破滅の呪文を唱えられた魔女です、こんにちは。バ〇スのように全てを破壊しつくさず、悪い魔女だけに被弾するとんでもない呪文は、私の心に大きな傷を残した。とりあえず、しばらくは食欲の秋を押さえて、読書の秋を満喫しようと思う。本日は異界のお菓子じゃが〇この日だそうだが、期間限定品だけキープして食べるのは我慢しよう。
待ってて、じゃ〇りこ。私きっと食べるから。未来で待ってて――。
「というか、破滅の呪文まで唱えたんですから、いい加減いつもの距離に戻りませんか?」
ソファーで一人読書をのんびり満喫しているというのに、オブジェのように私にくっ付いて一緒に読書している王子が視界に入り目まいを覚える。この距離は可笑しい。病気は治ったんじゃなかったのか。
というかあのブートキャンプをやらせておいて、まだ治ってないとか酷すぎる。
「いつもこんな感じだっただろ」
「嘘です。明らかに距離がおかしくなっています」
「婚約者だし問題ないな。夏で暑いわけじゃないし、まったくもって問題ないだろ。ほら、本読むぞ」
むむむむむ。
確かに暑いから離れろという呪文を使うには、この部屋の気温は高くない。さっさと異界の暖房器具を活用して、暑いから離れて下さい作戦をすれば良かった。でもなー。実をいうと冬の暖房系の方が電力消費が激しいのだ。日照時間も減る事を考えると、できたら暖房器具の活用は温存しておきたい。かといって、灯油を入れたり、薪で暖炉を温めるのも面倒なので、冬以外やりたくない。
「王子。実は、異界の本を読んでまして、一つご提案が」
「何だ? 今度はどんなろくでもない事を学んだ」
「初めからろくでもないと決めつけないで下さい」
失礼な。折角異界の流行り物を学んでいるというのに。私は流行に敏感な豚なのだ。
「私達これまで、色々異界の流行りにのっとって、婚約破棄とか婚約破棄とか、婚約破棄とか、破滅フラグをやってきたと思うんですよ」
「破棄は全部未遂だけどな。そしてお前の破滅フラグと言うのはブートキャンプだろ。普通に運動の秋だ。破滅じゃない」
「あれが破滅じゃないって、そんな世の中間違ってる!」
疲れて休憩を求めても、癒しの魔女に癒され、無限に続くブートキャンプ。異界では、死ぬとか国外追放とか爵位剥奪とかを指しているけれど、これだって立派に破滅だ。私の心が毎回折れる。
「……取り乱しました。体力ゴリラと豚の種の差からくる認識の差異はまあ置いておき、色々流行りにのっとってきたと思うんです。だから、新たなジャンルに挑戦しましょう」
「新たなジャンル?」
「いわゆる、パーティ離脱系です。私と王子、後は癒しの魔女と公爵令嬢をパーティメンバーに見立てて、私が追放されるという形です。というわけで、お疲れ様でした。王子、終わりにしましょう」
その言葉に王子は絶句した。
でもこれが一番いいのだ。私は元の平和なおひとり様に戻り、王子は美女と一緒に王宮で暮らす。そもそもきらびやかな方々の中に、豚がまぎれているのがおかしかったのだ。異物感半端ない。
「ふはははは。残念だったな。そんなことを言われる事もあろうかと、俺も異界の書物から学んだんだよ」
泣くかと思ったら、高笑いされ、私は戦慄する。
「いいか。そのネタは、異界のテレビゲームから来ているんだ。そしてな。大抵はパーティを途中離脱なんてできない。そして俺はたとえ離脱してもそっちについていくからな。絶対外せない呪いの指輪だと思え」
「な・ん・だ・と?!」
「諦めろ。俺と婚約が決まった時から離れられない運命なんだよ」
物語は、運命に逆らってこそじゃないだろうか?
運命に従うなんて、わくわくしないでしょ? そういうものでしょ?!
今日も元気だ。よし、王子のネタを論破する新たな流行りを見つけよう。




