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飛ばした王子はただの愚痴中

「最近、アンタが病んだって、城で大騒ぎで迷惑なんだけど。その極端に突っ走ってく脳筋やめなさいよ」

 【予言の魔女】のところに行くと開口一番にそう愚痴られた。

 心配しているというより、心底嫌そうな顔にムッとする。俺だって、気弱になる事だってあるんだよ。

「折角お前に会いに来たのに何だよそれ」

 邪険にせず、少しぐらい話を聞いてくれてもいいじゃないか。俺だって、好きでこんな状態になっているわけじゃない。

 そして俺が婚約者の事を話しても大丈夫だと信頼できる相手はコイツだけなのだ。【予言の魔女】だけは彼女を傷つけない。


「そういう馬鹿セリフ吐くからでしょうが。まあ、ここなら誰も来ないし、私の使い魔しか入れないからいいけど、誤解を招きそうな言葉は慎んでよ」

「はあ?」

「恋人とか想い人に会いに来たようなセリフになってるわよ。そういうのは、あの子限定にして。もし【異界渡りの魔女】に伝わって勘違いされたら、アンタに呪われた予言を渡すから」

 呪われた予言って何だよ。物騒な奴だな。何で俺の婚約者はこの女を優しいと評価するのか。ときおり、解せない。


 とりあえず俺は【予言の魔女】の使い魔である、白虎をみた。今の映像は婚約者には届けてないと信じよう。何がいけないかわからないけれど、誤解は困る。絶対俺の婚約者はろくなことを考えない。

「で、何が原因なの」

「婚約者の過去を調べに行ってきた」

「過去、見れないんじゃなかったっけ?  あの子のトラウマが強すぎて」

「ああ。やっぱり見れない部分は見れないが、親切な罪人がいてな。罪人の男も見た辺りの過去は見えた」

 

 全てを見れたわけでもないのに、男が体験しただろう過去を映像で見るとよりきつかった。痩せ細った少女が大男に果敢に立ち向かい、突き飛ばされ、傷つけるのを目的とした言葉を投げつけられるのは。

 本来なら聞こえるはずもない心が壊れる音が聞こえた気がした。どれだけ伸ばしても過去には届かず、傷ついた少女がこのまま死んでしまうのではないかと怖くなった。過去は必ず現在に繋がる。だから、婚約者があの場で死ぬ事はない。でもあのとき少女の心は確かに一度殺されたのだ。


「俺はアイツが死ぬのは嫌なんだ。たとえ……アイツの願いが死だとしても」

「すごく悲痛な表情で、俺だけがそれを願っているという感じの所悪いけど、世界中の大半が【異界渡りの魔女】の死は、断固阻止勢だから」

「でも、もしも予言が変わったら――」

「そして最大の阻止勢は私よ。予言はね、嘘は言えないけれど、言わないという選択はできるのよ? 私はあの子が不利になる予言なんて、絶対言わないわ。そもそも、神がそんな予言するとは思えないけど」

 そう言って、【予言の魔女】は口をへの字にした。


「だからね。アンタは、普通にあの子を口説いていればいいのよ。お前が幸せになれるなら……俺はお前の手を離す事も厭わない……なんて臭いセリフ言う気ないでしょ?」

 憂いを帯びたような口調で言われて、馬鹿にされてるのがひしひしと伝わる。こいつなりの発破のかけ方だろうけどイラッとした。でもそんな言葉絶対言うものかと強い思いがわく。

「当たり前だ。もしもそんな場面になっても、そんな事言うと思ったか、ばーかと罵るまでが俺だ」

 絶対離れる気はない。

 死なせる気はないけれど、その隣を誰かに譲る気だってない。

「そうそう。アンタは空気を読まないぐらいで丁度いいのよ。というわけで、病んだわけじゃなくて、あれは魔女をなびかせる作戦だって事にしておきなさい。一応アンタ王子なんだから、隙を見せたらまた引き離させれるわよ」

「そんなの二度とごめんだ」

 前は力のない子供だった。でも、今は違う。

「私だって嫌よ。でも平和だとね、人間は予言なんて忘れるものなのよ。天災が起こっている時じゃなければ、それが自分に降りかかるものだって実感できないのが人間なの」

 婚約者が疫病の蔓延を未然に防いだから、俺らはまだ生きている。

 でも実際にその瀬戸際に接していない人は、【滅び】の危機感は持てないだろう。そして死ぬと実感がなければ、自分の利益を優先させるものがいてもおかしくない。


「本当に、面倒くさいな」

 婚約者を蔑ろにする奴らにもっと婚約者の能力を知らしめてやりたいと思う反面、知られたことにより変な欲を持たれるのも困る。

「そう思うなら、頑張りなさい。私はあの子を救えるのはアンタだと思ってるから」

 【予言の魔女】の予言ではない言葉に、俺は了解と小さく呟いた。 

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