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飛べない魔女はただの豚(連載版)  作者: 黒湖クロコ
おまけの魔女の物語
105/114

いい夫婦の日(ツイまとめ)

ツイッターに載せていた、いい夫婦の日のクロスオーバーネタです。

【魔石職人の娘のお見合い】、【無関心の恋】、【魔王様の家庭教師(連載版)】とクロスオーバーしています。

苦手な方は、回れ右をお願いします。


【いい夫婦の日1(飛べない魔女はただの豚×魔石職人の娘のお見合い)】


 今日も元気だ飯が美味い。

 そんな感じの代わり映えのない毎日だけど、異界には色々な記念日がほぼ毎日あるのを雑誌を読んで知った。ご飯系が絡むのもあれば、ゴロ合わせ系なのもあるらしい。

「王子。今日は異界ではいい夫婦の日なんですって」

 へーとしか言えない日だ。個人的には語呂合わせなら、ポッキーの日とか、犬の日とかの方が楽しめる。

「よし。お祝いするか」

「誰のですか?」

 何を思ったか張り切り出す王子に、私は首を傾げた。

 お祝いするほど親しい人で、結婚している人などいただろうか。いや。そもそも赤の他人の夫婦の日をお祝いする必要性などない。

 もしかしてイベントだから強制的に何かしないといけないと思っているのだろうか?


「俺らの」

「……婚約はまだ結婚前なので夫婦じゃないです」

「なら、まずは結婚式を――って、待て。異界に逃げるとか卑怯だぞ!!」

 冗談は顔だけにして欲しい。

 私はくだらない冗談に付き合うほど暇ではないので、さっさと異界にとんずらする。こういう時痩せていると便利だ。



 さて咄嗟に異界への入口をくぐってみたが、どの出口から出ようか。

 特に目的もないので迷う。

 するといつもは気にならない場所がきらりと光った気がした。折角だからそちらの方へと足を延ばす。大きさも問題なさそうなので、ひょいと出口から飛び降りた。

「とっさに異界に逃げたけれど、ここはどこだろ?」

 キョロキョロと見まわした場所は、どうやら民家の様だった。しまった。商業施設などならいいけれど、民家というのは色々トラブルになりやすい。さっさと外に出なければ。


「だ、誰ですか?」

 しかし一足遅かったようだ。家の住人に気が付かれた。

 私は覚悟を決めて相手の方を見る。できるなら、突然殴りかかってくるタイプでないといいのだけど。

「名を名乗るほどのものではないです。そういう貴女は?」

「四月一日小春です。あの、名乗るほどと言われても、ここは私の家の中なので、名のって貰えませんか?」

 コハルと名乗った女性は、小柄な可愛らしい少女だった。美少女と言うわけでないけれど、小動物感がある。

 おかげで私もさほど緊張せずに済んだ。


「どうかしましたか?」

 しかし次の瞬間現れた場違いな美貌の男に私は固まった。尖った耳をしているので、以前異界の書物で読んだエルフという生き物だろう。王子も美形だけれど、このエルフはさらに輪をかけて美形だ。とりあえず絶対横に並びたくない。

 さらにそんなエルフからは明らかにヤバい気配を感じる。殺気とか闘気とか言われるやつだろうか。ただの豚にぶつけていい類のものではないのだけは分かる。

 

「……私は異界渡りの魔女であり、流浪の豚です」

「えっと……流浪の豚?」

「通報しますか?」

 コハルのほんわかと緊張してない姿も問題だと思うけれど、このエルフの話を聞いてもらえなさそう感も怖い。

 駄目だ。これは早くこの場から逃げなければいけない案件だ。

「今なら叶えられる範囲で願いを叶えるので、通報して豚を豚箱に入れるのは止めてください」

「ならば即刻、家から出ていってください」


 怖い。エルフが超怖い。お願いだから、その美貌で睨むの止めて下さい。

「……か、帰ります」

 私は出て来た場所によいしょと入っる。すると叫び声が聞こえた。

「えええ?! 本に入った?! 何で? 竜の本だから?」

「そんな機能なかったはずですが……」

 怪しんで本を切ったり燃やされそうな気配を感じて、私は慌てて首を出す。本には罪はないのだ。ただ偶然私の異界渡りの媒介に丁度良かっただけで。


「勝手に繋がってしまってすみません」

「ななな、生首?!」

「一応まだ繋がってます」

 よいしょと上半身も出したが、コハルは明らかに怯えていた。そしてコハルにしがみつかれたエルフが若干嬉しそうだ。……コイツ……いえ、何でもありません。人様の恋路は邪魔しません。


「驚かせてすみません。お詫びに何か欲しいものありますか? 円で買える異界のものなら渡せます」

「えん?」

 不思議そうな顔をされた所を見ると、私が知っている異界ともまた違う場所なのだろうか?

「買えるという事は、えんとは貨幣ですか?」

「そうです。えんで買えるものならお詫びになんでも渡しますが」

「なら、夫婦仲がよくなる――」

 バシンッ!

 エルフが言いかけると、コハルが力いっぱい背中を叩いた。痛そうな音がしたけれど……あ、このエルフ凄く嬉しそう。

 

「……うう。夫が馬鹿なこと言ってごめんなさい」

 どうやらこのエルフとコハルは夫婦だったらしい。若干コハルがちんまりしすぎて犯罪臭を感じてしまったけれど、たぶんこれコハルの方が強いパターンな気がする。

「……夫婦仲。では、これを」

 今日は夫婦の日なので、きっと夫婦に何かを渡す為に、この世界に神様が導いたのだろう。だったらちゃんとお導き通りにお勤めをしておこう。

 今日も異界の美味しいご飯が食べられるのは、神様のおかげだし。

「なんですかこれは?」

「ポッキーというお菓子です。これでゲームすると仲良くなれるそうですよ?」

「ゲームとは?」

「さあ? よくわからないんですよね。検索しても閲覧禁止になってしまって。まあ、おいしいので普通に食べてください」

 私はそう言ってポッキーをエルフに握らせてた。というか、このエルフ怖いから早く移動したい。

「では!」

 そさくさ挨拶をすると私は異界へと飛んだのだった。



~その後~

 

小春「消えた……」

エルフ「消えましたね。……このお菓子の使い方分かりますか?」

小春「(赤面)普通食べればいいと思うよ」

エルフ「ゲームとはどうやるのでしょう?」

小春「(赤面)さ、さあ?……いただきます!」

※その後この夫婦が正しくゲームしたかは神のみぞしる。


◇◆◇◆◇◆


【いい夫婦の日2 飛べない魔女はただの豚×無関心の恋】



 再び異界渡りの空間に入った私は、まだ自分の世界に帰る気にならず、ウロウロと次の出口を選んでいた。

 すると再びきらりと一つの入口が光る。

 これは先ほどと同じ。行く当てもないので、神様のお導きに従う事にする。


「ここは……? せ、狭い。うううううう」

 よいしょと出てみたが、先ほどとは違って、つっかえる。しまった。この出口は、私の体形では出られないタイプだ。

「ひぃぃぃぃぃ。ででででで、でた、でた、でた。くる、きっとくる、ああああああああ、悪霊たいさん! なんまんだー、なんまんだー」

「佐久間、落ち着いて。たぶん佐久間が飛んで逃げれば追い付けないから」

 外に出られず、幼虫の様にびたんびたんと上半身をくねらせていると、目の前にいた人物に叫ばれた。いや、正確には男性の方が叫び、女性の方は凄く冷静だ。……男も五月蠅いけれど、女性の全く動じてない雰囲気もある意味怖い。えっ。私が言うのもなんだけど、結構異常な光景だよね? 何で驚いていないの?


「かかかか、かげ、影路。ににに、にげ、にげ。呪いのビデオだ。ヤバイの、きてる。ずりずりはいでてる!!」

「ビデオデッキがついてないから、呪いのビデオではなくて地上波だと。……全国のテレビから出てるのかな? 一家に一人貞子さん? 百人でても出演料は一人分なのかな?」

「ひぃぃぃぃ。貞子が一匹、貞子が二匹って、絶対寝れない」

 つっかえて出られない私は匍匐前進ポーズのまま二人を見上げた。なんと言うか、静と動というぐらい真逆な反応だ。


「貞子さんは人だから、匹は違うと思う。でも、地上波なら、一人いたら百人いると思え的な感じかな?」

「私という存在はそんな黒光りする彼らと違って一人だけです。代わりなんていません!」

 すみません。その表現、止めて下さい。

 冷静に観察している女性は至極真面目に言っているけれど、冗談でも止めて欲しい。

「しゃ、しゃべ、しゃべ」

「貞子さんは外国人ではないから、普通に喋れると思うけど」

「……そもそもサダコじゃないです」

 というかさっきから、何故そんな不可思議な名前で呼ばれているのだろう。私とそっくりさんがこの世界にはいるのだろうか。

 可哀想に。私に似ているなら、きっとそのサダコも子豚になる呪い持ちなのだろう。


「ひぃぃぃぃぃ。貞子の亜種?! ヤバイよ。ヤバイよ」

「亜種だと、何ができるんだろう……」

「あの。サダコの亜種でもないです。ただの豚です」

 亜種って、サダコは名前ではなく生き物の総称なのだろうか? 全然状況が理解できない。一応言葉は通じているっぽいのに。

 言語というのは難しい。


「豚の貞子?! ひぃぃぃぃぃ」

「出れない貞子さんはただの豚?」

「……サダコより太ってごめんなさい。帰ります」

 何だか豚豚言われると悲しくなってきた。普段は自分から豚と名乗っているのに。というか、男の方はそろそろ落ち着いて欲しい。


 仕方がなく、私はバックした。

 多分ここは私がいてはいけない世界なのだ。

「ひぃぃぃぃぃ。ずりずり入ってくぅぅぅ」

 だから五月蠅い。

 そう思ったが、今の私に相手を注意するだけの力は与えられていないようだ。何故ならば――。

「ごめんなさい。押してもらえませんか?」

 恥ずかしいけれど、このままというわけにもいかない私は、大人しく下手に出てお願いしたのだった。


 こうして出れないサダコもどきは少し心に傷をおいつつまた違う世界に旅だった。


◇◆◇◆◇◆


【いい夫婦の日3 飛べない魔女はただの豚×魔王様の家庭教師】



 ひどい目にあった私は、次はどこに行こうかと再び異界渡りの空間を彷徨っていた。

 そろそろ帰るべきだろうか――いや、まだいい夫婦の日は終わっていない。もうしばらくは別の世界に行ってみるべきだ。

 てくてくと歩いていると、再び光る場所を見つけた。今度こそとりあえず外には出られる世界である事を願って、そこへ向かう。

 せめて私の知っている世界であってほしい。


「いい加減、知っている場所に出たいけど……どこ?」

 再び商業施設ではなさそうな場所だ。

 先ほどの失敗を繰り返さない為に、サイズ確認して出ようと首だけ出したけれど、調度品などが異界よりも私の世界に近い気がする。

「生首……の魔族?」

 どうやらまた、出て早々に人に見られてしまったようだ。

 そちらを向けば、赤髪の女性と目が合った。燃えるような髪色は、染めた感じではない。


「いえ。魔族ではなく、悪い魔女です。貴女は?」

「えっ。悪い魔女? ええっと。私は魔王城で賢者やってます」

「魔王…また、日本じゃないのね」

 賢者と魔王。まさに異界の小説に出てきそうな単語だ。でもあれは架空の世界を想像して書いたものだったはず。となると、やはりここもまた知らない世界なのだろう。


「日本を知ってるんですか?」

「まあ一応。生まれも育ちも違いますけど。そういう貴女も?」

「はい!もしかして、貴女も転生者ですか?」

 転生者。

 思わぬ単語に私は目を見開く。

「私は違いますが……異世界テンプレって本当にある現象だったのね。凄い。ならやっぱり、婚約破棄も悪役令嬢転生も逆行もあるのかな?」

 ラノベ作家は自分の体験談を書いているという説は本当かもしれない。凄いな、ラノベ作者。命を削りながら筆をとっているなんて。

 彼女もいつか伝記を書くのだろうか?


「テンプラ?……久々に食べたいなぁ。和食が恋しい」

「欲しいものあればどうぞ。日本からお取り寄せしますよ?」

 異世界転生とはさぞ大変だろう。私も突然カップラーメンが食べられなくなったら泣いてしまいそうだ。

「えっ。お取り寄せ?!」

「諭吉さんのお力が効くもので、なおかつ私が知っているものだけですが」

 結構幅広く異界の商品は覚えたと思うけれど、それでも知らないものもある。

「なんとっ?!……び、BLって知ってますか?」


「びーえる? B……ブラコンとかそういう略称ですか?」

 略称っぽいけれど、私の脳内辞書にはない単語だ。異世界転生なんて大変な状態なのに、手助けしてあげられなくて申し訳ない。

「駄目かぁ。そんなうまい話はないか。うん。一般人に迷惑かけない。それが腐女子の鉄の掟」

「婦女子?」

「綺麗なままの貴女でいて下さい。軽々しくこっちの世界に来ては駄目です。旦那や恋人が泣きます」

 何か婦女子には鉄の掟が? と思ったが、赤髪の賢者は真剣な表情で諭してきた。あまりに真剣な目にごくりと唾を飲む。


「ここはそんなに危険な世界なんですね……。分かりました。帰ります。餞別に何かいりますか?」

「えっ。な、なら。カップ麺。あ、あと。漬物。それからインスタント味噌汁。えっと、醤油も欲しいし。えっと。はっ! すみません。いっぱい言ってしまって」

 分かります。カップ麺最高ですもんね。

「いいですよ。じゃあ日本らしいものを色々置いときますね。でわ!」

 とはいえただの豚である私は、危険な世界にこれ以上いられない。どうか異世界転生よくあるあるで、自分でBLとやらを開発できることを願ってさっさと元の世界に飛んだのだった。



~その後~


賢者「消えた……。えっ。ただの鏡だよね? あれ?夢? でも食材が一杯ある……。え?」

魔王「ここに居たのか。なんだそれは」

賢者「プレゼント? です」

魔王「誰からだ」

賢者「悪い魔女と名のってました」


魔王「危険だ。破棄しろ」

賢者「嫌です。断固拒否です」

魔王「毒が入ってたらどうするんだ。悪い魔女なんだろ?」

賢者「女の勘が大丈夫だといってます」

魔王「フレイヤの勘は当てにならないから、ダメだ」

賢者「これは私の宝物です。絶対渡しません!」

魔王「宝物は俺だろ。浮気は駄目だ」


賢者「う、浮気って。もう怒りました。激おこです。実家に帰ります」

魔王「えっ。本気か?ちょ、待て、待ってくれーー」

 その後痴話喧嘩が勃発し、世界を巻き込んだ戦いになったとか、ならなかったとか。ただその後、魔族の国には、食べものの恨みは魔王も殺すという、物騒なことわざができた。


◇◆◇◆◇◆


【いい夫婦の日4 飛べない魔女はただの豚エンド】


 再び私は異界渡りの空間を歩いていた。

「なんだか疲れたし、もう帰ろう……」

 危険な異界も、出られない出口も、怖いエルフもこりごりだ。

 もうお家で引きこもりたい。


 疲れきった私はひょいといつもの世界に出る。

「よお。お帰り」

「ひぃ。どどど、どうしてここに?」

 いや、確かに王子を残して異界に行ったのだから、いても変ではないのだけど。

 でもそれなりに時間が経過しているから、城に帰ったと思っていた。

「飯を作ったから食え。それとも食べてきたのか?」

「い、いえ。食べてないです」

「なら、食べろ」

 王子は普段通りだ。私が逃げて、また戻って来たのに、怒ることも問い詰めることもない。

 用意されたご飯を残すような悪はできないので、言われるままに席に着く。


「いただきます」

「どうだ?」

「美味しいです」

 いつも通り、王子の作ったご飯は美味しい。いくらでも食べられそうだ。


「ならいい」

「あの、話の途中でいなくなったのは怒ってませんか?」

 あまりにいつも通りすぎて、私の方から自己申告した。気にしながら食事というのもなんだかいやだ。怒られるならさっさと済ませたい。

「ここに戻って来るなら別にいい」

「えっ、戻って来るって、ここ私の家ですけど」

 ここに戻らないなら、どこにいけど。


「ああ、お前の家であり、俺の国だな」

「家なき子になったつもりはないので帰りますよ?」

 私の家はここだ。野宿する気はない。

「ここなら、俺が迎えに行けるからいいんだ」

「はい? だからここは私の家で、王子を招待しているんですが?」

 迎えに行くって、何かおかしくないだろうか。

「招待か。うん。俺を招待してくれてるんだな」


「そうです」

「ならいい」

「意味がわからないんですけど」

 招待してないのに家の中に入るって、いくら権力あってもヤバくないだろうか? あーでも招待状を送っているわけではないから、招待とも違うのか?

「今日はどういう場所に行ったんだ。教えてくれ」


王子が何を言いたいのかよく分からなかったが、私はご飯を食べながら今日の冒険を王子に話したのだった。とりあえず、今日も良い日だ王子飯うまい。

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