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第七十八話 風鳴りの丘

 竜の巣を抜けて一時間ほど歩いたところで、俺たちは風鳴りの丘の頂上に到着した。


「良い眺め」


 ルーシィが気持ちよさげに風を感じながら、周囲を見渡してそう呟く。


「ま、少し面白みに欠けるけどな」


 そう言いながら俺も周囲を見渡す。

 周りは一面緑の平原。少し遠くには今しがた俺たちがやってきた竜の巣が見えた。

 平原は周囲を山々に囲まれており、大きな盆地のようになっている。

 その中心部に存在感を示すかのようにこの風鳴りの丘がある訳だが、如何せん周りに何もなさ過ぎて、確かに良い眺めではあるんだが見ていて退屈なものはある。


「かつてこの地では『黄の災獣』との熾烈を極める戦いがあったとされています。竜の巣しかり、この風鳴りの丘の平原もまた、かつての戦いにより地形が変わった結果だそうですよ」


 俺たちの背後、綺麗な金色の髪を靡かせながらライカが静かな声色でそうつぶやく。


「『黄の災獣』って、来る途中にも聞いたな」


 確か竜の巣ができたのはその魔物が倒れた時に地面を抉った結果だとかなんだとか。

 ルリエルも災獣がどうのこうのと言っていた。四百年前の英雄の話だったはずだ。


「ええ、詳しく話しますと……」


「いや、詳しくはいいや。ほら、あそこが目的地なんだろう」


 また話が長くなりそうなので俺は無理矢理にでも打ち切り、後ろを振り返って指を指した。

 その先には下からも見えていた建物跡。屋根は無く、柱のみが数本点在するその姿からは、かつてそこに豪奢な建物があったと思わせられる。

 その建物跡のちょうど中央辺りに石か何かでできたような灰色の台座が見えた。


「いかにもって感じの台座だ。恐らくあそこで風の精霊とやらを呼び出すんじゃないのか?」


「その通りだよ、ラロクス君。いや、ラグナス・ツヴァイト君」


 不意に俺たちの会話に割って入ってくる聞き覚えのある声。その方向に目をやると、銀髪の青年が拍手をしながら立っていた。


「オリバー……、さん」


 そこに立っていたのは幾度となく俺たちに絡んできたオリバー・ルーその人だった。

 彼は悪意のない笑顔を浮かべると、ゆっくり俺たちに歩み寄ってくる。


「オリバーでいいよ。いやはや君たちならすぐにでもここに来ると思っていたけれど、思っていたよりも大分早かったね。おおむね、ライカが君たちに風鳴りの丘のことを伝えたってところかな?」


「聞いたのはライラ王女からだけどな」


 俺は急に流暢に話し始めたオリバーを警戒しながらそう告げる。

 先ほど俺に向けられた視線。嘘を吐くのは簡単だけど、全てを見抜いていそうなその瞳のわずかな輝きに、嘘は意味がないと悟った俺は、真実を口にした。

 俺たちとライラ王女との間に接点があることが彼に伝わってしまうが、ライカが一緒にいる時点で勘が悪い奴でもそのくらい察しが付くだろう。

 別にこの程度の情報、渡したところで問題は無い。


「ライラ王女……? ああ、なるほど、そういうことか」


 オリバーは少し考えると、何かが分かったのか合点がいったという表情を浮かべる。


「いや、そんなことはどうでもいいんだ。誰からその話を聞いていたとしても竜の巣の道程は足早に越えられるほど容易いものではない。さすがは元神童と精霊術を扱うロギメルの王女様と言ったところか」


「な、何で俺たちのことを……」


 オリバーに対して自分たちの本当の名前を告げた記憶はない。ましてやロクスと名乗った俺の名前をラロクスと間違えて覚えていた彼がなぜ……。


「ラグナス君。たとえ別国であったとしても、これからはロクスと名乗ることすら気を付けた方が良い。君たちがどれだけ執拗にリーゼベトから狙われているかを自覚するべきだ」


 少し厳しめの口調でオリバーはそう俺に言い放つ。


「あんたは一体……」


 なぜ俺たちのことを知っている。お前は何者だ。

 言葉にそう意味を込めて、俺はオリバーからの回答を待った。


「――僕も雲海の大樹へ連れて行ってくれないか」


「は?」


 俺が待っていた回答の方向性とは全く異なる言葉が返ってきた。

 その事実に少し頭がかき乱される。


「いや、連れて行けって……」


「タダでとは言わない。恐らく……、君は各国のこれを必要としているんじゃないかい?」


 オリバーはそう言うと、おもむろに懐へ手を入れる。

 そして彼が取り出したもの、それは三角錐の形をした綺麗な宝石だった。


「スキルクリスタル!?」


「その反応、やっぱり君がそうだったんだね」


 満面の笑みでオリバーはコクリと頷いた。


「そう、これは力のスキルクリスタル。太陽にも負けないスキルを君にもたらしてくれると、僕はそう信じている」


 そう告げるオリバーの手に置かれたスキルクリスタル。それに恐る恐る俺が手を伸ばそうとすると、さっ、とオリバーは手を引っ込めてしまった。


「まだ君の返答を聞いていない」


 俺は出した手を引っ込めると、ライカに向けて目配せをした。


「オリバーは悪い人ではありません。信用に値する人間であると、私が保証します」


 次に俺はルーシィの方へ目を向ける。

 金色の光を瞳に宿した彼女は、目線をライカから俺へ向けると嘘は言っていないと言うように首を縦に振った。


「分かった。一緒に雲海の大樹へ行こう。あんたの目的が何かは知らないけどな」


「それも、全て終われば話をすると約束しよう」


 彼は静かにそう言うと、改めてスキルクリスタルを差し出した。

 俺はそれを受け取ると、力を込めて念じた。

 瞬間、スキルクリスタルが眩い光を放ち始める。

 幾秒か経った後、光は俺の身体に吸収されるように消えていった。


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