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飛べた魔女はただの枕

 秋が深まり、今日も今日とて飯が美味い。

「秋は素晴らしい。ビバ実りの秋。干し柿の素朴な甘さも、サツマイモを使った洋菓子達も、少し苦みのある秋刀魚もなんておいしいのでしょう。というわけで、しばらく王子飯は中止でいいです」

「はあ?!」

 私の言葉に王子の人相が般若のようになった。おっと。ついつい食べ物の誘惑ばかりを語ってしまった。

 食べ物の理由が主とはいえ、こういう時は、ちゃんと王子にも気を使わなければ。折角、毎日作りに来てくれていたのだから。

「ほら……王子も骨休めして下さい。毎日料理作っていたら疲れるじゃないですか」

 決してお取り寄せご飯を沢山食べたいからだけじゃない。一応、王子の体の事も考えている。いつも、いつも作ってもらってばかりなのだ。しかも城で仕事を終えてから来ているので大変だと思う。

 だからお取り寄せご飯の誘惑ももちろんあるけれど、休んで欲しいと思っているのも嘘ではない。


「豚の餌やりは、たまには休んでも大丈夫です。1日、2日じゃ、取り返しがつかないぐらい太る事もないと思いますし。あっ。あれなら、豚小屋に来るのもたまには休んでも構いませんよ? 毎日じゃ疲れるでしょう? ほら、女の子に癒してもらうとかしたいですよね? いいですよ。私婚約者だけど気にしませんから」

「は?」

 異界の本のおかげで私も少しは男性の事に詳しくなっているはずだ。だから言わなくても分かっている。

 最近王子がお疲れ気味な雰囲気があったので、そういう提案をしてみた。


「男の生理現象までとやかく言う気ありませんから。羽目を外し過ぎない程度でですが、その顔と権力をお使いくださ――……何か、その真顔、すっごい怖いんですけど」

 折角王子を思って勧めたのに、般若から一転、ものすごい真顔で見られてる。瞳孔とか開いてるんじゃないだろうか? 顔がいい分、余計に怖い。

「俺は気にするんだ。そういう事は言わないでくれ」

「えっと。男は浮気するものなのでは?」

「お前、本当にろくでもない書物ばかり読んでるな?! 浮気性な男もいるが、そうじゃないのもいる。女だって同じだろ。お前は浮気性なのか? ……そう言えば、俺の料理から異界のお取り寄せ料理に浮気しようとしているな」

「えっ。それと、これは違いますから。いや。分かりました。浮気をすすめてすみませんでした!!」


 職業アレの人との関係を浮気とみなしていいのかは分からないが、どうやらこの話はしない方がいいらしい。確かにナイーブな話だ。

 そもそも私が浮気するはずない事もわかっているだろうに、こういう脅しをしてくるとか酷い。豚は料理にしか興味はないし、王子飯はどんな時でも不動の一位だ。

「違わないだろ。お前は俺を捨てる気なんだろ?」

「捨てるとか、本当に、滅相でもないです。捨てませんから。いや、あの。だったら、王子も一緒にお取り寄せご飯を楽しみませんか? ええ。二人でいっぱい食レポしましょう。そうすれば、たまには料理を作るのも休めますし」

 そもそも私と王子の関係は捨てる捨てないの様な関係なのだろうか。

 一応、婚約者だ。でも婚約者らしい事は何もしていないし、結婚の予定もない。つまりは恋人ならするような行為もゼロだ。男として王子は大丈夫なのだろうかと、いらない心配をするぐらい、王子の生活は清潔だ。……僧侶でも目指してるのかな? もしくは魔法使い……あっ。実際魔法使いだったわ。まあ、異界の魔法使いとはちょっと違いそうだけど。別に大人の階段上っても、魔法使いは魔法使いのままだ。


「食レポは認めるから、俺が来るのを拒否しないでくれ」

「……しませんよ。いなかったら、いないで……たぶん、その、寂しいですから」

 毎日来るから悪いのだ。おかげで私の依存心は日に日に上がっている気がしてならない。来なくていいと言っておきながら、いざそうなったら絶対寂しくなるのはみえている。

「でも俺は傷ついた」

「はぁ。そうですか。何か食べます?」

 とりあえずここは王子のご機嫌取りをしておこう。どうやら私は会話の選択肢を間違えたらしい。

 ちゃんと気を使ったつもりなのに、難しいな。


「食べ物はいい。そうだな……膝枕をしてくれ。確かに少し疲れてるんだ」

「……そんなに頑張ってここまで来なくても――いえ。……ありがとうございます。来てくれるのは、その……嬉しいです」

 来なくてもいいと言おうと思ったが、たまにはお礼をいってもいいだろう。王子が来る毎日は、迷惑だけではないのだ。私も……王子を傷つけたくはない。たまに鼻をへし折りたくはなるけど。

「あー。では、どうぞ。豚の良いところは脂肪分が多いので、寝心地は分かりませんが、柔らかいと思います」

 

 私はぱんぱんと膝を叩いて差し出す。

 その後、人の頭が意外に重い事を知り、びりびりしびれてしまって王子が起きる前にギブアップを伝えた。コレでは全然癒されなかったに違いない。今度異界の寝心地の良い低反発枕をプレゼントしようと思う。

 私の膝よりもきっと寝やすいはずだ。

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