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飛べた魔女はただの自炊中

「あああああっ!! 何で一人で食べてるんだ!!」


 中庭で朝から『燃えよ燃えよメラメラと~』と黒魔術のような雰囲気を醸し出してごそごそしていると、気配に気がついた王子が外に出て来て叫んだ。日頃一人暮らしをしているので突然叫ばれるとびっくりする。

 それにしても、何故一瞬で真実を見抜いたのか。さっきまで、ぐっすりベッドでいい夢を見ていたはずなのに。


 でもまだ、何とか誤魔化せるはず。

「おはようございます。ご飯が美味しい、いい朝ですね」

「ああ、おはようって、違う。俺の質問に答えろ」

 ちっ。誤魔化されなかったか。


「なぜ、食べていると?  私が邪教の黒魔術で呪ってるとは思わないんですか?」

「そんな気概、お前にはないだろ。お前がもしも朝から頑張るとしたら、飯の事だ。わざわざ呪うために火おこしなど、するはずがない!」

 なんという世界の真理?! 流石だわ。

 まあ、わざわざ呪わなくても、私がブヒブヒ豚になれば仲良く滅亡できるそうだから、そんな面倒な事する必要ないというのもあるけど。呪う暇あるなら、異界で美味しいものを探す。異界のお菓子は期間限定商品が目まぐるしく出るのだ。

 でもこの王子、私の事を食いしん坊キャラだと思ってないだろうか。私のキャラは悪い魔女だ。そこだけは、異議ありだ。


「無駄な抵抗はやめろ。何を食べたんだ。吐け」

「そんな勿体ない事しません! 私は一口たりとも吐いたりしません。全て私の血となり肉となるのです!」

 食べ物を粗末にするなど万死に値する。

 出されたものは全て食べる。そして食べたならリバースはしない。悪い魔女だって、それぐらいの正義の心は持っている。


「違うわ!! なんで物理なんだよ。普通に何を食べたか話せって言ってるんだよ。ん? なんか 甘い匂いがするな……」

「ちょ。わ、わかりました。分かりましたから、私の匂いを嗅ぐのはやめて下さい」

 昨日は外で寝たのだ。寝汗で豚臭がしたら死にそうだ。だから、そういう事をしないで欲しい。

 見た目はまんま王子様なのに、やる事が野生的過ぎる。流石はゴリラ。


「食べたのは、これです」

「なんだこの白いのは」

「マシュマロです。まあ、食べた方が分かりやすいと思うので、おひとつどうぞ」

「加熱しなくていいのか?」

 私が火を使っていたので気になるらしい。訝し気に白いそれを見つめる。

「焼いたら焼いたで美味しいですが、そのままでも普通に面白い食感で美味しいと思います」

 私は炭火の上に串に刺したもの置く。マシュマロは焼くと外はパリ中はトロでおいしいのだ。


「甘くて結構弾力があるな」

「そうなんです。焼くとまた違った食感で、ビスケットにはさんでよし、ココアの上にのせてよし。アイスとも合いますかねぇ」

  想像すると口のなかによだれの湖ができる。

 ああ。素晴らしい共演者。まさに名わき役。主役をもっと輝かせるお菓子だ。

「没収だ。残りは出せ」

「酷いです! 横暴です! 何がいけないというのですか?! ちなみに、マシュマロは脂質が低く、1個辺りのカロリーもたいしたものではありません」

  絶対言われると思って調べたのだ。すると、なんということでしょう。マシュマロダイエットなるものが異界にはあったのだ。ビバ・マシュマロ様。きっとこれは神の食べ物に違いない。


「ふざけるな。プラスアルファした時点で意味はないし、食べ過ぎれば、太る。そして、糖質が高いんだよ」

 ……凄い。一瞬でこのダイエットの弱点を見破っている。

 でも折角火をおこしたのだ。こんな日ぐらい食べたい。炭とか面倒なのを我慢したんだもの。

 な、何か。何か、一発逆転のチャンスはないだろうか。もう少しだけでいいの。せめてビスケットで挟みたい。

マシュマロだって独りは嫌なはず。サンドイッチされたいにちがいない。ココアの愛に包まれたいはずーーうーん。このネタで攻めるのは無理だわ。鼻で笑われて強奪されるに違いない。


「さあ、出せ」

 王子の目は本気だ。本気の狩人だ。

「ま、まずは食べてみて下さい」

「は?」

「是非王子にも味わって頂きたい、料理なんです。腕によりをかけて作りますから、これを朝ごはんにして、一緒に食べましょう!」

 無い知恵を絞った私は、巻き込む作戦に打って出た。とにかく食べれば、マシュマロの素晴らしさがわかるはず。毎日食べるわけではないのだ。


「……手料理ということか」

「一応。簡単ですが、心を込めますから」

 だから、食べさせて!

 

 その後、あっさり王子からOKが出た。なんだ。王子も食べたいなら、最初から言ってくれればいいのに。私はお菓子をあげる事だけは誰に対しても、一度だって渋ったことはない。いつも遠慮なんてしない癖に水くさいなぁ。やっぱり、私の事を食いしん坊キャラだと思っているのだろうか。

 まあ、いいけど。今日もいい日だ、飯が旨い。

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