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飛ばした王子はただのお洒落?

「なあ、前から思ってたけど、そのダサい服は何だ」

 いつも通り私の家にやって来た、遠慮が欠片も感じられない第二王子は、相変わらずズバリと失礼なことを言った。いや、確かにこの恰好は、私の住むこの国では違和感あるだろうけどさ。

 でも豚が何を着てもいいじゃない。しかも部屋着だ。……まあ、この間の外出もこの服だったけど、それはそれ。そもそも、豚を外出させる事の方が間違っている。


「何って、異界の服で、『じゃーじ』という名前がついたものよ。伸び縮みが良くて、異界では皆着てるんだから」

 特に学生と呼ばれる若い世代が着ているはずだ。

 そもそもじゃーじと呼ばれる衣服でなくても、異界では女性もズボンを履く。こちらの世界では乗馬などをやる時以外では考えられない服装だが、このズボンスタイルというのは、本当に楽なのだ。胡坐をかいても下着が見えない素晴らしさと、ベッドでゴロゴロしてもスカートがめくれて尻が丸出しにならない完璧さを兼ね備えている。後は伸縮性がいいので、多少太っても楽に着られるのもいい。

 そもそも女はスカートというこの世界の常識こそがおかしい。若い子はお腹を冷やさない方がいいと言うなら、断然ズボンだ。確かに太い足は長いスカートなら隠せるけれど、豚だと分かっているのに、隠して何になる。


「俺が服を仕立ててきてやるからそれを着ろ」

「えっ。ヤダ」

 だって、この世界の服の布、伸縮性が悪いし。しかも洗えないものもある。その点、じゃーじは簡単に洗えて便利だし衛生的。もう、選ぶならじゃーじ一択だろう。

「やだじゃない。お前、女としてその服装終わってるだろ」

「そんな見た目で判断するのは良くないと思います。婚約破棄しましょう」

「だが、断る。流れるように婚約破棄するな、馬鹿」

 そもそも最初に婚約破棄ネタ出してきたのそっちじゃんというような子供のような事は言わない。

 それに、うん。分かるよ。異界になれている私と、生まれてからこれまでこの世界でしか生きた事のない王子の感性が違う事は。

 でもなー。ぶっちゃけ、じゃーじになれると、他の服、嫌なんだよな。


「異界の服がいいなら、俺にもどんなものがあるのか見せられないのか? 俺が選ぶ」

「あー、無理ですね」

「嘘だな」

「何故バレタ」

「お前の目が、隠れてお菓子を食べた時と同じものになってる」

 くそう。

 流石王子。よくぞ見破ったと言いたいところだが、こっちとしても異界の服なら何でもいいというわけではないのだ。

 耐久性があって、伸縮のいい芋じゃーじ。おしゃれ感ゼロのこれが良いのだ。可愛らしい服は機能性があまりよろしくない。ミニスカなんか選ばれた日には、私に下着を丸出しにしてゴロゴロとベッドに寝そべろと?! という感じだ。王子は豚の下着を見たところ何とも感じないかもしれないけれど、私が嫌だ。綺麗な人間に醜いものを見せたくない。


「そもそも豚がおしゃれしてどうするのと言いたい」

「自慢する」

「は?」

「思いっきり、自慢する。これが俺の婚約者だと、世界中に見せびらかす」

 マジで?

 何その公開処刑。この美貌の王子の隣で、ブヒブヒ鳴くしかない憐れな子豚を見せびらかすって、もう虐待だ。しかも着飾って……。想像するだけで血の気が引く。

 

「嫌です。絶対、嫌です!」

「何が嫌なんだ。俺の婚約者はかわ――むぐっ。おい。何をする」

「はいはい。私が変わってるのは分かってますから。もう、そういう事にして下さい。耳が溶けます」

 くっそ。くっそ。くっそ、カッコいいじゃないか。馬鹿野郎。さらりと豚を褒めるんじゃない。顔がいいからって、ほだされると思うなよ。おだてても木には登らないからな。婚約破棄諦めないからな。


「だいたいな、お前が【予言の魔女】に可愛い部屋着をプレゼントしたというネタは掴んでいるんだ」

「……ああいうふわもこ部屋着は似合う人が着ればいいと思うの」

 予言の魔女には株取引でお世話になっているので、異界のカタログを送り、欲しいものを渡している。彼女のセンスはいいのは認めるが、でも服だって着られる人間を選びたいはずだ。きっと豚は嫌だと叫んでる。たまに物理的にビリって叫ぶのを聞いた事があるし。



「俺は、似あうと思う」

 馬鹿じゃないだろうか。真面目な顔をして何を言っているんだ。本当に、なんなの。コレ、天然? それとも本気? 分からないけれど、私を殺しにかかっているとしか思えない甘い言葉だ。甘いものは食べ物だけで十分だというのに。このままではナメクジのように溶けてしまいそうだ。

「もう、止めて。私のライフはゼロよ。こんな場所でここぞとばかりの決め顔しないで」

 王子の顔はくそ好みなのだ。ありがとうございます。

 でも、だからこそ、止めて欲しい。こういうのは卑怯だ。


「ヤバい。俺の婚約者が、可愛すぎる」

「は? 目、大丈夫?」

 とうとう夏の暑さで色々やられてしまったのだろうか。私を可愛いとか、かなりおかしくなっているとしか思えない。

「仕方がない。妥協してやるから、俺の前では俺の好きな恰好をしろ」

「全然妥協してないじゃん」

 その後、私は時折王子の希望する服に着せ替えさせられる羽目になった。

 あれだろうか。ペットに服を着せる飼い主の心境だろうか。時折私は、王子の考えが分からなくなる。

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